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Chapter2-02 報告

 明くる日。ぼくは家を出る準備をしていた。長老へ報告と確認をするためだ。

 本当はあの後すぐにでも行きたかったのだけど、フィールに「今日は寝てないとダメよ」と止められて、しぶしぶ自室で横になっていた。


 その代わり、昨日はエリーと一日中話をしていた。これまでの事とか、これからの事とか。

 エリーは本当にずっとぼくを見ていたようだ。あんなことやこんなことまで、全部見られていた。話を聞くたびに顔が真っ赤になって、掛け布団で顔を覆ったぐらいだ。


 話してみてやっぱり不思議に思ったのは、エリーの態度だ。

 ぼくはエリーに対して負い目を感じていたのだけど、当のエリーは全然気にしていないようだった。


 何でだろう。仕方がない状況とはいえ、自分の体を奪われているのに。ぼくがその立場だったら、このように平然としていられないと思う。

 それにも関わらず、ぼくに自分の体だと思っていいとまで言う。その思考が理解できない。


 エリーの性格は明快闊達(めいかいかったつ)だ。さらに言うと、ぼくの性格上そこまで喋るのは得意ではないけど、エリーが次から次へと話題を出してくれて話が止まらない。本当に一緒にいても飽きない相手だ。


 ぼくとは性格も全く異なるのに、一緒にいると心地良い気分になる。まともに話したのは昨日が初めてだというのに、まるで長年一緒にいた幼馴染のような感覚だ。


 さてこれから報告することは、ぼくとエリーのことだ。エリーと話し合った結果、長老とシアには伝えようということになった。元からぼくのこと・・・・・は知っているから、伝えても問題はないだろうという結論になった。

 そして確認することは、皆のこと――ウィルや子供達だ。無事とは聞いているけど、できれば直接会って――。



 さて、出ようかと思っていたとき、部屋のドアをノックする音。

 返事をして、フィールかな、と思ってドアを開けると。そこにはシアが立っていた。

 

「エリー? もう大丈夫なの? 長老様が、もし大丈夫だったら何があったのか報告しに来て欲しいと仰ってる」


 シアは心配そうにぼくを顔を見つめている。


「……大丈夫。怪我もしてないし、なんともないよ。……それよりも、リアは……?」


 フィールからすでに無事というのは聞いてはいたけど、改めてシアに尋ねてみる。


「怪我もないし、あの後すぐに目を覚ました」


 シアのその言葉にぼくはホッとした。目を覚まさなかったり、傷を癒しきれてなかったりしたら大変だった。

 ぼくは、シアの妹を守れなかったことに責任を感じていた。


「ごめんなさい……。リアを危険な目に遭わせてしまって……」


 そう言ってぼくは頭を下げる。間に合わなかったとはいえ、リアを怖い思いをさせてしまったのは事実だ。


「……何故エリーが謝るの? そもそも今回の件は魔獣が紛れこんだのが原因。話を聞く限りでもエリーは何も悪くない。……どうせエリーのことだから責任を感じているんでしょうけど、責めるのは誰もいない」

「……でも」

「それに、リアはあなたのお陰で助かったかもしれない」

「……どういうこと?」

「それは後で話す。それよりも……」


 そう言うと、シアはぼくの横をふよふよと浮かんでいるエリー・・・をチラッと見て。


「その精霊、エリーに相当懐いてるのね」


 どうしよう。シアにはエリーの正体を明かすつもりだったけど、ここでもう言ってしまうべきか。そう考えていると、エリーがシアの周りをグルグルと飛び回って、シアの肩に座り込んだ。


「シア。この精霊はエリー・・・なんだよ」

「……? それってどういう意味なの?」


 シアはそれの意味が分からないようだ。ぼくはシアにエリーのことについての説明を始めた――。



「……まだ信じられないけど。でも、あなた・・・の例があるから、きっとそうなのね……」

 

 シアはそう言うと、自身の肩にいるエリーを複雑な表情を浮かべて見つめている。

 エリーはシアにニッコリと笑顔を向けると、肩から飛び立ってシアの目の前で。


「……ずっとカナタのフォローをしてくれていたよね。ありがとうお姉ちゃん・・・・・!」

「……!」


 シアはその言葉を聞いてハッとしたような顔になる。そして次の瞬間、シアの目から一筋の涙が落ちた。


「エリー……どれだけ心配したかと思って……!」


 そう言うとシアはエリーを胸に抱きしめて、嗚咽を漏らした。

 エリーは何も言わず、ただそれを受け止めているようだった。


 ――シアからしてみれば、エリーが突然いなくなってしまったのと同じだったのだ。こうなってしまうのは仕方のないことだ。

 そして、ずっと辛い思いをさせてしまっていたのは――ぼくのせいでもある。

それにも関わらず、シアはずっとぼくの手助けをしてくれていた。

 ぼくはシアに対する感謝と後ろめたさ、色んな感情が入り交じった状態で、その光景をじっと見つめていた――。



 シアが落ち着いた後、長老にも説明するということで長老の家へと向かった。向かう途中、エリーはシアの周りを飛び回っていた。

 シアはそれを目で追っていた。あまり表情には出さないけど、どこか嬉しそうなシアの顔を見ると、ぼくは胸が締め付けられる思いがした。


 本来は、あれがシアとエリー・・・・・・なのだ。仕方がないとはいえ、ぼくがエリーの体に入ったことによって、それを両者の日常から奪ってしまった。

 エリーは気にしないでいいとは言ってくれているけど、ぼくは気持ちの切り替えはなかなかできていない。エリーは、本当にそう思って言ってくれているのだろうか――。



 長老宅。客間に招き入れられたぼくたちは、各々椅子に座る。エリーはぼくの肩の上だ。

 ぼくは長老に聖域で何が起こったのか説明した。シアがあらかた説明してくれていたようだけど、ぼくと別れたあとのことを聞きたい、とのことだった。


 魔獣と遭遇したこと。リアを守れなかったこと。それで気が動転していたぼくを、ウィルが庇って大きな怪我を負わせてしまったこと。突然現れた・・・・・精霊のお陰で魔獣を退治できたこと。

 そして、その後聖樹に呼ばれたような気がして、近づいて聖樹に触れた後、意識を失ったことを話した。


 長老にウィルがあの後どうなったかを聞いてみる。フィールからは大丈夫だとは聞いているけど。


「ウィレインの母親から、翌日に目を覚ましたと聞いている。その場面の記憶はあまりないらしいが、体の傷はエリクシィルの治癒ヒールで完治していたようだ」


 どうやらウィルも問題なかったようだ。また、その後聞いた話では子供達もすぐに目を覚ましたとのことだ。結果的に全員が助かったことを確認して、少しだけ心の荷が下りたような気がした。


 聖樹に触れた後の出来事は、結局よくわからなかった。聖樹から溢れた光をウィルが浴びた結果、容態を持ち直した――はず。おぼろげな記憶を探った限りでは。

 ぼくが意識を失った理由は、症状から判断したところ魔力切れらしい。ぼくの初の魔力切れだった。

 魔獣に複数回魔術を打ち込みはしたけど、あの程度で魔力がなくなるとは思えなかった。思い当たる節があるとすれば、聖樹に触れたとき魔力が抜ける感覚があったから、それだろう。聖樹に魔力を吸われてしまった、のだろうか?


 長老はその答えは持ち合わせていなかった。聖樹が魔力を吸い取るなんてことは聞いたことがないとのことだ。



 そして、精霊――エリーのことを話した。今回の件より前に起こった、ぼくがエリーの体に入ってしまったときのことも含めてだ。


 長老は当然ながら、そして先にある程度話を聞いていたシアもかなりの驚きようだった。当のエリー自身はあっけらかんとした様子で言うものだから、そのギャップがどこかおかしかった。

 色んな確認やら喋り方から、すぐに本物・・のエリーだとすぐに分かってもらえた。まあ、特徴はあると思う、エリーは。


 エリーが聖樹から聞いた話については、エリー自身から話してもらった。その内容に長老は少なからずショックを受けているようだった。


「ううむ、魔獣の数が増えていたり、力が増しているのはそのせいだったのか。しかし、外的な要因が分からんとなると厄介だな……。しかし、そうなるといよいよ我々だけだと対処しきれなくなるかもしれんな。対応策を考える必要がある」


 長老はそう言って暫く考え込んだ後、何かを閃いたような顔で口を開いた。


「おお、そうだ。エリーは宮廷魔術師団の団長と直接話ができるはずだな。その団長に協力を仰げないか聞きに行ってもらえないだろうか。テレスは王国には属してはいないが、商品の取引などで関係は良好だ。商人たちも魔獣のせいでテレスに来られなくなったら、王都にとっても困ることになるだろう」


 宮廷魔術師団って王族直属の組織って聞いたような気がする。そんなところがこんな辺鄙(へんぴ)な集落のために動いてくれるんだろうか。

 まあ、その団長から呼び出しがかかっている以上近いうちに行かないといけないとは思っていたから、その訪問時に聞いてみるのがいいだろう。


「……分かりました。団長には、一度師団まで来てくれとは言われてますし。ちょうど良い機会かと思います」

「面倒を掛けて悪いが、頼むぞ。なるべく早い方がいいだろう……。できれば明日にでも行ってもらいたいが」

「わたしは大丈夫です。ただ、王都は前回の件・・・・があるので……ウィルと一緒に行きたいと思うのですが。ウィルの体調次第で判断しても良いでしょうか」

「分かった。あとで様子を見に、自宅まで行ってもらってもいいだろうか」

「はい、分かりました」



 というわけで、早ければ明日にでも王都へ行くことになった。

 今回はウィルと一緒だ。ウィルがいるので、シアは今回テレスに残ってもらうことにした。魔獣退治のこともあるから、シアには巡回側に回ってもらった方がいいだろうとのことだ。


 さて、確か宮廷魔術師団の団長には、王都へ来るときは連絡をもらえれば使者を送ってくれるとは言われていたけど。今回はそれを待っている時間がもったいないから、こちらから出向く形になる。

 どのみち半日かからず着くしね。――おそらく、魔獣退治がてら向かう感じになる気がする。

次話掲載は14日(木)の予定です。→16日(土)に変更します。

(追記)書く約束をしていたR-18版を投稿しました。

ノクターンノベルズ内で小説名検索していただければ見つかるはずです。(小説名は同じです)


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お読みいただきありがとうございます。

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