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Intermission-02 ラッカス①

王都一日目~二日目、別視点でのお話です。

 王都宮殿に隣接して建てられている、とある詰所。ここは王族直属の宮廷魔術師団が勤務している場所だ。その一室にある師団長の部屋で、とある男の溜息が響いていた。


 男の名はラッカス。歳は二十代後半ながら、この宮廷魔術師団を一手に引き受けている、人族の師団長だ。

 宮廷魔術師団は、大陸中から能力の高い魔術師ウィザードが集められている組織だ。この師団の役割は主に二つある。


 一つは王都の防衛。この国は基本的に他国とは良好な関係を築けてはいるが、他国の一部の過激な思想の持主が王都内でテロ行為を起こすことがある。

 本来は親衛隊――こちらも王宮直属の組織――がそういったものの鎮圧を行うが、相手が魔術師であった場合は、この師団が鎮圧に向かうことになる。こちらの出番は、ここ数年は起こっていない。

 ただし危険を予測する目的で、怪しい存在がないか王都内の見回りを常に行っている。


 もう一つは、王都周辺の魔獣退治。普段は冒険者と呼ばれる者たちが冒険者ギルドという組織から依頼を受け、報酬と引き換えに退治を行っている。

 宮廷魔術師団が出番となる場合は、冒険者たちでは対処しきれないほどの魔獣の群れが現れたときだ。それらを強力な魔術で一掃する必要があるときぐらいである。


 つまり、この二つの役割がない場合は、とくに出番がない。はっきり言うと暇なのである。ただ、暇だからといって何もしなくてもいいという訳ではない。

 例えば魔術の訓練や研究など、自己研磨すべきことはある。しかし、これと言った目標があってやることではないので、身を入れて取り組んでいるものはそこまで多くはない。言うなれば、師団内の士気がそれほどないということだ。


 ラッカスはこの現状に悩み、溜息をついていたのだ。ただ、彼らの出番がないということは王都が平和であるということなので、出番がない方が好ましいという見方もある。が、こうも士気が低いと実際に事件が起こったときに役割を十分に果たせるか、ラッカスは不安に思っているのだ。


 しかしながらラッカスもとくにやることがないので、書類整理などを行っていた。

 ふと、書き上げなければならない報告書のことを思い出したラッカスが、机上の木棚の用紙に手を伸ばしたそのとき。部屋のドアがドンドンと勢い良くノックされた。


「入ってくれ」


 ラッカスがそう言うと、息を切らせた男の師団兵が入ってきた。何事かと聞いてみると、見回りの師団兵から王都内にかなり・・・の魔力を持った女エルフがいるとの情報が入った、とのことだった。

 魔力が特別多い存在が王都へ入り込んだ場合については、対象を監視することとしている。悪意を持った魔術師であった場合、万が一魔術を使ったテロを起こされたとき被害が大きくなるからだ。

 元々潜在魔力が多いエルフ族ならば、多少魔力が多くてもおかしくはない。わざわざ報告が入るということは、相当な魔力の持ち主なのだろうとラッカスは考えていた。


「ふむ。その女エルフの特徴は?」

「報告者曰く、一般的なエルフ族より遙かに多い魔力の持ち主とのことです。見た目は十代前半と」

「……ふむ」


 エルフ族は長寿なため外見詐欺な場合が多いが、十代は人族と成長具合は変わらない。今回の女エルフもおそらく、見た目と実年齢は同じなのだろう、とラッカスは考えた。


 魔力というのは、魔術訓練を積むことによって保有できる魔力を増やすことができる。年齢が若いにも関わらず魔力が多いという場合は、生まれながらに保有魔力が多いか、相応の訓練を積んだかのどちらかである。基本的には前者であることが多い。これは一般的には”血筋”が関係していると言われているが、詳しいことは分かってはいない。


 ラッカスは、そのような歳の女エルフが何か危ないことをしでかすかとしばらく考え込んだが、あまり危険はないだろうと判断した。同行者とただ買い物をしているだけのように見える、と報告を聞いたからである。


 ただ、念には念を入れて監視をすることにラッカスは決めた。――しかし監視と言うのは建前で、暇をしている師団兵にたまには動いてもらおうと思い付いたからである。

 指示を出して師団兵を部屋から追い出したラッカスは、引き続き書類整理を進めた。


 ☆


 翌日。とくに何事もなく――報告書と格闘していたラッカスだったが、突然の轟音と膨大な魔力の気配に全身が震えた。

 部屋の窓の外を見てみると、居住区エリアから火柱が空高く上がっているのを確認した。街中でテロ行為が起きた可能性があると判断したラッカスは、師団兵を集め火柱が上がっていた場所まで急いで向かった。



 現場へと着いた頃には、火柱は既に収まり、何があったのかと見に集まった野次馬がいるだけだった。そして、宮廷魔術師団の関係者が一人――。


 そこにいたのは、女エルフの監視をさせていた師団兵だ。話を聞くと、少し話を聞こうと近づいたところ突然魔術を使われた、とのことだった。

 監視をしろという指示を出していたはずなのに、何故直接接触して話し掛けようとしたのか。ラッカスは師団兵に理由を聞いたのだが。


 それを聞き終えたラッカスは、それでは女エルフがそうしてしまっても仕方ないだろう、と考えた。ラッカスは余計な仕事が増えてしまったことに頭を抱えた。

 しかしあの火柱――魔術の勢いは相当なものだったと思われた。人や物に被害が出なかったのは幸いだろう。

 万が一被害が出ていた場合、その女エルフを捕らえなければならなかった。


 ☆


 ラッカスが現場から引き揚げ、報告書――一応事件ではあったが被害はなかったので形式的なものではある――をまとめている中。


(……!?)


 ラッカスはゾワゾワと全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。それは、強大・・な魔力の発散を感知したときに起こるものだ。

 すぐ部下に指示を出してそれの発生源を調べさせると、とある方角の森林地帯にて落雷の魔術が発動したと分かった。


(あの魔術は……魔術師が束にでもならないと発動できないはずだが)


 ラッカスは思案する。もしかして昼間にいた女エルフがやったのではないか、と。魔力には独特の癖があり、術者が同じであれば、違う魔術でも魔力感知でおおよそ判断することができる。

 ラッカス自身は、それらが同じ術者――女エルフだと判断している。

 方角的に、そこにはとあるエルフ族の集落が存在している。女エルフはそこの住民で、王都からそこへ帰る途中に、落雷の魔術を使ったと考えられないだろうか。


 ラッカスは女エルフに興味を引かれていた。これほどの強大な魔力をもつ女エルフは、一体どのような者なのか。

 少なくとも落雷の魔術を発動できる時点で、所属する師団兵がもっている魔力よりも遙かに多い魔力の持ち主であることが分かっている。

 王国に敵対しないことが分かれば、あわよくば――とラッカスは考えていた。

 

(天候が良くなり次第、集落へ向かうとするか)


 窓から見える森林地帯の空は、一面厚い雲が掛かっていた。おそらく、現地は雨が降っているだろう。空模様を見る限り、今日中の回復は難しいかもしれないとラッカスは思っていた。

 途中になっていた報告書をまとめながら、ラッカスはまだ見ぬ女エルフに想いを馳せていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価等、とても励みになっております。

誤字脱字等がありましたら、お知らせください。


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2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。

2016/07/16 誤字、表現を修正。

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