44.翠竜 vs アデル I
今日は遅れずに投稿できました。
「大変!!」
レーナが慌てて、アデルの元へ駆け寄る。ルカも聞こえたようでテントから出てきた。レーナは空を指さす。その可能性を考えていなかった訳では無い。しかし、実際にそうなるとは……。
僕達の視線の先には一体の竜がいた。聖竜である竜種の一体。翠竜である。まだ村から遠いが、あと数分もしないうちに襲撃を始めるだろう。方角的に考えても明らかにこの村を襲う気だ。僕達も対策を始める。
「レーナはまずミシェルへ連絡して。」
「分かった。」
「ルカは調理器具の片付けを頼む。」
『うん。』
二人は言われた仕事をするために動き始めた。僕も動き始める。まずはテントの片付けだ。全て〈アイテムボックス〉に仕舞う。流石に野宿の道具を全て失うのは辛い。それは三十秒も掛からずに終了する。次はルカの片付けを手伝う。ルカの片付けた調理器具を全て僕の〈アイテムボックス〉に収納。完了した。
「ミシェルに報告した。」
「ありがとう。ミシェルは何か言った?」
「気を付けて下さい、って言った。」
「ミシェルらしいな……。」
あくまでも助けるつもりはないと。上等だ。受けて立とうじゃないか。僕は更なる指示を二人に与える事にする。
「僕は翠竜を一応倒せるだけの魔法を発動させるつもりだ。二人にはその魔法の補助をしてもらいたい。」
「具体的には何を?」
「翠竜をギリギリまで引きつける必要がある。村に被害が及ばない位置に【重力】の魔方陣を描いてくれ。」
翠竜が村に到着する迄の推定時間は残り五分。書けるだろう。魔方陣は魔法発動時に出現するものだが、それを人為的に描く事で魔法発動の途中過程を省けるのだ。
「魔方陣の発動には魔力が足りない。」
「この〈魔石〉を使ってくれ。」
魔力を込めた〈魔石〉。ある意味では魔道具の一種とも言えるだろう。これには僕の魔力を込めたため、これで足りるだろう。ルカとレーナは翠竜が必ず通る地点に魔方陣を描きに行った。
僕に出来ること。考えてみたが無い。後は竜を倒すことのみを考えれば良い。村人を避難させることも考えたが、それには時間が無い。さらに村人が逃げていれば、絶好の的になってしまうため、仕方なく諦めた。僕達が以上、守るぐらいでもしよう。
残りは三分。そろそろレーナとミシェルの魔方陣も描き終わっただろう。僕は非常事態であるにも関わらず、のんびりとしていた。これは心を落ち着かせるという意味合いを持たせているが、まあサボタージュだ。ルカとレーナに仕事をさせて、自分はしない。後で二人には何か感謝を示すことをしておこう。旅仲間が恨み辛みは嫌だからね。
『終わったよ、アデル。』
「ありがとう。じゃあ頼むよ!」
僕は二人が魔方陣を描いたと分かると、走り始める。僕が魔方陣の近くにいかなくては意味が無い。村を大きく迂回するように走る。流石に村の近くで男が走っていれば見つかってしまう。その点、レーナとルカは身長が低めであるため、走っていても気付かれないと考えたのだ。まあ、後付けである。
どうやら村人には見つかっていないようだ。安堵する。しかし、同時に村人達は全く翠竜に気付いていないようだ。村にチラホラと話している人の姿が見えた。叫ぶ訳にもいかず、悔しい思いをする。兎に角、今は翠竜の事だけを考えよう。
『三、二、一。アデル、来たよ!!』
ルカが連絡する。僕は自分の魔力を感じた。恐らくレーナとルカが魔石を使用したのだろう。【重力】が発動できると良いが。
翠竜からは数百メートル離れているが、ここまで竜の鳴き声が聞こえる。しかし、村人は全く焦った様子を見せない。何かがおかしい。だが、それを調べる時間は無い。僕は二人からの連絡を待つ。
すると、遠目であるが翠竜の高度が下がった気がした。いや、下がっている。【重力】の魔法が無事に発動できたようだ。翠竜は徐々に高度を落としている。僕は魔法詠唱の準備を始めた。
「……【優雅な自然の景物よ、優美な自然の風景よ、美しき自然を我が手に宿し、狂い無き一手を与えん】【花鳥風月】」
既に何回も使った魔法だ。絶対魔法。それを右手に発動する。これで翠竜に当たれば、再起不能の状態に陥れられる。翠竜が竜魔法を発動した時のためにもう一度、発動できるだけの魔力を残している。
六年前の意識を失った際に〈能力封印プログラム〉が発動した。その時に解除されていた第一極限の能力の一部が再封印されてしまった。今は第一極限の半分ほどの魔力と能力になっている。記憶は封印されていない。魔力量も落ちたが、それでも絶対魔法は余裕で二回使用できる。無理をすれば三回だ。
僕は立ち上がり、先程よりも速度を上げて翠竜の元へ駆ける。距離は残り二百メートル。翠竜はこちらに気付かず、苦しみの声を上げている。これなら────いける!
残りの二百メートルを三歩で縮めた。既に発動していた身体強化系の魔法のお陰だ。代わりに【花鳥風月】が三回発動出来なくなった。
レーナとルカの二人は僕に気付いたようだ。僕と翠竜を見比べる。そして、魔石をもう一つ使用する。さらに【重力】を強めたのだろう。翠竜は苦しみの声を上げつつ、高度を下げている。数十メートルという所まで落ちている。やはり身体は大きい。竜種で強い方から数えた方が断然早いのは、伊達では無いのだ────今だ。
僕は飛び上がる。だが、同時に翠竜が僕に気付く。僕は慌てて自分の体を捻る。翠竜が攻撃する体勢に入ったからだ。魔法でないが、人間の身体で竜の攻撃が当たれば、当然危険である。僕はここで翠竜と面と向かって戦うことになったのだった。




