Chapter1-13 可愛い服と感じる視線
着せ替え人形から解放されたのは、日が傾いた頃だった。途中からは店員とヴィーラさんが意気投合して、あれやこれや言いながらぼくたちを蹂躙していたのだ。
その結果、今ぼくが着ているのは、エリーの服ではない。
(な、何も履いてない感じがする……)
今着せられているのは、首元に奇抜なリボンが付いている長袖の黒いブラウスに、丈の短い黒いプリーツスカートだ。さらに黒のニーソックスを履いている。名前は店員が話しているのを聞いたものだ。
いわゆるミニスカートは初めて履くけど、どうにも下半身が落ち着かない。エリーの持っていた服は、ほとんどが足元まで丈がある長いスカートだった。
上も下も黒でワンポイントが奇抜、こういうのをどこかで見たことがある気がする――。と思っていたけど、これはあれだ。ゴスロリというやつだ。エリーは銀髪で青い目なので、こういう服がとても合う。
ぼくに中二趣味はないけど、それを抜きにしてもありだと思う。
シアの方はというと、白のノースリーブシャツにデニム生地のショートパンツという組み合わせだ。
普段ローブばかり着ていて肌の露出が少ないシアが、ここまで肌が見える服を着ているとすごく新鮮だ。スレンダーな体付きが相まって、モデルのような雰囲気を纏っている。
シア自身は慣れない服に少し戸惑っているようだけど、この組み合わせが嫌いという訳ではなさそうだった。
今着ている服の所有権は、ぼくにある。試着するだけで終わるかと思いきやヴィーラさんが、気に入ったものがあったら買ってあげると言ってきたのだ。この組み合わせ、シアが言うには宿に1泊する金額の数倍はするらしい。
流石に申し訳ないと思い、強く断ったのだけど。
「私が買ってあげたいのよー」
という具合で一歩も引かなかった。結局こちらが折れて、仕方なくこの組み合わせだけを買ってもらった。今日はこれを着ていて欲しいとのことだったので、仕方なく着ている。
――そう、仕方なくだ。
エリーの普段の服もいいけどこっちもなかなか、なんてこれっぽっちも思っていない。
服飾店を出た後、街をぶらぶらと歩いているのだけど。先ほどから何かを感じて落ち着かない。これは王都の直前辺りから感じているものだ。
一体何なのだろうかとキョロキョロと辺りを見ていると、ヴィーラさんが話しかけてきた。
「どうしたのー? 何かソワソワしているみたいだけどー?」
「……周りから何か見られてるような気がして……。その感じが服飾店を出た辺りから余計に強く感じて……」
「うんー? …………ああー、そういうことねー」
突然ヴィーラさんが近づいて、僕の耳元で囁く。
「みんなねー、エリーちゃんたちがかわいくて見とれているのよー」
エリーは客観的に見ても、かなりかわいいと思う。そんな子が街を歩いていたら、色んな人から見られるのは当然だろう。かわいい服を身に纏っているのだから尚更だ。
かわいいと言われた対象はエリーだけど、それはぼくでもある。言いようのない複雑な気分だ。その中で僅かに現れたとある感情に、振り払うかのように顔をぶんぶんと振る。そんな感情が起こるはずはない。
なんというか、叫びながらどこかへ走り出したい気分だ――。
「気を付けて歩かないと、色々見えちゃうから注意してねー」
まるで心の中を読まれているかのように、ヴィーラさんから注意を受ける。
丈の短いスカートだから走ろうものなら、風でスカートの中が見えてしまうだろう。
ぼくはシアの横で、顔を俯かせてロボットのようにぎこちなく歩くのだった。
その後は飲食店街に戻り、適当な飲食店に入って夕食を摂ることとなった。その席でヴィーラさんにお酒――エールとかいう飲み物――を勧められた。未成年なので、と言って断ろうとしたら、二人は目を丸くして”あなたはもう未成年じゃない”と言った。
どういうことか話を聞いてみると、十二歳を迎えた時点で成年と見なされるとか。あと、別にお酒は何歳からでも飲んでもいいらしい。元の世界とは大違いだ。
つまりは、ぼくもお酒を飲めるそうだ。少し飲んでみたいという気持ちもあったけど、いきなり飲む勇気はなかったので断ることにした。シアは何度か飲んだことがあるようで、注文したらしい果実酒をちびちびと飲んでいた。
しばらく他愛もないことを話していたけど、ヴィーラさんがそういえばと前置きして――。
「今日はもうテレスには戻らないんでしょうー? 夜はどうするのー?」
「あ……シアが使ったことのある宿に泊まろうと思っています。……まだ部屋を押さえてはないですけど」
そういえば、宿の部屋が空いてるか確認するのを忘れていた。もう夜に近いけど、大丈夫かな?
「うーん、外に出ていた冒険者たちが戻ってきてる時間だから、もう空きがないかもしれないわねー。……そうだわー、うちに泊まっていくといいわよー」
「え……それはご迷惑では……」
「部屋はたくさんあるから、構わないのよー。家には私しかいないから、たまに泊まってくれる人がいると嬉しいけどねー」
「……シア、どうしよう?」
ぼくとしてはありがたい提案なのだけど、シアにも確認を取ってみる。
「……私は構わない。というか、断っても多分”お願い”されるだけだと思う」
「あらー。分かってるじゃないー」
シアの言葉にそう返すヴィーラさん。なるほど、既に決定事項だったということだ。
そういう訳で、ヴィーラさんの言葉に甘えることになった。
次話、ヴィーラさんの"お願い"は更にエスカレートして――?
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2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。