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4話

敦と話をして、変化した気持ち。

美樹の記憶と、敦の関係。

営業部の部屋に入ると、高橋くんはPCを開けて何やら作業をしていた。

「お疲れさまです」

声を掛けると、少し緩んだ口元を上げる。

「お疲れさまです」

「はいこれ、コンビニので、申し訳ないんだけど。新作のプリンだって。」

「あ、ありがとうございます」

自分の椅子にすわり、ふう、と一息つくと高橋くんが物言いたげに、こちらを向いた。

「何が言いたいか分かるから、先に言っちゃうけど。元カレとはかる~くご飯食べて別れたので、こっちに来ました!」

高橋くんの顔が、反応していいものかどうか、困ってる。

「聞いていいのか分からないんですけど、元カレ…と待ち合わせだったんですか」

「まあ、正確に言うと会ってご飯食べて、1人になったら元カレになってたってことなんだけど」

「え?どういうことか、よく…」

「だから~別れ話してきたってことよ」

「あぁ…すぐ分からなくて、すいません…」

申し訳なさそうな顔をされると、こっちが申し訳なくなってしまう。

「気にしないで~そんな悲壮なものじゃないの」

「だったら、いいんですけど…」

高橋くんがものすごく気にしてる顔、してる。

「だって、彼がぜーぜん連絡取って来なかったのも、私が可愛く会いたいの、とか言えなかったからだし」

「大人女子なファッションが好きな彼に、ぜんっぜん合わせようしなかったし」

「甘えられるのが好きなのに、素直に甘えられなかったし」

…私は、なんで今になってこんなことを言ってるんだろう。

彼と別れてすぐは、どうでもよくなってたんだものって、サバサバしてたのに。

鳴りを潜めていた自虐ぐせなの?

高橋くんは早口で捲し立てる私を、真顔でじっと見てる…

言葉が急に出なくなって、息が苦しい時みたいに口を開いた。

「それに、、、」

高橋くんが静かに、って言うように私の唇の前に人差し指を出した。

「もう、言わなくていいから」

優しく言ってふわっと笑う。

「小山さんの元カレがどんな人か知らないけど」

「今、言ったこと全然ダメなことじゃない」

「自分のことをそんなにダメって言わないで」

まるで、子供に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

頭の中に、自分をぺしゃんこにする言葉が渦巻いてたのに、それはすーっと引いて行った。

「ゆっくり、深呼吸して」




深呼吸をして、高橋くんを見るといつもの人懐こい笑顔。

「落ち着きました?」

「うん…なんか色々ありがとう」

「なんですか、色々って」

「色々は、色々よ。あのね、別に悲しい訳でも泣きたい訳でもないの。ただ、好きな人だったはずなのに、どうでもよくなっちゃたなんて…何がいけなかったのか、つい考えちゃって」

「そんなこと、小山さんのせいばっかりじゃないし、お互い様ですよ」

「…うん、言われてみれぱそうかって思えるんだけど、ね」

「ほら、新作のプリン食べて、この後の作業に備えましょう。こんな時は甘いものですよ」

「うん、食べようプリン。美味しそう」

仕事以外のことをだいぶ喋ってしまって、なんだか気恥ずかしい。

それと、さっきの高橋くんの急に出て来た敬語じゃない言葉、しーってやった指…

あれは、少し高橋くんの素を見せてくれたのかもしれない。

意外だけど、垣間見えた高橋くんの素は可愛い男の子じゃなくて、大人の男の人だった。

よく考えると、高橋くんのことをほとんど知らないんだな。

この間、同郷だってことは分かったけど。

「このプリン、なめらかで美味しい~」

スプーンでひとさじ食べたら、ぷるんとした食感が何とも言えなくて、思わず声を上げた。

「小山さん」

高橋くんも口角が上がってる。

だって、高橋くんが好きそうと思ったから、買って来たんだもの。

「え?何?高橋くんも、このプリン好きな味だよね?」

「好きですけど…それより、美味しそうに食べてる小山さんが、可愛いです」

「ちょっと!恥ずかしいからやめて。からかってるんでしょ」

「からかってる…けど、可愛いは嘘じゃないですよ」

めずらしくあはは、と笑ってる。

あっという間に食べ終えた頃、荷物到着の電話が入った。

「良かったね、少し早くて」

「有難いですね。」

二人でバタバタと、受取に向かった。



作業が終わったのは、ちょうど深夜0時過ぎ。

この時間に到着するはずだった荷物が、早く着いたので終わりも早かった。

会社のビルの下に降りてから、タクシーで帰ることにした。

電車はもう、終わってしまったから。

飲み会の時と同じように、タクシーの後ろに並んで座る。

違うのは、高橋くんが眠っていないこと。

「飲み会の帰り、また寄りかかってましたよね…あの日は、甘えっぱなしですみませでした」

「うん、あの日はだいぶ甘えられた気がする。姉ってこんな感じなのかって、勝手に納得してた」

「…子供の頃、近所に大好きだったおねえさんがいたんです」

「幼なじみってこと?」

「う~ん…そんな感じかな…ほんとのお姉ちゃんみたいに面倒みてくれて、遊んでくれて。僕はそのお姉ちゃんが大好きで、いつも追っかけていたんです」

「へえ…そのお姉ちゃんは、今も高橋くんの実家の近くにいるの?」

「引っ越していなくなっちゃいました。まだチビの頃、僕に何も言わずに」

「じゃあ、その人がいまどこにいるか知らないの」

「知らないんです。でも…小山さんがそのお姉ちゃんに、ちょっと似てるんです」

「え?ほんとに?」

「そうなんです。見かけって言うより、雰囲気ですけど。だから、勝手にそのお姉ちゃんに、また会えたような気がしてて」

「そうなんだ。でも、実際は高橋くんの方が、私の面倒を見てくれてるよね。立場が逆だわ~」

「この間介抱してくれたじゃないですか」

「あぁ、そうだったっけ。お酒、前からダメなの?」

「ダメです。ビール中ジョッキ1杯であんなになります」

「え~そんなで?じゃあ今度、トレーニングしてみる?」

「止めておきます…」

幼なじみのお姉ちゃんのようだと言われ、その気になって高橋くんをからかって楽しんだ。

でも 、それと同時にグラスに水滴が1滴ポタッと落ちたみたいに、私の中に違和感が広がった。

うっすらとしかない、火事の時の私の記憶。

その中に、激しく泣いている小さな男の子かいるのだ。

その子は大人になだめられても泣き止まず、ずっと「みきちゃん」と、叫んでいた。

その子がなぜ火事現場にいたのか、なんで泣いていたのか。

それは、まったく覚えていないのだけど。

高橋くんのお姉ちゃんのことを聞いて、なぜだか高橋くんとその男の子が重なった…

まさか、ね。

そうなら高橋くんから言うはずじゃない。

横にいる高橋くんをそっと伺うと、私の手元を黙って見ていた。












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