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Intermission-04 ウィレイン③

掲載はChapter2-09の予定でしたが、その前にIntermission-04を挟むことにしました。

ウィレイン視点の幕間話になります。

前話の引きがアレでしたので、それの前後のお話になります。


 エリーたちと宿屋へやってきたのは、夕方を回った頃だ。ここは、宮廷魔術師団の同僚の人に教えてもらった宿屋らしい。外装が綺麗で、受付も清潔にされている。他の宿より少し料金が高い宿だとエリーが言っていたので、そこそこのランクの宿なのだろう。


 受付はエリーの方が慣れているみたいなので、任せることにした。俺はこの世界の字の読み書きができないから、それができるエリーに任せた方がスムーズに事が進む。

 三歳下に出来て俺は出来ない、というのは少し情けないような気がする。――中身は、同じ年齢のはずなのに。


「え、一部屋しか空いてないんですか?」


 エリーからそんな言葉が聞こえた。話を聞いてみると、団体の予約がありその部屋しか空いてないのだとか。しかも、ツインベッドならともかく、ダブルベッドの部屋とのことだ。

 俺とエリーが同じベッドで寝る、というのはさすがにまずいだろう。何がまずいかって、俺が色々と我慢できるか不安だからだ。好きな女の子と一緒のベッドで寝るとか、想像しただけでも危険な行為だ。俺の理性が持ちそうにない。

 たとえ、中身が親友であったとしてもだ。


「エリー、やっぱり別の……」

「その部屋でいいのでお願いします」


 エリーは俺の言葉を遮って、受付にそう伝えた。

 ――正気か!?


「おいエリー!?」

「……? どうしたのウィル?」

「同じ部屋ってまずいだろ!?」

「? 何がまずいの?」

「何がって……そりゃあ……」


 何がおかしいのか分からない、と言うような表情を浮かべているエリーに対し、俺は答えあぐねていた。正直に「俺の理性が持つか分からないから」だなんて、言えるはずがない。


「……? よく分からないけど、たぶんここで決めないと、部屋が埋まっちゃうよ?」

「いや……しかしな……」


 エリーの言うことは分かる。ここで決めずに、例えば他の空いている宿を探しに行っている間に、ここが埋まってしまうという可能性が大いにあるからだ。

だが、それとこれとは話が別だ。


「……本当は別々の部屋がいいけど、わたしは我慢(・・)するし。……ウィルは我慢(・・)できない?」


 エリーから追い打ちをかけられるかのように、お願いに近い言い方をされた。――エリーの言っている我慢は、きっと俺の思っている我慢とは違うものだろう。しかしここまで言われてしまうと、俺が我が侭を言っているような気がしてならない。


「我慢、我慢か…………。はあ、分かったよ」


 俺は諦めて、エリーに了承する旨を伝えた。

 今日は鋼の意志(・・・・)を持って過ごすことになりそうだ。過ちを犯してはならない、という意志だ。



 宿泊の手続きが済んだ後、部屋に荷物を置きに行く。まあ事前の案内通り、ベッドは一つだった。大きめのベッドで、枕は二つ置かれている。ここに、俺とエリーが寝るのか――。

 とりあえずそれは見なかったことにして、エリーに夕飯をどうするか尋ねる。どうやらこの宿はレストランが併設されていて、無料で夕食が提供されるとのことだ。あと、大浴場もあるとのこと。


 話し合った結果、先に体を流してから夕食を一緒に食べようと言うことになった。合流先はレストランだ。俺はエリーたちと別れて大浴場へ向かった。


 脱衣所で服を脱ぎながら、俺は考える。当たり前のようにエリーは女の大浴場へ行ったけど、中身は男の彼方(・・・・)のはず、だよな。これまでのエリーの口調や仕草とかを見てても、とてもそうは思えなかったのだが。まさか、あの聖樹とやらが嘘を吐いていたのだろうか。考えてみたが、聖樹がそんな嘘を吐くメリットがあるとは思えなかった。


 ☆

 

 風呂はとても広く、ゆっくりと浸かることができた。元の世界の日本人的には、こういった風呂があるのはありがたいところだ。


 そして、レストランへ。客席を見渡してみるが、エリーたちはまだ来ていないようだった。ウエイトレスがやってきたけど、連れが来るまで待って欲しいことを伝える。どのみち字の読めない俺だけじゃ、注文できなさそうだからだ。


 数十分後。ようやくエリーたちがやってきた。正直結構待ったせいで少し気分が悪かったが、こんなことで怒ってはいけないだろう。エリーに嫌われたくない俺は、冷静に声を掛ける。


「えらい遅かったな。何かあったのか?」

「待たせてごめんね……色々あってね……」

「……?」


 遅くなった理由を尋ねてみたが、何か歯切れの悪い返事だった。まあ、風呂は女の方が長いのは仕方ない。元の世界の母親もそうだったからだ。きっとその辺りと同じだろう。俺は深くは聞かないことにした。


 料理は二種類から選ぶそうで、昼に魚を食べたから肉を選んだ。エリーは魚。あと、飲み物も選べるそうだ。


「あ、お酒も選べるみたい」


 エリーがそう言って俺の方を向いた。酒か――。俺はウィレインの知識をもとに、とある飲み物がないか聞いてみることにした。


「酒か…………。エールってあるのか?」

「えーと……うん、あるよ」

「じゃあそれにするか。エリーはどうするんだ?」

「わたしは……果実酒、にしようかな」

 

 エリーもどうやら酒を頼むらしい。この世界は十二歳から酒が飲める、というのはウィレインの知識から得ていることだ。

 ところで、エリーは酒を飲んだことをあるのだろうか。


「……エリー、酒大丈夫だったか?」

「たぶん? 飲んだことはないけど、前から飲んでみたかったんだよね」


 そう言ってエリーはウエイトレスを呼び、料理と飲み物の注文をしたのだった。



 注文して暫くのあと、飲み物が先に運ばれてきたようだ。俺の前に置かれたのは、エール。どう見ても元の世界のビールだ。エリーには果実酒。元の世界では未成年だったから当然飲んだことはなかったが、俺はこの味を知っている。ウィレインが何度か飲んだことがあるからだ。

 俺はグラスに注がれたエールを、グイッと飲んだ。冷えた炭酸が喉にチクチクとする。同じ炭酸のコーラとは違った味に少々戸惑いながらも、グラスの三分の一ほどを空けた。美味い、のかどうかはよく分からなかったが、炭酸の爽快感はあった。エリーの方を見てみると、ゆっくりと果実酒を飲んでいるようだった。ちびちびと飲むその姿は、女の子らしく可愛い。


 じきに料理が運ばれてきて、酒と一緒に堪能する。ふとエリーを見ると、手が止まっていることに気付く。どうしたのかと顔を見ると、顔色がよくないようだ。


「エリー大丈夫か? 顔が真っ青なんだが……」


 どうしたんだろうか。顔に手を当てて、何か辛そうな表情をしている。――もしかして、酒が合わなかったんだろうか。


「ちょっと……トイレに行ってくるね……」


 声を震わせてそう言ったエリーが立ち上がる。しかし足はふらふらだ。大丈夫か、と声を掛けようとした瞬間。バランスを崩してその場に倒れ込んでしまった


「おい、エリー!? 大丈夫か!?」


 倒れ込んでうつ伏せになってしまったエリーに対し、声を掛ける。しかしエリーからは返答はない。体を起こして顔色を見ると、やはり真っ青だった。恐らく、酒にやられてしまったのだろう。

 俺はウエイトレスを呼び、宿の従業員を呼んでもらうよう頼んだ。



 気を失ってしまったエリーを抱えて、俺は客室まで向かう。このスタイルは、いわゆるお姫様抱っこというやつだ。ちなみにエリーの腹の上には、同じく酒に酔い眠ってしまったエリネもいる。

 エリーの体は恐ろしく軽かった。ちゃんと食べているのだろうか、と心配になる。

 両手が塞がってしまっているので、宿の従業員に部屋の鍵とドアを開けてもらう。礼を言い下がってもらった後、エリーをゆっくりとベッドに下ろす。お腹に乗っていたエリネも、横に下ろしてやった。そしてエリーの靴を脱がせた。ベッドの上だから、靴のままはよくないだろうと思ったからだ。


 俺はベッドの縁に腰掛けて、エリーの寝顔を覗いてみた。顔色はまだ悪いが、すう、すうと規則正しい呼吸をしている。しばらく休んでいれば、じきに良くなるだろう。


 そんなエリーを眺めていると、突然俺の中の黒い悪魔が目を覚ました。意中の女の子がこんな無防備な姿で前にいる。自分のモノにするなら今のうちだ、と俺に囁く。


 俺はその悪魔の声に必死で抗う。無抵抗な女を襲うなど、最低の行為だ。

 ましてやその相手は恋愛対象かつ、親友だ。そんなことが許されるはずはない。


「ん……んぅ」


 寝言だろうか、やけに悩ましい声を上げてエリーが寝返りを打つ。その際にスカート部分がはだけ、白く細い脚が露わとなった。その光景に俺はゴクリ、と喉を鳴らす。そこに目が釘付けとなってしまっている。

 再び俺に黒い悪魔が囁く。脚ぐらいなら触っても何も問題ないだろう、と。

 その悪魔の声に、俺の心は大きく揺れ動く。脚、脚ぐらいなら大丈夫なのか。好きな女の、柔らかそうな脚がそこにある。俺は――。



 数分の脳内での格闘の後。俺は自分自身に言い訳をする。さっき靴を脱がせたときにもう脚は触っている。脚ぐらい触っても大丈夫だと――。


 スカートから覗く脚に、俺は手を伸ばす。その手はついに太ももに到達し、触れた。すべすべ、つるつるな肌。産毛すらないんじゃないかと思えるほどだ。

 太ももからふくらはぎの辺りを撫で回す。脚とはいえ、初めて触れる女の体に、俺は言いようのない高揚感を感じていた。


「んっ……」


 ビクッとエリーの体が震え、俺は急いで手を離す。起こしてしまったか、と思ったけどそうではなかった。エリーはまた寝返りを打って、体は上を向いた。


 ふと、エリーの顔を見る。構成されている全てのパーツが完璧に整った顔に存在している、唇。ふっくらとしてみずみずしい唇、そこも奪ってしまいたいという考えが沸き立ってきた。これは、悪魔の声ではなく、自分の意思だ。


 俺は迷うことなくエリーの顔に自分の顔を近づけ、エリーの唇へと唇を合わせた。俺の、ファーストキスだ。もしかしたら、エリーもファーストキスかもしれない。

 エリーのそれ(・・)を奪ってしまったかもしれないという、その背徳的な達成感に、俺の心は震え上がった。


 しかしそれも束の間。やりたい事を一通りやって満足してしまったせいか、急激に興奮の熱が冷めてきた。

 そして自分の犯した過ちに、気付いてしまった。


 俺は、酒で酔いつぶれた無防備の女の子、しかも恋愛対象の、さらには親友に対して、何をやったのだろう。

 どう考えても、言い訳のできない、許されない行為だ。


 自分のしでかしたことに青ざめた俺は、ベッドの上に転がっていた枕を一つ取り。床に置いて、ベッドを背にして横になった。


 エリーに合わせる顔がない。明日起きたら、俺はまともにエリーの顔を見ていられるだろうか――。

 後悔と自責の念に襲われながら、俺は眠りについた。



 しかし、俺は致命的なミスを犯していたことに気付いていなかった。

 寝ていたかと思っていたエリネが、途中で目を覚ましていたということに――。

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