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Chapter1-11 エルフのお姉さん

「え……修理ができないってどういうことですか?」

「お嬢ちゃんの魔力に耐えられる宝石ジュエルがないんだよ。それがあれば修理できるんだが……」


 男の話を聞いていると、その宝石はこの工房どころか、王都内でも見つかるかどうか怪しいと言うのだ。


「何とかならないんでしょうか……」

「そうだな、ここの市場じゃまず見つからんだろう。個人で持っていそうな奴の伝手でもあれば……」


 しばらく男が考えこんでいたが、突然「おお、思い出したぞ」と言い、話出した。


「前に宝石のことで世話になったエルフ・・・がいるんだが、そのエルフ・・・なら持っているかもしれないぞ」

「本当ですか! ……その方は何と仰るんですか?」

「ああ、名前は……」



「……え、その方って……」


 その名前を聞くと、ぼくとシアはお互いを見合ってしまった。


 ☆


 王立カピタール大学。この大陸に唯一存在する大学だ。ここには基礎学校と呼ばれる、子どもが通う学校も併設されている。ただし、こちらへ通えるのは上流階級の貴族に限られる。――学費がとても高いのが理由の一つだけど、身分での足切り・・・があるためだ。

 大学はそうではなく、その道に秀でていることが証明できれば、入学が許可される。さらに優秀な生徒は、卒業後に講師として残る道も用意されている。

 テレスで長老が教えてくれた情報だ。


 大学の受付にて目的を告げると、場所を案内してくれた。魔術学研究エリアの地下の一室前へと来たぼくとシアは、ドアをノックした。中から「はーい空いてますー」と間延びした高い声が聞こえた。声を確認してからドアを開けた。


 てっきり、研究材料や資料でグチャグチャになっているだろうと思っていたけど、案外整頓されていた。

 グチャグチャというのは、テレビのインタビューでよく見る、大学の先生に対するぼくのイメージだ。

 壁に備え付けられている棚には、本が綺麗に並べられている。床に物が散乱しているということもなく、きちんと掃除されているようだ。


「ごめんなさいねー、今忙しくてちょっと相手ができ……あら?」


 奥から現れてきたのは、背の高めの女性だ。

 ウェーブのかかったピンクの長い髪にカチューシャを付けている。服は肩を大きく露出した、漆黒のドレスを身に纏っている。――とんがり帽子をつけたら、まさに魔女といった風貌だ。耳の特徴からエルフ族だと分かる。服はあれだけど、髪や顔付きからおっとりとした印象を受けた。

 長老から注意した方がいいと言われたから、少し警戒していたのだけど。見た感じは普通に見える。


「あら、あら、あらー?」


 近づいてきたかと思うと、女性は止まることなくそのままぼくに抱きついてきた。わぷっと変な声が出てしまう。ぼくの顔には二つの巨大な何かが当たっていて、苦しくて息ができない。


「きゃー、かわいい~!!」


 女性が大きな声でそう言いながら、ぼくをきつく抱きしめあげてくる。もがもが、と声を出していると、シアが何とか引き離してくれた。


「ご、ごめんなさいねー……つい止められなくて」

「いえ、大丈夫ですから……」


 女性が申し訳なさそうに話している。ぼくは息を整えて女性に話しかける。


「……わたしは、テレスから来たエリクシィルと申します」

「フェリシアと言います。……あなたがヴィーラさんでしょうか」

「そうよー。私がヴィーラ。テレスかー、懐かしいわねー。それで、一体何の用かしら?」


 そう、魔術具工房で聞いた名前と、長老が会ってほしいと言っていたエルフの名前が同じだったのだ。この女性が、この王立カピタール大学の講師、ヴィーラさんだ。

 間延びした話し方で、見た目通りのおっとりとした性格のようだ。


「はい。お聞きしたいことと、お願いしたいことがあります」


 シアは長老の紹介状をヴィーラさんに手渡した。ヴィーラさんがそれを読み始めると、顔付きが真剣なものへと変わっていく。読み終えると、ぼくを見つめてこう言った。


「はあー……ちょっと信じられない内容だけど……。ともかく立ち話もあれだし、そこに座って頂戴ねー」


 ヴィーラさんは、ぼくたちをテーブルに案内してくれた。そのあと部屋のドア付近へ行き、何かぼそぼそと呟いている。手を前に出すと、白い光がドアを包んだ。


「……今のはなんですか?」

「人払いと防音の精霊術よー。これで誰にも話を聞かれないから、安心してね」


 テーブルに戻ってきたヴィーラさんが、そう教えてくれた。精霊術にはそういった使い方もあるらしい。ヴィーラさんが話を続ける。


「それで、結論から言うと……そういった精霊術はあるといえばあるし、ないといえばないわねー」

「えっと……どういう意味でしょう」

「空間転移や世界転移といった術は、伝承では存在したことになってるの。でも、実際に行使できた術者は記録上にはいないのよー。術の規模を考えると、膨大な魔力が必要だと思うのよねー。そんな魔力量をもった個体も、今は存在しないと思うわねー」


 その精霊術は、大昔に存在したかもしれない・・・・・・代物、ということだ。そして膨大な魔力が必要とのことだけど。

 とりあえず、その精霊術が本当にあるのかどうかを、先に調べるべきだろう。


「……その精霊術が本当に存在したかどうか、詳しく調べられないのでしょうか」

「うーん、古代の精霊術の古文書を探して解読してみる、という手はあるにはあるわねー。解読は私の専門分野ではないから、時間はかかっちゃうわねー。……研究のネタ探しのついででもいいなら、やってあげてもいいわよー」

「本当ですか! ……先ほど忙しそうな様子でしたけど、いいのでしょうか」

「ああ、別件の研究はあるけどねー。それよりもこっちの方が面白そうだからねー。ただ、気長に待ってね、としか言えないわねー。何か進展があったら都度知らせる、でもいいかしらー?」


 当面はヴィーラさんの古文書解読の進展待ち、ということになりそうだ。早く進めばいいけど。好意でやってもらうのだから、急かしたりするのは失礼だろう。ぼくはお願いします、と頭を下げた。


 こちらの話が一段落着いたところで、シアが魔術具も、と口を挟んできた。もう一つ用事もあるのだった。ぼくはポシェットから指輪を取り出し、ヴィーラさんへ差し出した。


「もう一つ、お願いがあるのですが……。魔術具工房へ魔術具の修理を依頼したのですが、わたしの魔力に耐えられる宝石がなくて、修理ができないと言われました……。店主さんが、あなたなら宝石を持っているかもしれない、と仰っていました。良い宝石をお持ちじゃないでしょうか?」


 ヴィーラさんは宝石の取れた指輪をじっと見つめると、しばらくしてぼくに言った。


「これが壊れちゃうって、かなりの負荷がかかったようねー。……ちょうど良いのが、あるにはあるわねー……」

「……それを譲っていただくことは、できないでしょうか」

「そうねー、あれはあまり流通しない希少な宝石なのよー。だからタダっていう訳にはいかないわねー。買おうとすると、結構いい値段になるのよねー」

「……いくらぐらいでしょう」

「そうねえ……」


 ヴィーラさんが提示した値段を聞いて、ぼくは唖然とする。それは長老から預かったお金の数倍の金額だった。とてもじゃないけど、買えるようなものではない。

 お金ばかりはどうしようもないので諦めようと思っていたところ、ヴィーラさんが口を開いた。


「でもこれは貰い物で使う予定もないし……。そうねー、私のお願いを聞いてくれるなら、あげてもいいわよー」

「え、本当ですか! ……お願いとはなんでしょうか」


 タダにしてくれるならありがたい。ぼくは、出来ることなら何でもする・・・・・と言った。


「……それはねー?」


 このとき、ヴィーラさんの目がギラリと怪しく光っていたのを、ぼくは捉えることができなかった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価等、とても励みになっております。

誤字脱字等がありましたら、お知らせください。


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2015/05/16 シアの台詞を追加

2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。

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