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始祖の竜神と平凡の僕。  作者: 秋色空
二章:旅路編
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12.隠された泉 前編

今回は前編です。

 ミシェルにフード付きマントを着せる事で漸く準備が整った。急ぎめに残りの街道を歩き切ろう。〈アルグランテ〉まではまだまだ長い。


「ミシェル、今日から少し速いスピードで歩くけど大丈夫?」


「多分、大丈夫です。」


 ミシェルがこくりと頷く。フードを被っているからあまり顔は見えない。獣耳も見えないようだ。フードを用意していない時に限って、大変な事態になったりするからね。取り越し苦労だといいんだけど。


「疲れてきたら言ってね。昼食休憩にするから。」


「はい。」


 ミシェルはいつの間にか敬語に戻っている。わざわざ指摘するつもりは無いけど、もう少し馴染んでほしいな。〈アルグランテ〉に着くまでには馴染んでくれるかな。


「ルカは……元気一杯だね。」


 普段はあまり喋らないルカも表情を見れば、元気であると分かる。感情が分かりやすいからまあ、楽だね。


「あと、今日は少しだけ寄りたいところがあるんだ。すぐに終わらせるつもりだけどゴメンね。」


「いえ、大丈夫ですよ。」


 ルカも頷く。今日は魔道具の素材を取りに行くつもりなのだ。この近くには良質な素材が取れるスポットがある。所謂隠しスポットなのだが、旅人の間では有名である。僕も何度か訪れた事がある。


 そうして僕達は〈アークタクルス〉を出た。ほぼ同じ時間に出る旅人はいないようだ。大勢で楽しい旅も良いけど、少人数でほのぼのとした旅も僕は好きだ。どちらかと言えば、少人数派かな。


 三人の荷物はそれぞれが持つ〈アイテムボックス〉でほぼ手ぶら状態だ。僕以外の〈アイテムボックス〉はルカのお手製というかまるっきり複製してるけど便利だから良いと思う。バレなきゃ良いでしょ。


「おっと反応したみたいだ。」


 街を出て数十分。ここに来て〈魔物探査(モンスターサーチ)〉に魔物が引っ掛かったようだ。数は二体。距離は一キロ。まあまあだな。遠距離攻撃したら早いね。種類は罠鼬(トラップウィーズル)。罠を仕掛けて、引っ掛かると襲う魔物だ。あまり強い相手では無いが、攻撃方法が方法だけに少し厄介だ。


罠鼬(トラップウィーズル)が隠れている。森の木陰にいるみたいだ。多分、街道に罠があると思うから、森に向かって遠距離攻撃をしてみるか。ミシェルやってみる?」


「いいんですか?」


「うん、経験は大切だからね。」


「分かりました……ふぅ。【突き刺せ】!【ファイアーアロー】!」


 初級魔術である火魔法が一つ【火矢】の魔法。単純な魔法ではあるけど、精密さが必要な魔法だから意外と難しい魔法だ。さて、ミシェルには使いこなせるかな。


 ミシェルの放った【火矢】は一直線に一体の罠鼬(トラップウィーズル)の方へ飛んでいった。しかし、寸前で気付かれ、躱された。


「ほいっ、と。」


 ここで終わらせては逃げられてしまうので、【火矢】を制御する。無魔法が一つ【制御】の魔法だ。制御したい魔法の二倍の魔力を消費することによって、魔法を完全制御する。今回は【火矢】だ。方向を変え、追尾する。罠鼬(トラップウィーズル)も足は速いが、矢の速さには勝てない。追尾した【火矢】が罠鼬(トラップウィーズル)を突き刺した。


「よし。じゃあミシェル。今度は別の魔法で反対側にいたもう一体に攻撃してみよう。」


 僕はミシェルに矢を使う魔法を禁止にしてみた。矢では今のように気付かれれば、避けられてしまう。どの魔法を使って、バレずに倒せるかな。


「……そうですね。これを使います。【光放て、一瞬の光よ】【フラッシュ】!」


 僕がこの前使った光魔法が一つ【閃光】の魔法だ。【閃光】は見事に罠鼬(トラップウィーズル)を貫いた。


「お見事。じゃあ、回収しに行こうか。」


 ミシェルが【閃光】で倒した方はすぐに回収出来たが、もう一体は森の奥の方へ逃げ込んだので回収が大変だった。こういう時こそ魔法だ。


「よっ、と。」


 森の奥から死体が飛んでくる。そして、僕の足元に置かれる。風魔法が一つ【回収】の魔法だ。風を操り、上手くこちらへ持ってきたい物を持ってくるのだ。魔法だからコツとかは無いけど。


「アデルさん、もう遠慮せずに無詠唱使ってますね。」


「そう?」


「うん。」


 ミシェルどころかルカにまで同意された。そんなに無詠唱使ってたっけ。まあ、見られなきゃいいでしょ。


「まあ、それは良いとして、ここから森に入るよ。」


 急いで話を逸らした。追求されたら大変だからね。先程、森の奥に入った罠鼬(トラップウィーズル)はどうやら僕の探していた場所に進んでいたみたいだ。


「ここの先にアデルさんの寄りたい所が?」


「うん。魔道具の良質な素材が採取できるんだ。」


 旅人は地図を愛用している人もいるけど、実際は記憶だ。旅人だって迷う。僕はここに何度か来てるから一応覚えてるけど、それでも曖昧だ。良い魔道具が無いかな。


 僕を先頭にして森を進んでいく。恐らく最近訪れた人がいるのだろう。人の足跡が残っていた。僕達が通っているのは獣道だ。街道からではすぐに見つけにくいような隠された獣道。


「薄暗いですね。」


 落ち葉が多くてミシェルが足を滑らせるかと思ったけど、大丈夫なようだ。どちらかといえばルカの方が心配だ。先程から数回足を滑らせている。


「うわぁっ!」


 まただ。僕もミシェルも苦笑するしかない。手を差し伸べてルカを起こす。


「気を付けてね。」


「……うん。」


 朝は元気一杯だったのに別に怒ってないんだけどな。まあ、この先の光景を見れば、暗い気持ちも吹っ飛びそうだけどね。


「……着いたよ。」


 薄暗い森を抜けると昼前になって日差しが照りつける。目が眩むけど頑張って目を開くと、目の前の光景は変わらないままだった。


「……綺麗。」


 ルカとミシェルが見入っている。


「ここが隠された秘境〈水の女神の泉〉だよ。」


 一番奥まで透き通る水が張る泉。かつて水の女神がここで水浴びをしていたと旅人の間では伝えられている。この泉の水には特別な魔力が含まれていて、生命力を上昇させる。ここの水は最高品質の回復薬にもなるのだ。雨が降っても浄化されるとか。


「僕はここの水を回収するから、二人は辺りを散策したら?」


 二人は大きく頷いた。楽しみなようだ。僕は早速、泉の水を回収する。その前に両手で掬って水を飲む。ここに来た時は僕は絶対にここの水を飲んでいる。とても美味しいのだ。魔法で作られた水も美味しいは美味しいが、ここの泉の水はさらに美味しい。そして、僕は満足すると泉の水を回収した。


 この水をそこらに掛ければ花が咲くだろう。この水を人が飲めば長く命を保てるだろう。この水を飲めばありとあらゆる病気や怪我や状態異常を回復させるだろう。この水は別名〈万能水〉とも呼ばれている。

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