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Chapter1-23 エリクシィル先生の魔術教室②

 残りの子らは、結論から言うと上手くいかなかった。リアと同じく、恩恵属性ギフトの基本の魔術を使ってもらったのだけど――。ミルは魔術の発動はできても、自身の周りに風が巻き起こるぐらいで的である木の板には何も起こらない。


「もうっ! 何で上手くいかないのよ!」


 ミルは小さな体を揺らしてぷりぷりと怒っていた。恐らくはイメージ次第だと思うから、練習次第で上手くいくようになるとは思う。ぼくは発動する魔術のイメージが大切だと改めて説明した。ミルは少しむすっとしながらも、ぼくの話を聞いてくれたようだった。

 

 問題はテオだ。魔術の発動そのものができなくて、何も起こらない。魔力は少なかったとしても発動自体はできるだろう、とは聞いていたんだけど――。

 うまくいかなかったことに対して、テオ自身はそれほど気にしていなかったようだけど、どうにかしてあげた方がいいだろう。


 魔術の指導初日は、そこそこにして切り上げた。初日から魔力切れになったらかわいそうだしね。


 ☆


 そして数日後。毎日の訓練の成果が出始めたのか、ミルは上手く魔術を発動できるようになっていた。ミルの風の魔術は、木の板を瞬時に横に真っ二つにできるぐらいの威力だ。ただし、命中率はそれほど高くない。動かない的でこの現状だと、動き回る魔獣にはまだ魔術を当てることは難しいだろう。もっともミル自身は――。


「私もやればできるのよ!」


 と、ものすごく誇らしげ、いわゆるドヤ顔でぼくを見上げて言ってくる。ぼくは魔術が上達したことは褒めつつも、しっかりと的に当てることが大事だとしっかり忠告しておく。


「わ、分かってるわよ……」


 ミルは少ししゅんとしながらも、きちんとそう答える。的を最後までしっかり見つめて、魔術を打ち込めば良いと教えてあげた。


 この子がエリーと同じ歳にもなれば、魔獣退治を任されることになるだろう。しっかりと教えてあげなければ――って、ぼくも魔術に触れてからまだ一ヶ月ぐらいしか経ってないんだけどね。


 そしてリアはというと。元々のセンスのお陰か、威力が向上して木の板を打ち抜けるレベルまで魔術が上達していた。

 ただ、困ったことが出てきた。張り切りすぎて、魔力切れを起こすまで訓練を続けてしまうのだ。そして、今日も――。


「きゅう……」


 魔術を連発したあと、目を回してその場に倒れ込んでいた。シアからは以前聞いていたけど、これが魔力切れの症状らしい。保有魔力が僅かになるまで消費すると、フラフラになって動けなくなってしまうとのことだ。そして完全に底をつくと、意識を失ってしまうらしい。


 リアは魔術のセンスはあるようだけど保有魔力は並のため、あまりに魔術を連発すると魔力切れを起こしてしまう。魔術が使えるようになったのが嬉しいのか、つい使いすぎてしまうらしい。

 魔力切れにならないよう毎日注意しているけど、あまり効果はないようだ。 

 そのせいで毎日、動けなくなったリアをぼくがおぶって家まで連れて帰るのだ。なお、使った魔力そのものは、一晩でほぼ元に戻るようだ。


 ちなみに、エリーの素の体力ではリアをおぶることはできないため、精霊術で一時的に体力を強化している。王都で走る羽目になったときに使った術の応用だ。

 ただ、体力そのものは消費してしまうので、効果が切れた後はどっと疲れが来る。ぼくの場合は魔力切れにならない代わりに、体力切れの方が辛いところだ。

 毎日お風呂でゆっくり体を休めて、上がった後にマッサージするのが日課になりつつある。


閑話休題


 さて、残るテオだけど、ここにはいない。何度やっても上手く魔術が発動ができないようで、どうしようかとシアに相談したところ。ウィルと同じタイプではないかとの意見だった。

 ウィルは、剣の魔術具に魔術を纏わせて戦うタイプだ。ウィルにテオのことを話してみると、快く指導を引き受けてくれた。しきたりの年齢のことで長老にも確認したけど、問題ないとのことだった。

 どうやらシアの読みは当たっていたようで、テオは剣を介した魔術でみるみる腕が上達しているようだ。ウィルとテオの例から、なんとなく男の場合はこちらのタイプが多いのかなと思ったけど。女でもこのようなタイプはいるらしい。ちなみに弓に魔術を込める戦い方もあるのだとか。でも、エルフのイメージ的には弓の方が合っているような気がする。剣を使うウィルが珍しいのかな?


 テオは最初ぶっきらぼうな印象を受けていたけど、実はそうではないようで。ウィルと話しているときはとても楽しそうにしていた――さながら兄弟のようだった。でもぼくと話すときは相変わらずで、言葉が少ない気がする。今日も訓練の状況を聞いてみたんだけど。


「……別に。特に変わりないし」


 と、つっけんどんな答え方をされた。もしかして嫌われている? そのようなことはしていないはずだけど。


 ☆


 さらに数日後。ぼくが指導しているリアとミルは、めきめきと実力を伸ばした。リアは恩恵属性以外の魔術も少し使えるようになったし、ミルは命中率が大幅に向上した。リアとミルが協力すれば魔獣相手でも何とかなる、かもしれない。

 魔力切れだけには注意して欲しいところだけど。集落の中でならともかく、外で魔力切れになるのは致命的だ。


 ウィルが指導しているテオも、動きが格段によくなったと聞いている。まあ、ウィルと比べると体力が違いすぎて、まだまだのようだけど。

 魔獣の引きつけ役は十分にこなせるだろう、とはウィルの意見だ。本来はウィルもその戦い方のはずだけど。ウィルは日々の訓練の賜か、エルフ族の割に体力がかなり多いようで、力押しで戦える。

 エルフ族は本来基礎体力が少ないみたいだけど、ウィルは体作りでそれを克服している。結構な筋肉質だそうで、エルフ族でそれはかなり珍しいらしい。

 その体力をほんの少しでもいいから分けて欲しいぐらいだ。



 訓練がほぼ仕上がったという頃を見計らったかのように、長老から呼び出しがかかる。ぼくとウィルは子供たちを連れて、長老宅を訪れていた。


「来たようだな。訓練はどんな状況だ」

「リアとミルは、魔術はほぼ問題なく使えるぐらいになったかと思います。テオもウィルからお墨付きをもらっているようです」

「そうか。それならば……明日行ってもらいたい場所があるのだ」

「行ってもらいたい場所、ですか?」

「そうだ。訓練の仕上げ……というわけではないが。我らの聖域サンクチュアリと呼ばれる場所にな」

お読みいただきありがとうございます。

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2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。

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