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Intermission-03 ウィレイン②&○○○

※幕間話ですが、とても重要な話になります。

できれば読み飛ばさず、読んでいただければと思います。


Chapter1-25終盤からChapter1-26にかけての、ウィレイン&○○○視点のお話です。

炎の矢フレイム・アローっ! 炎の矢フレイム・アローっ! 炎の矢フレイム・アローっっ!!」

 

 エリーの魔術発動の声が響き渡る。普段の声色とは全然違う。後ろから顔は見えないが、怒りに満ちている状態なのが想像できる。

 しかし、魔術は魔獣に対して効果がないようだ。威力の弱いものをいくら打ち込んでもダメらしい。


「おい、エリー! 落ち着け!!」


 俺は大声でエリーを制止するが、全く耳に届いていないようだった。魔術を連発しているせいで、俺はエリーに近づくこともできない。

 そして魔獣がエリーに近づいていったとき、エリーの体がガクガクと震えはじめた。


「エリー! 逃げろ!」


 エリーにそう言うが、エリーは一歩も動かなかった。そして魔獣の腕がエリー目がけて振り下ろされる。


「クソッ!」


 俺はエリーの前に出て、魔獣の攻撃を防ごうとした。しかし思いの外威力は凄まじく、防ぎきることはできなかった。俺の体は魔獣の爪で引き裂かれ、弾き飛ばされた。

 そのまま後ろにいたエリーに倒れ込んでしまった。エリーの上から退こうと思ったが体が動かなかった。

 ――腹部から血が流れ出ているのだけは感覚で分かった。


(これは、まずいな……)

 

 猛烈な腹部の痛みとともに、視界が歪んでいく。

 俺は薄れゆく意識の中で、どうかエリーだけは無事であってくれ、と願っていた――。




□■□■□■□■□■□■




 ここは、どこだ。

 俺はついさっきまで、学校への通学路を歩いていたはずだ。

 そうしたら、突然変な声が聞こえて、光に包まれて――。


 周りを見渡したが、ただ白が広がっているだけだ。

 広いか狭いかも分からない白い空間に、俺は一人ポツンと立っていた。


(一体なんなんだよここは……)


 思い当たる節は何もない。いきなりここにいたからだ。

 動こうにも、方向も分からない。目印となりそうなものもない。


 どうしようか迷っていたとき、前方から光の玉みたいなものがフヨフヨと浮かんでこちらへやってくるのが見えた。

 得体の知れないものに驚いた俺は思わず後退りするが、尚もその光の玉はゆっくりと近づいてくる。

 そして俺の近くまで来たとき、突然眩しい光を放った。目が眩んで思わず目を瞑る。


 暫くして目を開けると、そこには光の玉はなく。長身の美女がそこにいた。


 女は長い緑の髪の持ち主で、なぜか目は閉じたままだ。頭にはティアラのようなものをかけている。服はシスターが着るような白の修道服――コスプレにしては雰囲気が出過ぎていて、まるでゲームの中の人物みたいだ。

 思わず見惚れていると、女は目を閉じたまま口を開いた。


「突然このようなところにお連れして申し訳ありません。キタナカトオルさん、でしょうか」


 女は透き通るような高い声で、俺に話しかけてきた。


「……そうだが、どうして俺の名前を?」


 目の前の女は一度も会ったことがない。少なくとも俺はこの女の名前は知らない。


「……お話すると、長くなりますが。聞いていただけますか」

「……ああ」


 そうして目の前の女はゆっくりと話始めた――。


**********


「……はー、なんだよそれは……」


 話を聞かされた俺は、思わずそう言ってしまった。この女の言っていたことが、あまりに現実離れしてしまっていたからだ。

 自分は聖樹という木の化身だとか、魔獣とかいうものと戦ってほしいだとか、まるでゲームの世界の話を聞かされているようだった。

 あまりに突拍子な話が続くものだから、キレそうになってしまったんだが。女が「これでも信用していただけないでしょうか」と魔法みたいなものを使っているのを見せられ、その気分は吹き飛んでしまった。

 目の前で火の玉が浮いているのを見せつけられた手前、本当に現実なのかと思わずにはいられなかった。手品にしては仕掛けが見当たらない。

 そもそも何もないこの白の空間で、仕掛けを仕込むのは無理だろう。


 改めて話を聞いていくと、エルフ族の集落を守ってほしいとか。本当にゲームとかそういったものの世界なんだなとしか思えない。

 ――それよりも衝撃的だったのが。


「貴方は元々この世界の住人のはずだったんです」

「…………は?」


 何を言っているのか分からなかった。いや、俺は生まれた時からずっと日本で生活していたはずだが。


「正確に言うと、元々一つだった存在が何らかの原因で二つに分かれてしまったのです。その一方が貴方で、もう一方がこの世界のウィレインという名のエルフ族です」


 理解は到底できないが、そういうことらしい。一方が日本にいた俺で、もう一方がよく分からない世界のエルフ族のウィレインとかいう奴らしい。


「で、それがどうしたって言うんだ」

「……突然ですが、貴方にはウィレインさんの体に入って欲しいのです。今ウィレインさんは大きな怪我を負ってしまい、危険な状態です。あなたが入ることで、肉体から魂が剥がれかかっているのを引き留めることができます」

「……は? 入ってもらう……という意味がよく分からないんだが」

「ウィレインさんになってもらう、という言い方が正しいでしょうか。ウィレインさんの体に入った段階で魂が同化し、本来の状態……一つの存在になります」

「……おい。それってつまり、俺はウィレインという奴と一つになるってことか!?」

「……そうなります」


 冗談じゃない。元々一つの存在だったとからしいが、そんなことをいきなり言われても納得できない。


「俺は知らん奴と一つになれ、と言われても嫌だぞ! それに話が急すぎる! 理解できない!」

「……お気持ちはとても分かります。しかし、このままだと貴方にも影響が及ぶのです」

「……どういうことだ」

「このままですと、ウィレインさんの肉体から魂が剥がれ落ち、存在が消滅します。すなわち元々一つだった存在が片方欠けることとなります。そうなるとバランスが崩れてしまい、もう片方……つまり貴方にも影響が及びます。……はっきり言いますと、貴方の存在が維持できなくなります。本来貴方がたはイレギュラーな存在なのです」

「…………マジかよ。存在が維持できなくなるって、つまり……」

「……お察しの通りかと思います」


 それを聞いて俺は頭を抱えた。断ればつまり、死ということだ。ここに呼ばれた段階で、もう選択肢はなかったということだ。

 納得が行かないし理不尽極まりないが、従うしかないのか。


「なあ、それはウィレインには伝わっていて、納得しているのか? 元々一つの存在だったとはいえ、知らない他者と同じになるってのは」

「……本当は然るべきときに両者納得の上での形にしたかったのですが、その猶予はありません。……前回の失敗を踏まえたかったのですが、今回も……」


 俺が断ったら消滅するというぐらいの深刻度なのだから、ウィレインにとっても選択肢はないということか。

 女の言っている最後の方は意味がよく分からなかったが。


「はあ……分かったよ。それで、入ったあとは具体的にはどうすればいいんだ」

「最初に申し上げた、魔獣を退治してテレスという集落を守護していただきたいということです。ウィレインさんの体に入って魂が融合した段階で、二つの存在の知識や経験が統合されます。どう戦えばいいかなどは、ウィレインさんの知識・経験から分かるようになるかと思います。また本来の一つの存在になることによって、潜在能力が飛躍的に向上するはずです。例えば身体能力の向上や、保有魔力の向上などですね。魔獣との戦いでは有利になるはずです」

「……分からん単語があるが。まあ行けば分かるということか」

「はい。あと……実は似たような方がもう一名、こちらにお呼びしています」


 似たような方? どういう意味だ。俺みたいな境遇のやつがいるということか?


「どういう意味なんだ?」

「貴方と同じく、本来一つだった存在が二つに分かれていた方を先にお呼びしました。先ほども申し上げましたが、その時は私の力が足りずに失敗して、間接的・・・な呼び出しになってしまったのですが……。その方はカナタさんと言います」

「…………は?」


 女の言葉に耳を疑う。聞き間違いでなければ――!


「おい、今彼方って言ったか!?」

「はい。カナタさんです。えっと、ミナミカナタさんが正しい名でしょうか」

「マジか!! 彼方がこっちにいるのか……! そうなのか……」


 その名に俺は様々な想いが込み上げてきた。もう二度と会えない・・・・・・・かと思っていた親友に、また会えるということに。

 逸る気持ちを抑えつつ、女に情報を確認する。


「彼方は、俺みたいに他のやつに入っていたりするのか?」

「はい。エリクシィルという名のエルフ族に入っています。ウィレインさんはエリクシィルさんのことを良く知っているはずなので、知識統合したあとに知識を探れば分かるかと思います」

「そうか、分かった。彼方、こっちにいたんだな……」


 良く知っているというぐらいだから、たぶん身近な存在なのだろう。一体どういう関係なのかは知らないが。


「私が今こうして貴方と話せているのは、カナタさんが私に魔力を注いでくれたからです。今は時を止めて貴方と話している状態ですね」

「……時を止めるとかそんなすごい能力があるなら、自分自身で起こっている事態をどうにかできるんじゃないか」

「私ができるのは、こうして私の世界でお話することだけ。直接の戦いはできないんですよ」


 案内だけしかできないということか。俺は気になっていることがあるので尋ねてみる。


「時が止まっているということは、まだあんたと話せるのか」

「はい、まだその力は残っています」

「……それなら、行く前に少し確認したいことがあるんだが……」




**********




 小鳥の囀りの音で目が覚めた。天井を見つめる。ウィレインの、俺の部屋の天井だ。体をゆっくりと起こして周囲を見渡す。間違いなく、俺の部屋だ。


 上掛けを捲り、体をスライドしてベッドの縁に腰かける。体を見ると、当たり前だが透とは違う体付きをしている。

 ほどよく締まった体だ。毎日鍛えているお陰だ。エルフ族としてはかなり筋肉質だと自認しているようだ。

 年齢は一六歳。俺と同い年のようだ。


 ――あのあといくつかの確認をして、ウィレインの体に送ってもらった。今のところ体に違和感はない。

 ただ、まだ知識や経験の統合が上手く進んでいないのか、思考に少し違和感を感じる。聖樹はしばらくすれば馴染むだろうと言っていた。それまでの辛抱だ。


(さて、エリクシィルというエルフ族のことを調べてみるか)


 早速俺はウィレインの知識を探り始めた――のだが。

 すぐにとんでもない事実に直面することとなった。


(おいおいおいおい!! マジかよ……。女だったとは聞いてないぞ……)


 エリクシィルとは女のエルフだったのだ。それもとんでもない、美少女の。

 ウィレインは、エリクシィルのことをエリーと呼んでいるらしい。

 エリーはどうやら俺――ウィレインより三歳下のようだ。

 さらに、衝撃の事実が俺に襲いかかる。


(待て待て……! なんだよこれ……。おい、これってまさか……)


 エリーの顔を思い浮かべると、胸がはち切れそうなほどドキドキする。愛しい気持ちが溢れてくる。

 今すぐにでも会って話がしたい。ずっと見つめていたい。手に触れたい。あわよくば、顔に触れて、その唇を――。

 この感情は俺が中学のとき、同級生の女子に抱いた、それと似たものだった。

 つまり――。


(ウィレインは、エリーに恋をしていたってことかよ……)


 しかもどうやら、それをエリーに言い出せずに苦悩していたようだ。決心して言おうとしたことはあるようだが、タイミングが合わなかったりして上手くいかなかったようだ。


 エリーは日本人離れしている容姿だが、そこらのいわゆる美少女が尻尾を巻いて逃げ出すほどの可愛さだ。長い銀髪にたれ目で、どこか儚い雰囲気。俺の好みかも知れない。――これはウィレインの想いかもしれないが。


 少し前まで、エリーはその容姿とは想像も付かない、かなりハチャメチャなことをやっていたようだ。そのせいでウィレインは相当苦労をしていたらしい。主に後始末やら何やらで。

 エリーとはいわゆる幼馴染で、ウィレインはエリーのことを手のかかる妹のような目で見ていたようだ。


 それが最近になって急に大人しくなり、可憐な見た目と女の子らしさが一致したところで、エリーを恋愛対象の女として意識しだしたようだ。

 これ、ギャップ萌えとかそういうやつじゃないのか。

 もしかしなくても、その大人しくなった原因って――。


(エリーの中にいるのは彼方。男の親友だ。分かっているのに、何でこんなに胸のドキドキが止まらないんだよ……)


 俺は男を好きになる趣味なんかない。

 しかし、ウィレインのエリーに対する想いがあまりに強すぎる。

 俺は今後エリーと一体どう接すればいいのか――。



 いくつか対応策を考えていく中で、自分が透であると明かすということを、一つの答えとして考えた。

 ただこの場合は明かしたことによって、彼方がとある事実を知らなかったときが厄介だ。彼方が今の自分の状況を果たして理解しているのか。聖樹は直接・・は言っていないとのことだ。

 それに関する質問をされたとき、答えに困ってしまうことになる。正直に答えれば、彼方は相当なショックを受けてしまうだろう。


 俺は、この世界に来て話を聞いていくうちに、自分が彼方と同じ・・になってしまったことは、何となく察していた。それを聖樹に確認したところ、やはり間違ってはいなかった。聖樹はこんな形になってしまって申し訳ないと何度も謝っていた。

 聞いたときはやはりショックを受けた。何で俺なんだという怒りもあった。

 それでも理不尽な現実を受け入れるしかなかった。”そうかもしれない”という事前の心構えがあった分、多少はマシだったと思うが。


 自分の正体を明かした方が、俺の気持ちの面では楽になるだろう。彼方側からも接しやすくなる可能性がある。だが、今それを彼方に打ち明ける勇気はない。あまりにもリスクの高い賭けだ。もし失敗した場合の、絶望に打ちひしがれる彼方の姿を見たくはない。

 とはいえ、彼方にはいずれ、俺のことを打ち明けた上で本当のことを言わなければならないときが来るだろう。いつまでもこのままという訳には行かないはずだ。

 

 そのときが来たら正直に伝え、恐らく苦しむことになるだろう彼方を支えてあげなければならない。

 彼方には、過去に救ってもらった恩がある。その恩に報いるのはそのときだ。



 俺はあちらの世界では一人だった。両親はいないし親戚関係も誰一人いない。友人らは何人かいたが。

 あちらの世界に未練はない、と言えば嘘になる。ただ、色んなしがらみがないことは事実だ。

 ――何より、今の俺は一人じゃない。この世界に彼方がいるのであれば。

 


 暫く考えた後、俺は決心した。 

 俺はこの世界で、ウィレインとして、生きていく。どのみちもう戻れない・・・・・・のだから。

 


 そして改めて、彼方――エリーに対する感情とどう向き合うべきか、悩んでいた。

 親友としての彼方。恋愛対象としてのエリー。その二つの認識が頭の中でごちゃごちゃになり、よく分からない感情の渦となって俺に押し寄せてきている。頭が痛い。


 はじめはすぐにでもエリーに会いに行こうと考えていたが、どうやら頭と心の整理がつくまで――今後の接し方を決めるまでは無理そうだ。

 はっきり言って、今のまま会うと何も言えないまま固まりそうだ。これじゃあまるで初心じゃないか。

 自分のプライドが許さなかったので、ウィレインがヘタレということにしておいた。すまんウィレイン。


 今日の夜は、きっと眠れないだろう。

 まだ起きたばかりだと言うのに、そんなことを考えていた。

次話掲載は10日(日)の予定です。


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