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Chapter2-04 エリネとお風呂で

 エリーの自宅へ帰ってきた後、エリーの両親に改めてエリネを紹介した。これから一緒に暮らしたいとお願いすると少し驚かれたけど、すぐに了承してくれた。どうやら精霊が家で生活するというのは、ありえないことらしい。一緒に連れ添うだけで極めて珍しい、とか長老が言っていたから仕方のないことかもしれない。

 部屋はぼくと同じということに。まあ当然だろう。そもそもがエリーが住んでいた部屋だから何も問題はない。体が小さいから、ベッドは一緒に寝れば大丈夫だろう、ということになった。


 その後、エリーの自室へ戻り明日の準備をした。前回王都へ行ったときはポシェットをしていったけど、今回は以前買ってきた鞄を背負っていくことにする。何が必要だろう。そういえば、今回は泊まる必要があるのだろうか。


 暫く考えて、念のため泊まる心構えをした方がいいと判断した。簡単な着替えだけは持っていく方がいいだろう。


 あと、お金。お金については、今回も長老からもらう形になった。さすがに二回目ももらうなんて、と断ろうとしたけど。普段から魔獣退治をしてくれているからそれの駄賃として受け取って欲しい、と言われた。そうも言われると無碍(むげ)に断るのも、と思い受け取っておいた。まあ、お金はあるに越したことはない。


 準備が済むと時間も夕方になっていたので、いつも通り夕食の手伝いをした。途中エリネが色々ちょっかいを出してきて少し大変だったけど。食事を作っていてふと気になったことがある。精霊の食事事情だ。

 エリネに聞いてみると、食べてもいいし食べなくてもいい、とのことだった。自然に満ちている魔力を摂っていれば(・・・・・・)、体を維持できるらしい。実際、ぼくの周りにいた一か月ほどはそれで問題なかったとのことだ。それと、ぼくから溢れていた魔力をつまみ食いしていたらしい。自然に満ちているものより質がいいとかなんとか。よく分からないけど、そういうものなのだろうか。


 折角家で暮らすのだから、食事も一緒にしたらいいんじゃないかということで。エリネの食事も準備することにした。体の大きさが大きさなので、本当に少ない量になるけど。小皿一つ分だ。まるでペットのよう――と思ってしまったのはエリネには秘密だ。

 当のエリネは、体の大きさに釣り合わない木のスプーンを使って上手に食べていた。もきゅもきゅと食べるその姿は愛らしく、見ていて微笑ましい様子だった。



 そんなこんなで食事も終わり、片付けも手伝った後。お風呂の時間だ。昨日入ろうとしたけど体が疲れているのだから止めておきなさい、とフィールから止められた。風邪じゃあるまいし問題ないんじゃ、と思ったけど。無理して入って心配をかけるのも心苦しかったので、素直に従った。

 そのときは布で体を拭くことになったのだけど、何かエリネの視線を感じた。なんだろう? ――自分の体だから、何か気になったのだろうか。他ならまだしもエリーになら見られてもまあ仕方ないかと思い、深くは考えなかった。


「~~♪」


 脱衣所で服を脱ぎながらつい鼻歌を歌ってしまった。魔力切れで眠っていたときも含めて三日ぶりのお風呂に、胸が躍るような感じがする。

 ――ぼくはここまでお風呂が好きだっただろうか。まあ、入ると気持ちいいし。そのせいだろう。風呂は命の洗濯、という台詞もあるぐらいだ。


「……ん?」


 そして風呂場に入ると、何か気配を感じた。後ろを振り向くと、エリネがぼくの顔の高さの位置にいた。――全裸で。


「う、うわっ! ご、ごめん!」


 ぼくは慌てて別の方向を向く。まさかエリネがいるとは思わなかった。けどエリネはあははと笑いながら。


「気にしなくてもいいよー? 減るもんじゃないしー」


 と言うのだった。女の子なんだからもう少し恥じらいを――と思ってしまった。これでは、どちらが男でどちらが女なのか分からない。


「……精霊でもお風呂に入るんだ?」

「他の精霊達は水浴びをしてるみたいだよー? わたしはお風呂に入れるなら入りたいしねー」


 精霊もエルフ族と同じで、汗をかかない種族だったりするんだろうか。聞いてみるとそうだった。そして実体化していない状態だと、体は一切汚れないらしい。


 宝石(ジュエル)に触れて、シャワーを出す。水温は、体温よりほんの少しだけ温かい温度。心地よい感覚に心が安らぐ。

 シャワーを浴びている間も一応、エリネは見ないようにはしている。エリネがどうしているのかは分からない。そういえば、気になったことがあったのでエリネに聞いてみることにする。


「背中の羽って濡れても大丈夫なの?」

「うんー。水を弾くから乾かす必要もないし楽だねー」


 あの鮮やかな羽は、都合良くできているようだ。濡れてダメになるようなら、雨の日は全く動けなくなってしまうだろう。そんなことを考えつつ、ぼくは体を洗うために掛けてある布に手を伸ばした。


 けど、その視線の先にエリネがいた。そして、エリネはぼくの前に近づいて、胸部を凝視している。


「え、エリネ……?」

「うーん、こうして自分の体を見ると複雑な気分だねー。 えぃっ」

「……ひあっ! ちょっと、エリネ!?」


 脇腹を突かれ、思わず声を上げてしまうぼく。手を離したエリネは腕を組んで。


「うーん、感度良好と」


 エリネはそんなことを言いつつ、ウンウンと首を上下に振っていた。


「こうやって触ってみると柔らかいねー。ふにふに」


 次はお腹を揉みながら、そう喋るエリー。脂肪はほとんどないんだけど、そんなに柔らかいんだろうか……?


「ちょ、ちょっとエリー。やめてよお……」


 なんとも言えない、こそばゆい感覚にそう返すぼく。というか、エリーは一体何をしているんだろう。ぼくの体――というか自分の体(・・・・)を弄るなんて。


「こっちはイマイチかー。じゃあこっちはどうかなー?」


 ぼくの言っていることは気にもせず。エリーはパタパタと飛び上がり、ぼくの頭の右横まで移動する。――まさか。


「ちょ、エリネ、そこはやめ……ひうぅっ!?」


 ぼくの静止を振り切り、エリネはぼくの長い耳を小さな手でつぅとなで上げる。普通に撫でられる感覚とはまた違ったそれに、変な声が出てしまう。


「あはは、やっぱり弱いんだー。部屋で一回してた(・・・)時も、よさそうだったもんねー」


 ケラケラと笑いながらエリネはそんなことを言う。

 ――あれも当然見られていたのだ。分かっていたとはいえ、はっきり言われるともの凄く恥ずかしい。顔が熱くなるのを感じた。


「うわー、エリーの顔真っ赤! シャワーのせいかな? ……それとも?」


 エリネはニヤニヤとした顔付きで、ぼくにそう口撃(・・)してくる。もう、ぼくは何も言えなかった。恥ずかしすぎる。

 そんな様子に気を良くしたのか、エリネはとんでもない発言をする。


「じゃ……もっと気持ちよくなっちゃうおうか?」

「え、それってどういう……ひっ!?」


 ぼくが言い終わるのを前に、再びぼくの耳を撫で始めた。

 その後、風呂場にはしばらくの間、ぼくのくぐもった声が響くことになるのだった――。


 ☆


「ひ、酷い目に遭った……」


 体が重い。いや、気怠(けだる)いと言った方がいいのかもしれない。

 声を我慢しながらは本当に辛かった。これを続けたら何か別のものに目覚めそうな気がする。次は声は我慢したくな――いや、そういう話ではない。


「あははー。ちょっとやりすぎちゃった?」


 ぼくをこうさせた元凶はニマニマと笑いながらそう言った。

 ――ぼくはエリネが、なぜこんなことをしたのか理解できなかった。というか、本来の体の持ち主が自分の体に対してこんなことをするなんて。


「……どうしてこんなことしたの?」


 ぼくは直接エリネに聞いてみることにした。しかし、エリネから帰ってきた言葉は思いもよらぬものだった。


「……エリーが体のことでまだ色々と遠慮してるのかなーって思って。あと、聖域(サンクチュアリ)から戻ってきてから元気がなかったし、ちょっとでも元気になってくれればって思ってねー」


 ぼくはその言葉に唖然とする。まあ、前者は確かに事実だ。いくらエリネから好きにしてもいいとは言われても、気持ちの上では引っかかりを感じていた。それよりも、後者ははっきり言って呆れてしまった。


「いや、それにしてももっとやりようがあるでしょ……」

「これでも考えたんだよー!」


 腰に両手を当て堂々と答えるエリネ。思考は一体どうなっているんだ、とか考えていたら何か無性におかしくなってきた。


「考えた結果が……これ……ぷぷっ」

「あー、ひどい! これしかないと思ってたのにー!」


 エリネはそう言って、頬を膨らませてぷりぷりと怒っていた。その様子がまたおかしさを誘う。気付けばぼくはお腹を抱えて大笑いをしていた。風呂場の外に笑い声が聞こえているだろうけど、止められなかった。

 一頻り笑ったところで、エリネがぼくの前にフワフワと飛び立って。


「やっと笑ってくれたねー! やっぱり、色々考えるよりも笑っていた方がいいと思うよー」


 そう言うとエリーはニコっと笑顔を向けた。

 ――エリネの思い通りになってしまったのはあれだけど。思い切り笑ったことで少し心がスッキリしたような気がした。



 そうして体を洗った後は、エリネと一緒に湯船に浸かった。エリネは湯船の中を泳ぎ回っていた。体が小さいとこんなこともできるんだな、羽があるのによく泳げるな、とか。エリネをボーッと眺めながらそんなことを考えていた。



 お風呂から上がった後は、ずっとエリネとお喋りをしていた。話していて気付いたことがある。エリネは突拍子もないことをするけれど、ぼくのことをよく考えてくれているということだ。

 自分が精霊になるという目に遭っていても、自分を(かえり)みずぼくの心配をしてくれているのだ。どうしてそこまでしてくれるのかは分からないけど、心遣いには本当に感謝したい。

 エリネがそこまでしてくれているのだ。ぼくは、真面目にエリーの務めを果たさなければならないだろう。改めてそう心に誓った。



 お互い眠くなってきたところで一緒にベッドに入り、眠りにつく。ふと、寝返りを打ったらエリネを押し潰してしまうのではないか、と不安になったけど。エリネは大丈夫だよ、と言ってきた。何が大丈夫なのだろう。


 目を(つむ)る前に、とある考えが過ぎる。エリネとぼくの関係は、何と表現すればいいのだろう。たぶん、友達とかがそれに近いのだろうけど。何か違うような気もする。

 今日のお風呂の件は、ぼくのことを思って行動を起こしてくれたのだけは確かだ。ただ行動そのものは、ちょっと理解しがたいけど。


 耳元からは、早くも寝息が聞こえてきた。釣られて瞼が重くなってきたぼくは、そのままそれに意識を委ねたのだった。

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