59.声の正体
大変遅くなりました……!
次の投稿は予定通りです。
声は静かに止んだ。小さな僕も黙っていた。その脳内では何を考えていたのだろうか。僕は覚えていない。だが、次の瞬間には小さな僕は言葉を発していた。
「────じゃあ、あなたは誰?」
そして小さな僕は顔を上げる。今まで顔を見ていなかったが、漸く顔を見たのだ。やがて僕の視線が声を発していた者の顔で止まると驚愕にすることになった。
僕の目の前にいて、長い間話していたのは魔族であったからだ。現代でも過去でも人間は魔族とは共存できない。では、ここはどこなのだろうか。街では魔族は暮らせないだろう。すぐに見つかって、殺されるのがオチだ。
「……私は、魔種です。先ほど話していた、〈原初文明〉で生きていた僅かな魔種の生き残りです。私達の祖先は、大陸の東方地域に〈ウイルダル〉という国を建国したのです。他の四種族も殆どが長い戦争によって数を減らしていた為、小さな国家でしたが、滅ぶことはありませんでした。」
ここで魔族────いや、魔種は一拍置いた。僕は必死に理解しようとしている事だろう。恐らく理解はしていない。だが、そんな事はお構い無しに魔種は話を続けた。
「そしてこの国は、魔種と対抗して科学を生み出した人間種。その生き残りによって建国された国である〈ラメントス〉。アデルは私を見ても何とも思わないでしょうが、この国に住む人々は私達、魔種が憎くて仕方が無いのですよ。」
「……そんな事ないよ!魔種だって人間種だって同じ神様によって創造された仲間じゃないか!」
言っている事は正論だろう。だがあくまでも子供が言った戯言に過ぎない。現実はそれを良しとはしていない。今でも人間種と魔族は互いに恨みあっているのだ。正論を振りかざした所で何も変わらないのだ。
「……アデルは優しいですね。」
魔種は目を細めて僕に向かって微笑んだ。その微笑む顔には沢山の感情が渦巻いているのが分かった。
「あなたはどうするの……?」
どうやら僕の疑問は別の方向に向かったようだ。その疑問が何を意味するのかは、まだ分からない。もう少し聞いてみよう。
「……すみません。私は魔種。この国にもう居場所は無いのです。国の長も勘づいているようです。明日にでもこの家に押し寄せるでしょう。その時、私がいればアデルにまで迷惑を掛けてしまいます。」
「嫌だ!僕には……僕にはあなたしかいないんだ!」
僕は左右を見回す。家の中からは物音一つ聞こえない。聞こえるのは僕と魔種の会話だけ。どうやらこの家に住むのは二人だけのようだ。何故、覚えていないのかが不思議だが、まだまだ話は続くようだ。何か分かるかもしれない。
「アデル……あなたは小さい。まだ世間では生きられないでしょう。私がここから逃げた後は、とある人に世話を任せています。その人を頼って下さい。私が逃げた後に迎えに来てくれる筈です。」
僕は泣いていた。啜り泣きだったのが今では大声で泣いている。それだけこの魔種と離れるのが嫌だったのだろう。そんなに強い記憶が思い出せないのは、何故なのだろうか。
そう僕が考えている時だった。玄関の方で物音がした。魔種は話していたが、その音に気付いた。僕も玄関の方を見た。耳を澄ませていると、その物音は二度、三度と徐々に回数を増していった。
「……私が見に行ってきます。アデルはここにいて下さい。」
「うん……。」
魔種は椅子から立ち上がると、静かにその場を後にした。僕は戻ってくるのを心配そうに待つ。だが、いつまで立っても戻ってくる気配は無い。
「何処に行ったの……。」
僕はベッドから降りて靴を履くと、玄関の方へ言った。物音一つしない。静まり返っている。
「おーい……」
僕は呼び掛けたが、返事が返ってくることは無かった。そのまま玄関についたが、そこには誰もいなかった。当然、魔種も。外に出たのだろうか、と思ったのか僕は扉を開ける。まだ外の様子を見ていなかった僕は、扉の外をじっくりと見る事になる。
扉の外は雪が降っていた。街が遠くに見える。少し離れた所に住んでいるらしい。雪は積もっているがそこに足跡は無い。魔種は飛ばない。正確には飛べない、だが。当然、外に出たのであれば足跡があるべきだ。
「……どこ?」
僕は再び家に入った。そこから家中を探した。しかし、その何処にもいない。最後に寝室に戻ると────いた。但し、窓から出ようとする所だった。
「何しているの!?」
「……見つかってしまいましたね。ですが、アデルに止められようとも私はもう去ります。遠くから兵達の声も聞こえてきましたからね。」
それは本当だった。遠くから兵達の声が聞こえる。沢山の声が聞こえる事から、大勢で来ているらしい。魔種の言った通りだった。勘づかれていたのだ。
「……うん、分かった。逃げて良いよ。」
「ありがとうございます。では────」
「でも、僕も連れて行って。」
その時の僕の顔はどうなっていただろうか。恐らく、顔は泣いていて赤かっただろう。だが、僕は諦めていなかった筈だ。少しの間、僕と魔種は互いを見やった。先に折れたのは魔種だった。
「……分かりました。アデルも連れて行きます。ですが、危険ですよ。」
「知ってるよ。今までもそうだったじゃないか。」
「……えぇ、そうでしたね。」
魔種は過去を懐かしむように言った。過去にも何かあったのだろうか。更に疑問は増えるのだった。
「では、行きましょう。アデル、私の背中に乗って下さい。」
素直に僕は魔種の背中に乗る。魔種は僕の足を掴み、窓から飛び降りた。二階だったが音一つ立てず、着地した。
「凄い……」
「静かに。追っ手が来ます。」
すぐ後ろには兵達が迫っていた。もう見つかっていたのだ。魔種は駆け出す。背中に僕を乗せて。ここから僕達は逃亡生活を始めるのであった。




