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第百三話 かあちゃんは家風呂も作ってしまう


 マリーの部屋に戻ると、家具の搬入と配置は終わっていて、イスに腰掛けて満面の笑顔を湛えているマリーをみんなが取り囲んで喜びを交わし合っていた。


 棚が多いけど、家具の背は低めで天井が高いので、狭苦しさは感じられない。


「ここも良いお部屋だね。マリーがいっぱいお勉強出来るように、そっちの準備もするからね」


「モモちゃん! 素敵なお部屋をありがとうございます!」


 ルーシーに続き、マリーも大満足な部屋を手に入れて、否が応でもみんなの期待が高まる。早く自分の部屋の番にならないかと、待ちかねているのだろうけど、


「次はアンのお部屋だよね。そろそろいい時間だから、お昼の用意をしてきたいんだけど、最初っから任せちゃってもいいかな?」


「大丈夫です。やり方はわかりましたし、私の選んだクルミ材の家具を運んでくればいいんですよね」


「うん、お願いね。アンの部屋が出来たらお昼にしよう」


 ちゃんと食事をとって、午後にまた頑張ってもらおう。



 今日は朝が遅めだったし、パイがあと少し残っているのでおやつも食べるだろう。昼は軽いものにしよう。


 パンに野草や水にさらした玉ねぎ、トマトとともにベーコンを挟んだサンドイッチを用意する。豆乳を温めてホットミルクもつけよう。


 力仕事はしているけど、今日は一日家の中だし、このくらいでもいいと思う。


 テーブルの上に並べ終えて、アンの部屋の様子を見に行ってみる。


「お昼だよー。こっちは終わりそう?」


 こげ茶の家具が並べられて、シックな感じに仕上がった部屋。


「終わりました。すごく素敵です。嬉しい……!」


「この辺にもクッションとか置いてもいいかもね」


 ベッドの脇のラグに小さなテーブルが置いてあるのを見てそう言うと、


「あ、ホントですね。私、そういうセンスとかに疎くって。ついつい使いやすければいいやって思っちゃうんですけど。ももちゃんと相談して、少しずつ可愛くしていきたいです」


「こういうお部屋も素敵だと思うけど……。うん、いろいろアイデア出し合って、少しずつ気に入るお部屋にしてこうね」



 取り敢えず一区切りにして、居間に移動して昼食をとる。


 やっぱり「いただきます」は祭壇に向かってさせていただきました。


 サンドイッチをパクつきながら、みんなと話し合う。


「なかなか良い感じに出来てるみたいで良かった」


 すでに自分の部屋を手に入れた三人はご機嫌だし、この後作ることになるみんなも、早く続きに取り掛かりたくて食事のペースも上がり気味だ。


「ふふっ、みんな嬉しいんだよね。慌てなくても部屋は用意されるのに」


 バズが微笑ましそうにみんなを見回して言う。


「私がいなくても、問題無さそうだよね。初めてなのにすごいなあ」


「モモの指示がわかりやすいからだよ。あんな風に絵に描いてくれたり、一度目は教えながらやらせてみてくれたりなんて初めてだ。いつもはね、大きい子のやってることを見て、聞いて、自分なりにやってみて仕事を覚えるしかないんだよ。自分が出来ることを出来ない人に教えるのって難しいでしょ? だから、やって見せて、なんとなく真似してる内に覚えていくんだ」


 それだとすごく時間がかかるんだよね、とバズは語る。


「魔法の時も、干物とか作る時も、モモは見本とかお手本を用意してくれるでしょ? あれ、すごくわかりやすいんだ。今までなら、わからない時は自分の朧気な記憶だけを頼りにするしかないんだけど、見本を見ながら考えればわかりやすい。モモは教えるのが上手いよね。僕も畑の時、モモの真似して見本を用意してやってみたら、みんなも出来るようになってったんだよ」


 そうだったんだ……。

 教科書とかマニュアルとか無いし、システム的な教育すら無いんだから、見て盗め方式になるよなあ。


 乾いた砂に吸い込まれる水のように、何でもどんどん吸収していくみんなも、やっぱりすごいと思うけど。


 出来るようになる喜びってあるから、一つ一つ出来ることが増えていくのが実感出来ると、学ぶことにも面白さを感じられるよね。


 これは勉強用の教材や知育玩具は効果ありそうだな。作るの大変かもしれないけど、絶対用意しよう。


「雨はまだ止まないのかな。明日は晴れるといいね。畑の様子も気になっちゃうよ」


 と苦笑いするバズ。


「お天気ばかりはねぇ。どうしようもない。だんだん雨は弱くなってきてるし、畑も大きな被害は無いと思うよ。でも、お風呂に入れないの寂しいなあ」


「だよねぇ。僕も、もうすっかりお風呂が無きゃいられなくなってる」


 今度は二人して苦笑い。


「冬になったら、こういう日が続くかもしれないでしょ? 魔法で水を溜めて入れるお風呂を、家の中にも作ってみようかと考えたんだけど、水は出せても捨てるのが……ね。外まで水路を作るとなると大変そうで……」


「……? 何で? ここは岩山で下は地面なんだから、地面に吸わせちゃえばいいんじゃないの? 雨の水だって勝手に土に染みていってなくなるよ」


 …………!


 そうだった。ここは家の中だから外へ排水しなきゃってのは私の固定観念だ。下は土なんだから下にある地面に吸わせちゃう……か。本当だ。目からウロコ……!


「バズ……! すごいよ、ありがとう! お風呂、……作ってみようかな!」


「うわっ、またモモに火が着いちゃった! 今日はいっぱい魔法使ったのに。無茶する気じゃない?」


「言ったでしょ? 半分しかMP使ってないって。土魔法ならそんなにMP使わないし、形だけ作れば水を出すのも温めるのもアンやジェフたちに頼むことになるから、私は無茶なんてしないよー。……みんなにお部屋は任せて、やってみてもいい?」


「部屋の方は大丈夫だけど……」

「モモが心配だな」

「うん、モモはやり出すと興が乗っちゃうからな」

「ついついやり過ぎちゃうから」

「誰か一人手伝った方がいいよ」


 あらら、みんなも聞いてたのね。

 いや、いつもごめん。


「私の部屋はもう出来てますから、私が一緒にやります。清浄(クリーン)浄化(ホーリー)が必要なら手伝えますし」


 マリーが言ってくれる。食べるものじゃないから、清浄(クリーン)浄化(ホーリー)の出番は無いかもしれないけど、(ライト)は点けてもらえるし、せっかくの申し出なのでお願いしよう。その方がみんなも安心して作業に集中出来るだろうしね……。


「マリー、お願いします。何かアイデアがあったら、また教えてね」


 午後はお風呂作りに挑戦させてもらえることになった。


 昼食の食器などはアンとルーが洗浄(ウォッシュ)で片付けてくれるし、みんなも作業再開が嬉しそうなので安心して任せられる。


「ロフトのある部屋は大変だから、後で一緒にやろう。ベルとティナの部屋、ジェフの部屋、ちびっ子部屋だね。ユニとルーの部屋と、他の男子部屋から進めておいて」


 とお願いして、私とマリーは早速お風呂作りに取り掛かろう。



 温泉と同じく、家風呂も男湯と女湯に分けようと思うので、それぞれのトイレの脇から通路を掘って、その先をお風呂場にしよう。


 みんなは女子部屋の側で作業中なので、気が散らないように先に男湯から始めることにした。


 男子トイレの横、一番手前のジェフの部屋の脇を通る細い通路を一本掘って、その先を個人部屋より少し大きいくらいの部屋にする。


 手前三分の一程で壁を作り、こちら側は脱衣所になる。土魔法で壁に棚も作ろう。


 浴室側の半分から向こうは浴槽になるので、そこで仕切って掘り下げるのだが、小さいピノでも入りやすいように仕切りには段を作って、階段としても腰掛けて入るのにも使えるようにする。あとは洗い場や浴槽に滑り止めの加工と、水捌けがするように微妙な傾斜を作れば、強化をかけて形だけは出来上がり。


「すごい……。もう出来ちゃうんですね……」


「形だけなら、ね。土魔法だからMPもあんまり使わないし。ただ、ちょっと大変なのが残ってるんだ」


 洗い場の隅っこに排水用の穴をあけて、地面に吸わせるようにしなきゃいけない。


 直径五cmくらいの穴を、地下十mくらいまで掘り下げる。この穴は崩れると詰まっちゃうので、きちんと強化(ストレングスン)をかけておく。


 十m下の地下に、高さ二十cm程でこのお風呂場全体と同じくらいの広さを持つ排水槽を作る。その排水槽は、床だけは強化(ストレングスン)をかけずに剥き出しの土にしておく。


 そこに貯まった水は、時間を掛けて土に染み込んでいくだろう。染み込みやすいように床部分は砂利を敷き詰めた形状にしておこうかな。


 イメージはきちんと出来ているけど、遠隔操作になるので難しい。ここはスキル先生の出番だ。


創造(クリエイト)・地下排水槽」


 目で見て確認は出来ないけど、魔力が使われたのできっと出来ているはずだ。スキル先生を信用します。


 同様にその排水槽に届くように、浴槽の中にも排水口を作る。ゴム栓が出来るまでは、いちいち土魔法で閉じればいいかな。


「はい、これでお風呂の構造は出来上がり。あとは小物を揃えたりだけど、それは女湯の方も作っちゃってからにしよう」


 移動して、今度は女子トイレの脇から通路を伸ばす。


「女の子の方が多いから、さっきの倍くらい大きくしちゃおう」


 男湯の時と同じく、三分の一くらいで区切って棚を作り脱衣所にする。洗い場と浴槽を作り上げる。十m程の排水口と、地下にはこちらも倍の面積の広い排水槽を拵えれば女湯も出来上がり。


「一つ問題だと思うのは、この大きな浴槽に水を出してもらわなきゃいけないことなんだ。水よ(ウォーター)で出すのも大変だろうし……。水の壁(ウォーターウォール)の出番かな?」


 アンたちのMPの心配をしている私の横では、マリーが大きな横長の浴槽を見つめてジッと考え事をしている。また何かに気付いてくれたのかもしれない。


「モモちゃん……。このままだと溜めるの大変そうですよね。例えばですけど、誰かが何か汚れちゃうことがあって、一人だけお風呂を使いたくてもお湯をたくさん必要とする。……この中を間仕切りしちゃったらどうでしょう?」


 今の浴槽は縦一・五m、横六mくらいある。

 みんなで入ればその体積でお湯が増えることを考えても、半分くらいまでは水を張らなければならない。その水量は半端ないことになる。


 確かにちょっと一人で使いたい時には勝手が悪い。横幅を一m、二m、三mと仕切ってしまえば……。


「やっぱりマリーの着眼点はすごいよ。間仕切りしちゃえば使いたい人数に合わせてお湯を張って使える。ありがとう!」


 長ーいお風呂を仕切って、大中小と三つに分ける。それぞれの浴槽からも水を抜けるように排水口も増やす。


 これはいい。排水にかかる時間も短縮出来るし、小さいところだけ湯温を高めにして熱いお風呂を楽しむことも出来そうだ。


「桶やイスを作ったり、扉を付けたりしたいから、材料を運んでこよう」


 ヒノキ材は無いけど、杉材だって水には強い。杉材や葦をマリーにも手伝ってもらってせっせと運んで、廊下と脱衣所の間と浴室との境に引き戸を付ける。棚には脱衣カゴを、浴室との出入り口には足拭きマットを敷き、洗い場には桶とイスもセットした。


「ここに汚れものを入れる大きなカゴを置いておいたらどうでしょう?」


 またもやマリーが良いアイデアを出してくれる。


 脱衣所の隅にはランドリーバスケットも置かれた。


 備品は男湯の分もいっぺんに作り出してあるので、それらを男湯に運び、男湯にも引き戸を付けて、浴槽の間仕切りも大小で分けるように作った。もちろん排水口も増やす。


「マリーが手伝ってくれたおかげで良いお風呂場が作れたよ! ありがとう」


「えへへ、役に立てて良かったです」



 満足いくお風呂場が出来た。

 後で入るのが楽しみだ。


 余った資材を片付けて、みんなと合流しよう。



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