45.翠竜 vs アデル Ⅱ
18/05/09:後半部分が反映されていなかったようなので、変更しました。すみません。
翠竜の鉤爪が僕の先程いた位置を切り裂く。一瞬でも遅れていれば、僕の体はズタズタに引き裂かれていただろう。爪一つとっても強い、としか言い表せない存在。これが翠竜なのだ。油断をすることは即ち死を意味する、と言っても全く過言ではない。
「【重力】を強めて!!」
僕はレーナとルカに【重力】の強化を頼む。翠竜の行動を遅くさせるためだ。さらに重力が強い場合は、そちらにエネルギーを消費し、戦闘の方に力が入らない。力の拡散を狙った行動だ。
二人は僕の頼み通りに【重力】の魔方陣を重ね書きして、威力を強めた。通常であれば、魔方陣を書き換える。しかし、この戦闘時に少しでも翠竜に自由を与えれば、何をしでかすか分からない。魔方陣を書き換えずに威力を底上げするには書き足すしかない。
「グワァァァッッッ!!」
翠竜は地面に引き付けられる。必死に抵抗するが、最早戦いどころではない。僕は次の隙を見つけた瞬間に【花鳥風月】を放つつもりだった。最悪、王都の外壁に当たっても何とかするだろう。翠竜の事で王を締め上げれば良い。金でも何でも払わせよう。
つまらない狸の皮算用しているが、今は戦闘をしている。そちらに集中しよう。翠竜は苦しげな声を上げつつも飛び続けている。その精神力と忍耐力には驚くばかりだ。これが聖竜たる所以なのだろう。
そう考えつつも僕は翠竜に【花鳥風月】を放つ隙を見落とすことは無かった。
「────今だっ!」
僕は既に発動していた跳躍力を強化する魔法で一気に飛び上がる。翠竜の攻撃を掻い潜り、懐へ。僕はその無防備な懐へ触れた。
途端、触れた箇所から光が溢れる。次の瞬間には巨大な光線となり、翠竜の体を貫いた。貫いた光線は勿論、王都の外壁を破壊した。それでも騎士団、国家魔術師団が来るのにはまだ時間が掛かるだろう。
少し遠くに離れ、次なる攻撃の準備を始める。これで翠竜が終わる筈がない。動き出した時にどう対処するかが大切だ。未だに翠竜の攻撃は把握出来ていない。把握出来たのは鉤爪による攻撃のみだ。竜魔法を使っている気配も無い。
溢れていた光の粒子は徐々に消え去り、隠していた翠竜が再び姿を現した。その姿はまさに満身創痍の状態であった。次の一撃を決めれば、勝てるだろう。僕は最後まで容赦しない。次も絶対魔法を発動して倒す。詠唱を開始する。
「【優雅な自然の景物よ、優美な自然の風景よ、美しき自然を我が手に宿し、狂い無き一手を与えん】」
その詠唱が最後まで言い切ることは無かった。魔法の発動を妨害されたのだ。目の前の翠竜が魔法を使った兆候は無かった。そして背後から使用されている。この魔法はレーナでもルカでも無い────ということは。
「レーナ、ルカ!背後の村人をどうにか無力化してくれっ!!」
何故かその村人達は僕達に襲い掛かった。今先程、僕の魔法発動を妨害したのは〈魔石〉を持っている村人だろう。既に国が干渉していたようだ。どこからか情報が漏れていたらしい。ミシェルの部下からの情報漏洩か、もしくは他の情報収集機関か……。
ミシェルの部下は恐らく無いだろう。あくまで主観ではあるが、ミシェルの部下達であれば、履歴を全て暴かれた上での雇用であろう。隠し事もすぐにバレるはずだ。だからいないのだ。
という事は他の情報収集機関であろう。国の専門の部隊の可能性も無きにしも非ず。どちらかと言えばそちらの可能性の方が高いだろう。
僕は突然放たれた魔法を切っ掛けとして次々と放たれる魔法を掻い潜る。これでは絶対魔法を発動できない。さらに魔力が足りないという可能性も浮上してきた。
魔法を発動しなくとも、魔法を発動する過程で魔力を消費する。【花鳥風月】ともなれば、魔法発動の過程であっても膨大な魔力を消費する。これで【花鳥風月】を残り二回使用することを考えれば、至高魔法一回分ほどしか残っていない事になる。
これでは僕がいちいち村人を無力化をしていけば当然魔力が残らない。その為に二人に頼むことにした。背後の様子を伺うと、レーナとルカが魔法を発動して、次々と村人を気絶させていた。村人も貴重な〈魔石〉を容赦なく使用して、二人に襲い掛かっている。
それに比べてレーナやルカは、相手を傷つけないようにするため、普段よりも動きが鈍っているようだ。不意打ちを喰らわなければ良いのだが……。
しかし二人が村人と僕との間に立ちはだかったことにより、僕には魔法が当たらなくなった。再び【花鳥風月】を発動させようと、詠唱を始める。
「……【優雅な────」
再び魔法詠唱を妨害された。今度の妨害は背後からでは無かった。翠竜を避けるようにして、その背後から放たれたものだ。僕はそちらを見たが、誰もいなかった。どこかに隠れているのかもしれない。この一帯は背が高い草が生い茂っているため、村人が隠れていれば気付かれないのだ。
僕は叫ぶ。
「草に紛れていると燃やすぞ!!!」
俗に言う脅迫だ。僕は掌に【火玉】を浮かべる。これが草に触れれば、一帯は火に包まれることになるだろう。そうすれば水魔法を使用出来ない、村人は全員抵抗することも出来ずに、燃えてしまうだろう。果たして出てくれるのか。
僕は口に溜まった唾を飲み込む。そして村人達が草から出てくるのを待った。




