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Chapter1-19 王都からの来客

 翌日の朝、目を覚ましたぼく。頭痛は綺麗さっぱりなくなっていた。体のだるさなども収まっていたようだ。シアの薬が効いたのだろう。

 あとでお礼を言いに行かないと。リアにお土産を渡す用事もあるし。


 エリーの両親に体がよくなったことを伝える。随分と心配をかけてしまっていたようだ。エリーはそこまで体が丈夫ではないそうで、体調を崩すことはそれなりにあったみたいだ。知識の限りでは。

 今回の件は仕方なかったけど、普段はあんまり無理をしない方がいいだろう。エリーのためにも、自分のためにも。


 昨日お風呂に入れなかったから、シャワーを浴びたいと思った。でも治りがけで湯冷めしてもいけないので、濡れ布で体を拭くことで今日は我慢する。汗をかいてはいなかったので、これで多分大丈夫だろう。


 準備を整えて、家を出る。今日は折角なので、ヴィーラさんに買ってもらった服を着てみた。肌の露出が多い分、通りすがりのご近所さんエルフからの視線を感じた。

 よくよく考えると、テレスに住んでいる皆は、基本的に肌の露出が少ない服を着ている気がする。何か理由があるのかな?

 エルフ族はこういう服を着てはいけない、というようなことはないと思う。

 もしそうだったらいかにお願い・・・だったとはいえヴィーラさんが勧めたり、シアが抵抗なく着たりはしなかったはずだし。


 そんなこんなでシアの家。家の中から出てきたリアの体当たりを受け止める。頭を撫でてあげると、ふああと気持ちよさそうな声を上げている。暫くの後、リアが少し心配そうな様子でぼくに上目で話しかけてきた。


「エリーお姉ちゃん、もう体は大丈夫なの?」

「うん、シアの薬のおかげでもう平気だよ」


 心配かけちゃったねと言うと、リアはぼくから離れてぼくの姿をじっと見る。そしていつもの服もいいけど、この服も可愛いと言ってくれた。

 年下の子とはいえ、こう褒められるととても嬉しい気分になる。ありがとうね、とぼくはリアを抱きしめて頭を撫でてあげた。ぼくの胸に顔をうずめていたリアは、顔を上げ、王都の土産話をねだってきた。

 下から見上げるように喋るリアは、とても可愛らしい。ぼくの妹は、こういうことはしてこなかったし。まあ、そもそも歳も性別も違うからそういうスキンシップがなかったのは仕方ないけど。

 けど、ぼくは年下の女の子の扱いにここまで慣れていただろうか?


 王都での出来事を話しつつ、気に入ってもらえるか不安だったお土産のペンダントをリアに渡すと、思いの外喜んでくれた。

 早速身につけてくれて、目の前でどう? どう? と体をターンしてみせてきた。似合ってるよ、と言ってあげると嬉しそうにし、ぼくの胸へと再び飛び込んできた。


 リアともう少しおしゃべりをしていたかったけれど、今は先に用事を済ませなければいけない。シアを呼んでもらい、薬のお礼と、長老宅へ報告の同行のお願いをする。シアは問題ない、と承諾してくれた。


 リアと一旦別れ、長老宅へと向かう。ちなみにシアはいつも通りのローブ姿だった。ヴィーラさんからもらった服を着ないのか聞いてみたけど、あまり良い返事はもらえなかった。

 シアにしてみればかなり冒険をする服なのは間違いない。ぼくとしてはその服を着たシアをもう一度見たかったので、何かの機会があれば着てもらうようにお願いしようと思う。



 そして長老宅。着ている服装に少し驚かれるも、ヴィーラさんに買ってもらったものだと説明した。長老に報告が遅れたことを詫びると、気にしなくてよいと言ってくれた。

 早速王都で起こった出来事を簡単に説明する。大半がヴィーラさん絡みだったけど。


「それは大変だったな」

「あはは……でもヴィーラさんが面倒を見てくれたので助かりました」


 なお、当然ながら夜の出来事は言わなかった。――言えるはずがない。

 そして、謎の男に後をつけられて、襲われかけたことを話した。


「ふむ……目的は分からんが、何にせよ無事なのはよかったな。もしかしたら攫われていたかもしれんな」

「さ、攫われ……ですか」

「……エリクシィルもフェリシアも美しいからな。無事だったからよかったが、お主らだけで行かせたのは少々迂闊だったかもしれないな」


 次回は男と一緒に行くべきだろう、と長老は言う。男で思い当たる節はウィルぐらいしかいない。

 ウィルは前回、別の用件でテレスから出られなかったそうだけど。次回王都へ行くことがあったら、お願いして付いてきてもらおう。

 エリーにとって、ウィルは”兄”みたいな存在だったようだしね。こういう時は頼るべきだろう。


 また、王都からの帰り道、二人がかりで倒した魔獣のことについても話した。


「魔獣の数が増えているとは報告を受けていたが、力をつけた魔獣まで出てくるとは厄介だな……。巡回は最低二名でしてもらうこととしよう」


 他のエルフたちの実力はよく知らないけど、その方がいいと思う。ぼくは一人では敵わなかったし。仮に木々のことを考えなくていいなら、先手で高威力の魔術を使えばいいんだろうけど。そういうわけにはいかないしね。


 報告も終わり。他愛もない話をしていると、ふいにドンドンと家のドアを叩く音が家に響いた。少し待てと言い、長老が対応に出て行く。


 しばらく待っていたあと、長老が戻ってきた。来客はどうやらぼくたちに用事があるらしい。


「王都の宮廷魔術師団長が、お主らに用事があると言っている。王都でのことで聞きたいことがあると言っているのだが……」

「……宮廷魔術師団長? 王都でのこと?」

「火柱がどうとかと言っていたが、何か心当たりはあるのか」

「…………ないこともないです」


 変な男につきまとわれていたとき使った魔術だろう。あのあと騒ぎになっていたけど、宮廷魔術師団長とやらがここまで来るということは、何かまずいことになってしまったのか。というか、なぜここにいることが分かったんだろう。

 あれはつきまとい男から逃げるために使ったものであることを、説明する必要があるだろう。長老に伝え、宮廷魔術師団長がいる玄関まで向かった。


 玄関には二十代後半ぐらいの男がいた。背はウィルより少し高いくらいだろうか。ぼくから見ると、少し見上げるような格好になる。

 男にしては少し長めの黒い髪の持ち主だ。見た目から言うと、少なくともエルフではない。

 服については、ヴィーラさんが着ていた服は魔女という感じだったけど、この男が来ている服はいかにも魔術師(ウィザードという雰囲気がする。黒基調のローブに変わった模様の金色の刺繍がしてある。


「エリクシィルと申します。こちらはフェリシアです」


 ぼくとシアは軽くお辞儀をするが、男はこちらをじっと見ているだけで反応がない。どうかしましたかと言うと、男はハッと我に返ったかのようで、話し始めた。何か考え事でもしていたんだろうか。それにしては、何となく顔が赤くなっていたような気がしたけど。気のせいかな。


「……すまない。私は宮廷魔術師の団長をしているラッカスと言う。先日王都で大きな火柱の魔術を確認したのだが、それを使ったのは君たちだろうか」

「……えっと、使ったのはわたしですが」


 団長に、魔術を使った経緯を説明する。説明を聞き終えると団長はやはりそうかと言い、玄関の外に向かって入ってきてくれと合図をした。ドアが開かれ、入ってきたのは――王都でつきまとってきた例の男だった。

 突然のことに身構えるぼくとシア。そうすると団長はぼくたちに向かってこう言った。


「ああ、警戒しなくて大丈夫だ。この男は君たちに危害を加えようとしている訳ではない」


 そう言うと、団長は今回のことについての経緯を説明し始めた。

 宮廷魔術師団は王都の安全管理のため魔力の高い存在を監視する役割があり、それがぼくたち、とくにぼくがその対象となっていたこと。

 監視している中、男がとあることに気付いてぼくたちに近づこうとしたところ、ぼくが魔術を使ってしまった。というのが真相のようだ。

 そして、そのとあることとは――。


「あ、それは……!」


 団長が差し出してきたものは、ぼくが王都で買ったとある銀細工のアイテムだった。リアへのお土産を買ったお店で、デザインが気に入って一緒に買ったものだ。

 買ったときにそのまま鞄へ入れたはずだけど。そういえばあの後にそれを見ていない。


「この男は君がこれを落としたのを見て、それを知らせようとしたのだが……。それがつきまといのような形になって、結果的に君たちを怖がらせてしまったようだ」


 つまり、知らせようと近づいてきたのが、つきまとわれているとぼくたちが勘違いしてしまった。ということになるようだ。


「ごめんなさい、私が勘違いしてしまって……」


 シアは男に向かってそう言い謝罪をした。確かにシアの勘違いから起きた事態ということにはなるのだけど。

 男はこちらもこの身なりですから勘違いされても仕方ないです、と言っていた。身なりは自覚しているようだ。それならばもう少し怪しくない身なりにして欲しいけど。話し方は見た目に反してごく普通だった。


「とはいえ今回の件に関しては、対応を誤ったこちらに非がある。申し訳なかった。後処理に関してはこちらでしておくから、君たちは何もしなくて大丈夫だ」


 団長はそう言うと、男と一緒に頭を下げた。少し怖い目には遭ったけど、ぼくたちとしては直接被害を被った訳ではないし、とくに問題はない。


「いえ……こちらこそこれを届けてもらう形になってしまって。わざわざありがとうございました」


 何にせよ、つきまといの事件はこれにて解決ということだ。――あれ、でも発端はぼくの魔力の問題だったような。今後王都へ行くたびに監視されるというのも、困るのだけど。


「ああ、君は監視対象から外すように他の師団兵に伝えておくから、安心してほしい」


 ぼくの懸念を伝えたところ、団長がそう答えてくれた。ひとまずは大丈夫だろう。


「ところで、どうしてわたしたちがここにいることが分かったんですか?」


 もう一つ気になっていたことを尋ねてみた。王都からここは徒歩で半日はかかる場所に位置している。ほかにもエルフの集落はあるというのは、長老から聞いたことがある。そんな中でここをピンポイントで見つけるのは難しいはずだ。


「ああ、あの後ここに近い場所でかなりの魔力を感知したんだが。落雷の魔術が使われたようだが……」

「……たぶん、わたしが魔獣退治のときに使った雷撃ライトニングですね」

「……少し聞きたいのだが、それは君だけの魔力で発動できたのか?」

「はい、そうですが……」

「ふむ……やはりそうか」


 団長は顎に手を当て、何かを考えているようだ。暫くの後、団長が口を開いた。


「君、宮廷魔術師団へ入るつもりはないかね?」

「…………はい?」


 男の言葉に、ぼくは素っ頓狂な声を出してしまった。

1章も残り数話の予定です。


**********


お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価等、とても励みになっております。

誤字脱字等がありましたら、お知らせください。


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2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。

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