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始祖の竜神と平凡の僕。  作者: 秋色空
二章:旅路編
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SS - 1.想う竜神

ルカ視点です。

 私は奇妙な魔力を悟った。それは特に重要視することでもないと高を括ったであろう、小さな小さな魔力。しかし、不思議とその小さな魔力からは何か大きな力を感じる。多分、それは偽りなのだろう。本当は大きな魔力を持っているのだ。そしてそれは、どこか懐かしかった。


 ────だからだろうか。その存在に切望してしまった。変わってしまったこの世界を今一度、取り戻したい────なんて、大層な事は言わない。私は少しばかりホームシックなだけだ。美しいあの世界をもう一度だけ見てみたかったのだ。


 私は懐かしい魔力に惹かれるままに旅に出た。私が住む地は俗に『聖地』と呼ばれるようだ。聖なる土地だとは住んでいる自分が感じないのだから、大袈裟な表現だとは思う。でも人間にとってはそうなのかもしれない。私は人間の姿になった。


 遠いその魔力を探して大陸に降り立った。竜にとって果てから果てなど遠いとは感じない。だけど何故かそう感じた。どこか遠い存在。いつかは見つかるのだろうけど、遠い存在。


 自分は感情を抑えていた、昔は。今は昔ほど感情を抑えていないだろう。永き時を過ごしたからだろうか。退屈な時を少しでも楽しくしようと思っているのか。感情の赴くままに行動していていたのだった。


 私が降り立った大陸は広大であった。聖地も広大ではある。それでいて狭い。聖地──聖なる土地は下界とは違う。広くて狭いのだ。私にもその謎は分からない。いつの間にかそんな地が出来ていただけだ。


 下界に降り立ち、私は人間と関わった。前に人間と話したのはいつの事だったろうか。随分と前のようだった気がする。つい昨日の事のようだが、それは思い違いなのだろう。


「どうぞ。」


 小さな子供は私に木の実を分けてくれた。別になんという事は無いのだろう。優しい性格がそうさせたのだろう。子供という存在に竜の尊厳が傷つけられる事は無かった。


「ぁ……あ、りがと、う。」


 ────これが人間だ。


 大陸を歩いて長い時が過ぎた。人間の時間に換算すると30年ぐらいだろうか。文明は変化し、衰退した国、繁栄した国。大陸を私は横断した。人とは程々に関わった。私の存在を覚えている人間などいないだろう。別に人との関わりを切望したのではない。


 いつの間にか私が求めた懐かしい魔力は近くにあった。私の目の前には広大な海がある。大陸に負けず劣らずの広さを誇るだろう。人間には見えないだろうが、私にはその先の大陸が見える。あの大陸から懐かしい魔力を感じる。……やっと着いた。


 大陸と大陸は繋がりを持たなかった。ましてや隣に大陸があることすら知らないのでは無いだろうか。この広い海を人間が渡る術はまだ無い。大陸を見つけるのはいつの日になるのだろうか。私にとってはどうでも良いことなのだが、瞬間そう思った。


 いつの間にか私には何か変化が訪れていた。人間と関わったからだろうか。あまり関わった覚えは無い。感情に変化を感じる。退屈という感情のみを吐き出していた『心』はいつしか別の感情も出すようになったのだ。私は私が変わったことに気付いた。


 私は空を駆けた。竜の姿でもよかったが、何となく人間の姿が良かったのだ。これも心が変わった結果なのだろうか。何か退屈しない事がないかな。


 空も広大だ。この世界は広大である。でもまだ足りない。美しい世界はこうじゃない。何かあと一つ。あと一つ、何かがあれば元の世界に戻れる。そう私は確信していた。


 遂に大陸へ着いた。やはりこの大陸も隣の大陸を知らないようだ。冒険心────は私には理解が出来ないが無いのだろうか。大陸は人間が沢山いるのに、新たな地を目指さないのか。────どうして、私が人間を気遣うのだろう。


 大陸へ降り立ち、私は歩き始めた。近い。あと少し。漸く会える。


 ────私は街に着いた。


 こういう街を田舎というのだろうか、辺境というのだろうか、穏やかな街だった。近くに森がある。魔物がいるようだ。魔物に怯えている、という訳でもなさそうだ。私は初めて街を歩いた。私の先には懐かしい魔力をある。あと少し。


 一つの建物の前に私はいる。ここの二階。……いるようだ。私は空間に穴を開けた。そして、二階へ辿り着く。


 二階には男がいた。この男だ。懐かしい魔力を感じる。


「えーっと……。君は?」


「ずっと言ってる。私は竜神。太古の昔から世界を統べる存在。」


 私は話していた。問われたから答えただけだ。そこには他意は無い、はず……?


「……一旦、落ち着け僕。」


「……頭大丈夫?」


「あんたがだよ!!!」


 どうしたのだろう。目の前の男の感情がグルグルと回っている。混ざって乱れている。これが混乱……?初めて知った。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ!何でもないです!」


 扉の向こうから女の人が聞こえる。目の前の男は嘘をつく。何でもなくない。私がいるでしょ?


「取り敢えずどうして僕の部屋に来たのか教えてくれる?」


「分かった。あなたを探してた。場所聞いた。入った。」


「どうやって宿屋の人にバレずに入れたの?」


「こうやった。」


 どうやって入ったか尋ねられたので立ち上がった。そして亜空間を広げた。簡単な魔法だ。誰でも出来る。だけど目の前の男は明らかに怯えていた。何かから逃げるように。逃げないで……。


「僕は………………逃げる!!」


 逃げた。逃げられた。どうしよう。私は目の前の男が分からなかった。どうして私を避けるのだろう。正直に伝えたかっただけなのに。






「すー。はー。」


 男は一度深呼吸をした。両頬を叩く。何故か逃げた男は森にいた。急いで追いかけた時には周りが魔物で一杯だった。どうしてこんな森に入ったのだろう。危ない。助けなきゃ。


 唐突にそう思った。目の前の男は助けなければならない人だと。目の前の男は無理をし過ぎていた。明らかに倒れる寸前なのだ。私は魔法を発動させ、眠らせた。


「よし、いくぞ。……【響き渡れ、死の四重奏で、命を散らせ】────」


 男が魔法を発動させる寸前に寝かせる事が出来た。あの魔法を使っていれば、魔力切れで目覚めるのが何日後か分からなかった筈だ。そして、その間に命を散らしていただろう。


 私は男の前に立った。私は助ける。


「……【変革せよ】【ワールドカスタマイズ】。」

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