55.国家転覆 IV
王宮で最も高さがある場所。構造が複雑でどこもあまり高さが変わらないように見えるが、街が一望できる場所があった。
それは王の住まう部屋のベランダであった。街が一望できるのだ。それも絶景である。流石に王都の外までは見えないが、人で賑わう王都だけでも絶景である。いつかはこのような所に住んでみたいものだ。夢の話だが。
僕達はベランダに立つと、ミシェルと連絡を取った。勿論、念話だ。ミシェルも準備をしていたのか、すぐに繋がった。
『意外と呆気なかったですね。』
『王宮に入るまでが大変だったよ……?』
『王宮に入ってからは否定しないんですね……。』
『まあね。』
ミシェルとは相変わらずのペースで話す。これぐらいの距離が一番落ち着くのだ。関わり過ぎず、離れ過ぎず。ルカはどちらかと言えば、関わり過ぎている気もするが、許容範囲である。
恐らく映像で見ているとは思うが、詳しい内容を念話で伝えた。伝え終わるとミシェルは少し考え込む素振りを見せたが、すぐに返事をした。
『……流石ですね、アデルさん。』
何度も聞いた事のあるその言葉。嬉しいけど僕は別の言葉が欲しかった。我儘だと知っているけど、一言だけ言って欲しかった。
『アデルさん、お疲れ様、です。』
「……ありがとう。」
ミシェルは僕の心を読んでくれるのかもしれない。僕は労って欲しかった。自分のした行動が正しいかどうかは知らない。だけどそれをたった一言で良かっのだ。他の何もいらない。ただ……ただ、労って欲しかった。
労ってもらったのは嬉しいのだが、現実はそれほど甘くない。僕達がしている事は『国家転覆』。まだ終わっていないのだ。
国民は全てを知る必要がある。実際はこんな事をする義務も無いが、余興のようなものだ。王がどのような人物であるが、知った方が面白いだろう、と思ったぐらいで。
「流石。アデルは酷い。」
とルカとレーナから代わる代わる言われた僕の気持ちはズタズタだ。それでも僕は実行する。だって……面白いから。
最近、色々と適当になっている気もするが、まあ旅人から良いよね。じゃあ、始めようかな。
「…………」
僕が今から行うのは、決して既存の魔法で実行できる事柄では無い。魔法の詠唱が存在しないのだ。これは魔法としてまだ存在していない。今から魔法を作るのだ。
魔法を作る、という行為はあまり難しい事ではない。方法を知っていて、魔法が使えるものであれば、誰でも作れるからだ。僕が今から作るのは光を使った魔法だ。
「砂を加工して硝子に……さらに加工して……こうだ。」
僕が今作ったのはこの世界では普及しているもの。それを魔法で作成したのだ。その正体は鏡。硝子が様々な過程を経て、鏡になるのだ。魔法であれば、細かい過程を魔法現象で代用することが出来る。
完成した鏡を持って、僕は事象を想像する。僕が想像するのは、この鏡に映像を投射する魔法だ。何度か挑戦してようやく成功した。これであれが出来る。
『何をするつもりなの?』
ルカが聞いてきた。僕は隠さずに教える。
「巨大な鏡を幾つも作って、この世界に配置するんだ。そして、映像を流す。流す映像は既に録画していたものでね。」
僕達は戦いの様子を、王都近辺での戦闘を含め、全てを録画している。【保存】という魔法だ。
「それで……アデルはどうするの?」
今度はレーナが尋ねてきた。レーナが尋ねたのは恐らくこの鏡を使って何をしたいか、では無い。その先の話についてだろう。録画していた映像を流して、僕が何を目指しているのかを聞きたいのではないか。
「まだ決めてないよ。多分、成り行きに任せると思う。」
僕は戦いの前後で変化しなかった、王都の風景を見て答えた。王都は美しい。だけど、それもこの愚王が作り出した景色だ。少しは感謝しないといけないのかもしれない。
『じゃあ、私はアデルに見守る事にする。』
ルカは言った。あくまでも僕のしたいようにさせてくれるらしい。恐らくそれが正解かどうかは、ルカにも分からないのだろう。物語で生きる者は、物語の結末は誰も知らない。僕も人生という物語に生きる一人だから。
「……わ、私も。」
それにレーナも乗っかったようだ。僕は軽く微笑む。レーナはからかわれたと思ったのか、少し頬を膨らませる。僕はレーナの判断を疎かにするつもりは無いんだけどな。それを言い出せる勇気は僕には無かった。
◇ ◇ ◇
「ああ、愉快だ、愉快。なんて面白いんだ!」
この場所を知るものはごく僅か。恐らくこの世界で最も長寿な生物もここの事は知らないだろう。ここは一つ前の文明の遺跡。前の文明は約数万年前。どんなに長寿な種族も数万という歳月は生きられない。それが生物の運命だ。
「君はどう思うんだい、〈#13〉────いや、今の名前は逆転者だったね。」
「どうだろうねー?面白いかもー?でも少し物足りないー?」
「君もそう思うかい。私も同じだよ。じゃあ、やり直そう。────【時代は再び繰り返される】。」
少年の様な背丈の魔物は立ち上がり、詠唱した。
────『唱えるはこの世界の魔法に非ず。異なる世界の魔法なり。』
これは古くより語り継がれた言葉である。誰がいつこの言葉を言ったのかは定かでは無い。だが、細々と語り継がれている。今この瞬間を見た者が遺した言葉かもしれない。違うのかもしれない。その真偽は誰にも分からない。
ここでまた章が完結です。
次は五章。まずは話の続きからですね。
閑話も書きたいですねー……。




