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Chapter1-22 エリクシィル先生の魔術教室①

 それから、さらに一週間が過ぎた。


 元の世界へ戻る手がかりは未だ掴めていない。ヴィーラさんから連絡がないことを考えると、古文書の解読に難航しているようだ。気長に待つしかないとはいえ、じれったい。

 ぼく自身でも何かできることがないかと思って、書物を探してはいるけど如何せん小さい集落にあるはずもなく。

 本気で探すなら、王都の書物庫まで行かないとないようだ。しかも入場には身分の証明がいるのだとか。

 宮廷魔術師レベルなら入れるそうだけど、今のところはなるつもりはないし。


 前にも一度思ったことだけど、テレスは時間にルーズだ。とくにやることはなく、毎日がゆっくりと過ぎていく。時間に縛られない生活だ。朝から晩まで時間に追われていた元の世界とは大違いだ。

 恐らくだけど、エルフ族の寿命の長さが関係しているのではないかなと思う。少なくとも人族の五倍以上は生きられるのだから、焦って物事を済ませる必要はないだろう。長い時を生きるというのは、たぶんそういうものだと思う。


 とくにやることはないというのは、少し語弊がある。とは言ってもやることと言えば、自給自足による必要最低限度の食料の調達――農耕や酪農――ぐらいだ。

 あちらの世界で何度か耳にしたスローライフ、とはこういう生活を指すのだろう。

 早く元の世界へ戻る手段を探さなければと思う一方で、このゆっくりとした時間の流れに、ぼくは少し心地よさを感じつつあった。


 そしてぼくのテレスでの生活は、文字の読み書き練習、魔術の訓練、魔獣退治のローテーションをするぐらいだ。たまにリアとお喋りする時間も入るけど。


 それと料理か。エリーの母親が体調を崩してしまった日があって、代わりに台所へ立ったことがある。両親には大層驚かれた、というか必死の形相で止められたのだけど。ぼくの料理の手捌きを見ると、途中から何も言わなくなった。どこで習ったのか聞かれたけど、リアから習ったと答えておいた。嘘は言っていない。そうして出来上がった料理はとても気に入ってもらえたようで、それ以降は毎日のように夕ご飯の手伝いをするようになった。

 エリーの母親に「娘と台所で料理するのが夢だったのよ」みたいなことを言われたときには、色々とくるもの・・・・があった。色々と。


 文字の読み書きについては、本をゆっくり読める程度にはなった。書きの方はまだまだだけど。


 魔術の方はというと、訓練の必要がないレベルまで来たようだ。そろそろ二重魔法ダブルマジックに挑戦してもいいかもしれない、とはシアの意見だ。

 魔獣退治に、二重魔法を使う必要はあるのかどうか、とふと思った。

 ぼく自身が使った訳ではないとはいえ、あのとき目の前で見た二重魔法フレイム・ストームはやたらと派手だったからだ。巻き込まれた魔獣は、消し炭みたいになっていたし。

 逆に、それぐらいしないと倒せないような魔獣はいるのだろうか。――あまり考えたくはない。

 とはいえ、用心するに超したことはないだろう。二重魔法の訓練も始めてみようか。

 ただ、当面は魔力による力押しガンガンいこうぜで十分、と考えることにした。



 その日、魔術の訓練をしていたところ、長老から呼び出しがかかった。

 そういうわけで、現在地は長老宅。何やら依頼したいことがあるとのことだ。


「魔術指導、ですか?」

「そうだ。エルフ族には子供が十を迎えると、成年を迎えた者が魔術の指導をする、というしきたりがあるのだ。テレスでは今年成年を迎えた者はおらんから、一番年齢が近い者が対象となる。それがエリクシィルという訳だ」


 呼び出しを受けたぼくは、長老からそんな説明を受けた。趣旨は分かったけれど、それって魔術初心者なぼくがやっていいことなのだろうか――?


「……えーと、わたしは魔術を使いはじめて一ヶ月ぐらいしか経ってな……」

「宮廷魔術師に勧誘されるぐらいの実力があるのに、その言い訳は通用せんな」

「……」


 残念ながら長老には言うだけ無駄だったようだ。話によると、まだ魔術を使ったことのない子への指導らしい。そんな子に、ぼくが本当に教えられるのだろうか。


「問題ない。自分がどういう風に使っているかを、伝えてあげるだけで良い」

「そんなものなんですか……」

「そういうことだから頼んだ。明日から何日間か行ってもらうから、そのつもりでいるのだ」

「分かりました」


 まあ、やってみるしかないだろう。長老の家を出たぼくは、明日から教えることができるように、改めて魔術の訓練――手順を頭の中で再び組み立てた――を行った。


 ☆


氷の矢アイシクル・アロー!」


 明くる日。可愛らしい少女の声が、魔術訓練の広場に響く。次の瞬間少女のスタッフの先から氷の矢が勢い良く発射された。

 それはヒュッと風切り音を立てながら、的である木の板へと命中した。カンッといい音を立てた板は前後に揺れ動き――。残念ながら板を打ち抜くまでの威力はなかったようだ。


 事前にシアに聞いていたところによると、初めから上手く魔術を扱えるのは半数くらいとのことだ。この子は威力はまだまだというところだけど、真っ直ぐ的へ打ち込めたところは上出来じゃないだろうか。


「よくできました。初めてにしてはいい感じだね」


 ぼくがそう言うと、少女は嬉しそうな顔をしてぼくの胸へと飛び込んできた。褒めて、褒めてとせがんでくるので、頭を撫でつつ。


「よく頑張ったね、リア」


 リアは小さな顔を上げ、ふへへと可愛らしい笑顔を見せてくれた。



 魔術訓練の広場へとやってきたのは、リアを含めたエルフの子三名だ。ちなみに、事前にシアからこの子たちの魔術に関する情報を聞いてある。

 まずはリア。魔力は並ぐらい――年齢に応じた量と比較して――とのことだ。

 恩恵属性ギフトはシアと同じ水。今し方の魔術を見るかぎり、センスはそれなりにあるようだ。


 次にミルフィ。皆からはミルと呼ばれている。門番をしているオルさんの娘だ。青髪を肩まで伸ばしている。少し話したところ、ちょっと気の強そうな感じだった。おだやかな性格のオルさんとは、だいぶ性格が異なるようだ。

 魔力は多めだそうだ。恩恵属性は風。

 さすがに保有魔力そのものは、ぼくとは比較にならないほど少ないそうだけど。魔力の込めすぎによる、威力の暴発には気を付けさせる必要があるとのことだ。あと、それに伴う魔力切れにも。

 保有魔力が多かったとしても、一度に使う魔力が多ければたちまち魔力切れになってしまうそうだ。


 最後にテオドール。テオと呼ばれているその男の子は、他の二名と比べて背が高い。癖のある短い茶髪の持ち主だ。集落内に住んでいるとある夫婦の息子だそうだ。

 ちょっとぶっきらぼうな印象を受けた。ただコミュニケーションが取れない訳ではないから、問題はない。

 魔力は、この子らの中で一番少ないらしい。恩恵属性は火。現状の保有魔力では上手く魔術が発動できるか難しいかもしれない、とのことだ。



 ぼくは魔術の使い方をざっくりと教えて、ひとまずそれぞれの恩恵属性の基本的な魔術を実際に使わせてみることにした。先にやってもらったリアは上手くいったようだけど、残りの子らはどうだろうか――。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価等、とても励みになっております。

誤字脱字等がありましたら、お知らせください。


**********


2016/06/13 回想部分を加筆。

2016/06/15 愛称を追加。

2016/06/16 魔術設定を変更(水→氷)

2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。

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