54.国家転覆 Ⅲ
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『……アデルが怖い。』
ルカがそう言った。レーナも同意というように何回も頷く。
「……そうかな?」
言われた本人であるアデルは自覚していないようだった。確かにルカが言うようにアデルの周囲には、強烈な負のオーラが漂っていたのだ。見間違えるはずも無かった。嫌でもそのオーラを感じてしまうのだ。すれ違う全員が二度見していくこと間違い無しである。
「そんなオーラ出してたら敵に気付かれるよ?」
レーナがアデルに注意する。確かにこのオーラを放っていればアデルがどんな魔法で隠れたとしても見つかってしまうだろう。アデルを囮にするのであれば別であるが。
「分かったよ。」
アデルはそして考える。了承したのは良いが、自覚していないオーラをどうやって引っ込めるのか全く分からない。これまでもそのような事は一度も起こっていない。前例が無いものを解決するのは無謀に近いのではないか。
そう考えている内にも徐々に王がいる場所に近づいて行く。残り時間もあと僅かだ。流石に突入する前に気付かれてしまっては意味が無い。思考をフル回転する。
アデルの負のオーラが消えるのを待っているルカとレーナは少しずつオーラが消えていくのを感じた。
『アデル!消えかけてる!』
「本当に?」
いや、嘘をつく筈もないが、信じられずにそう言い返してしまった。別に何かをした訳でも無い。であるのに消え掛けているのはどういう事なのだろうか。次は違う苦悩に悩まされる。
少し考えてアデルは思い付いた。
「思考だ!」
「『……思考?』」
ルカとレーナが声を被せる。その通り、思考なのである。先程負のオーラが強かった時はアデルが王に対する強い怒りを持っていた時だ。逆に弱ったのは他の事を考えていた時。要するに負のオーラを弱めようと思っていた時だ。恐らく思考に影響されるのだろう。
アデルはそれを二人に説明した。二人も合点がいったようで何か呟いていた。勿論、ルカは念話でだが。
「どうしてこの瞬間に負のオーラが出るようになったのかな?」
レーナの疑問も最もだ。僕は別に感情を顕にしない性格では無い。感情を全面的に押し出す時もあるのだ。だが、今までに一度も同じ事を指摘されたことは無い。やはり今初めてなのだ。何が理由なのだろうか。
次から次へと溢れ出てくる疑問。脳内は混乱状態になっていた。そして一同は遂に辿り着くのだった。僕は案内させた兵士の魔法を解除する。兵士は床に倒れた。死んではいない。ここにいれば大丈夫だろう。
一応、魔力反応を確認するが、やはり逆転者はいないようだ。既に見限ったのか。それともまだなのか。まあ、それがどちらであったとしても、この状況が簡単に覆されるものでないことに変わりはない。僕達は進むだけだ。
僕達は扉を開く。開くと同時に強烈な暴風が僕達を襲った。……あいつだ。翡翠の竜……翠竜。いつも僕達の前に現れる。だが、今度は違う。決定的な差があるのだ。この差はこの場で圧倒的な決着を作り出す。出来るだけ多くを巻き込んで。
但し、意気込むのは良いが失敗するのは、最も駄目なことである。意気込み失敗する例は決して少なくない。
だが、その少なくない確率に当てはまるようでは、この世界では生きていけない。常に『生きる』や『勝つ』といった、幾重もの選択肢の中からたった一つの選択肢を選び抜くのだ。
その確率は決して高くない。あらゆる選択肢の中のたった一つなのだから。それを当てられるのだ。今、当てられない筈がない。絶対の自信があった。今なら出来ると。そんな僕の背をルカとレーナ、そしてミシェルが押してくれる。
勝手な妄想だとしても、暴挙だとしても、屁理屈だとしても、自分は自分なのだから。限度も守れば、何をしたっていいじゃないか。────人は自由なんだ。
さあ、それを証明して見せよう。魔法という無限大の力を手に入れた人の力で、この竜を倒して見せよう。これが────人だ。
僕は魔法を発動する簡素な祝詞を詠う。
翠竜は僕達を倒そうとこちらへ向かってくる。王家の人々はそれを見て、僕達を嘲笑する。恥ずべき王家だ。さすらいの身ではあるが、この国にいる一人として反乱を勃発させる。
翠竜は口を開き、咆哮を放とうとしたが、途中で動きを止めた。恐らく僕が発動させようとしている魔法の兆候を感じ取ったのだろう。だが遅い。今から魔法の解除は出来ない。
「……爆ぜろ、翠竜。【原子爆発】、起動。」
その後は一瞬の出来事であった。まず、僕の発動した魔法は竜が体内で発動させた【防御】の魔法で、威力が多少緩和されたが、それでも竜体は消し飛ぶほどの威力はまだ残っていた。
翠竜は完全にこの世から姿を消した。更には周囲を巻き込み、大惨事となった。そこにいるのは戦えるものでは無い。相手が戦おうとしない限り、こちらから手を出すことは無い。既に相手は戦意喪失していた。
先程までの嘲笑も忘れ去られたかのように、今は静まり返っている。恐らく王家の人々はこちらが何をするのか、怖くてたまらないのだろう。僕はそちらを見向きもせずに翠竜の残骸を回収した。これは大切な素材となる。売るにせよ、使うにせよ、至高の素材である事に間違いない。
そして、僕達は王家の人々をその場に残したまま出ていった。次にしなければならない事があるのだ。
僕達が目指した先は王宮で最も高い場所であった。




