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Chapter2-18 薬草採集

 数日後。期間(・・)が終わってようやくまともに動けるようになった。あの日からぼくはシアから言われたことを実践というか、実行に移している。


 とは言っても特別なことをする訳ではない。今まではエリー(女の子)を演じてきたけど、それをやめることにしたのだ。

 まあ意識を変えるというだけなのだけど、すっかり女の子の生活が板についてしまったせいか、ほとんどそれが変わることはなかったのは何か悲しい。男としての尊厳プライドは一体どこへ行ってしまったのか――。



 そして今日から、再び魔獣退治へと参加している。またいつも通り、シアとエリネが一緒だ。ちなみに、服装は例の宮廷魔術師の衣装だ。

 シアにこの衣装を初めて見てもらったとき、


「似合ってはいるけど、体が衣装に負けてる感じがする」


 との言葉をいただいた。かなり痛いところを突かれてしまった。

 エリーの部屋の姿見で自分の姿を確認したとき、カッコイイ感じはした。のだけれど身長が短いせいで”魔術師”というより、元の世界のアニメに出てくるようないわゆる”魔法少女”のようなイメージに近い気がしたのだ。エリーの両親が「かわいい」という感想を言っていた理由が、分かったような気がした。


 それはさておき、この衣装は実際に着ているととても動きやすい。外套(マント)がヒラヒラしていたりするけど、意外と気にならない。軽い素材で出来ているからだろうか。

 ただ、激しく動くとスカートが捲り上がりそうになるのは面倒だ。外套(マント)で守られている後ろはともかく、前はどうしようもない。シアからはしゃがみこむのもよくないと注意を受けた。確かに、ぱんつが丸見えになってしまうだろう。

 いつもの服はロングスカートだったから気にしなかったけど、この衣装を着るときは細心の注意(・・・・・)が必要なようだ。



 今日はいつもの巡回ルートを回ったあと、とある場所へ寄り道をしている。シアから補充したい薬草(ハーブ)があるので、少し採取に付き合ってほしいと言われたためだ。

 目的の薬草(ハーブ)は、この森の中に自生しているらしい。シアの調合する飲み薬(ポーション)には本当にお世話になっているし、ぼくは二つ返事で了承したのだ。


 ☆


 着いた先は他のエリアと変わらない、とくに何の変哲もないところ。ただ、木々の間の地面に見慣れない植物が多く自生している。どうやら、これが薬草(ハーブ)らしい。

 薬草(ハーブ)の知識がほとんどないぼくは、シアにどうすればいいか尋ねてみる。


「シア、どれを集めればいいの?」

「そうね……これと、これかしらね」


 そう言ってシアが指差したのは、二種類の薬草(ハーブ)。一方は(ヨモギ)に似たようなもので、もう一方は車前草(オオバコ)に似たものだ。周りを見渡してみると、同じものが群生している場所がいくつかあるようだった。


「採るときは、大体この大きさのものを採って。あと、根こそぎ採っては駄目。今後自生しなくなるから、必ず少しは残して」

「うん、分かった」


 シアから見本の大きさの指示を受け、採取用のナイフを受け取る。シアはこの付近に群生しているものを採るということで、ぼくは少し離れた場所で採ることにした。



「エリネは、シアの採集を手伝ったことあるんだよね?」

「うんー。わたしだけで来たこともあるよー。……あ、それちょうどいい大きさかも!」

「これだね。ありがとう」


 エリネと話をしながら、目的の薬草(ハーブ)を探す。

 ――採集で思い出したけど、ぼくがエリーになった日も確かシアから採集のお使いを受けていたんだよね。湖で気付いたときは薬草(ハーブ)を持っていなかったから、どこかへ採集しにいく途中だったのか。もしかしたら、湖の近くに自生している場所があるのかもしれない。

 まあ、単純にお使いを忘れていた可能性も否定できないけど。



 そうして採集していき、いくつかの束を作って持ってきた布袋へと放り込む。そういえば、どれだけ採集すればいいんだろうか。分からなかったのでエリネにお願いして、シアまで聞きに行ってもらった。

 他にも目的の薬草(ハーブ)がないか、周りを少し確認しようと足を動かしたそのとき。


「へぶっ」


 なにかに足を引っ掛けて体のバランスを崩し、盛大に前のめりに倒れてしまう。

 石にでもつまづいただろうかと思って体を後ろに向けると、大きな木――いや木のような何かがあった。

 それは大人の背丈ほどある木で、そこから無数の(つた)が伸びていた。(つた)はそれぞれ意思を持ったかのように、(うご)めいていた。


「えっ、なにこれ!?」


 目の前にあるものが何か理解できず狼狽(うろた)えるぼく。次の瞬間、ホースぐらいの太さがある(つた)の一本がぼくの足に絡みつき、強烈な力で体を引っ張られた。


「うわ、うわわっ!」


 突然のことに驚きつつも、踏ん張って耐えようとしたぼく。けれど体はそのまま宙を浮き、逆さ吊りの状態にされてしまった。顔の目の前に地面が広がっている。目線を上に向けるとスカートがだらりと下がって、露わになったショーツが映っていた。


「きゃ、きゃあっ!」


 思わず声を上げて、左手でスカートを上に押さえつけるぼく。けれどそれはスカートが短いせいで、ほとんど意味を成していない行動だった。


「こ、このっ! 風の(ウインド)……うぐっ!?」


 (つた)の本体の木に向かって魔術を使おうとしたぼく。けれど発動途中に、突然口に(つた)を突っ込まれてしまった。口の中を動き回る(つた)に息苦しさを覚える。


「むーっ! むーっ!」


 口に突っ込まれた(つた)を引き抜こうと右手で(つた)を掴む。けれどすぐに右手に別の(つた)が巻き付き、自由を奪われてしまった。左手も同じように拘束されてしまった。


 体をねじって抵抗をするけど、力強く抑えられた(つた)に対しては何もできなかった。

 体の至る所を(つた)が這い、嫌悪感が体を襲う。

 助けを呼ぼうにも口に(つた)が入っているせいで、声もろくに出せない。


 とにかく落ち着かなきゃ、と思ったその矢先。

 口に入っていた(つた)が、そのまま喉近くまで押し込まれた。同時に喉に突然熱いもの(・・)がかけられた。


「むぐっ!?」


 喉が焼け付くように熱い。吐き気が襲ってくる。逆さ吊りになっているせいで、かけられた何かがすぐに喉奥から口まで下ってきた。鼻の方にまでそれが入ってしまう。鼻がムズムズしてクシャミが出そうになる。


 そしてまた別の(つた)がやってきて、それは真っ直ぐにぼくの――。


「んーっ! むーっ!」


 そこだけはまずい。ぼくは必死に体を捻って抵抗する、その瞬間。


風の刃(ウインド・カッター)!」


 その声と何かを切り裂く音が聞こえた瞬間、体が左右に振られた。そのまま吹き飛ばされ、背中から体を地面へ打ち付けられる。息苦しさからは解放されたけど、()せてしまってゴホゴホと咳が止まらない。喉にかけられたものが器官にでも入ってしまっただろうか。息ができないからか、酸素が頭に行かずくらくらとしてきた。


「エリー、大丈夫!?」


 シアがぼくの方へやってきて背中をさすってくれた。吐きそうになるのをなんとかこらえる。じきに少しずつ咳が落ち着いて、息が整ってきた。

 何か口の中がやけに甘ったるい。あのかけられたもののせいだろうか。口をゆすぎたいと思いつつも、シアにお礼を言う。あれは一体なんだったのだろうか。


「あれはドリアードと言って木に宿った精霊なのだけど、ああやって私達を襲うことがあるのよ。滅多に逢わない相手なのだけど、不運だったわね……」

「そうなんだ……ドリア―ドはどうなったの?」

「エリネの魔術を受けて逃げて行ったわ」

「そう、なんだ……」


 シアの説明を聞きながら、先ほど受けた喉の熱いものがなにか全身に広がっていくのを感じた。まるでお酒を飲んだときの、あの熱さのようだ。顔がとても熱を帯びている感じがする。


「……エリー? どこか具合が悪いの?」


 シアはそう言って心配そうにぼくの方を見る。

 そのシアの顔を見たとき、急に胸がドクンと鼓動をした。


 ――シアって改めて見ると、かわいい顔付きをしている。ツリ目はキツく見えるけどチャームポイントの一つだ。整った顔付きに、瑞々(みずみず)しい(くちびる)

 胸がドキドキする。シアの顔を見ていると、その可愛さに引き込まれてしまいそうだ。体から湧き上がる、とある衝動に我慢ができない。

 ぼくはシアの体を強引に引き寄せて、唇を合わせた。


「むっ!? んー! んー!」


 口を塞がれたシアから声が漏れる。

 ぼくはいつだったかヴィーラさんからされた(・・・)ように、自分の舌をシアの口の中へ差し込んだ。ちう、ちうという水音が辺りに響く。数十秒ほどシアの口を堪能したあと、口を離す。


「ちょ、ちょっとエリー!? 何するのよ!」


 暫く(ほう)けていた様子のシアだったけど、ハッとしてぼくにそう言ってきた。急にしてしまったのでびっくりしたかもしれない。でも、ぼくにはキスをしたいという衝動は抑えられなかった。


「んっ……え、エリネ、エリーのこれって、もしかして……!」

「うんー、たぶんドリアードの樹液を飲まされたんだと思うけどー。こうなっちゃったら、もう発散させてあげないと収まらないよねー?」

「そ、そんなこと言われてもどうしろって言うの!」

「どうしろも何も、スッキリさせちゃえばいいんじゃないのー? 周りに誰もいないし、気にしなくて大丈夫だよー?」

「そういう問題じゃ……きゃっ」


 シアとエリネは何か話していたようだけど、ぼくはもう止められなかった。シアをドンと地面に押し倒したぼくは、再び唇を合わせた。


「シア……一緒に……ね?」

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