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第百話 かあちゃんは幸せです


 ストーブに火を入れてもらうために、地下室へ。

 干物作りの進み具合も確かめよう。


 大分手慣れた様子で乾燥を続けているところを見ると、こちらも間もなく終わりそうだな。


「みんなお疲れさま。水の勉強会も終わったから、そろそろおやつにしようと思うんだけど」


 キャーッと悲鳴のような歓声を上げて喜ぶ子供たち。


「こっちも、もう少しで終わるところ! 待ってました!」


「お湯を沸かしたいし、少し肌寒くなってきたからストーブを点けたいんだ。お仕事中に申し訳ないけど……」


「いーよ、いーよ! ここはオレが見なきゃだから、ジェフ行ってきてくれる?」


「おっしゃー! おやつだー!」


 一人抜けてしまうので、もう少し時間がかかっちゃうかもしれないけど、お湯が沸くまでには終わりそうだね。


 ジェフにお願いしてストーブに点火してもらって、天板の上に土瓶をかけてお湯を沸かす。せっかくだからアップルパイも温めてからいただこう。



 おやつの準備をルーに、火の管理をジェフにお願いして、私はアンとともに家の入り口に来ている。


 ちょっと外の様子を見てこようと思う。煙突の状態も気になるし。


「雨の様子と、煙突がちゃんとしてるか見てくるね。私が出たら、すぐ扉を閉めて、また閂をかけて中で待ってて」


「え!? 無茶です! 危ないですよ!」


「大丈夫、物理結界(フィジカルバリア)を使えば雨も風も問題ないから。様子を見たらすぐ戻ってくるからね」


 アンに心配されつつも、バリアを纏い、入り口の扉を一人分だけ開けて外へ出る。


 吹き荒れていた風は収まったようだ。

 雨は相変わらず降り続いている。


「戻ったら扉を叩くから。そしたら開けてね。ほら、さっきよりも風は弱いし、バリアの中なら雨にも濡れていないでしょ?」


「それでも足元は悪いでしょうし。気を付けて、すぐに戻って下さいね」


「わかったよ。ちょっとだけ見てくるね」


 不安そうなアンに笑顔で応えて歩き出すと、背後で扉の閉まる音がした。



 言われた通り、泥濘(ぬかる)んだ足元に注意しながら岩山を登り、煙突を確認しに行く。


「良かった。どこも壊れたりしてないし、煙も昇ってる」


 これならストーブを使っていても大丈夫そうだ。


 雨足は大分強いけど、煙突に入り込む量は微々たるものなので心配ない。


 それよりも、湖や川の様子が窺えないかと、遠見(ビュー)暗視(スコープ)遠視(レンズ)などを使って確認しようと試みたが、雨に煙る遠方の景色を見ることは(かな)わなかった。


 雨が止むまでは、ヤスくんの言う通りじっとしているのが良さそうだ。



 あまり長居してはアンを心配させてしまうだろうと、急いで家に帰ってきたのに、扉を叩くと即、閂が外され、


「良かった……! おかえりなさい」


 安堵の顔のアンに迎え入れられた。余程やきもきしていたのだろう。


「ありがとう、ただいま。風は弱まったけど、雨はまだ当分止みそうもないや。煙突はなんともなかったから、暖かい部屋の中でゆっくり過ごして止むのを待とうね」



 仕事を終えたみんなも揃って、土瓶からも白い湯気が上がった。温かいアップルパイとお茶を給しておやつにしよう。


 さすがに二度目なら、昨日ほどの感動は無いだろうと思ったのに、みんな神妙な様子で一口ずつ堪能して味わっていた。


 食べ終わるまでは話は出来そうもないね。

 まあ、時間ならたっぷりある。


 全て平らげ、余韻も楽しんだところで、やっとぽつぽつと言葉が出てくる。


「はあ……。美味しかった」

「あったかいのはまた格別だな」

「焼き立てみたいだったね」

「やっぱりアップルパイは最高……」

「幸せ…」


 毎回こんなに喜んでもらえて私も幸せです。


 みんなが落ち着いてきたところで、これからのことを話し合う。


「ちょっとだけ様子を見てきたけど、風は収まったけど雨はまだまだ続きそうだった。どのくらい降るんだろうね」


「明日くらいまでは降り続けると思うぞ」


 ヤスくんが答えてくれる。


 この地は、秋は割と晴れの日が多いけど、冬が近付くと雨が降り始め、だんだん寒くなっていくらしい。今日はまだ一日、二日の雨だけど、もうしばらくすると長雨が来て、それを境に季節が変わっていくのが毎年のことなのだそうだ。


「そうなんだ……。畑、もう少し急いだ方がいいのかな……」


「寒くなるとはいえ、すぐに雪に閉ざされる訳じゃないでしょう? 魔法で作る分には、まだしばらく畑仕事を続けられると思うよ」


「そうだよ。雪が降るのはまだまだ先だぞ。急に寒くはなるけどな。それに長雨が来るのにも、まだもう少しあるし」


 いけない、いけない。私が不安を見せたらみんなも不安になってしまうのに。またバズとヤスくんに助けられちゃった。心強い仲間たちだ。


「それじゃあ、今日、明日は家の中だね。何しようかなあ。雨じゃ燻製室も使えないしね。……バリアを使えばいけるかな?」


「……モモはまた」

「天気が悪い日に無理矢理やることないだろ?」

「そうだよ! 休むときは休む!」

「それに家の中でもやることあるんじゃない?」

「モモはたまには休みなさい!」


 みんなに言われてしまった。


「わかった、わかった。ありがとう。でも何もしないでいるのも手持ち無沙汰で性に合わないんだよ。家の中で出来ること考えよう」


 みんなで意見を出し合う。


「私はお部屋をどうするか考えようかな」

「ゆっくり考えられますね」

「モモみたいにお絵描きして考えてもいい?」

「俺は訓練してればいいかな?」

「そうですね。今日習ったことの練習もしたいですし」

「やっと少しモモを手伝えそうだしな」

「僕も物作りの練習して、早くモモを手伝えるようになりたいな」

「体も鍛えたいよね」


 次々に出てくる。家の中でもやれることいっぱいあるね。


「モモも物作りしたいんじゃない?」


「あ、扉! 扉付けたかったんだった! 木材を運ぶのが重いから、みんなに手伝ってもらえる時に作りたかったんだよ」


 じゃあ、それからやろうかと話がまとまりかけた時、


「お料理は?」

「外で出来そう?」


 ユニとルーが心配そうに聞いてきた。


 外も屋根はあるから使えなくもないけど……。


「パンは焼いてあるし、煮込んだり焼いたりもストーブで出来るよ」


「そっかー! ストーブって良いね!」


「モモ、作ってくれてありがとう!」


 本当にストーブを作っておいて良かった。部屋は暖かいし、家の中でお湯も沸かせるし料理も出来る。大人数の食事作りには少し心許ないかもしれないけど、ストーブは煮込み料理が得意だし、冬が来たら大活躍だな。

 どうしてもの時にはバリアを使えばパン焼き窯も使えるだろう。調理場も風さえ強くなければ使える。外で作っておいて中で温めるなど、上手く使い分けよう。


 今日の夕食にはパンと昼にたっぷり作った豚汁を温めればいい。キッシュもまだある。おやつも食べてるしそれでいいだろう。明日は干物を焼いてみようかな。


 雨のおかげで冬場も何とかなりそうな自信が得られて良かったかも。



「今日はお風呂も行けないし、夕食までの間に扉付けちゃおう。手伝ってくれる?」


「そっか、お風呂……」

「行けないんだ」


 みんながっかりしてるけど、こればかりは仕方ない。雨で川が増水してるかもしれないし。天気の悪い日はあきらめるしかない。


 ちょっと前までは無いのが普通だったのに。一度知ってしまったらあの幸福は手放せないよね。


 家風呂もあってもいいかもしれないな。

 また考えてみようか。



 それから、みんなの手伝いもあって、居間、倉庫、地下室の入り口、個人部屋に続く廊下の入り口と各部屋、トイレにも、それぞれ扉を付けることが出来た。


 これでストーブをフル稼働しても倉庫のことを心配しなくていいし、居間の暖かい空気を逃がすこと無く、個人部屋にも行き渡らすことが出来そうだ。


「みんなありがとう! ずっと気になってたけど後回しにしてたのが片付いちゃったよ。雨の日ってまんざらでもないね!」


 アハハ、現金だなあとみんなの笑い声が響く。

 うん、みんなといれば雨も悪くない。



 おやつを食べたので夕食にはまだ早い。


 火と風の勉強会もしようかと集まってもらったけど、干物の乾燥の手加減は思った以上に大変だったようで、普通に乾燥する時よりも逆に魔力を消費する結果になってしまったようだった。


 魔力枯渇を起こすまではいかないが、今は魔法は控えた方が良さそう。


「火属性は攻撃魔法が主だし、風属性の風の刃(エアカッター)風の盾(エアシールド)も晴れてから外で訓練した方がいいと思う。今日は講義だけにしよう。ジェフも頑張ってお勉強しようね」


「うへえ……」


 他の属性の子たちには、訓練するもよし、お部屋について考えるもよしの自由時間にしてもらって、火と風合同での講義を居間のテーブルで始める。


 みんなのステータスも確認させてもらおう。



 =================


 ジェフ レベル6 人間 男 十二歳

 HP76/76  MP74/257  火

 攻D 守E 早E 魔C 賢E 器E


 =================


 コリー レベル6 人間 男 十歳

 HP64/64  MP58/253  火

 攻D 守E 早E 魔C 賢E 器D


 =================


 ルーシー レベル5 人間 女 十歳

 HP63/63  MP67/247  風

 攻E 守D 早D 魔C 賢E 器E


 =================


 ユニ レベル5 人間 女 九歳

 HP52/52  MP68/248  風

 攻E 守D 早D 魔C 賢E 器D


 =================


 ピノ レベル1 人間 男 四歳

 HP24/24  MP112/220  風

 攻F 守E 早E 魔C 賢F 器E


 =================



「全員すっごく成長してるね。魔法も中級まで使えるようになってるよ。今日、勉強会をした他のみんなもそうだったけど、中級魔法を使えるようになれば立派な魔法使いだよ。強い力を持ち、それが使えるようになるということだね。だからこそ、今まで以上に魔法のことを理解して使って欲しいと思うの」


 そうして、火属性の子が火を出せる、風属性の子が風を吹かせることが出来るのには、精霊様のお力が深く関わっていることについて話していく。


 精霊様が力を貸して下さるからこその、奇跡のような魔法を傲らずに、感謝して使って欲しいこと。精霊様に力を借りるためには、今まで以上にイメージを意識して、大切にして欲しいことを伝える。


「ピノは魔法制御がすごく上手いよね。さっきの乾燥の魔法でも、みんなよりもMPの消費が少なくて済んでる。ピノは魔力と仲良くなったから言うことを聞いてくれるって言ってたけど、精霊様とも仲良く出来てるのかもしれないね」


「なるほどなぁ」

「精霊様のお力か……」

「いつも感謝しないとだね」

「ピノと仲良くしてくれてるの? ありがとう!」


「モモ……、私が風を感じるようにしてから、魔力を操作しやすくなったのって……」


「精霊様のお力を感じ取れたのかもしれないね。これからも目には見えなくても、いつも力を貸して下さる精霊様のことを感じ取って、感謝していこうね。では、お勉強はこれでお終い。また晴れた日に、外で改めて勉強会をしよう」



 その後は、暖かい部屋で夕食をとり、みんなはいつもの訓練を、私は物作りの時間となった。


 今日は急な雨で肥料も作れなかったし、大きく使ったと言えば扉を作ったくらいなので、随分MPが残っている。


 ここぞとばかりに何でも作れちゃいそうだ。


「まずは、布団は全員分用意しておいてもいいよね」


 十四組の掛け布団と敷き布団を作り出す。それから、枕代わりのクッションも。一人いくつ欲しいかわからないけど、取り敢えず三十個。


 倉庫がぐっと狭くなってしまった。

 でも、もっと作ってくよ。


 作ったことのある物の大量生産だと、あまりMPを使わないんだよね。まだまだMPが残ってる。


 作ったことのない物を作ってみよう。


 思い付いたのはお風呂だけど。

 お風呂を作ることも、水を貯めて温めることも出来るだろうと思うけど、問題となるのは排水だ。

 外への排水を考えると、これは晴れてる時に作った方が良さそう。


 それなら、部屋に置くものとかかな。


 前に考えた、木のベンチにクッションを組み合わせたソファ。


 机に鏡を合わせた、女の子たちのためのドレッサー。服を掛けるためのハンガー。


 ちびっ子部屋に置いてみたいと思ったジャングルジム付きの滑り台。積み木。

 キティが喜びそうな白猫のぬいぐるみ。顔は木のボタンを付けた。


 羊毛を使った毛足の長いフカフカのカーペットは、何が足りなかったのかMPの消費が大きかったのだけど、それでもまだMPが使いきれない。


 前世の記憶を頼りに、竹刀のような形の練習用の木剣も作ってみた。

 魔法の訓練は順調だけど、体力作りにあまり力を入れられていないので、全体的にHPやフィジカルな部分のレベルが上がっていないことに今日気付いてしまったから。


 これで素振りをするだけでも多少は違うだろうし、ちゃんとした剣ではないけどジェフが喜びそうだ。


 自分の記憶の中の知識では曖昧な部分を、ほとんどスキル先生に補ってもらったからか、これもMPの消費が多かった。


 今日みたいに余裕のある日に作れて良かったな。



 最後にもう一つ。

 ずっと気になってた精霊様の木像を作ってみた。


 あの日、あの空間で、私に力を与えてくれた女の子。天使のような、妖精のような月の精霊様。


 長い髪に、ワンピースのような衣装を纏い、背には四枚の羽根を持つ姿。


 両手を迎え入れるように軽く開いて、優しく微笑んでいる。


「精霊様、本当にありがとうございます。私は今、とても幸せです。これからもどうぞ私たちをお守り下さい……」


 出来上がった木像を前に感謝の言葉を口にすると、心の澱が消え去るかのように、清らかで、厳かな気持ちが満ち溢れた。



 そっと抱きかかえ、居間に戻る。


 子供たちはすでに眠りに就いていた。


 外はまだ雨が降り続いているはずなのに、いつもより静かな気がする。時折ストーブから聞こえてくる、薪の爆ぜるパチリという音だけが心地良く響いていた。


 子供たちを起こさないように、居間の壁に土魔法で簡易な祠を作り、木像を納めた。


 再び精霊様に祈りを捧げる。


 とても大切な仕事をやり遂げた気がする。




ここは聖域なりて(サンクチュアリ)……」


 私もみんなの傍で横になり、毛布を被ると静謐な空間で眠りに就いた。




とうとう、第百話達成しました!


皆様の応援のおかげです!

力不足の拙いお話しにお付き合いいただき

感謝、感謝、感謝です!


毎日、たくさんの皆様に目にしていただき、

たくさんの皆様に書き続ける力をいただいてます。


明日は更新日ではありませんが、

外伝SSを投稿する予定でおります。


お礼になるかもわからない

本編からは蛇足となるお話しですが

よろしかったら読んでみて下さい。


今後とも本作をよろしくお願いいたします。


感想、ブックマーク、評価、

大変励みになっております。

よろしかったら、そちらの方からも

応援して下さいませませ。


(≡з≡)/


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