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始祖の竜神と平凡の僕。  作者: 秋色空
三章:遺跡編
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20.最奥の間

20話目です。まだまだ続きます。



 蒼き竜に押されるままに僕は最奥の間へと入った。入るまでは中は暗かったが、僕が入ると同時に光が灯る。条件発動の魔法が仕込まれているのだろう。


 最奥の間はあまり広くなかった。棚と机、魔方陣。そして地下への階段。生活していたような名残のある場所だった。地下への階段は恐らく地下牢に続くものだろう。僕は最初に牢へルカとミシェルを助けに行くことにした。


 階段は長く無かった。最奥の間のすぐ下に牢はあるようだ。急拵えによるものなのだからだろう。少しばかり雑な作り方になっている。雑と言っても魔法で作られているために魔法で破壊できない強固な牢ではあるが。


「アデル!」「アデルさん!」


 一つの牢にルカとミシェルはいた。やはり僕だけが〈女神の祝福者〉だったのか。ルカは神格化してる筈だけど。神格化と〈女神の祝福者〉は一致する訳では無いんだね。その辺の説明については聞いてなかったから分からない。兎に角、今は二人との再会を喜ぶとしよう。


「大丈夫だった?」


「はい、大丈夫でした。でもルカさんが……。」


「……魔法じゃ壊せなかった。」


 やはり魔法を試したのか。竜魔法を使ったんだろうな。でもこれは恐らく竜魔法とは違う系統の魔法。要するにこの世界の魔法(・・・・・・・)ではない(・・・・)


「ここは女神の遺跡みたいだからね。多分ここ(・・)とは違う魔法で出来ている。」


「……異世界ということですか?」


「ミシェルは知らないかもしれないけど、この世界には勇者を召喚する技術があるんだ。その技術で世界が危機に落ちいった時に勇者を別の世界から召喚してきたんだ。今はいないけどね。」


「そうなんですか……。」


 やはりミシェルは知らなかったようだ。人の世界とはあまり関わらずに暮らしている村で過ごしていたミシェルが知らないのは何ら不思議ではない。


 この世界で勇者という存在はあまり重要視されない。この世界にそれだけの危機が訪れていないのが大きな理由なのだが、他にも理由はある。勇者は国が隠したがるのだ。勇者を手元に置いておきたいという考えは分からなくもないが、それではあまり知名度が高くないのも仕方が無い事なのだ。


 だが、この世界では異世界という概念はあまり馴染みのないものだ、という感覚はあまり無い。この世界を創り出したのは竜神なのにそれとは違う女神がいる時点で異世界という概念が無いのは不都合なのだ。そして矛盾でもある。だから知っている者もいる。


「まあ、それは置いといて今開けるよ。」


「お願いします。」


 僕は鍵を探したが見つからなかったので、取り敢えず触れてみた。すると普通に開いた。恐らく〈女神の祝福者〉であれば、誰でも開けるのでは無いだろうか。もう一人〈女神の祝福者〉がいたら試してみたい。絶対にしてくれない気がするけど。


「どうぞ。」


 座っていた二人を立たせてあげる。相変わらずルカもミシェルも軽い。食べた物はどこに行っているんだろう。


「よし、二人とも出たね。閉めるよ。」


 もう一度、僕が入口に触れるとひとりでに閉まった。便利な魔法もあるものだ。そして二人を連れて最奥の間に戻る。


「ここが水の女神の遺跡の〈最奥の間〉だよ。僕もまだ何があるかは見ていないけど、これから一通り見ようと思う。」


「……分かった。」


 僕達は資料漁りを始めた。水の女神の遺跡と言うだけあって、やはり水の女神に関する神話や逸話が多い。中には過去の〈女神の祝福者〉が書き足したと思われる記述も多々あった。大切なのはそこでは無い。全てが古代言語だと言う事だ。


 僕の取り戻した記憶の中には、初代勇者が生きた古代の記憶もある。だから僕は古代言語を苦もなく読めるようになっていた。だけどルカとミシェルは全く読めない。残念だけど休憩してもらうことにした。疲れているだろうしね。


「……ふむふむ。興味深い考察だね。」


 僕なりの解釈によって古代の資料を読み漁っていると、ミシェルが話し掛けてきた。


「……アデルさん。」


「……ん?どうしたの?」


「多分三時間ぐらい過ぎてます。」


「……え?」


 どうやら僕は長いこと入り浸っていたらしい。時間の感覚を失っていたようだ。という事は二人を待たせてしまったな。一回、外に出よう。恐らく蒼き竜の言葉を信じるならば、再びここには来れるはずだ。出ても良い筈。


 資料を読み漁る中で僕はここから出る方法も見つけていた。部屋の隅にある魔方陣。これが外へ出る方法なのだ。転移の魔方陣のようだ。これもこの世界の魔法の系統とは違う。異世界のものだ。


「二人とも魔方陣に乗って。」


「分かりました。」


 そそくさと魔方陣に乗るミシェルとルカ。ルカは欠伸をしている。先程まで寝ていたようだ。後は外で寝てもらおう。本当にごめんなさい。


「……水の女神の泉。」


 どうすれば転移するのか分からないけど、取り敢えず転移したい先を行った。恐らくそこなら転移できると分かっていたから。僕達が見た次の光景は水の女神の泉だった。無事に戻ってこれたようだ。


「今日はこれぐらいにして、また明日に続きをしよう。」


 そうしてテントを立てて、僕達は自分達のテントに入り、寝るのであった。

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