9.帰る場所はここにある
「私も一緒に旅をする。」
ミシェルは漸く決断をした。少女は懸命に悩んだだろう。今まで憎み続けた相手だ。どれだけ困難な選択だったかは人間の僕には分からない。だけどそれが素晴らしい選択であったと尊重する事を僕は出来る。だからそれをするだけだ。
「分かった。……じゃあ、よろしくね。ミシェル。」
「うん。」
大人達は静かに見守っていた。これもまた成長というのだろう。本人で気付くこともあれば他人に気付かされることもある。それが成長の素晴らしさであるのだ。
「ミシェル。あなたの帰る場所はここよ。辛い事があるでしょう。大変な事があるでしょう。いつも楽しいとは限りません。何か打ち明けたい事があれば帰ってきなさい。私達は全員で歓迎するよ。」
「はい、村長。」
素っ気ないような少女の返事。しかし少女の目には先程とは違う涙が流れていた。小さな希望を見つけた少女の決意の眼差しだった。気合を入れて頑張らなくちゃな。
「旅人さん。よろしくお願いします。」
村長は礼をする。同時に他の大人達も礼をした。
「ほら、ミシェル。君はみんなに愛されているんだよ。」
僕はミシェルに伝える。ミシェルは次は泣かなかった。必死に我慢しているようだ。泣いても別に僕は怒らないし、村の人達も怒らないだろう。だけど泣くのを止めたいのなら僕は止めるつもりは無い。
「さて、ルカも行こうか。」
「うん。」
こうして僕達は三人となった。始祖の竜神と平凡の僕と半人の少女。異色の三人だがこれで良い。旅なんてそんなものなのだ。僕達はこの村に別れを告げて旅を始めた。ミシェルの壊れたナイフは僕が修復済みだ。
「それはなん……ですか?」
「敬語なんて使わなくていいよ。僕も使うつもりは無いし。」
敬語なんて堅苦しい事をしていたら旅なんて出来ない。旅人は気紛れ。敬語など使わない。
「う、うん。」
「そういい調子。徐々に慣れていけばいいからね。それで僕が着けているこのマントは魔道具だよ。〈琥竜ノ鎧〉って言うんだよ。琥竜って言う竜の鱗から出来たんだ。」
「すごい……。」
「まあ、貰い物なんだけどね。」
それから指輪とコンパスについても説明をした。指輪はルカがまた複製してそれをミシェルにあげた。ルカはお揃いが好きなようだ。まあ指輪は〈アイテムボックス〉としての使い道が大きいからミシェルにあげるのは僕も賛成なんだけど。
「さて。」
ここからが本題だ。ミシェルの親探し。僕は簡単に達成出来るものと思っていた。
「ルカ頼む。」
そう、竜神であるルカがいるのだ。人探しなど余裕である。
「分かったよ……【見つけ出せ】【サーチ】。」
あれ?竜魔法じゃない?あっ、無魔法が一つ【探索】の魔法があったな。中級魔法と初級魔法は詠唱が短いからね。魔力も少なめで済む。
「ひ、広い。」
この魔法は目の前にマップを表示して、探したいものの位置が赤く点滅するのだが、その表示されたマップが広すぎたのだ。普通であればこの国全体のマップが表示できれば充分凄いレベルであろう。だがルカはこの大陸全体を表示したのだ。まあ、世界とまではいかなかったが、この大陸だけでも十分だろう。
「ミシェル、両親の特徴を教えてくれ。」
「……うん。」
ミシェルの言った通りにマップの探索条件を絞り込んでいった。最初はマップ全体が透明だが、条件を指定するとそれに該当するものが赤く点滅するのだ。初期の条件では目がチカチカするほどに赤い点滅が多かったが、最後に名前で検索した時には二つしかなかった。
「ここか……。」
二つの点滅は母親と父親という意味合いだろう。二人がいるのはこの国だった。そして二人は離れていた。一人は東方地域最大の都市〈アルグランテ〉。もう一人は北方地域の都市のようだ。都市名はわからない。
「これで十分か。」
「魔法って凄い……。」
ミシェルが感動して動いていないぞ。まあ、半人だけの村なら魔法使いがいなくても不思議ではない。それだけ半人は魔法を苦手としているのだ。
「ミシェルも使えるよ。」
「ルカ、そうなのか?」
ルカによるとミシェルはどうやら魔法が使える半人らしい。才能に溢れた少女だな……。平凡な僕はかなわないよ。一人で自虐するのであった。
「じゃあ、目指すのは引き続き東方地域だ。そして〈アルグランテ〉。そこにミシェルの父親か母親がいるんだな。」
「うん、絶対にいる。」
ルカが言うからには間違いが無いだろう。東方地域までは数週間ほど掛かるだろう。長い旅にはならないようだ。
「そして、ついでにミシェルが魔法を覚える、か。この旅は暇な事が無さそうだな。」
基本的に旅は暇なもの。暇だからこそその旅に面白さを求めるのだ。それが旅人。まあ、だからこそ旅人はあまり多くないのだが。まだまだ旅は始まったばかりのようだ。