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Chapter3-12 薬草採集ふたたび

 数日後。今日は子供たちを連れて、魔獣退治の訓練へとやってきている。

 いつもの巡回ルートを子どもたち、それにシアと一緒に周っているところだ。


 まだ、子供たちだけで魔獣退治に出てもらうことはない。けどもう二、三年もすれば、そのときが来るのだ。それまでには実力をつけておいてもらう必要がある。

 当面は子供たちを連れて、魔獣退治の訓練を定期的に続ける必要があるらしい。ぼくは集落の一員として、そして宮廷魔術師として魔獣退治をすることになっている。それに加え子供たちの訓練の補助で巡回することで一石三鳥となるので、付き添いの役を買って出たのだった。


 とはいえ今のぼくは、基本的に見ているだけだ。

 その理由は、先日からの魔術の威力調整が上手くいかないことによる。

 先日広場で魔術の練習をしたのだけど、やっぱり威力が上手く調整できなかった。最低限の魔力を込めても、魔術が暴発気味になってしまった。

 ただ、高威力な――自分では抑えているつもりだけど――魔術を連発しても、魔力が減る感覚が全くしなかった。

 シアの指摘通り、保有魔力はかなりのものになっているようだった。


 そのあとシアと魔獣退治へと出たわけだけど、魔術の加減が分からず木々にまで魔術が及びそうになってしまった。

 高威力の魔術を使った場合、狭い森の中では木々ばかりか仲間すら巻き込んでしまう可能性がある。

 以前も同じような懸念があったけど、今回はそのときよりも深刻だ。


 魔術が使えないわけではないけど、使うには危険が伴う。

 そんなわけで、ぼくはほとんど見ているだけなのだ。傍で魔術のアドバイスはしているけど。

 まあ子供たちに危険が及ぶような魔獣が出た場合は、遠慮なく魔術を使うつもりではいる。

 ――とはいえ不安はあるので、今回はシアに同行をお願いしてもらったのだった。


 ☆


 警戒しながらも時折雑談を交えながら、巡回コースを進んでいく。

 何度か魔獣に遭遇するも、子供たちの的確な魔術で難なく退治できた。


「そういえば、皆は長老様から聖樹様のことについて聞いた?」


 そんな最中、ふと先日長老と話したことを思い出し子供たちに尋ねてみる。聖樹の元へ子供たちを向かわせる話だ。

 確認が済んだら依頼が来ることになっていたけど、少し気になったのだ。


「うん! 聞いたけどいいよって返事した!」

「私も問題ないわ」

「……大丈夫」


 三者三様の答えが返ってくるも、概ね肯定的な内容だった。皆年下なのに心が強いなと思うも、確か聖域(サンクチュアリ)での事件のあともぼくを気遣ってくれていたことを思い出す。心に一番ダメージを受けていたのは、ぼくだったのかもしれない。


「エリー、長老様の話ってなに?」


 振り向いたシアからそう言われ、まだ説明していなかったことに気づいた。もう一度しきたり(・・・・)を行いたいこと、それにぼくが付き添うことになることを説明した。


「そうなの。それで、エリーは大丈夫なのかしら。聖域(サンクチュアリ)へ行くことは」

「……苦手じゃないといえば嘘になるけど、一度は行ったからもう大丈夫だよ」

「そう。ならいいけど」


 シアはそう言うと、再び前を向いた。シアも心配をしてくれているようだった。

 気を遣ってもらうのはありがたいけど、いつまでも引きずっていてはいけないだろう。

 なにより、ぼくが子供たちを守らなければならないのだ。苦手は克服しなければ、と心に誓ったのだった。


 ☆


「少し寄り道をしてもいいかしら」


 巡回コースも終わりに差し掛かったところ、シアがそんなことを言い出した。


「え、どこに?」

「前に寄ったところ。薬草(ハーブ)を補充したくて」

「……あの場所ね」


 前に寄った、とはぼくがドリアードに襲われてひどい目に遭った場所だ。良い思い出はないけど――シアが困っているのなら寄ってあげるべきだろう。とはいえ、また遭遇してしまうことは避けたいところだ。

 子供たちにも確認を取ったけど、皆ついてきてくれるとのことだった。



 そして暫く歩いたのち、薬草(ハーブ)が群生しているエリアへと辿り着いた。

 採集の前に安全を確認したい旨をシアに伝える。ぼくがアレ(・・)に会いたくないというのもあるけど、子供たちの安全のためにも必要なことだ。

 シアが先頭に立ち間に子供たち、ぼくは最後尾で魔獣などがいないかエリアを警戒して進む。

 辺りを念入りに回ったけど、魔獣やそれらしい気配は感じられなかった。シア曰くドリアードはそうそう現れるものではない、らしい。

 安全を確認したところで、二手に別れて採取をしようということになった。ぼくとシアに、それぞれ子供がつくという感じだ。


「どうやって別れよう?」

「そうね……。リアは私の作業を覚えてもらいたいから、来てもらおうかしら」

「うん!」


 リアは元気の良い返事をしてシアの元へ。作業を覚えてもらいたいということは、飲み薬(ポーション)製作に関することだろう。以前、リアにも作れるようになってもらいたいとシアが話していた記憶がある。さて、ミルとテオはどうするのだろう。


「私はリアについていくわ! 作業に少し興味あるし」


 そういってミルはリアの横へ。そうなると残りはテオだ。

 まあ、どう考えてもテオはぼくと一緒になるだろう。


「じゃあ、テオはわたしと一緒ね」

「……うん」


 テオは了承してぼくの元へ。シアから手渡された採集袋とナイフを手に、シアたちと別れた。

 テオと共に、目当ての薬草(ハーブ)が群生している箇所へと歩いていく。

 そういえば、テオと一緒というのは久しぶりな気がする。魔術の訓練をしていたときにレクチャーをしていたとき以来だろう。それも初めの方だけで、そのあとぼくの元を離れてずっとウィルと一緒だったから。


 とくに会話もなく、黙々と歩いていく。テオはあまり喋らない子だ。いや、本当はもう少し喋るようなのだけど、ぼくの前だとなぜか言葉が少ない。集落で訓練していたときも、そうだった。

 もしや嫌われているのかと思ったこともあったけど、そうではないらしい。

 前に不安になってリアに聞いてみたことがあるけど、そんなことはないと言っていた。子供たちだけで話をするときも、ぼくの話題になっても嫌な顔をしたりすることはないようだ。むしろ色々聞いてくることがあるぐらい、らしい。

 まあもし本当にぼくを嫌っているのだとしたら、こうやって素直についてきてくれないだろうし。


 とはいえ、お互い無言であるというのも少し気まずい。自分から話すというのはそれほど得意ではないけど、ここは年上のお姉さん(・・・・)としての姿を見せるべきだろう。


「テオは、薬草(ハーブ)採集ってやったことあるの?」

「ない。初めて」

「なら、採集の仕方を教えるね」


 話し掛けてみると、テオは短いながらもちゃんと返答をしてくれた。

 採集そのものはぼくだけでもできるけど、あえてテオにやってもらうことにした。

 テオに採集してもらっている間、ぼくは周りの警戒に集中できるからだ。

 教えることと言っても、根は残すことと刈り尽くさないということぐらいしかないし。


 そして、目標の採集ポイントまでやってきた。

 ナイフを使って、薬草(ハーブ)を刈り取ってもらう。初めは一本ずつだったけど、作業に問題がなさそうだったのである程度まとめて刈り取ってもらう。

 てきぱきと指示通りに薬草(ハーブ)を採集していくテオ。太くて少し堅い茎薬草(ハーブ)も、テオは難なく刈り取っていく。ぼくだと少し力を入れてナイフを通す必要があるけど、テオは難なくナイフを扱っていた。

 テオはぼくよりも三つ年下だけど、男の子だけあって力がある。普段から重い剣を振り回しているせいもあるだろう。

 採集袋に薬草(ハーブ)が半分ほど収まっただろうか、そんなときに。


「エリー姉ちゃん」


 ふと呼び掛けられてテオの方を向く。テオは手を動かしたまま、こちらを見ようとはしない。

 テオから話し掛けてくるなんて珍しい。どうしたんだろうと思っていると、再びテオが口を開いた。


「エリー姉ちゃんは普段何してるの」


 あまり抑揚のない声で、テオがそんなことを尋ねてきた。

 普段、か。そういえば子供たちには、ぼくがやってることを伝えていなかったような気がする。

 リアとはよく話すから、大体は分かっていると思うけど。


「そうだね、魔獣退治に出かけたりとか、宮廷魔術師の仕事で王都へ行ったりとかかな?」

「いつもウィル兄ちゃんと一緒に?」

「え……いつもってわけじゃないけど……」

「……ウィル兄ちゃん、いつも楽しそうにエリー姉ちゃんのことを話すから」


 薬草(ハーブ)を採集する手を止めずに、テオは矢継ぎ早に話してきた。

 ウィルが、ぼくのことを? 楽しそうに?

 なんでそれをテオに話すんだろう。


「……そうなんだ。でも、シアとか宮廷魔術師の人と一緒のときが多いかな?」


 ぼくはそういう具合に返答したのだけど。

 そこから、テオが何やら押し黙ってしまった。

 どうしたんだろう? 不思議に思っていたけど、当のテオは黙々と採集を続けている。

 そして採集袋がほぼ一杯になったところで、もういいよと声を掛けようと思っていたとき。


「エリー姉ちゃん」

「なに?」


 テオから先に話し掛けられた。

 ぼくが尋ねると、テオは手を止めこちらを向き。

 じっとぼくを見つめて、口を開いた。



「オレ、エリー姉ちゃんのことが好きだ」

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