第百二話 かあちゃんは家具職人になる
みんなの希望も出揃って、いよいよ各個人部屋作りに取り掛かれる算段がついた。
端から次々に作っていきたいところだが、部屋作りには創造の魔法を多用するので、それをやるとMPの消費が激しくなる。一日一部屋ずつ作っていくとかが無難なのは重々承知しているけれど、自分の部屋の青写真が描き出されて、みんなの期待も膨らんでいる。早い子と遅い子で一週間も二週間も差が出てしまうのは芳しくない。
それに、部屋を一つ作るとなると力仕事も多くなるので、人手のある今日こそ部屋作り日和とも言えるんじゃない?
不公平の無いように、出来れば今日中に、全員の部屋を整えてあげたい。
それならば人海戦術でいくしかないでしょう! と、私が最初に手をつけた仕事は、作るべき家具のリストアップだ。
各人の好みを聞き、家具の色味をどの木材を使って作りたいかも聞き取ってある。デザインについては元々みんなに凝った装飾の知識なども無かったことから、私の作った見本の家具で気に入ってもらえていることだし、ここはお値段以上なインテリア家具店よろしく規格品の量産でMPの消費を抑えて、設置はみんなの手でしてもらうことで一気に部屋作りを進めてしまおうという作戦だ。
「よし、お部屋作り始めるよ。みんなも手伝って。一部屋ずつ家具を作って設置していったら、十部屋作るにはMPが掛かり過ぎちゃうから。木材を広間に運び出して、そこで一気に家具を作っちゃいます! 私の魔法だと同じ物を作るなら何個作っても消費MPは変わらないから、この方が無理せず作れるの。物さえ作っちゃえば、後はみんなで運び込んで一部屋ずつ並べていくだけだから。力仕事が多くて大変だけど、よろしくお願いします! 今日中に全員のお部屋が用意出来るように、力を合わせて頑張りましょう!」
私一人に任せっきりになるよりも手伝いが出来る方が嬉しいと、みんなも喜んでやる気を見せてくれた。
せっかくの自分の部屋なんだから、自分たちで作る方が面白いだろうし。
ロフトなどの魔法建築の部分だけは私が作らなきゃいけないけど、今は何も無いガランとした部屋に一つ一つ家具が運び込まれて部屋になっていく楽しさを、みんなにも共有してもらいたい。
「じゃあ、私は家具をどんどん作っていくから、みんなはまずは杉材から運んできてくれる? 金具に使う鉄鉱石や、クリスタルなんかの石もお願い。その後はナラにクルミ。敷物を作るための藁もだね」
「わかった!」
「どんどん運ぶからね」
「こっちは俺たちに任せて」
みんなが次々に運んできてくれる木材や資材を材料にして、私はベッドやクローゼット、棚などをガンガン量産していく。「創造・杉のベッド五台」「杉のクローゼット八個」「杉の棚十四個」てな具合だ。マークオリジナルのL字型の机などの一点物もその場で作り出していく。
全ての家具を作り上げた時には、広間には家具屋の倉庫のごとく大量の家具が並べられていて、その半分程のスペースが埋め尽くされてしまった。
「……モモ」
「……これって」
「ももちゃん……、これ大丈夫なんですか!?」
そんな異常なまでの光景には、さすがにみんなもドン引き……いや、心配してくれた。
「うん、こうやって一気に作った方が、一つ一つ作るよりも私はずっと楽が出来るんだ。まあ、この量だから半分くらいはMP使っちゃったけど、でもまだ半分だから。無理はしてないよ。みんなが手伝ってくれるおかげだよ。ありがとうね」
「やっぱりモモはすげーな……」なんて呆れかえっているけど、わかってる? 大変なのはここからだよ。この大量の家具を運ぶのは自分たちですよ。
先程描いたみんなの部屋のレイアウトを持ってきて、一部屋ずつ配置をしていかなければいけない。部屋によって何から運び込んでいくかも考えないと設置しにくいし。
「この見取り図を見ながら、みんなで運んでいくよ。まずはルーシーの部屋から作ってみよう。ルーシーの希望はナチュラルブラウンのナラ材だから、部屋に置く予定のクローゼット、棚二つ、ドレッサー、イス、ベッド、ローテーブルとソファ。それから一m×二mの畳を三枚。こちら側に持ってきて」
畳の上に敷くキルトのラグを作ってなかったのを思い出して、居間で使っているキルトを一枚持ってきた。もちろん清浄と浄化をかけてキレイにしておく。
「こうやって一部屋ずつ運び込む物を用意して、見取り図の奥の物から順番に配置していくよ。まずはクローゼットとベッドを持っていこう」
重い家具も身体強化を使ってみんなで力を合わせれば軽々運べる。ルーシーの部屋の奥にクローゼットを置き、その手前にベッドを置く。
「頭の向きはこれでいい?」
「うん、大丈夫!」
「じゃあ、次はドレッサーとイス、棚を二個だね」
そうやって家具が配置され、畳が敷かれ、ラグが敷かれ、ソファとローテーブルがその上にのせられて……。
「うわあっ、これが私のお部屋! 可愛い! 嬉しい!」
ルーシーのテンションがMAXでめちゃめちゃはしゃいでいる。その様子に他のみんなも高揚して、一緒になって嬉しそうにしていた。
「あとはベッドに畳と布団と枕を置いたら出来上がりだね」
仕上げはみんなに任せて、ルーシーの初めてのお部屋の使い勝手や居心地をしばらく楽しんでいてもらう。
その間に私は資材倉庫で足りない分のキルトのラグを作って用意しておいた。
「どうかな? 使いやすそう? 気に入った?」
「うん、すごく! モモありがとう!」
ルーシーのお部屋は希望通りに作れたようだ。
とは言ってもまだクローゼットや棚の中は空っぽだけど。
「何か増やしたいものがあればまた作るし、服や小物も作っていくからね。今はちょっと寂しいけど、もう少しだけ待っててね。さあ、次は隣のマリーのお部屋だよ。さっきみたいな手順でやっていこう」
マリーはベージュの杉材を選んだので、杉材で作られたベッドやクローゼットなどのマリーの部屋へ運ばれていく家具が選り分けられていく。
まずはベッドを一番奥の角に合わせて設置したところで、
「この図を見ながら、みんなだけで残りの配置出来るかな?」
と聞いてみると、
「この通りに並べるだけだもん。大丈夫だよ!」
すでに自分の部屋を手に入れたルーシーが、いまだテンション高めにドンと胸を叩く。他の子たちもうんうんと同意してくれた。
「それじゃあ、みんなにお任せしちゃおう。私はロフトのある部屋を作ってくるからお願いします。出来上がったら、マリーも使い勝手を試してみてね」
運搬、設置の力仕事の作業を丸投げしてしまって、私は魔法建築に取り掛かろう。
一番近いのはベルとティナの部屋だけど……。
ここが一番大変そう……。
うん。簡単なところから先に片付けちゃおう。
まずはジェフの部屋へ行き、右手の壁にロフトを作る。
最初に適当に大きく作ったせいで、この家の部屋はどこも天井の高さが三m程ある。ざっと入り口の大きさは三m角……なんて決めたせいだ。まあ、そのおかげでロフトを作るには充分な高さを確保出来る訳だけど。
高さ百七十cm程のところで厚さ十cmの床を作れば、ロフト上に百二十cmの高さを用意出来る。
私なら立って歩ける高さだ。
ジェフには立つのは無理だけど、膝立ちくらいは出来るので不自由は無いと思える。
厚さもしっかり取ってあるし、土魔法で強化をかけるので造りはしっかりと作れる。はしごを掛ける部分だけを空けて手すりも付けておけば、もし、ジェフの寝相が悪くても落ちる心配も無い。
布団が敷けるようにサイズを合わせて、幅一mのロフトを作り上げた。
次にバズの部屋に行って、奥の一・五m四方を土間にする。バズが製作しやすいように、その部分だけ床の強化を外して、その奥の壁も掘削しやすくしておく。
土魔法で土を使っても、どういう法則かその部分の土が無くなってしまうことはない。
穴を掘れば穴があくけど、掘り出された土が山になって残ってしまうこともないので、その辺りは魔法の便利さとして深く考えずに納得してしまった方がいいのだろう。
魔法の力の前では、質量保存の法則は用をなさない。ずっと広い世界単位で考えれば、どこかで帳尻を合わせているのかもしれないけど。
水がいきなり出てくるのだって同じ理屈なんだろう。ここは精霊様に感謝して、素直に恩恵に預かるべきところだ。
そんな訳で、ここでバズが魔法製作をしても床や壁が穴だらけになってしまうことはないので思う存分作って欲しいけれど、私の強化がかかった状態の土のままではやりづらいだろうから、普通の土間に直しておいた。
この小さなスペースだけ強化されていないからと、家全体の強度に問題が出ることもないだろう。
続けてちびっ子部屋にもジェフの部屋で作ったようにロフトを付けていく。
部屋の周囲をぐるっと一周、キャットウォークのようにロフトが囲む。幅は五十cmくらい。歩いたり、座ったり出来る程度のものだ。
キティやピノも上がりたがるだろうから、一カ所だけ、はしごを掛ける部分を空けて、全て柵を付けておく。ヤスくんなら乗り越えられるだろうけど、キティとピノには簡単に乗り越えられない高さにしておけば安心だ。
まあ、子供は危ない遊びが好きだし、何かしらはやらかす日が来るだろうけど。そうやって痛い目を見て成長する部分もあるので、多少は仕方ないと思う。
最後にベルとティナの部屋。
ここは大掛かりになるぞ。
まずは寝る場所にもなる広いスペースとして、右手の壁にはニ・五m幅のロフトを作る。そこからL字のように奥の壁にも一m幅のロフトを廊下のように端まで繋げる。その廊下の真ん中あたりには直径五十cm程の穴を丸くあけて、はしごを掛けてそこから上がれるようにする。
廊下の隣にはトンネルが並ぶ。廊下の端から入れるようになっていて、トンネルを抜けると広いスペースの方に出られる仕組みだ。トンネルは粗いメッシュの筒にして、落ちはしないけど気を付けて通らないと片足くらいは嵌まるようにする。公園によくある遊具みたいな感じだ。
ロフト部分には柵を付けるが、広いスペースの真ん中あたりの一部だけ四十cmくらい空けて、そこから滑り台を付ける。滑り台を滑れば部屋の中央に降り立てる。
こちらも近日中にもやらかすだろうことはひしひしと感じられるが、やんちゃは二人のチャームポイントでもあるんだから目を瞑ろう。
本当に危ないこと以外まで全て安全で囲ってしまったら、子供時代がつまらなくなっちゃうからね。
それでも飛んだり跳ねたりに耐えうるように、強化は魔力多めにしてしっかりかけておいた。
これで完了。これだけ済ましておけば、あとは私も引っ越し屋さんの業務に合流出来る。
マリーの部屋は良い具合に出来たかな?
みんなのところに戻ろう。




