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第百五話 かあちゃんは雨の被害を確認する その一

 

 ……おはようございます。


 私は今、ベッドからそーっと抜け出し、つい一人寝起きドッキリごっこをしてみたりしてる。


 並んだベッドの上でふかふかのお布団に包まれて眠るキティ、ヤスくん、ピノ。……まぢ天使。


 可愛い寝顔を一頻り堪能すると、三人を起こさないようにコソコソと部屋を出て居間へ回り、まだ熱を発しているストーブでお湯を沸かす。


 沸くまでの間に外の様子を見てこよう。



 入り口の扉を少し開けると、


「うわあ、晴れた! いい天気!」


 ちょうど昇ろうとしている朝日の光が差し込み、朝露に濡れたハーブ畑をキラキラと輝かせている。


 ほんの少し相見えなかっただけだというのに、陽差しが懐かしく感じられる。今日は思う存分、外仕事が出来そうだ。


 そうと決まれば、さっさと朝食の用意をしてしまおう。


 居間に戻ると、さすがに熾火の余熱ではまだまだ沸きそうもない鍋の水を魔法で沸かしてしまう。


 そこで薄切りの猪ロースを茹でて、細かく刻んだ白菜漬けとともにパンに挟んだサンドイッチと、猪の茹で汁にドングリ茸と野草を入れたスープ、リンゴンで今日の朝食にする。


「おはよー、モモ」

「おはよう」

「もう朝ごはんできてる!」


 居間から通風口が直接繋がっているキティたち、ベルたち、ユニたちの部屋にはいい匂いが届いたようで、いそいそと起き出してきた。


「おはよう、今日はいい天気だよ! 朝ごはんにするから、みんなを起こしてきて」


「やったあ! はーい!」


 パタパタと駆けていく子供たちを見送って、テーブルに料理を並べていく。



「今日はおかげ様で良いお天気になりました! 昨日も少し話したけど、三組に分かれてのお仕事になります。ごはんを食べながら話そうね。今日も頑張りましょう。

 では、仲間と森と大地と精霊様に感謝して、いただきます」


「いただきます!」


 もうすっかり定番となった祭壇に向かっての挨拶をして食事を始める。


「食べながら聞いてね。今日の仕事は三つ。メインは畑の種蒔きだけど、大きい畑二枚に小麦だよね。出来ればそろそろ芋も一度作って欲しいんだけど。明日の収穫は私の魔法でやれば、中くらいの畑二枚分くらい作れるかな?」


「了解。大きい畑の種蒔きは午前中で終わるから、午後は芋を植えよう。余裕があったら野菜畑も。芋は魔法で育てちゃうんなら、麦用に空けてくれてある二面を今日は芋に使うよ」


 バズの判断はいつも早くて適切だな。


「ありがとう、お願いします。次に魚の燻製だけど、肉ほど漬け込まなくていいから、そろそろやっちゃいたいんだ。午前中に水に浸けて塩抜きして、干物の時みたいにお腹に棒を(つっか)えて乾きやすいように開いてから乾燥をかけてもらう。それから午後に燻製だね」


「うん、わかった。私とユニで……キティとピノにも手伝ってもらえば午前中の準備は出来ると思う。ユニとピノに乾燥してもらえるし。大変だったら乾燥の時だけルーシーとジェフにも手伝ってもらう」


「昼に一度戻った時に燻製室の使い方は教えるからね。下拵えしておいてもらえればすごく助かる。よろしくお願いします」


「オレは川の確認に一緒に行けるんだよね。桟橋や橋が無事だといいけど」


「そうだよね……。岩山に崩れたところが無いか、川や湖の様子と橋なんかの状態を見てくるつもりなんだけど、コリーの他におうとくうとヤスくんにも来てもらっていい?」


「はーい、おう行く!」

「くうも! お外行く!」

「オイラも!」


 動物組も一日半ぶりに外を駆け回りたいだろう。


「午前中は北側を見て回って、午後は南側と林を確認してくる予定だから。午前はコリーに来てもらうけど、午後は誰か代わってくれない? そうすればコリーも燻製のやり方を覚えられるでしょ?」


「じゃあ、午後は俺が行くよ。南ってことは温泉の様子とかも見るんだろ? 汚れてたり、散らかってたりするだろうから、清浄(クリーン)浄化(ホーリー)の出番だな」


「ありがとう。午後はマークにお願いするね。コリーもそれでいい?」


「うん! 本当は魚の燻製、気になってたんだ!」


 そんな感じで今日の分担が決まって、朝食後、畑の様子を確認したり、燻製の下拵えのやり方を教えたりしてから出発することにした。



 みんなも外の様子が気になっていたので、全員で一度、畑に向かった。


「良かった。すごく荒れていたりはしてないね」


「うん、ハーブ畑も元気そうだし。風が強かったのは最初だけで、あとは雨だけだったのも良かったのかもね」


 小麦を作る予定の大きい畑二面を元気な畑に作り直して、肥料も用意する。中くらいの畑には五面まとめて魔法をかけた。


「成長の魔法を使う分のMPはあるんだけど、周辺の確認に行った際に何が起こるかわからないから。成長の魔法を使うのは午後の確認も終わって帰ってからにしようと思う。だから、種蒔きも慌てないでいいからね」


「そうだな」

「うん、その方がいいね」



 畑仕事のみんなは作業を始めて、ユニたちが干し台を出してくれている間に、薬草園の様子も見てくる。


「はあ……、みんな元気そうで良かった。それにしても随分大きくなったね」


 癒しの力を使いながら一本一本確認していくが、折れてしまったり傷付いている木も無く、それどころかしっかりとした木に成長している。


 雨の恵みなのかな?


 久しぶりの太陽を燦々と浴びて、大きく枝を伸ばす杜仲たち。この分だとそろそろ樹液を分けてもらっても問題なさそうだ。


 薬草も、しっかり大地に根を張っているようで、流されてしまったりもしていなかった。癒しの力を与えると、嬉しそうに体を震わすかのごとくサワサワと葉擦れの音を立てる。


「みんな元気に育ってくれて嬉しいな。これからもよろしくね」


 返事するように風に揺られる葉に見送られて、私も手を振り返しながら家へと戻る。



 地下室では、コリーも一緒に燻製の下拵えのやり方をレクチャーする。


「このままではしょっぱ過ぎるから、しばらく水に浸けて塩抜きをするよ。時々水を替えて午前の半分くらいは続けてね。その後は布巾で水気をきちんと拭いて、小さな棒を(つっか)えさせて乾きやすいようにお腹を開く。これは吊し干しの時と同じだからわかるよね。お肉の燻製をした時みたいに、干し肉ほどカラカラに乾かさなくて大丈夫だから。ざっと乾燥をかけて、その後は燻製室で小さい火であまり温度が上がらないように気を付けながら、ゆっくり燻製にしていくの」


「なるほどね。手間は掛かるけど、すごい難しい仕事って訳じゃないんだな」


「塩抜きの合間には干し野菜の方も見ておくね」


 既に肉の燻製や、魚の吊し干し、開き作りも経験しているので、飲み込みが早い。任せてしまって大丈夫そうだ。


「それじゃあ、私たちは出掛けてくるね。後はお願いします!」



 ◇



 最初はこの岩山の様子を確認したいので、おうとくうの背中に乗せてもらって上の方まで登ってみる。


 あちらこちら、行ける範囲を見て回ってみるが、訓練用の広場もストーブの煙突も無事だったし、大きな崩落が起きている場所も見受けられなかった。取り敢えずホッとする。


「久しぶりに走れて嬉しい!」

「ねっ! 楽しーい!」


 おうとくうもご機嫌だし。


 山の上から湖や川の様子を見ても、水量は増えているかもしれないけど、氾濫している箇所は見当たらなかった。


「気を付ければ危なくはなさそうだから、近くまで行って見ておこう」


 山を下りて、一度家に戻る。

 おうとくうが荷車を引きたがったからだ。


 ハーネスを着けて、機動を考えて小さい荷車を繋いだ。今日は資材集めが目的ではないからね。あくまでおうとくうの希望で着けただけだから。



 岩山を下りたところで一旦荷車を外して、岩山の周囲を一周走ってもらった。


 私たちなら一周二十分から三十分は掛かるのに、十分と掛からず戻ってこれる。さすが、おうとくう。周囲にも崖崩れなどは起きていなかった。



 改めて荷車を装着して、川の様子を気にしながら北の橋までやって来た。


「橋も無事だね。一応、強化(ストレングスン)をかけ直しておこう」


 コリーは川の中の様子が気になっているみたいだけど、増水したことで濁りが強く、ぱっと見では良くわからない。


「あまり近付くと危ないよ」


「……そうだね。帰りにまた見てみるよ」


 魚の姿を確認出来ず、コリーはちょっと残念そうにしていた。



 橋を渡った正面の岩山も、以前と変わらぬ姿でどっしりと鎮座している。


 岩山は素通りして、湖に向かって北へ進んで行くと、リネンの草原が現れた。


「リネンの実は全部落ちちゃったみたいだね……」


「うん……、仕方ないね。枝は残っているから、繊維は集められそう」


 また落ち着いたらみんなで来ようね、と先に進む。充分に注意を払って湖に近付いてみる。


 前回来た時の美しい湖に比べると水面は波立っていて大分荒れている。もっと長雨になったらどうなるのかは少し不安が残るけど、今日のところは決壊や氾濫の危険はなさそうだ。


「かあちゃん、向こうのお風呂も大丈夫そうだぞ」


 ヤスくんに言われて視線を移す。

 もう一本の川は随分猛っているが、川向こうの池からは変わらず湯気が上がっている。


「……あー、でも土魔法の橋は流されちゃってるね」


 高低差の関係か、こちらの川に流入する水量の方が多いのかもしれない。手前の川よりも随分と流れが激しい。荒々しく岩肌に当たっては砕ける水飛沫を見つめていると、自然の恐ろしさをぞわりと感じてしまう。

 おかげでうちの方は無事に済んでいてありがたいことだけど。


 今日はこの川を越えるのは無理なので温泉には近付けず、湖の確認は終了にして来た道を戻った。



 岩山を過ぎ、桟橋が近付いてくる。

 ついつい早足になってしまいそうになるが、逸る気持ちをぐっと抑えて注意深く進んでいく。みんなで作った空き地が目に入り、その先の桟橋が見えてくると、


「少し水に浸かっちゃってるけど、どこも壊れてはなさそうだ!」


 コリーが嬉しそうに声を上げる。


「流れの緩やかなところに作って良かったね。念のためにもう一度強化(ストレングスン)をかけておこう」


「あ、見た!? 今、魚が跳ねた! 川が落ち着いたらまた魚とりも出来そうだ!」


 さらに嬉しい発見に、コリーの声も跳ねていた。


 私も作ったばかりの桟橋が無事でホッと胸をなで下ろす。せっかく作ったのにいきなりロストしてたら、それはさすがに切ない。



 ついでに足を伸ばして、綿花の林も見に行ってみる。


「まだ無事な分も残っているね」


 落ちてしまっているものも大分あるけど、林自体に被害は無い。ぬかるんだ地面に汚されてしまっているけれど、もったいないので落ちている綿花だけは拾えるだけ拾い集めて、ここも後にした。



 帰り際には岩山に登り、岩塩の洞窟や、鉄鉱石の鉱脈も確認したけど、どちらも何事も無かったかのように変わっていなかった。


「さすが、おうとくうのキックにも耐える岩山だよね……」




 北側の確認は、特に大きな被害を見つけることも無く、無事に終了した。


 ひとまず、安心。



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