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第百六話 かあちゃんは雨の被害を確認する その二

 

 北側には大きな被害が見受けられなかったので、予定よりも早く家に戻ってこれた。


 みんなも気になっていただろうと、畑仕事中のバズたちにまずは報告。


「ただいま。湖の方まで確認して来たけど、大きな問題はなかったよ。水量が増えて湖や川は少し荒れているけど、この川よりも、もう一本の川の方に流れてく水が多いみたいだった。雨が頻繁に降ったり、もっと長雨になったらって考えると何とも言えないけど、今日のところは大丈夫そうだったから安心して」


「そっか、良かった! モモたちが無事に戻ってきてくれて。大雨の後の水場は危険だからね。午後もまた行くんでしょ? 無理しないでね」


 どうやら、環境よりも私たちの安全を心配してくれていたみたい。地下で作業中のユニたちにも報告すると、似たようなことを言われた。


「心配させちゃってごめんね。でも、必要なことだから……」


「わかってるって。だから誰も止めはしなかったでしょ?」


 確かに。理解してくれていても心配なものは心配ってことだよね。


 気持ち良く行かせてくれてありがとう。



 それからお昼までは、コリーも一緒に魚の燻製の下拵えをして過ごした。


 魚の処理は終わって、残りはユニとピノとコリーに乾燥をかけてもらうばかりなので、先にコリーにはかまどに火を入れてもらった。燻製する時に温度低めを維持出来るように早めに熾火を作っておきたい。


「燃え上がっている状態だと、ちょっと火が強過ぎちゃうと思うから。最初のうちの温度の維持には熾火を使ってみよう。ついでにお昼の準備もしちゃおうね」


 今日のお昼は生姜焼き。おからのマッシュと味噌汁も付けて。


 薄切りにした猪ロースと玉ねぎを、酒、液糖、醤油と摺り下ろした生姜を混ぜたタレに漬け込んでおく。キティは肉をタレに漬け込むのはお手のもの。かまどではルーに味噌汁を用意してもらい、私はおからマッシュを作っておいた。


 ユニたちの乾燥も全て終わったようだ。


「こっちも後は肉を焼くだけだから、燻製室の方に取り掛かろう」



 天井のフックには丸ごと燻製するニジマス、イワナなどの魚を吊して、棚にはフィレにした大型のマスなどの魚を並べていく。チップはリンゴンを使う。


 用意が整ったところで、燻製室にも火を入れてもらう。最初だけはチップを燻らせるために火力がいるからね。チップから煙が上がってきたのを確認して入り口を閉じる。


「ここを閉じる仕事があるから、燻製する時は土魔法の使えるバズかベルに手伝ってもらわないといけないか……」


「火を着けるときと同じで、その時だけ頼みに行けばいいんだもん。大丈夫だよ」


 それもそうだね。

 私がいないと仕事にならないのでは教える意味がない。子供たちだけでもやれるようになりたいというのがみんなの希望だから。

 ちょっと寂しい気もするけど、何にでも私が手を出していたら、せっかくの自立心を摘んでしまうことになるし、私を助けたいというみんなの優しさを無駄にしたくない。


 燻製室の中に煙が充満してきたので覗き窓も閉じる。煙突からうっすらと煙が昇りだした。


「あとは炎が上がり過ぎないように、絶やさないように。火加減に注意しながら少しずつ薪を足していってね。調理が終わったらかまどの熾火を足せば、しばらくは大丈夫だと思うから。その間にお昼にしよう。午後は火の面倒をお願いね。肉の時より低温でじっくりゆっくり燻製にするから、少し手間をかけちゃうけど」


 火の様子を見るだけという、地味でうんざりしそうな仕事を任せることに、少なからぬ申し訳なさを感じてしまうのだけど、


「これで燻製のやり方も覚えられるね!」

「ちゃーんと見とくよ! 料理の火加減は大切だもんね!」

「魚の新しい保存の仕方を教えてもらえてラッキーだよ!」


 料理好きのルーたちのみならず、コリーまで喜んでくれている。


「夕食の準備の時間までには帰ってくるつもりだけど、もし私たちが遅くなるようだったら、その頃には火を落として欲しいんだ。長時間になるから退屈するだろうし、あまり根を詰めないでのんびりお話ししたりして過ごしてね」


 コリーにはその場で火の様子を見ていてもらい、キティとピノには畑に昼食を告げに行ってもらう。


 残った私たち三人で生姜焼きを焼けば、昼食の用意が整う頃にはみんなも戻ってくる。


 かまどの熾火は土魔法で作ったちり取りに掻き出して、燻製室に足された。


 生姜焼きの甘塩っぱくて生姜を効かせた味付けはみんなにも喜んでもらえたけど、私が三度目となるあのセリフを吐きそうになったことは言うまでもないので割愛しよう。


 畑仕事も順調で、すでに芋の植え付けに取り掛かっているということだし、燻製の方も任せられる。


 昼食後はマークと一緒に南側の確認に出掛けよう。



 ◇



 まずは、一番気になっている温泉から。川原に着くと、源泉の湧き出す井戸のところへ直行する。


 辺りを見回すと、今は落ち着いたようで多少水も引いてきてるけど、やはり川原は浸水していたみたいだった。あちらこちらに水草や木の枝などの残骸を残している。


 心配した井戸部分には損傷はなさそうだけど、途中まで水に浸かっていた跡がある。井戸の中の湧き出す温泉水の状態も確認すると、高さがあった分、中までは濁流が入り込むことが無かったのか、源泉はキレイなものだった。雨水は入っただろうけど。


 取り敢えず、大元に問題なさそうなのは良かった。


 今後のことも考えて、井戸の縁を高くして、上には蓋も付けておくことにしよう。さらに強化(ストレングスン)もかけ直しておいた。


 そこから、水路の状態を見ながら強化(ストレングスン)もかけつつ温泉の建屋の方まで進んで行く。


 ゴミが詰まったりはしていなかったが、汚れが目立つ部分にはマークが清浄(クリーン)をかけていってくれる。


 建屋まで来ると、外見では壊れている様子は見受けられなかったが、一つ一つ全ての扉や窓を開け閉めしてみて、軋みや歪みが無いことも確認した。創造を使っての魔法建築はかなり丈夫に作られていたようで、どこも不具合なく安心した。


 ただし、浴槽のお湯は多少の濁りが見られた。


 マークが清浄(クリーン)浄化(ホーリー)をかけてくれたので、今はキレイになっているけど、川もまだいつもより増水しているし、今日も家風呂にしておいた方がいいかな。明日にはまた温泉を楽しめるだろう。



 建屋の確認と掃除を終えると、そのまま水路の確認を続けてムクロジの林まで進む。


 倒木は無かったがムクロジの実も落ちてしまっていた。乾かせば使えるかもしれないので、潰れていないものは拾い集めておいた。


 川への排水も出来ているようなので、ここからは排水路の様子を見ながら上流へ溯っていく。


 蓋を外して中を見て、ゴミが入っている所は浚っては清浄(クリーン)をかけていく。


 上流まで掃除を終えたら、今度は蓋をして強化(ストレングスン)をかけながら下流まで戻っていく。


 結構手間が掛かってしまったけど、マークがいてくれたので助かった。


「雨が降る度に、この作業は毎回必要になるかもね……」


「面倒ではあるけど、二人でやれば大丈夫だろ。浄化(ホーリー)も使えるようになったし、精霊様のお力を意識するようになってから、魔力の使い方が上手くなった気がする。これだけ清浄(クリーン)をかけて回ったのに、そんなにMP使ってないんだぜ? まだ三分の一くらいしか使ってない」


「それはすごいね! 実はちょっと心配してたんだけど、それなら安心してお願い出来るよ。まだ何度も雨の日があるだろうから、その時はまた頼むね!」


 掃除は大変だったけど、温泉の無事を確認出来て一安心。



 続いてさらに南下して、麦野原の方まで足を運ぶ。


「懐かしーい!」

「変わってないねー!」


 そう言えば、おうとくうに出会ったのはここだったっけ。


 まだ二週間も経っていないのに、もうずっと一緒にいるような気がする。


 こちらの橋も壊れてはいなかったので、強化(ストレングスン)をかけ直しておいた。


 橋を渡り、ハーブを見つけた川縁を麦野原に向かって進んでみよう。随分ぬかるんでしまっていて通りにくそうだったので、荷車は橋のたもとの広場に置いていくことにした。


「早めにハーブや香辛料を確保しておけて良かったね……」


 ぐずぐずになってしまっている川縁の様子を残念に思っていると、


「こうやって雨によって土に川の栄養が含まれたり、種が運ばれたりもして植物は増えていくんだよ。雨が降り、川が氾濫することで土はまた元気を取り戻す。実りの終えた秋の終わりに雨が降るここは、いい土地なんだと思うよ」


「そうなんだ……。よく知ってる……。マークすごいね」


「俺だって聞いた話の受け売りだぜ?」


 ニヤッと笑って照れ隠しをしてるけど、自然とともに暮らしてきた者の知恵はすごい。私の教科書で習う知識では足りないものだ。


 そうか……。だから川の側にはいろいろな恵みが多かったのかもしれない。トマトもハーブも、みんな川の側で見つけたもんね。


 納得と感心をしつつ、麦野原まで歩を進める。


「ああ……」


「これは残念だね……」


 麦は倒れてしまっていた。

 あれからも鳥たちの食事になっていたのだろうけど、濡れた重みに耐えられなかったのか、殆どの麦が水に浸いてしまっている。


「これだけの野原に育っているんだ。毎年こうして繰り返しているんじゃないかな? 春にはまた芽を出して、育って、野原になるんだ、きっと」


 そうだね。また春になったら……。


 せめて少しでも助けになればと、癒しの力を与えておいた。


 ところで、おうとくうの前の群れの仲間たちは大丈夫なんだろうか。


「みんなは山の方にいるから、大丈夫」

「雨はキライだから、どっかでじっとしてたんじゃない?」


 割かしドライだった。

 前方の山の方を見ても、土砂崩れなどを起こしている風ではなさそうなので、二羽もこう言ってるし大丈夫なんだろう。



 橋を渡り、草原を横断して南の林に向かってみる。


 羊たちが少し心配だったから。


 でも、前に出会った辺りには、それらしき気配は無かった。羊たちも毎年のことで慣れていて、どこかに避難しているのかもしれない。そうであって欲しい。



 そのまま林の様子も見に行き、倒木や土砂崩れの被害がないことを確認した。ブドウも落ちてしまっているものが多数見られたので、ヤスくんにお願いして無事だった分を採取させてもらった。


 今年のブドウはこれで最後になるかな?

 大切に使わせてもらうようにしよう。



 北の林も見に行ったけど、猪や鹿たちは元気そうに闊歩していた。彼らも冬支度に忙しいのかもしれない。


 いつかは自分たちだけで、ここで狩りをする日も来るのだろうな。


 目の前の林と、その奥に広がる緑の小山を見上げて、来年にはこの山にも足を踏み入れることになるのかもしれないなと考えた。


 そのためにも実力をつけていかなければ。


 冬の間にも出来ることはいろいろある。

 頑張っていこう。



 こうして南側の確認も滞りなく済ませて、私たちは家へと戻った。



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