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Chapter3-05 ウィルと王都へ

「……相変わらず速い。全然見えないよ……」


 翌日、テレスを離れ王都へ向かう森の中。魔獣と出会うもウィルが目にも留まらぬ速さで退治してしまった。

 さっきまで居た場所からウィルが突然消え、次の瞬間には魔獣が真っ二つになっているのだ。当然ながらぼくの出番はない。魔獣が群れで出ない限りは、ウィルだけで対処できるだろう。


「エリーには教えておくが……。これは同化した影響なんだよ」

「……え、そうなの?」

「ああ。聖樹からそんな話を聞いた」


 ウィルの話を聞いて、この異常な素早さというのはあの聖域(サンクチュアリ)の事件以降だということに気付く。

 なるほど、それなら納得がいく。


「エリーも同化したら何か変わったんじゃないのか? 聖樹に言われなかったのか?」

「うん、言われたよ。まだ確認はしてないけど。どうやら保有魔力が数倍以上になったみたい?」

「エリーって元から相当の魔力量だったよな。さらに増えたのか……。試してみたのか?」

「まだだけど……。そのうち試そうかなって」


 保有魔力が増えたことの他に、恐らく魔術の威力も増しているのではないかと思っている。さすがに、集落やこの森の中でテストなしに魔術を使うのは憚られた。一度どこかで試す必要があるだろう。まあベストなのは、宮廷魔術師団の練習場だろう。


「そうか……。まあ、俺がいる限りは魔獣は全部倒してやるさ」

「あはは……。ありがとね」


 そういえばこの間の件があって、ウィルとまともに話ができるか不安になっていた。けど朝に合流したとき、ウィルは普段通りに接してくれた。この間のことを詫びたけど、逆になんのことかと聞かれ、答えに窮したのだった。

 やっぱり、ぼくの考えすぎだったんだろう。

 

 不安だったものが解消され安心したところで、ふと思ったことをウィルに尋ねてみる。

「ところで、宮廷魔術師団のラッカスさんから呼ばれているのって、何か心当たりがあるの?」

「ラッカス……ああ、団長か。たぶん、親衛隊絡みの話だと思ってる」

「……親衛隊? どうしてそんなところに?」


 親衛隊といえば、宮廷魔術師と同じく王都の防衛を担っている組織だったはず。けど、なんでその親衛隊とウィルにどんな関係があるんだろう。


「ああ、どこから話が出たのか知らんが、この間王都へ来たときに一戦交えて欲しいと宮廷魔術師団の団長経由で頼まれてな。それで腕試しも兼ねて行ってみたんだが、親衛隊の連中にあっさり勝ってしまってなあ。なぜか親衛隊の人らに模擬戦闘をすることになったんだよ」

「……それ、わたしが話しちゃったからかも……」


 ラッカスさんと雑談をしていたときに、ウィルのことについて話をした記憶がある。ラッカスさんが感心してたから、そこから話が進んだのだろう。


「ごめんね、ウィル……」

「いや、それは気にしなくていい。手当ももらってるしな」

「……そうなの?」

「ああ、この間も報酬をもらったしな。この前泊まった宿だったら、たぶん数泊はできる」


 ウィルはそういうと腰に据えた布袋を軽く振ると、重いジャラジャラとした金属の擦れる音が聞こえた。どうやらぼくと同じで、お金にはあまり困ってないらしい。

 まあお金を持っていても、使う場面はそうそうない。飲食代とお土産ぐらいで、そこまでかかることもないし。

 とくに今回は、宿泊費がかからない可能性が高いのだ。


 ☆


 そうして、暫く歩き進めていたとき。ウィルがチラチラとこちらを見ているような気がする。とくに足元に視線を感じる。

 この感覚は最近ようやく慣れたものだけど――。


「……」


 ぼくはそうじゃないかと思ってウィルをジト目で見ていると、目線を外してあちらの方を向いてしまった。

 女の子になってから数ヶ月。これまでの経験から、ウィルが大体どこを見ていたか分かる。


 今日は宮廷魔術師の服を着ている。例によってこの服はミニスカートで、膝上丈のオーバーニーソックスを履いている。ミニスカートはあまり激しい動きをするとパンツが見えてしまうぐらいの、きわどい丈の長さになっている。視線の方向からすると、そこを見ていたのだろう。後ろは外套(マント)を羽織っているため、心配はいらないのだけどね。


 ぼくも元男だし、見たくなる気持ちは分かる。自惚(うぬぼ)れじゃないけど、自分の姿は相当目立つ(カワイイ)ので常日頃から多くの視線の前に晒されている。そういう視線は感じやすいのだ。


 友人(・・)として、忠告してあげるべきだろうか。女の子をあまりジロジロみるものじゃない、と。

 少し悩んだ結果、友人ならば少しからかってもいいかなと思った。


「……ウィル、さっきからどこ見てるの?」

「うおっ!? い、いや別にどこも見てないぞ」

「本当に? スカートとか見てたりしてない?」

「いや、み、見てない」

「うそつき。見てたの分かってるんだよ」

「いや、スカートは見てない!」


 半ば茶化すように言っていたのに、ウィルがあまりに力強く答えるものだから逆にたじろいでしまった。

 おかしいな、視線の向きはスカートとパンツ辺りだと思ってたのに。


「じゃあ、どこを見てたの?」

「……足だ」

「……え、足?」

「細くて綺麗な足だと思ってな……あと、スカートと黒い靴下の間の白い肌につい見とれていた……すまん……」

「あ……うん、別に、いいけど……」


 思っていたところと違うところを見られていたことに面食らう。あれ、ウィルってもしかして足フェチなのかな……? というか綺麗だとか見とれていたとか言われて、何故か顔が熱くなっているようなぼくがいた。

 ――なんで、少し嬉しいような気分になっているんだろう……?


 からかうつもりが、何だか変な気分になってしまった。ウィルも同じようで、その後はお互いあまり言葉を交わさず、黙々と森の中を進んだのだった。


 ☆


「相変わらず人が多いよな。迷子にならないようにしねえとな」

「そうだね……」


 王都の門をくぐって、王都の街の中へ。いつ来ても街は人でごった返している。

 確かこの間王都へきたときは、はぐれないようにとウィルの手を握っていた気がする。あのときは兄妹として考えていたけど、今は友人だろうか?


 というか、ウィルはすでにぼくのことを知っていた上で、手繋ぎを提案してきたんだよね。うーん、あまり深く考えずに前と同じようにするべきか。

 この人混みの中だと、はぐれてしまっても不思議ではない。ウィルとは身長差もあるし、一度はぐれてしまえば探すのは至難の業だろう。


「また手、繋ぐ?」


 ぼくはそう言い右手を差し出し、ウィルの方を向く。ウィルは目線を合わさずに、どこか違う方向を向いていた。もしかして、ウィルは恥ずかしいのだろうか。


「ほら、行こう?」

「あ、ああ……」


 難しいことは考えずに、エリー(わたし)とウィル同士のまま付き合えばいいのだろう。そう考えたぼくは強引に腕を掴み、ウィルを引っ張るように歩き始めた。


 大通りをウィルとともに歩く。人は多いけれど、宮廷魔術師服を着ている限り因縁をつけてくるような人はまずいない。まあ仮にそんな人がいたとしても、今はウィルがいるので安心だ。

 なんとなくいつもより視線の多さを感じる。何だろうかと思ったけど、この間起こった魔獣襲撃の件で宮廷魔術師の名前が売れたのだろう。そう思うことにした。



 飲食エリアのカフェで昼食を摂ったあと、宮廷魔術師の詰所へ。詰所に入るとまた何か視線を感じる。いつもとはまた違った視線を不思議に思いながらも、ラッカスさんの部屋へ向かう。


 そして、ラッカスさんの部屋。ラッカスさんはぼくを見るなり、エリネの心配をしてくれた。けれどラッカスさんには本当のことが言えないので、レティさんへ行った説明と同じ内容を伝えた。ラッカスさんは残念がってはいたけど、無事だったならよかったと言ってくれた。


「ああそうだ、この間救助した第二王女の件だが、是非とも直々に礼をしたいと仰っていてな。都合がよければ謁見してもらいたいのだが……」

「……第二王女が、ですか? えっと、第二王女を直接助けたのはレティさんですよね?」

「ああ。レティ君はもう謁見して礼を受けた。その際にエリクシィル君の話になって、エルフの少女が(ドラゴン)を倒したと聞いて是非話がしたいと仰っていたのだ。第二王女の年齢はエリクシィル君と同じだし、なにか親近感を感じられたのかもしれない」


 ラッカスさんの言葉にぼくは思案する。第二王女はぼくと同い年だったのか。その年で一人で抜け出して馬車を操るなんて、なかなかの豪快な人なのかもしれない。とはいえ、相手は王族。粗相のないようにしたいけど、ぼくはこういった礼儀作法を(わきま)えていない。

 以前ラッカスさんから聞いていた、王族が集まるパーティーのときまでには身に付けておこうとは思っていたけど。こんなに早く、しかも第二王女などと位の高い人に会うことになるとは思っても居なかった。恐らく、相応の礼儀作法があるはずだ。


「そうなんですか……時間は、明日の朝でいいでしょうか? けど、わたし謁見のマナーを知らないんですけど……」

「分かった。私から伝えておく。マナーに関しては、女性の団員に指導してもらうといい」

「分かりました」


 そうしてぼくの用事は済み、ウィルを残して部屋を退出し詰所の皆が集まる部屋の中へ。やはり視線が気になる。そのうち、女の宮廷魔術師の人から声を掛けられた。


「エリーちゃん、さっき一緒にいたエルフの男の子って誰なの? この前も居た気がするけど……もしかして彼氏?」

「え……その、ウィルとはそういうのじゃないです」

「ウィル君っていうんだ。昼前にエリーちゃんが誰かと手を繋いで仲良く歩いてるのを街で見たって子がいて、誰なんだろうって詰所で噂になってたんだけど……」


 そんな話になっていたのか。だから、さっき視線を感じたのだろう。

 でも彼氏って――。ウィルとは結構身長差があるし、年齢も三つはなれてるし。普通に兄妹として見えると思ったんだけど。手を繋いでいたのがまずかったのだろうか。


「ウィルは同じ集落の幼馴染みで、兄みたいなものです」

「……本当に?」

「はい。本当にそういった関係ではないですから……」

「……そうなんだ。エリーちゃんも彼氏を連れ歩くようになったのかなーって思ったんだけどね。気を悪くさせちゃったらごめんね?」

「あはは……別に気にしてないです」


 女の人はどこか残念そうな顔をしながら、ぼくの元から離れていった。

 少なくとも、ぼく自身はウィルに対して何も思っていない。そもそも中身的には友人同士なのだ。わたし(・・・)とウィルからしても幼馴染みで間違いはない。


 ぼくに対しては、友人として付き合ってくれることに納得してくれたのだ。だからそれでいい。

 一方のわたし(・・・)の気持ちは、考えないようにしていた。それが正しいのかどうかは分からない。今は、このままの方がいい――はずだ。ぼくはそう思っていた。


 その後は女性の宮廷魔術師にお願いをして、夕方ウィルが戻ってくるまで礼儀作法を教えてもらっていたのだった。

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