32.目覚め
一気に六年もとびますよー。
ここからは第四章のスタートです。
夢を見た。あの日の思い出。その日の思い出。走馬灯の様に流れてゆく。あれは何だったのだろう。そう思い返す。一番強烈な夢は……はっきりと思い出せない。何か強い衝撃を浴びて、強い光に包まれて……。やっぱり思い出せない。記憶に蓋をされたような感じがする。
誰かの背中を見て、僕は叫ぶ。僕は引き止めた。何度も何度も祈るように……。彼女はこちらを振り返る。そして微笑んだ。暫くしてその顔は悲しそうな顔に変化する。彼女は何かを囁いた。その言葉はこちらまで聞こえてこない。
思い出せない。彼女が誰なのか。思い出したい……。しかし、何かがその記憶に蓋をする。僕は求め続ける。その一片の記憶を。
『……さん。』
誰かが僕を呼ぶ。何だろう。まだここから離れたくない。呼ばないでくれ……。
『……ルさん。』
僕の名前……?はっきりとは聞き取れないけど、何故か脳に声が響く。直接脳内に語り掛けられているような……。
『アデルさん。』
「ん……?」
『……アデルさんっ!』
僕は体を動かそうとする。しかし思うように動かなかった。身体中に力が入らない。
「ルカ……?」
『そうですよ。』
目をうっすらと開いた。そこには見覚えはあるが、少し雰囲気の変わったルカの姿があった。ルカは優しく微笑んでいる。あの夢のように……。
「あれ……?どうしてルカは念話をしているの?」
『……』
「ミシェルもいない。どうしたの?」
ルカは苦しげな表情を出す。アデルには辛い現実を突きつけることになるだろう。但し、言わないという選択肢は最初から無いのだ。結局は話す事になる。そうであれば、自分で話そう。そうルカは決めたのだ。覚悟を決めて話し始める。
『あのね……アデル。』
「う……うん。」
明らかに変化した空気にアデルは一瞬戸惑うが、すぐに真面目な表情になる。ルカが何かを決心して、アデルに話そうとする、気持ちが伝わったのかもしれない。
『今はアデルが意識を失ってから、六年の月日が経ったんだよ。』
「……六年?」
アデルは呆然とした。意識を失っていれば、目覚めた時にはあまり変化がないようにも見える。但し、月日は流れるのだ。アデルは六年という月日を寝て過ごしたのだ。だからこそ、身体の筋肉も衰えた。
「それで……?ルカの念話やミシェルは……?」
『アデルが意識を失った後に色んな事があったんだよ……』
そこからルカは様々な事をアデルに話した。聖竜の一体である翠竜がアデルの魔力量を吸収して、復活した事。魔物騒動が発生して、命懸けで戦った事。ミシェルが水の女神に認められ、祝福を得た事。ミシェルと別れ、自分達はここに住んでいる事。各地で翠竜による、様々な事件が起こった事。それを解決しようと国が立ち上がったが、悉く撃ち破られた事。ルカが完全に言葉が発せなくなった事……
「……そうだったんだね。この六年間という長い期間に、ルカが言ったこと以外にも沢山の出来事があったと思う。ルカは人の姿で長期間過ごすことは疲れたと思う。二人に辛い思いをさせたと思う。本当にごめん。」
『私は大丈夫です。それよりもアデルさん。』
ルカはそこで一度言葉を切った。そして顔の筋肉を緩ませて、微笑む。沢山の出来事を乗り越えた事で嘗ての笑顔とは違う。静かなこの世界を愛する全ての始祖、竜神としての笑顔。全てを包み込むかのような……。
周囲は変わったのだ。変わっていないのは僕だけ。だけど、僕がそれに追いつくのを時間は待ってくれない。時は残酷だ。
それでも……様々な試練を乗り越えても……ルカだった。いつも僕を見ていた、あのルカだった。そのルカは僕に問い掛ける。
『アデル。旅をしませんか?』
「……喜んで。」
僕も微笑み返す。顔の筋肉も衰えているけど、無理をして微笑んだ。僕は僕。ルカはルカ。二人は違えど、目的は違えない。一つに向かって、何かを目指して、僕らは進み続ける────
「まずは……翠竜の討伐だ。」
微笑みは不敵な笑顔へと形を変える。ルカはそれに笑う。そして、ルカは立ち上がった。僕も立ち上がろうとしたが、力が入らずに立ち上がれなかった。ルカは『少し待ってて。』と伝える。僕は薄々気付いていたが、答えを言うなど不躾な事はしない。暫くして、ルカは戻って来た。
『どうぞ。』
ルカが渡したのは折り畳まれたマント〈琥竜ノ鎧〉とマントの上に置かれた指輪〈アイテムボックス〉とコンパス〈魔物探査〉だった。懐かしい感じはしないが、懐かしい代物なのだろう。僕はそれを身に付ける。
ルカも自分の分を取って身に着けた。アデルは魔法を使って身に着ける。魔法は不自由なく使えるようだ。第一極限も解放されている。
あの時と何ら変わりのない普段の格好だ。これで再び旅を始めよう。あの全ての根源である、聖竜の翠竜を倒す為に。たとえ、それがどんなに困難な道でも、再び別れが来ないようにルカだけが辛い思いをしないように。僕は変わろうと決めた。




