17.水の女神の遺跡 Ⅲ
ゴーレムを倒して開いた道に僕は進んだ。道は途中で折れ曲がったりしているが、分岐路などは無い。どこまで続くのか分からない。【探索】が発動すれば良いが、やはり使えないようだ。そして魔物の反応もない。不思議な遺跡だな。
奥へと進むにつれて次第に明るくなっていた。松明などが置いてある訳では無い。何の魔法なんだろう。
あ、また曲がり角がある。殆ど外と同じ明るさになっている。曲がった所に光源がありそうだ。
僕がその曲がり角を曲がると、ゴーレムがいたあの広い空間と全く同じ空間になっていた。まさかとは思うけど……。
そのまさかであった。そこにはゴーレムや蜂ではないが、恐らく熊と狼と蜘蛛らしき生物が現れた。どれも当然蒼い。生物の特徴は見たの目の通りらしい。熊は二足歩行で、狼は素早く、蜘蛛は糸を出しながら動き回っている。まだ僕には気付いていないようだ。陽動を掛けてみるか。
「……【影を現せ】【シャドー】。」
僕は呟いて魔法を発動した。闇魔法が一つ【影】の魔法。影を人為的に表示する。魔方陣が展開するが、それは分からないだろう。人間相手には魔方陣で気付かれてしまうのだ。だからあまり役に立たない魔法だ。
暫く観察していると蒼い生物達は影に反応した。影の方を一斉に見たが、実体がないので探しているようだ。僕も時期に見つかるだろう。その前に一番手強そうな狼を倒しておく。
「……【押し潰せ、硬き壁よ】【ウォールプレス】。」
再び呟いた。土魔法が一つ【圧砕】の魔法。二方から魔鉱を加工した硬い魔鋼で押し潰す魔法。あまりオススメ出来ない魔法だが、便利である事は便利である。案の定、狼は潰れた。
狼が突然潰れた事でそちらを振り向いた熊と蜘蛛を、僕は同じ魔法で潰そうとした。熊は潰れたが、蜘蛛には逃げられてしまった。
だがそれだけで十分だ。一体になっただけ戦いやすい。蜘蛛はようやく僕を発見したようだ。こちらに駆け寄ってくる。僕は蜘蛛の方には近付かないように広間を大きく回った。後方に追い掛けるように蜘蛛が来る。速さでは蜘蛛が勝っているようだ。
走りつつ、次の詠唱をする。
「【切り裂け、風の刃よ】【ウィンド・エッジ】!!」
蜘蛛の後方から足を切り裂くように【風刃】を発動した。僕より蜘蛛は速いが、それよりも風の方が速い。【風刃】によって蜘蛛の足が四本切断された。蜘蛛の速さは明らかに遅くなっている。機動力も低下しただろう。次が仕上げだ。
「【光放て、一瞬の光よ】【フラッシュ】。」
光魔法が一つ【閃光】の魔法。細い光線は蜘蛛の胴体を貫く。絶命したようだ。これで終わりだろうか。先程の方が恐らく強かった。
僕は蜘蛛を倒して辺りを見渡したが、そこには何も無かった。ここはハズレの道なのだろうか。それにしては長い距離を歩いた。だけど次への道の扉は開かない。まだ何かあるのか……?
僕は前後左右を見渡した。しかし何かが隠されている気配もしない。地面にも何かがある訳では無い。では上だろうか。
そう考えて上を見ると、何かがそこにはいた。それが何かは分からない。巨大な生物だと思う。何やら蜥蜴のような……。まさかあれは。
そのまさかだった。それは突如、こちらに向かってブレスを放ってきた。咄嗟に飛び退いたが、僕がいた所は酸で溶けていた。酸を含んだブレス。当たれば一溜りもない。女神の遺跡って危険すぎるでしょ。
「────竜だね。」
蜥蜴に似た生物。それは竜しかいない。勿論、蒼い。蒼い竜だ。事実上最強の種族である竜種。それが僕の上に飛び回っていた。
どうすればあんなやつを倒せるんだ。その胴体は先程のゴーレムとは比較できないほど大きい。およそ十五メートル。身体には毒を含んでいそうな棘が多く生えている。紛うことなき竜だ。あれを僕は倒せるのだろうか。
再び竜はこちらに向かってブレスを放ってきた。今度は迷わず避ける。考えている暇があったら攻撃した方がマシだ。
「【光放て、一瞬の光よ】【フラッシュ】!!」
噛まないギリギリの速さで詠唱をする。僕の放った【閃光】は竜に余裕で躱された。攻撃は当たりもしないか。あの巨大な翼がある限り、僕の不利は変わらないだろう。だけど巨大な翼を切り裂くだけの魔法を使えば、僕の残った魔力が枯れてしまう。暫く僕は動けなくなるだろう。
その時は恐らくブレスで……。考えただけでも恐ろしい。どうにか向こうの攻撃が当たらず、こちらの攻撃を当てる。もしくは挑発するか。それが良いか?挑発してこちらに引き寄せられれば、まだ正気はあるだろう。いや、あるのか?
考えれば考えるほどに混乱してくる。僕は人生で竜という生物も戦った事はない。戦おうと思ったことすらない。関わろうとも思わない。だから対策など知らない。弱点すら知らない。まずまず僕は旅人なのだ。冒険者じゃない。竜の対策方法を知っている方がおかしいのだ。
────だけど目の前にいるのは竜。本気で対策を考えた方が良さそうだ。




