第八話 かあちゃんは美味いものを食べさせたい
本日、二話更新します。
こちらは一話目です。
三人娘は目を見開き、口をあんぐりと開けた状態で動きが固まっている。
ジェフもめちゃくちゃ驚いていたもんなぁ。
その間にかあちゃんはみんなのステータスを確認してますよー。
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ルーシー レベル1 人間 女 十歳
HP21/21 MP10/10 風
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マリー レベル1 人間 女 十歳
HP20/20 MP10/10 光
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アン レベル1 人間 女 十歳
HP20/20 MP25/25 水
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うん、比べてみると私のMPが馬鹿げているのが良くわかるよね。そりゃあ、あんぐりもするよね。
と思っている間に三人は復活したようだ。
「えーっ」とか「うわぁ」とか「なるほど」とか言ってる。
「いやぁ、ジェフの言うことは本当だった。興奮して鼻息荒かったのにも納得だぁ」
どうやらジェフに事前に聞かされていたようだ。
「本当に毎日繰り返し鍛錬していけば、こんなに成長出来るんですね。私もこれから頑張ればモモちゃんみたいになれるでしょうか……」
「うふふ、やっぱりももちゃんは不思議ですねぇ。……あれ? 私のMPすごい増えてる?! なんで……?」
「アンは昨日頑張って魔力枯渇起こすまで魔法を使ってくれたでしょ? 魔力枯渇までMP使うのはしんどいけど、いい魔力の鍛錬になるんだよ。私も赤ちゃんの頃からほぼ毎日続けているからね。マリーもこれから頑張ればどんどん成長すると思うよ」
みんな「うわぁ!」と歓声を上げ喜んでいる。
早く魔法が使い熟せるようになりたくてワクワクしている様子だ。
「私、あの家では物置にしている旧館に閉じ込められていたから、本のある部屋を見つけて一生懸命勉強してたんだ。領民のみんなを助ける方法を探していたんだけど、村では何の役にも立てなかった……。でも、今、ここでならみんなに魔法のこととか教えてあげられるよ。やっと役に立てる……。嬉しいよ。全部の属性、勉強しておいて良かった! 自分の適性も知らなかったから」
「全部の属性?! すごい……」
「私たちを助けるために……ですか」
「……」
黙ってしまったアンが、急に真剣な顔をして私に向き直る。
「ももちゃん、一つ勘違いしないで欲しいことがあります。ももちゃんが何も出来なくたって、役に立たなくたって、構わないんですよ。私たちはもう、そのくらいももちゃんのことが大好きになっちゃってるんです。
ももちゃんは笑っていてくれればそれで充分です。私は温かくてホッとするももちゃんの笑顔が大好きですから。もちろん、泣いてたって、怒ってたって、大好きなのは変わりませんよ。でも笑っていて欲しいから私も頑張ります。
みんな一緒に力を合わせて頑張ろうってももちゃんが言ったんですよ。あまり思い詰めないで。みんな一緒にいますから」
涙が込み上げてきた。
私の手を握り、ニコニコと微笑むアン。
「そうそう」「そうですよ」と私の頭や背中をポンポンするルーシーとマリー。
私は泣きながら笑うという器用な真似をしながら言った。
「いつも一緒、みーんな元気、笑顔が一番、だね」
「何ですか? それ?」
「かあちゃんと子供たちの特別な言葉。どんなことでも笑って乗り切れるおまじないだよ」
「ふふ、なんか良いね。それ」
「いいですね」
「いいでしょ?」
みんなして笑った。心が幸せではち切れそう。
「私は一人で勝手にパニックになっちゃう癖があるから、みんなに助けて欲しいです。お願いします」
と言って、頭をペコリと下げた。
「任せて(ください)!!!」
と三人が笑う。
前世で子供たちにいつも言っていた言葉。思い出させてくれてありがとう。私もみんなが大好きだよ。
「今のままじゃ落ち着かないから、早く拠点を決めてみんなでのんびり楽しく暮らしたいねぇ。そしたら魔法だっていっぱい教えてあげるからね。美味しいごはんも食べようね。そのためにも明日からも一緒に頑張ろうね」
四人で魔法のことや新しい生活のこと。楽しい話しをしていると、そろそろいい時間になった。
「そろそろ夕食の用意始めようか。かまどに火を熾したいし、ジェフたちも呼んでこよう」
私たちは地下室へ戻り、年長男子チームに食材を運んでもらって料理を作り始めることにした。
水瓶を運んだのは私だったけど。
土魔法で調理台兼テーブルを作り、包丁とまな板も作り出す。
男の子たちには火を熾して鍋にお湯を沸かしてもらい、女の子たちには下ごしらえを手伝ってもらう。火熾しにはもちろんジェフが大活躍だった。
普段からお手伝いはしていたらしく、危なっかしくはあるものの、みんなそれぞれの仕事をこなしていた。
まずは白菜のような菜っ葉を切ってもらい、出汁をとるために、まだ沸騰していない鍋三つにそれぞれ放り込んでもらう。私は芋を洗い皮ごと一口大に切って鍋に入れる。女の子たちは今度は芋の蔓や葉、摘んできた野草を切ってくれてる。男の子たちは沸騰した鍋の火加減を見つつお玉でかき回している。
私はアサツキのような草の、葉の部分は小口切りに、球根の部分は包丁の腹で潰してみじん切りにした。それから石でクルミを割って中の実を細かく砕いておいた。
お芋が煮えてきたので、女の子たちに葉っぱ類を投入してもらい、アサツキの根も加える。男の子たちがかき混ぜながら煮込んでいると、野菜の出汁の出たスープのいい匂いがしてきた。
最後にとっておき、そう、塩の出番だ。スープの味見をしつつ、素材の味で美味しく食べられる最適な塩加減に調整していく。
菜っ葉から出るという出汁、アサツキの根のコク、お芋の甘みが合わさって、塩だけのスープとは思えない予想以上の美味しさになった。
お芋も野草もたっぷり入った具だくさんのスープの出来上がりだ。
これならみんなにお腹いっぱい食べてもらえる。
かまどの火を弱めてもらったところに、何をしているのか気になったのか、いい匂いに釣られたのか、小さい子たちもゾロゾロと地下室から出て来た。
ちょうど良いタイミング。テーブルの周りに土魔法で椅子を十四脚作り出し、カップに水を汲んだものとスプーンを配ってもらう。
ボウルに具たっぷりのスープを注いだら、仕上げにアサツキとクルミをトッピング。全員に配り終わり、みんなが席に着いたところで、
「かあちゃんとお兄ちゃん、お姉ちゃんたちが協力して作ったスープだよ。森の恵みに感謝しつつお腹いっぱい食べて下さい。おかわりもまだいっぱいあるからね。それではいただきます!!」
と告げるとみんなが??? の顔になる。
「いただきますって何だ?」
ジェフに問われた。
「ごはんの前の挨拶だよ。森も植物も、今日は入ってないけど肉や魚も生き物だからね。作ってくれた人や食材に感謝の気持ちを込めて『尊い命をいただきます』って意味で言うんだよ」
「モモが飯の前になんか言ってたのこれかぁ。わかった。じゃあみんな、いただきますだ」
そうしてみんなで声を合わせていただきますしてから、やっとスープにありつけることとなった。
スプーンで掬ってスープを飲む者、お芋を食べる者、みんなホゥと息を吐き目を細める。
「溶けちゃいそう」
「美味しい……」
「甘ぁい」
「ホクホクだぁ」
「あったまるねぇ」
いろんな感想が聞こえてくる。好評なようで良かった。
「あっついからね。小っちゃい子たちはちゃんとフウフウして冷ましてから食べてね」
みんなフウフウ、パクパクと勢い良く食べ進んでいく。私もみんなの笑顔を堪能しつつ食べ始めた。
「ううん、美味しい!」
思わず口に出てしまうくらい良いお味で作った自分もびっくり。
クルミの香りも香ばしく、菜っ葉から出たという出汁はなんとなくカツオダシの味が仄かにするようで本当に美味しい。アサツキの根もいいコクを出してるみたいだし、森を離れるとしても、お芋を含めてこの三種は確保しておきたいところだ。菜っ葉は漬け物にしても良いと言ってたし、お芋も三カ月くらいは保つから保存食になる。
明日、出発前にもう一度場所を確認しておこうと思う。拠点を決められたら、台車を作って採りに来ればいいだろう。
なんて、またもやブツブツ言いながらも匙が進む、進む。お鍋を食べているような味わいなので野菜もどんどん食べれちゃうのだ。みんな夢中でおかわりしているので私の独り言も耳に入ってないようで安心した。
みんなで三鍋を食べ尽くし、お腹いっぱい幸せな顔になったところで、
「食後の挨拶は『ごちそうさま』だよ。一生懸命用意してくれてありがとう、美味しくごちそうになりました、の意味だよ」
と教えると、みんな素直に「ごちそうさま」と唱和した。
しばしの食休みの後、もったいないけど重くて持って移動は出来ないのでテーブル、かまど、鍋などは土に還した。木製の食器類や塩、少しの果物などを入れて運べるように、木と木の蔓から木箱型のリュックのようなものをいくつか作り、私と年長組が背負っていけるようにした。
昼間作った水筒も蔓を使い首から下げられるようにした。
明日の準備も出来たし、日も傾いてきたので、水瓶を持ちみんなで地下室へ戻る。
今日は光魔法が使えるようになったおかげで灯が使えるので早々に入り口を塞いでしまった。
明日はいよいよ森を出て岩山へ出発だ。朝から忙しくなる。
アンに水を作ってもらい、みんなトイレも済ませて、早めに寝ることにした。




