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始祖の竜神と平凡の僕。  作者: 秋色空
二章:旅路編
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13.隠された泉 中編

中編です。

 僕は二人が辺りを散策している間に水を回収した。ガラス瓶に回収された水は尚、輝きを保ち続けている。森には風が吹き、木の葉が揺れる。まるで森一体がざわめくようだ。仄かな木の香りが漂ってくる。


 ここには魔物が入れない。泉からの一定距離が何故か、魔物の立ち入ることの出来ない神聖領域になっているようだ。これが〈水の女神の泉〉と呼ばれる理由のもう一つである。万能の水と神聖な領域。神を名を宿すには最適な地では無いだろうか。


 世界中には神が宿るとされる土地が多くある。その一つがこの泉であるが、他にも神樹と呼ばれる大樹や神山と呼ばれるような大山。各地に少なからず多く存在している。


 この世界を創造したのは勿論、竜神もといルカだ。しかし、それとは別格の神々がこの世界にはいるとされる。創造神は竜神だが、他は違うという事だ。別に竜神は絶対神でも何でもない。遍く全ての竜で最も強いとされる竜神は己の力で世界を創造した為に神格化された。だが、元々は神では無い只の竜であったのだ。


 言うなれば、竜神であるルカは神々の中で最も地位が低いと言えるだろう。ルカは世界の一つを創造したに過ぎないのである。


 閑話休題。要するに世界に点々と存在している神にまつわる土地は竜神よりも高位の神々の逸話を残しているのである。


「アデルさん、ただいまです。」


 どうやら帰ってきたようだ。ルカとミシェルが森から帰ってきていた。何やら腕に抱えているようだけど。


「それは何?」


 距離が少し離れて、それが何か分からなかった僕は取り敢えず聞いてみた。遠目で見るに一つじゃないようだ。


「キノコです!」


 ルカとミシェルが大量に抱えていたのはキノコであった。どうやら森を散策しつつ、キノコを採取していたらしい。あの二人は毒キノコか否かの区別はついているのだろうか。


「ちょっと見せて。」


 僕は二人が採取してきたキノコを見てみた。明らかに毒がありそうな鮮やかなキノコは無い。擬態した魔物もいないようだ。だけど、一つ問題点があった。


「……確かに食べられそうだけど毒キノコが幾つかあるよ。」


「……食べられないキノコってあるの?」


「ルカさん……。」


 どうやらミシェルは説得したらしい。毒キノコの区別はつくようだ。しかし、竜神であるルカは竜だけに毒キノコの毒が効かないのだ。だからこそ、毒キノコの存在を知らずに持ってきた。それも毒キノコだけを。毒キノコじゃないのは全てミシェルらしい。流石だ。


「まあ、ルカはルカだから食べられそうだけど、ダメだ。流石に危ないからね。……その姿だし。」


 最後だけはルカにしか聞こえないように言った。ミシェルはルカが竜神である事をまだ知らない。ミシェルを信頼していない訳では無いが、口が滑ってしまうこともあるだろう。もしかしたら何かしらで言わざるを得ない状況に陥るかもしれない。そんな事を考えていたら知らぬが仏だと思ったのだ。だから教えていない。


「……分かった。」


 明らかに納得していない顔で言われたが、僕は気付かないフリをしておく。言い合いになった方が大変だし。


「じゃあ、これを焼いて昼食にしようか。丁度、弁当も持ってきてたし、これも食べてね。」


 弁当は〈アイテムボックス〉に入れているために長持ちどころか出さない限りはいつまでももつ。しかし、それは理解していても精神的に嫌なのだ。早めに食べてしまいたい。


 ルカの機嫌も戻ったようだ。ルカの表情は相変わらず分かりやすい。僕は〈アイテムボックス〉から焼くための焼き網を出した。土魔法で台を作り、拾ってきておいた薪を置いて、火魔法で燃やす。上に焼き網を置けば完了だ。


「早速、焼こうか。それぞれで焼いていいよ。」


 意外とこんな作業は皆したがるものだ。それをする事も経験になるから一石二鳥というわけだ。


「焼けたら食べていいよ。」


 ルカが焼きすぎていたので注意する。そして僕も焼き始めた。キノコを焼くと辺りに良い香りが漂う。食べてみる。……美味しい。


「美味しいです!」


「うん、美味しい。」


 二人にも好評のようだ。弁当も食べているようだ。早起きした甲斐があったな。こうして見ると女子力が高そうだが、明らかにルカは料理ができなさそうなので僕が頑張るしかない。ミシェルは分からない。怪奇料理とか作らないで欲しい。闇鍋じゃあるまいし。


 キノコも弁当も食べ尽くすとすぐには支度をせずに少し休んだ。旅にも小休憩は必要だろう。あくまで目的を忘れた訳では無いが、気を詰めすぎるのも自分の体に良くない。


「……泉の水が光ってる?」


 ルカがそう呟いた。僕は空を見ていたのだが、泉を見てみる。するとその通り、泉は光っていた。元々、日光を反射して輝いていたのだが、それとは異質な光が泉の中から発生している。


「ここからは見えないし、少し泉に近付いてみよう。」


 僕達は泉の縁に立って中を見た。泉は透き通って奥まで見える。水深は深く、魚などは泳いでいない。


「あれか?」


 水底を見渡していると、光源を発見した。水を回収した時には気付かない程、水底に同化している石版があった。それが光り輝いているのだ。


「ちょっと潜ってみないかい?」


 僕はそう提案した。

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