Chapter1-04 決意
ぼくがそう言うと、二人は目を丸くさせていた。
「それは……難儀だな……。そうか、男だったのか……」
「……雰囲気や言葉遣いで、まさかとは思っていたけど……。ここまで来るとき、歩き方に違和感を感じた」
エリーとして過ごすことになった以上、ぼくはエリーとして振る舞う必要がある。――けど、ぼくは元の世界では男だった。正直なところ、どう振る舞えばいいか分からない。
エリーの知識そのものは問題ないだろうけど、シアにも言われたように、雰囲気や言葉遣いの差がある。その他にも、男と女の違いからくる不自然な点が出てもおかしくはない。
「……フェルシアに、その辺りの面倒も見てもらいたいと思う。何とかカナタを助けてやってほしい」
「……はい、長老様」
ということで、困ったことがあったらシアにサポートしてもらうことになった。――たぶん相当お世話になることになるので、よろしくお願いします、とお願いしておいた。
あと、二人がぼくを呼ぶときは、普段から常に”エリー”、長老は”エリクシィル”と呼んでもらうことになった。ぼくとこの二人しかいない場面でも、”カナタ”と呼ぶのはやめておこうということだ。
どこで誰が話を聞いているか分からないし、怪しまれるリスクを考えれば、その方が良いだろう。
「では、今日はこのくらいにしておくか。……エリクシィルの家は分かるか?」
「……はい」
少し考え込むと、エリーの家の場所が頭に思い浮かんだ。
「明日は今後のことと、魔術の訓練ということになるな。……日が昇って準備ができたらここへ来るといい」
「わかりました。色々とありがとうございます……あの」
名前を言おうとして、長老の名前はまだ聞いていなかったことに気付く。エリーの知識も――長老様としか分からない。
「ああ、私はダーナと言う。この頃は名前で呼ばれることは少なくなったが」
「……エリーは長老様と呼んでいたみたいなので、ぼくもそう呼ばせてもらいます」
明日もよろしくお願いします、と言って帰ろうとしたところ、シアに呼び止められた。
「……エリーは自分のことを”わたし”と呼んでいた。あなたも”ぼく”といわずに、そういって」
「はい、分かりました」
「……私に対しては敬語はいらない。エリーはそうだったから。とりあえずは私とはじめに会ったときぐらいの話し方でいい。……あなたがエリーの普段の喋り方をするのは難しいと思う」
「……うん、わかった」
シアの忠告を聞いて、ぼくは長老の家を出た。もう遅くなっていると長老が言っていた通り、空はうっすらとオレンジ色がかかり夕方となっていた。
エリーの家は、長老の家から数分ほど歩いたところだろうか。着くまでの間に家族の情報を読み出しておく。
問題は家族に対する接し方だけど。口調までは分からないので、歳相応な感じにするしかないだろう。長老は”活発な子”と言っていたから、それらしく振る舞うことに気をつける。どちらかと言えば内向的な――自分で言うのもなんだけど――ぼくとは違うので、どこまで合わせられるか不安だ。
エリーの家族を騙すような感じがして、少し胸が痛む。とはいえエリーだけど中身は違います。しかも男です。なんて言ったところでまず信じてもらえるか怪しい。信じてくれたとしても、両親の立場からするとどうしてそんなことに、娘を返して欲しい、とぼくに言ってくることが考えられる。
当面の間はエリーのふりをして、何とか切り抜けるしかない。
(ぼく――わたしはエリーだ)
そう心に決めたところで、エリーの家の前までやってきた。ドアの前に立ち、深呼吸をしてから、ドアの取手を引き、家に入る。出迎えてくれたのは、二人の男女のエルフ――エリーの両親だ。
「ただいま、お父さん、お母さん」
ぼくは努めて明るく、こう言った。
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2016/04/25 時間の描写を追加
2016/05/03 エリーの呼ばれ方を修正
2016/05/07 全体を改稿
2016/05/11 全体(表現・描写)を改稿
2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。