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002*初恋列車

遅筆にも程がありますが、程々に書いております。


*この話のタグ的な何か*

初恋 片思い 電車 女性視点

 電車で通学することになって早一年。いつも規則正しい音を立てて、電車は揺れる。まったく余裕のなかった入学当初と違って、人や風景に気をやる余裕もできている。電車が橋を渡る時に音が変わる事や、朝早い時間の空の色の変化、椿が咲き乱れるあの庭は年中花が咲いている事、電車の開閉されたドアから香る金木犀の香りが強い事。そんな些細な事に気が付いたのは通学半年を迎えた頃だろうか。

 季節によって変化する人の服装だって、どれ一つ同じものはないのだと改めて突き付けられた気分になったものだ。隣に座る事の多いあのOLさんはいつだってきっちりしたスーツにきっちりした髪型をしていて、かっこいいし。初めて見たときには驚いた鮮やかな青い髪をしたあのお兄さんには、これまた鮮やかな赤い髪をした素敵な恋人がいるし。びっくりするくらいスタイルの良い女性は、真っ赤なルージュに真っ赤なネイルで近寄りがたいけど、意外とかわいい猫のキーホルダーが鞄についていて……それは偏見に過ぎなかったんだなって気付かされたりしたし。そして何より――。


(あ、来た……)


 私が乗る駅から二つ目の駅からいつも乗ってくる大学生くらいの男のヒト。一度だけ声を聞いたことのあるこのヒトは私の、初恋の人だ。いつも眠そうに電車に乗ってきて、出口近くの乗降車口近くでいつも吊革に手をひっかけて立っているのだ。身長は、比べたことがないから何とも言えないけど多分高いんじゃないかな。ストーカーだと思われるのは嫌なんだけど、好きな人のことは気になって仕方ない。ついつい、クセだったり持ち物だったりを観察してしまうのは、仕方ないんじゃないかな……? 最近はイヤホンを買い替えたのかいつも見かけていた色とは違う空色のイヤホンをしている。私のイヤホンはいっつも色気も何もない黒色だから、そんなとこでもお洒落できるって凄いなって思う、本当に。中でもあのヒトの好きなところは――手。大きいスマホを片手で持ってひょいひょいって扱うその指先が凄く綺麗で、何ていうか、こう……自分の語彙(ごい)が少ないのを呪いたくなる位には綺麗だったから、思わずじっと見てしまったのは恥ずかしい思い出の一つだ。白魚のような手って言葉があるけど、本当にそんな感じ。運動してるのか均等に日焼けしてる腕もたくましくて、無駄のない筋肉美っていう感じ? 本当に、本当にかっこいいと、思ったんです。一回だけ、友人だろう人と一緒に電車に乗っていたのを見たんだけど、その時に笑った顔と、その時に聞いたあのヒトの声に、なんだか無性に胸が苦しくて泣きたいようなそんな気分になって、その時はじめて“私、このヒトのこと好きになっちゃったんだ”って気付いたんだよね。

 あのヒトが降りるのは乗ってから四つ目の駅。私が降りるのはその次の駅。恋人に、なれたら良いなって思う。けど、結局こうして見つめているだけで、あのヒトの人生も私の人生も決して交わらないんだろうなって、どこか冷静な私が考えていた。何か、あのヒトと私の人生の接点が出来るような大きな出来事が起こればいいのに。弱虫な私は他力本願でそう、考えるしかできなかった。けど、それは案外近くに転がっていたみたいだった。


 うとうとと、帰りの電車の中で眠りの淵を彷徨(さまよ)っていた私は、あろうことかスマホを手から落としてしまったのだった。がしゃんと意外と大きな音を立てて膝から滑り落ちたスマホの音にびっくりして目が覚めた。失敗したなぁと考えて拾おうとすれば目の前には私が焦がれて止まないあのヒトの姿。夢かと一瞬思ってしまった私は悪くないと思う。あのヒトは自身の足元に落ちた私のスマホを拾ってどうぞ、と言って差し出してきたのだ。


「あっ、えっ! ご、ごめんなさい。拾ってくれてありがとうございます……」


 動揺のあまり噛んでしまった舌がヒリッとした痛みを訴えてくるが、それが余計に現実だと知らせてきて、混乱を招き、結局お礼の言葉は尻すぼみになってしまった。


「いえ、大丈夫でしたらそれで」

(私の! バカ!)


 ()しくも次の到着駅はあのヒトの降りる駅だ。タイミングがいいと思えばいいのか悪いと思えばいいのか、判断に困る。せめて、お礼位ちゃんと言えばよかった。そう考えている間にあのヒトは行ってしまい、(おり)のような思いが溜まるだけ。


(私の、意気地なし)


 その後どう家に帰り着いたのか覚えてはいないが、気付けば翌日の電車の中だった。昨日の事を考えては(かぶり)を振って、その繰り返し。そうこうしているうちにあのヒトの乗ってくる駅。思わず顔を上げたら、偶然にも目が、合った。綺麗な、アーモンド型の目だった。反射的に会釈をすれば、ちょっと驚いた顔をしてそれから少しだけ微笑んで軽い会釈を返してくれたあのヒト。


(ああ、単純だけど、やっぱりあのヒトのこと、好きだなぁ)


 揺れる電車と恋心。

一時的に完結設定にさせていただきました。

ちまちまと追加していけたらと思います。


*テーマなど*


年上の(犬系)男子×初恋拗らせ片思い少女


場所「通学中の電車内」


フェティシズム「手


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