36.旅人達の噂話
本日二回目投稿です。
GWの期間は一日二回を目指したいです。
僕達は酒場の主人に話を聞いて二人で話しあうと、他の旅人にも話を聞いてみようということになった。あまり人の多くない席に移り、話し掛けやすい旅人を選ぶ。
「少しいいですか?」
その中の一人に僕は話しかけた。その旅人は僕達が近付いていることに気付いていたようですぐに「いいですよ。」と席を空けてくれた。
「すみません。」
僕とルカは有り難く席に座らせてもらう。一拍置いて僕は旅人に問い掛ける。
「話を伺いたいのですが、今、王都で何かおかしなことはありませんか?」
「……どうしてですか?」
訝しげな表情をつくる旅人。それはそうだろう。これでは王都に何かがあるという前提で質問をしていることになる。
「あ、いえ、他の方に王都の辺りで翡翠のような竜が暴れている、という話を聞いたもので。」
そう言うと旅人は納得したようだった。どうやらこの旅人も翠竜の事は知っているらしい。それほど暴れているのだろうか。
「そういうことですか。確かにあいつは危険ですから。」
「……あいつ、ですか?」
実際に見た事があるのだろうか。さらに問い詰めてみる。
「ええ、その竜が実際に村を襲っている様子を見たことがあります。」
「大丈夫でしたか!?」
すると旅人は首を振る。どうやら遠くから見ていたらしい。だが、村は全壊したようだ。勿論、そこに住む人々は……。
「やはり王都は襲っていないのですか?」
「……はい。全く襲っていませんね。私も他の旅人から聞いた話によると、王に近いものが翡翠の竜を操っている、と。」
「それは確信があるのですか?」
すると旅人は僕達に聞こえるぐらいの小さな声で言った。
「……はい、そのようです。」
周りの気色を伺うが、どうやら聞いていた者はいないようだ。不敬罪になる可能性があるために聞かれるのは不味い。ここだけの話ということにしておこう。旅人にもそう言っておく。
「分かりました。ですが、これはあくまで噂なので信用しない方が良いと思います。」
後付けのように旅人は言う。恐らく方便だ。事実なのだろう。とても有益な情報であった。旅人に別れを告げて、僕達は酒場を出る。宿場町の小さな市場を通りながら、僕はルカと話す。ここで僕だけが喋っているのもおかしいので、互いに念話である。
『……王都に行く必要がありそうだね。』
『うん、そうだね。そして王に接触する必要があるみたい。』
王に近い者だということは、王もその件に関わっている可能性が高い。王に真実を突きつけるのではなく、王と関わりを持った上で情報を探った方が真実に辿り着けるだろう。互いに利用するだけだ。旅人としてのある程度の情報を掴ませて、見返りとしてその情報を貰おう。上手く事が運べば、翠竜の討伐の任を与えてもらう。それを大義名分にして、本当に討伐する。
今までの討伐軍は全て世間体を保つための代物であっただろう。王の命令により討伐をする、などを言えば、王の面目も保てる。さらに討伐もできる。恐らく王は討伐できないと考えて許可するのではないだろうか。
大分、案を練ってきたが、最悪の想定も必要である。まず魔法を使えることは隠しておこう。そうすれば、投獄されても魔法を使って脱する事が出来る。魔道具を見せつければ、魔法の存在を隠しつつ、そちらに注意を引きつける事が出来る。見せつける魔道具には取り返す時のために魔法を付与させておけば良い。その他の事はまたおいおい考えるとしよう。今日は宿に戻るとしよう。
そのまま市場を通って宿に戻った。相変わらず、教育のなされた宿の者達の技術に感動させられる。明日はもう少し情報を収集することにしよう。明日の結果次第でいつここを出るか決める。
その次の日も酒場に行き、様々な旅人から情報収集をした。人それぞれの考え方や捉え方によって、少しずつ内容が違ったが、大まかな事は昨日聞いたことと大差なかった。収穫量としては寂しい結果となってしまったが、逆に考えればそれぐらいだと言うことだ。
翠竜を操っている者が国家転覆や別の国を襲うなどはしていない。流石に他国にまで、翠竜を追いかけるのは大変である。程々にしてほしいものだ。
『ルカ、もう次の街に行こうか。』
情報は収集できたため、この街に滞在する理由は無くなった。そろそろ宿を出るとしよう。
日が暮れる前に宿を出た。もう一泊すれば良かったかと思ったが、出来るだけ早く王都に着きたいので、進めるだけ進みたいのだ。その為には野宿も厭わない。
その頃、二人が去った宿場町で一人の男が酒場を訪れた。
「いらっしゃい。」
その男は店の主人の近くに座った。しかし、全く注文をしない。訝しげに主人は男に問い掛ける。
「注文はしないのか?」
「あぁ、俺はお前に一つ聞きたい事があるだけだ。若い男と女を知らないか?指輪を着けていて、女は話さない。」
「すまないが、情報には金が必要だぞ。」
店の主人は当たり前のように言った。旅人はそれが普通なのだ。この男にも同じ事を求めた。しかし、男は金を払わなかった。逆に店の主人は胸倉を掴まれて、背後の酒を置いている棚に押し付けられた。
「さっさと吐け。じゃないと殺すぞ。」
男の「殺す」という言葉には何人もの人を殺してきたのだろう。明らかに目付きが違った。店の主人は怖気ついて、震える声で言った。
「……し、知っています!そいつらはここに来ました!」
「で?……どこだ、そいつらは。」
「もう、この街から去りました!」
「そうか。」
男は手を離した。店の主人は地面に落ちる。恐怖のあまりに呆然としていた。その様子には目もくれず、男は酒場を去った。飲んでいた旅人達もそのようすを見ていたが、男が去ろうとすると、一斉に目を背けた。あの怒りが自分に降りかかるのを恐れたのだ。
男が去った後も酒場は静かなままだった。




