Chapter3-06 ヴィーラさんへの報告
※GL描写があります。
「そういや、泊まる宿はまだ押さえてないよな? もう夕方だが」
「ううん。お世話になっている方に泊まりにおいでって言われてるから、そこへ行こうかなって」
「……突然押しかけても大丈夫なのか?」
「うーん、他に家族がいない方だし大丈夫だと思うけど……」
合流したウィルとともに街を歩く。もちろん、手を繋いだ状態で。
空はオレンジ色に染まり、夕方であることを示している。
向かう先は、ヴィーラさんの家だ。次に王都へ来たときは泊まりに来るようにと言われていて、厄介になろうと思ったからだ。ウィルも一緒だというのが少し気になるけど、断られることはないと思っている。
もし断られたとしても宿泊費が高い宿へ行けば、空室はあるだろう。埋まるのは安宿から、と以前レティさんから聞いたことがある。多少高くても手持ちは十分あるので問題はない。
道すがら、ヴィーラさんのことは簡単に説明した。ぼくの正体を知っていて、ぼくが元の世界に戻る手段を探してくれていたこと。あとは、テレスの元住民ということか。
話しているうちにヴィーラさんの家の前へ。窓から灯りが漏れている。もう王立大学から戻っているようだ。
「あらーエリーちゃん。どうしたのー?」
ドアをノックして数秒後。ドアを開け現れたのは、研究室で見たことのある魔女スタイルなヴィーラさんだった。たぶん帰ったばかりなのだろう。
「突然すいません。ヴィーラさんにお話したいことがあって来たんです」
「そうなのー。とりあえず上がって……あら、そっちの子はー?」
「あ、彼はウィレインです。わたしの幼馴染みです」
ぼくがそういうと、ウィルは頭を下げ「こんにちは」と丁寧に挨拶をしていた。
「いらっしゃいねー、ひとまずここじゃなんだし、上がってもらおうかしらー」
「はい、お邪魔します」
ヴィーラさんに招き入れられ、ぼくたちは家の中へと足を踏み入れた。
☆
「……そうだったのー。それは、辛かったわねー……」
ぼくに起こったことを一通り話し終えると、ヴィーラさんはどこか気まずそうな顔をしていた。
「いえ……それよりも、ヴィーラさんには無駄骨を折らせたことになってしまって……。ごめんなさい」
ぼくはそう言い、深く頭を下げた。
知らなかったからどうしようもなかったとはいえ、初めから元の世界へ戻ることは不可能だったのに、ヴィーラさんには戻るための手段を延々と調べさせてしまったのだ。
ヴィーラさんにも仕事や研究があるのに、無駄な時間を使わせてしまったことに対してぼくは罪悪感を感じていた。
「ああ、そんなこと気にしなくていいのよー。あくまで研究の片手間でやってただけなのだからー」
「でも……」
「それよりもエリーちゃんの悲しむ顔を見る方が辛いのよー。私は全然気にしてないから、そんな顔をしないで欲しいわー」
「……」
そうは言われても、やはり負い目を感じてしまう。気にしないでと言われると逆に心苦しいというか、そんな気持ちになってしまった。
「うーん気が済まないって顔してるわねー。……なら、王都へ来たら研究室やここに顔を出してもらえないかしらー」
そうねーと言い少し考え込む素振りを見せたヴィーラさんが発したのは、意外な言葉だった。
「え、どういう意味ですか……?」
「どうもなにも、話相手になって欲しいだけよー。エリーちゃん色々活躍してるみたいだし、そういったのを聞かせてもらえると嬉しいのだけどー?」
「……そんなことでいいのなら」
「うんうんー。あとご飯食べにいったりだとか、服を見に行ったりだとかもしてほしいのだけどー?」
「あはは……お供させてもらいます」
なんというか色々と連れ回されそうな気配がプンプンとしたけど、その程度の条件ならお安いご用だ。ヴィーラさんに使わせてしまった時間は取り戻せないけど、少しでも楽しい時間を過ごしてもらえるなら、とぼくは考えたのだった。
「ところでー、来てくれたってことはもちろん泊まっていってくれるのよねー?」
「あ、その……お願いしようと思ってたいんですが……」
「もちろんいいのよー。私が泊まりに来てっていったんだしー」
「ありがとうございます。その、ウィルも一緒だったんですけど……」
「構わないわよー。部屋は空いてるからねー」
ありがたいことに、ヴィーラさんはウィルと一緒に泊めてくれると言ってくれた。まあ、断られるとは思ってはいなかったけど。
荷物を部屋に置いたあと、夕飯がまだとのことだったのでともに飲食エリアの飲食店へ向かったのだった。
☆
そして夕食から戻ってきて暫く経ったころ。ぼくは居間で明日の謁見の予行練習をしていた。ちなみにウィルは早々にお風呂へ入ったあと、飲み過ぎたから寝ると言って部屋に籠もってしまった。まあ、夕飯時に調子に乗って何杯かエールを飲んでいたせいだろう。
ぼくは当然ながらお酒を飲んでいない。さすがにウィルがいるからといって、また運ばれるような事態となっては困るからだ。
練習を続けていると、ヴィーラさんが居間へやってきた。手には籠を持っていたところだから、洗濯でもしていたのだろう。
「あらー? エリーちゃん何してるのー?」
「あ……その、明日朝に身分の高い人と会うので、挨拶の予行練習をしてたんです」
「そうなのー。けどそろそろお風呂に入った方がいいんじゃないかしらー」
「……ああ、そうですね」
気が付けば夜も更けてしまっている。まだ眠る時間ではないけど、明日も朝から予定があるので、あまり夜更かしはしない方がいいだろう。
「お風呂から上がったら、ちょっと私の部屋まで来てもらえないかしらー。少し、話を聞かせて欲しいのよねー」
「分かりました」
話ってなんだろう? 少し疑問に思ったものの、ぼくはそう答え脱衣所へと向かった。
☆
体を洗ったあと、湯船に浸かり一息。明日のことを考え憂う。
第二王女とはどんな人物だろうか。年齢は同じだというのは分かっているけど、容姿や性格などは何も聞いていない。
どんな話をするのだろう。王族の話す内容なんて想像もつかない。普段以上に口調や態度には気を付けなければならない。
でももしかしたら、形式的にお礼を言われるだけで終わるかもしれない。そこまで心配する必要もないかもしれない。
本来ならば、この役目はエリーが果たすものだったのかもしれない。自身がエリーとなった今、こういった厄介なことはすべて自分で対処しなければならない。
なるべく目立たないように行動してエリーに引き継ぐつもりだったけど、なぜかことあるごとに面倒なことに巻き込まれている気がする。そう考えると憂鬱な気分にならざるを得なかった。
浴室から脱衣所へ戻ると、着ていたはずの服がなくなっていることに気付いた。――なにか、この展開は身に覚えがある。
そして、脱いだ服の代わりに置いてあった服は――。
☆
「ヴィーラさん! またこんな服を……ってわわっ!」
「あらーとても似合ってるわよー」
早歩きでヴィーラさんの部屋までやってきたぼく。中で待っていたのは、煽情的な格好をしてテーブルに着いていたヴィーラさんだった。着ていたのは下着だけ。薄布に映える肌色と、過剰な自己主張をしている一部分。
とはいえ、ぼくもそれに近い服を着せられたわけだけど。ショーツに薄いベビードール。どちらも薄い青で統一されている。下はまだしも、上は大事なところが隠せていない。ベビードールの生地が薄すぎて、透けてみえてしまっているのだ。
脱衣所からヴィーラさんの部屋までそう距離はないけど、途中ウィルに見られたらと思うと恥ずかしい気がして急いで来たのだった。
室内は薄暗く、ドアの傍に置かれたランタンから淡いピンク色の光りが足元を照らしている。
あとなんだろう、なにかお香のような匂いがする。キツイものではないので、不快には感じない。
ヴィーラさんは読んでいた本をぱたりと閉じ、ぼくに手招き。それに釣られるがまま、近くのベッドに腰掛けるぼく。
「……」
妖艶な雰囲気を纏ったヴィーラさんに、声が出ないぼく。ヴィーラさんの目付きは、あのときと同じ。吸い込まれそうな瞳に見つめられ、思わずゴクリと唾を飲む。
ヴィーラさんが、これから何をしようとしているのか。さっき言っていた”話”ではない、と思う。
正直なところ、脱衣所でこのベビードールに袖を通した時点でこういうことになるのを期待していた。
もっと言うと、泊まりに来た時点で――。
一体、どんなことをしてくれるんだろう。期待感で胸がいっぱいになっている。
椅子から立ち上がったヴィーラさんが、ぼくの隣へと腰掛ける。
ヴィーラさんはぼくの頬に軽くキスをすると、そのままぼくを後ろに押し倒した。ぼくは、これからしてもらうことを想像して、身を震わせた。
しかし、ぼくはうっかりしていたのだ。ドアをきちんと閉め忘れて、半開きになっていたことに気付かずにいたことを――。
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