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始祖の竜神と平凡の僕。  作者: 秋色空
五章:追憶編
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62.森の奥に

 店主と別れた後、僕とシロは走って通路を抜けた。


 通路は土で固められた秘密の通路という感じが伝わってくる。何故、秘密の通路など店の裏にあるのか謎だが、それよりも謎なのがあの店主だ。一体、何者なのだろうか。


 僕は自分の持っている〈遺産〉と呼ばれた杖を見る。一見すると何も無いただの杖のようにも見えるが、魔力を感知できる者────要するに魔法使いが見れば、この杖は膨大な魔力を含んだ代物だと分かる。


 店主はこれを僕を抑える為と言っていたが、当の本人である僕には何を抑えるためなのかは分かっていない。ここに来て、また謎は増えるばかりだ。いつかシロに聞いてみるとしよう。


 通路を走る間は、僕もシロも無言だった。追っ手から少しでも離れるという理由があるのは分かるが、それでも走り続ける必要はあるのだろうか。結局、幼い僕は当然の如く、息が上がってしまった。


「……アデル、大丈夫ですか?」


 シロも流石に走らせ続けた事に罪悪感を感じたのだろう、申し訳なさそうに尋ねてくる。


「大丈夫、だよ……疲れた、だけ。」


「それは大丈夫とは言いません。ほら……乗って下さい。」


 シロはしゃがむと僕に背中を向けた。背負おうとしているのだろう。幼い僕は躊躇うことなく、その背中に乗った。シロの迷惑にはなりたくないという思いが働いているのだろうか。


 背負っている時点で迷惑は掛けているのだが、幼い僕は精一杯シロに迷惑を掛けたくない、という気持ちが強いようだ。小さく「ごめんなさい……」と呟いた。


 それから再び僕達の間には沈黙が訪れた。話す事も無いので仕方は無いのだが、それでもこの沈黙は気まずかった。何かを話そうとするが、言葉にはならず、口の中で小さく呟く程度になってしまった。シロは気付いていたのだろうが、話し掛ける事はしなかった。


 幸いにも通路はそこまで長くなかった。出口が見えてくると、自然と幼い僕とシロの顔は明るくなっていった。


「……僕も歩く。」


 そう言うとシロは静かに背中から下ろしてくれた。再び手を繋いで僕とシロは歩き出した。通路を出ると、そこは森だった。


「街はどこ……?」


 僕は森から懸命にあの街────そして、店を探そうとするが、どこにも見当たらない。シロはその理由を知っているのだろうか、知っていて何も言わないのだろうか、とにかく何も説明する気はないようだった。


 森は更に奥へと続いており、当然森は暗い。暗闇に目を慣らそうと瞬きを何度かする。シロは既に暗闇に目を慣らしているようだ。


「ここからどこに行くの?」


「森の奥へ進みます。そうすれば人里離れた村がある筈です。暫くはそこで暮らしましょう。」


「誰か、人が住んでいるの?」


「ええ、人数は少ないですが……。」


「……シロは住んででも魔種だって追われない?」


 幼い僕は人がいる場所に住むことで、また追われる生活にならないかを心配したのだろう。それをシロは気付いたようだ。微笑んで言った。


「大丈夫です。その村には人種差別はありませんから。」


「……差別って何?」


「自分と違う特徴のある者を仲間はずれにしたり、馬鹿にしたりする事です。」


 出来るだけ意味を伝わないようにシロは伝えたおかげか、幼い僕は本当の差別については知らないで済んだようだ。幼い子供にそんな実態を背負われるのは厳しい。僕もシロと同じようにするだろう。改めて僕はシロの優しさを感じるのであった。


「じゃあ、僕はその村でシロと住む!」


 心配が無いと分かった幼い僕は、シロにそう言った。


「ありがとうございます、アデル。」


 シロは苦笑した。……そして、その意味を幼い僕も今の僕も知らなかった。その村に住むことは、幼い僕にとっても、今の僕にとっても、重要な転換点(ターニングポイント)となる。


 そうと知らない幼い僕は、シロに早く行こうと急かす。


「分かりました、では行きましょう。」


 僕達は獣道を歩く。獣道は細いが、シロは身体が細く、僕も幼いため身体は小さい。獣道を二人で通るのは造作なかった。


 だが、通っているのは獣道。要するに獣が通っているのである。当然、獣が出ても不思議はなかった。案の定、僕達の前の方でガサガサと草が揺れ動く音がした。


「アデル、止まって下さい。」


 素直に止まる。音はシロだけが聞こえるのではなく、僕の耳にもはっきりと聞き取れる。幼い僕も聞き取れたようだ。


「……何の音?」


「……分かりません。ですが、危険な獣の可能性もあるので、私が見てきます。シロはそこで待っていて下さい。何があったら大声で呼んでくださいね。」


 幼い僕は頷いた。少し膝が震えているのが見える。こんな暗い森で危険な獣が出ると言うのだ。常人であれば、恐怖するのは何ら不思議でない。


 その間にもシロは音のした場所へ徐々に近付いて行く。先程までと違い、シロは全く足音を立てずに歩いている。どうしても草や砂利などがあり、歩いていれば音が鳴るはずだ。どうやら【無音】の魔法を発動しているようだ。


 再び草を揺れ動く音がする。先程よりも大きな音。シロは咄嗟に身構えた。その選択は正解だったようだ、草むらから何かが飛び出し、シロにぶつかった。動きが速い。


「……一匹じゃない。」


 シロを目を瞑るとそう言った。今度は【周囲探査】の魔法を使ったようだ。


「二匹、三匹……合計十二匹。多い。アデル!こっちへ来て下さい!」


 シロはその中の一匹が、僕に迫っているのを感知したようだ。呼び掛けるが、咄嗟のことに身体が動かなかった。それを見計らったように獣が飛び掛ってくる。


「【防御】!!」


 シロは店で見せた詠唱短縮を使う。改めて聞いても、この魔法発動術は初めて見る。現代では失われたものなのかもしれない。もしくは現代では魔族のみが保有するのか。


 発動された【防御】の魔法は、寸前で僕の前に現れた。飛び掛ってきた獣は気付いたのか、避けようとするがもう遅い。【防御】とぶつかり、地面に転がった。気絶したようだ。


「今のうちにアデル、来て下さい!」


 この隙にシロは僕を引き寄せた。


「……火は火事になりかねませんね、風にしましょうか。」


 そう呟くとシロは再び無詠唱魔法を発動させる。これは【大鎌】だ。目に見える風が鎌状になり、敵を切り裂く魔法。的確にシロは獣を切り裂いていった。

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