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最終話

美樹と敦、二人が決めたこと

岩田さんと別れて、今日も彼の部屋に帰る。

駅から手を繋いで歩いているとき、

「美樹ちゃん…もうさ、一緒に住もうよ」

少し、お願い気味の声。

火事の直後に言われた時、はっきり返事をしてなかったからかもしれない。

顔を見ると少し眉を寄せた顔。

「うん」

「え?うんて?」

「うん、住もうねって返事したの」

「なんだ、良かった~」

「もうちょっと、渋ると思った?」

「まあね、仕事もあるしダメ!って言われるかもとは、予想してた」

「…何かね、心配してたの、ほらすぐ自虐トークするから」

おどけて言ってみせたら、やっぱりって顔をされたけど笑ってくれた。

「でも、こうして何日か過ごしてみたら、心配することは何も無かった。面倒見て貰いっぱなしだけど」

「面倒なんかじゃないし、そんなこと気にしなくていいから」

そんなこと言われても…

彼の負担になってないか気になるじゃないか。

「私にばっかり手が掛かってないかなって…そこはちょっと心配…」

どうしても言わずにはいられなくて、つい言ってしまった。

彼が立ち止まって、私の手も引っ張られる。

「手が掛かるのはお互いさまだから、そんな気にしないでいいんだよ。俺が風邪引いて寝込んだら、看病してくれるでしょ」

道の端で向かい合って、私の顔を覗き込んで言い聞かせるように、言ってくれた。

「うん…元気になって欲しいから、看病する。敦は大事な人だから」

彼を見上げてじっと見つめて言ったら、彼の顔が心なしかふにゃっとした。

「ここでそんなこと言うなんて…反則。」

嬉しそうな顔の彼を見て、すごく嬉しかった

けれど…どうしても聞きたくて、また歩き出しそうになった彼を、引き留めた。

「ねえ、心配ばっかりしてネガティブなこと言ってるのに、なんで我慢してくれるの?イライラしないの?」

たぶん、眉が下がって必死な顔をしていたんだと思う。

敦の顔が困ったな~って表情になった。

「それは、美樹ちゃんと同じで大事な人だから。大事な人が俺のこと、いつもいつも心配してくれるんだよ。イライラなんて、しないよ」

「でも私、敦のことじゃなくても心配ばっかりだし…」

こんなに食い下がって、さすがに敦もイラッとするだろうな。

そう思って顔を見ると、呆れた顔はしてたけどイラッとはして…ない?

「ほんとに心配性だね~」

笑っちゃってる…

「そんな心配ばっかりしなくてもって思うけど」

彼の手がくりくりっと私の頭を撫でた。

「人の心配までしちゃうんだから、優しいんだなって思うだけだよ」


2週間後、敦の部屋へ引っ越しをした。

そんなに荷物が多い方ではないけれど、大人二人では少し狭い。

そして、月が開けたら書店勤務。

やっぱり、書店で働くということに興味があったから。

やりたいと思ったことは、ちゃんとやろうと思った。

片付け終わってコーヒーを飲みながら、お疲れさまと言い合った。

「ありがとう、収納BOX用意してくれて。ほんと助かった。」

「実はもっと物が溢れるかもしれないって思ってたんだ。意外と荷物少なかったね」

「引っ越しするから、かなりバッサリ物を捨てて来たからかな~」

う~ん、と大きく伸びをした。

「それでも、また色々増えるかもしれないから、もうちょっと広い所、探したほうがいいかもね」

意外な言葉が彼の口から出て、驚いて身体を彼の方に向ける。

「広い所?ここで充分じゃない?いくら荷物が増えたって…」

部屋は一つだけど、リビングが広いこの部屋を、彼は広々使ってた。

二人でも、多少荷物が増えても大丈夫だと思うけど…

すると、彼が笑顔で少し声のトーンを落として、

「荷物もだけど…これで、美樹ちゃんが高橋になって」

「そして、ここに」

そう言って、私のお腹をそっと撫でた。

「誰か、来てくれるかも、いや来て欲しいから。ね?家族が増えたら手狭だから」

「ちょっと待って。高橋になるって…」

「え?一緒に住むなら、籍入れたほうがいいでしょ」

「う…ん、まあそうだけど…」

うっすら考えてはいたけど、敦はもう決めてるのか…

それに、家族が増えるって。

籍も家族をつくることも、私も頭の片隅にあった。

けれど、どう思ってるか分からなくて…口には出さなかった。

いま、彼の方から言ってくれるなんて、思ってもみなくて。

「ねえ、いいの?早いとは思わないの?その…籍を入れるとか、家族が増えるとか…」

「早くもないよ。一緒に住むならそうしたいって、考えてたんだ。だから…美樹ちゃんがいいなら」

嬉しいのと、ちょっとホロッと来てしまったので、笑ってるつもりなのに目尻が潤んだらしい。

「いいに決まってるじゃない…」

俯いて答えたら、ポタッと滴が落ちた。

彼が驚いてる。

「み…」

彼が言葉を発するより早く、

「嬉しいんだよ!」

と、目尻をまだ潤ませながら、急いで笑顔を見せた。

「そっか。良かった、同じ気持ちで」

ソファに寄りかかった私を引き寄せ、ふわっと抱き締めた。


引っ越し作業のためのTシャツとジーパンの、くたくたな二人のまま、家族になることを決めた。

ハグをして頬に頬を寄せて。

心配性な私は、もう心配なことをたくさん思い付いてしまう。

でも、今この時は、この甘い気持ちに浸っていてもいいのかもしれない。

「言っておくけど、今日はこの先の心配なことは言わないで」

「あ、言われちゃった。ちょっと考えちゃった」

「ずっとダメとは言わないけどさ。もう、美樹ちゃんの性分なんだから。でも、プロポーズした日くらい…」

「あ、プロポーズ、なんだ…」

そうなのかな、と分かってるけど、改めて言われるとかなり恥ずかしい。

「プロポーズです」

断言されて、今度は私がふにゃってなる。

「嬉しい。心配なことなんて敦がいれば全然ない」

いつもの笑顔で彼が応えてくれた。


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