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Chapter3-15 集落内の噂

「聞いたわよ、ウィル君と付き合ってるって。早く言ってくれればよかったのに」

「……え?」


 数日後、レティさんの居る支部にて。

 ウィルとの魔獣退治の巡回から戻り報告をしに寄ったところ、そんなことを言われてしまった。

 どうして、レティさんからその言葉が出てくるのだろう。ぼくが固まっていると、レティさんが続けた。


「食材を提供してくれる子から聞いたのよ。その子も別の子から聞いたらしいけどね、手を繋いで仲良く歩いてたとかなんとかって。テレスの中で噂になってるみたいよ」

「え、ええっ……。そうなんですか?」


 噂話になっているだなんて、どうしてそんなことに。

 聞くところによると、集落のエルフ族はぼくたちの姿を見て付き合っているんじゃないかと噂をしているらしい。

 まさかそんなことになるだなんて、と思ったけど。こんな狭い集落で噂になったらすぐに広まるのは、考えてみればすぐ分かることだった。


「元から仲良さそうだったけど、何かきっかけでもあったの? どちらから告白したの?」

「あ、いや、そのう……」

「……ああ、こんなこと聞くのは野暮だったわね……。気を悪くしたらごめんなさいね」

「いえ、その、大丈夫です……」


 レティさんには別にフリをしているだけ、と明かしてもよかったのかもしれないけど。言おうか迷っているうちに、レティさんが早合点して言いそびれてしまった。


「でもウィル君はカッコいいし、優しそうだし。幼馴染なら相手のこともよく分かっているだろうし、いいカップルになると思うわよ」

「あ、はい……」


 何かもう返答するのも億劫になって、間抜けな声で返答することになってしまった。

 居たたまれなくなったぼくは、無理矢理別の話題へと変えることにした。


「そ、それより、そろそろ宮廷魔術師団の会合じゃないですか?」

「えーと……。そうね、もう数日後ね」


 前回の会合から、すでに三週間近くが経っていた。

 そんなわけで毎月開催される定例の会合が、目前に迫っているのだ。つまりは王都へ行かないといけないのだけど、そこで魔術具のことを解決したいと考えていた。


「そのときに、ラッカスさんに聞きたいことがあるんですけど……。ほら、宝石(ジュエル)のことです」

「ああ、前に話していた件よね。私も調べたみたけど、あの山岳地帯って王国が直接所有しているところみたい。だから、宮廷魔術師団が直接関われる場所ではないわ」

「……そうなんですか」


 宮廷魔術師団ならもしかしたら分かるのかな、と期待したけどそううまくはいかないようだ。

 当初の予定通り、魔術具公房とヴィーラさんに聞いてみる形になりそうだ。

 王都へ行くのは、ぼくとレティさんだけでも問題ないはず。だけど、レティさんと別れたあと魔術がうまく扱えないぼくだけで歩くのは少し心許ない。宮廷魔術師の衣装を身につけていれば、滅多なことは起きないとは思うけど。

 できれば――ウィルを連れていきたいところだ。レティさんに聞いてみよう。


「あの、今回はウィルも一緒に行っていいですか?」

「ウィル君も? ……ああー。いいわよいいわよ。そりゃ付き合ってたら王都でデートしたいわよね」

「え……? いや、そうではなくて……」

「気にしなくていいわ。会合が済んだらゆっくり楽しんでらっしゃいな。私は仕事とかあるし、また翌日合流すればいいからね」



 ふらふらとした足取りで自宅へと戻る。あのあとも一通りからかわれ、とても疲れたのだった。主に精神的に。

 途中でエルフ族と挨拶をしたけど、普段と違う視線を感じた。たぶん、ぼくとウィルのことを知っているからだろう。

 やましいことをしているわけではないとはいえ、ここまで噂になっているとは思いもよらなかった。


 さて、まだ時間は昼下がり。

 思うところがあって、シアを自宅に招くことにした。シアの家に寄ると、いつものようにリアが胸の中へ飛び込んできた。さながら体当たりのそれを、ぼくはぎゅっと抱きしめ受け止める。


「エリーお姉ちゃん! ウィルお兄ちゃんは一緒じゃないの?」

「……ウィル? 今はいないけど? 何か用事だった?」

「えっとね、エリーお姉ちゃんとウィルお兄ちゃんはらぶらぶ? だから、いつも一緒にいるのかなって!」


 それを聞いたぼくは、ガクッと膝から崩れ落ちそうになってしまった。

 リアを抱きしめているから、なんとか耐えたけど。


「り、リア……。誰からそんなこと聞いたの?」

「えと、ミルちゃんから! らぶらぶ? だから邪魔しちゃだめよって!」


 ミルってそんなことをいう子だったのか――。というか、ミルにまで伝わってるレベルなのか。


「リア、その、意味が分かって言ってる?」

「知ってるよ! エリーお姉ちゃんとウィルお兄ちゃんがお互いのことを好きって意味でしょ!」

「ああ、うん……。 そのことってリアもミルも知ってるみたいだけど、テオも知ってるの……?」

「うん、知ってるよ! その話をするとあんまりしゃべらなくなっちゃうけど」


 ミルが知っているということならおそらく、とは思っていたけど。実はまだテオとは直接会っていない。ウィルとは会ったようだけど。ぼくも会おうと思えば会えるけど、少し負い目を感じていて近寄りにくく思っている部分はある。

 テオには悪いことをしてしまった気がする。せめて、近いうちにちゃんと言わないといけないだろう。


 それはともかく今日はリアではなく、シアに用事があるのだ。


「リア、シアを呼んできてもらえる?」

「分かった!」


 とてとてと歩いていくさまを見送る。待っている間にたまたまシアのお母さんが通っていき、ウィル君と仲良くするのよ、と言われてしまった。

 もはや、ウィルとの関係は集落の皆の知るところになってしまっているようだ。

 これでフリでした、などと明かすのはかなり気が痛む。とはいえいつかは言わないと――と考えたところで、いつまでこうするのか決めていなかったことに気付く。


 フリをやめたあとは、どういうことになるのだろうか。

 フッただのフラれただの、また噂になるんだろうか。それもそれで嫌な気がする。

 もしかしなくても、まずいことをしてしまったのではないか。


 ウィルに一度時期を確認しなければ、と思っていたところシアがやってきた。その後ろをリアが、まるでカルガモの子のようにぴったりとついてきていた。


「エリー、何か用事?」

「あ、シア。暇だったらわたしの家に来て、少し話さない?」

「ん、分かった」

「エリーお姉ちゃんの家に行くの? 私も行きたい!」


 リアが後ろからそう声を掛けてきた。うーん、ちょっとリアがいると困るかもしれない。話の内容的には。

 シアに目配せをすると、目で頷いた。


「……リア、エリーは恋の相談がしたいそうなのよ。ね、エリー?」

「え……あ、うん……」

「だからここは私に任せてほしい。帰ったら聞かせてあげるから」

「そうなんだー……わかった!」


 大変物分かりのいいリアである。

 リアとシアのやり取りを横目に、ぼくは死んだ魚のような目をしながらシアの家をあとにした。



「それで、話ってなに?」

「あー……うん、実は話らしい話はないんだけどね……」

「……?」


 話したいことというより、一度シアにお礼がしたいと思っていたのだ。これまでのぼくに対するフォローとか含めての。

 本当は王都から戻ってきたらすぐに、と思っていたけどなかなかその機会がなかったのだ。

 それを伝えるとシアは気にしなくてもいい、とは言ってくれたけど。折角だからお茶ぐらいは飲んでいってほしいとお願いをしたらそれぐらいなら、と了承してくれた。


 家に戻るとフィールが居た。話をすると、それならばとお茶会をする形になった。

 フィールとともに手早くパンケーキと紅茶を準備する。もう少しレパートリーが欲しいところだけど、今は材料がないので仕方がない。


 それでも、シアは喜んで食べてくれたのでよかったけど。

 それから、フィールがそういえばと前置きをしてから話し始めた。

 

「シアちゃんって、随分前からカナタくんのことを知っていたのよね?」

「はい、初日に気付きました。魔力の質が全然違ったし、雰囲気も違ってたので」

「私たち夫婦もおかしいなというか、突然変わったなとは思ってたんだけどね。でもエリーが成長したんだと思って、それ以上は考えなかったのよね……」


 そんなフィールの言葉に対し、実の娘にそれでいいのかと心の中で突っ込みを入れる。あのときは夫婦揃って目の前でワンワン泣き出したのを覚えている。


「そうなると、シアちゃんはだいぶエリーの面倒を見てくれたんじゃないかしら?」

「そうですね……。下着の着方が分からない、って顔を赤くさせながら尋ねてきたこともありました」

「あらあら……。まあ、男の子だったものね。分からなくても仕方ないわよね」


 シアとフィールが、微笑ましい表情でぼくを見つめてくる。その視線に耐えきれなくなったぼくは顔を落とす。どこか恥ずかしい気がして、ぼくは顔をあげることができなかった。


「そうなると、料理もシアちゃんが教えてくれたのかしら」

「いえ、ある程度は基礎ができていたみたいで。私が教えたのはそれほど多くはないです。あとは……女の子としての振る舞い方は教えましたね」

「そうなのね……」


 そんな感じでぼくの話が続いたあと。

 話はウィルに対することへ移っていった。


「ウィル君と恋愛関係のフリとか大変ね」

「もう……どうしてこんなことに……」


 ウィルのことについては、フィールとクレスタにだけは本当のことを言ってある。

 さすがに親まで騙すのはちょっと、と思ったからだ。


「なんだか、集落の中で噂になってるみたいだけど……」

「狭い集落の中、噂が広まるのは一瞬」

「うーん、これいつまで続ければいいのかな? あと、やめたときの反応がちょっと怖いかも……」

「それなら、本当に付き合っちゃえばいいんじゃないかしらね?」

「お、お母さん!?」


 フィールの言葉に思わず大声を上げてしまう。


「ウィル君はエリーのことを受け入れてくれたんでしょう? その上で今回のことも引き受けてくれたんだし……。これほど理解のある子って他にいないと思うけどね?」

「……」


 フィールにそんなことを言われ、ウィルとの恋愛関係になったときの一コマを妄想してしまう。

 ぼくはそれを頭の中から振り払う。本当に影響されすぎだ。数日前からどうもこういった考えを持ってしまう。


「……ウィルはあくまで幼馴染だから」

「そう? そう思ってるのはエリーだけかもしれないわよ? ウィル君はエリーから付き合ってと言われれば絶対に受けてくれると思うけどね」

「私もそう思います」

「ちょっと、シアまで……」


 シアにまでからかわれる始末。何も言い返せなくなったぼくは、話を切り上げて食器の片付けを始めた。

 ウィルはあくまで幼馴染であり、親友だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 手を繋ぐのにも随分慣れた。あのときは気にしすぎだったのだろう。

 集落内の噂は、まあなるようになるしかない。人の噂も何日とは言うものだ。――ここにいるのは人ではないけど。

 噂はじきに忘れられるだろうし、気にする必要はないだろう。それよりもテオにはちゃんと説明しないとなあ、と思うと気が重くなるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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誤字脱字等がありましたら、お知らせください。


(2017/03/02)ノクタ側で次話を掲載しました。

※小説名で検索していただければ見つかるかと思います。

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