Prologue-02 謎の男
遠くからやってくる人――どうやら男のようだ。短く揃えられた金髪、金の瞳。身長は、ぼくよりも一回りも二回りも大きそうだ。しかし体つきはすらりとして華奢な感じだ。そして細長い耳も、ぼくと同じ。服装は、皮の鎧のようなものを着ている。ごついものではなくて、胴部分だけの薄いものにみえる。腰には鞘を携えている。
「xxxxx……xxx……」
男が近づくにつれて、何か喋っているのは聞き取れるのだけど、まだよく聞き取れない。もしかして言語が違うのかもしれない。地球でも、国が変わったら言語が変わるのだから。世界が違うのなら、言語は全く違うものだとしてもおかしくない。
言葉が分からないのはまずい。この男が善人か悪人かも判断できないし、少女がもし悪人であれば、男が腰に携えている鞘に納まっている剣で、斬りかかってくるかもしれない。
いっそ、この場から走り去った方がいいかもしれない――?
そんなことを考えているうちに、ついに目の前まで男がやってきてしまった。咄嗟に身構えてしまったぼくに、男が話しかけてくる。
「……エリー? おい、どうしたんだ?」
あれ? 何故か男の話しかけてくる言葉が理解できる。間違いなく日本語ではないのだけど、言葉が脳内で日本語に変換されているような感覚だ。
ええと、何か返答しないといけない。でもどうすれば?
(わたしが言うことを、一語一句間違えずに話して! そのまま喋れば大丈夫のはず!)
(わ、分かったよ)
「……ううん、大丈夫だよ。仲良くなった精霊と話してたの。元気な子みたいで、ちょっかいをかけてきてるんだよ」
妖精の指示通りに喋ってみると、ぼくの口から少女の鈴を振るような声が発せられた。たぶん、これでいいはずだ。妖精はぼくの周りを飛び回ったり、髪を引っ張ったりしている。
――なるほど、これで指示から返答までの時間稼ぎをしようということらしい。
「ああ、そうだったのか。……何かあまり元気がないように見えるぞ」
男はそう言うと、心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。あれ、何か間違ったことを言っただろうか? 指示通りに喋っているはずなんだけど。
「動き回っていたから、少し疲れちゃったかも」
「そうか……用事は済んだのか? もういいなら一緒にテレスへ戻るか?」
「そうだね、戻ろっか」
テレスとはなんだろう。話の流れからだと、町とかそういったものかもしれない。
今までのやり取りから、この男は少女と面識があるみたいだ。知り合いか、もしかしたらそれ以上の関係かもしれない。見た目で言うと年上に見えるけど、言葉遣いから恐らく友達とかそういった関係なのだと思う。
そんなことを考えているうちに、男が歩き出した。ぼくはその男の後ろ斜めぐらいの位置をキープしつつ、付いていく。真横にいるのは、なんとなく怖い感じがしたからだ。
ぼくに指示を出していた妖精は、今はぼくの肩に座っている。けれど、肩に重みはほとんど感じられない。
木々の間を歩き進む。ぼくからすると、同じような景色が続いているような気がしなくもないのだけど。この男は道が分かっているのだろうか。ここまで来る途中も、ずっと一方向を歩き続けていたし、恐らく方角が分かっているのだと思いたい。
そういえば、この男の名前はなんと言うのだろう。少女はおそらく"エリー"という名前なのは、先ほどの会話から分かった。
あと、ぼくに指示を出してくれている妖精と思っていたものは、”精霊”と言うらしい。
男が歩きつつ振り返り、話し始めた。
「そういえば、あの湖へ行く途中に、魔獣はいなかったか?」
「ううん、特にはいなかったよ。ウィルの方は?」
「こっちも見なかった。この様子だと、今日は真っ直ぐ帰れそうだな」
”魔獣”。聞いたことのない単語だ。一体何だろう。獣というくらいだから、何かの動物だろうか? 全然分からない。
あと、この男の名前はウィルというらしい。――あれ、この精霊は何故この男の名前を知っているんだろう?
木々がない、少し開けた場所に差し掛かり精霊にそれを尋ねようとしていたちょうどそのとき。突然ウィルが足を止めた。
「……っ! どうやら、このまま帰るというのは無理なようだ」
剣を抜いたウィルの目線の先。少し離れた場所に目を赤く光らせた大きな獣が、そこにいた。
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2016/05/07 全体を改稿
2016/05/12 全体(表現・描写)を改稿
2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。