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Chapter3-43 婚礼の儀(最終話)

最終話となります。

 そうして月日は流れ。

 結婚式――婚礼の儀が行われる当日となった。


 子どもたちの祝福の儀(ブレッシング)と同じように、聖樹様に結婚の報告を行うみたいだ。

 それが終わったあとは、集落をあげてお祭りが行われるとのこと。


 本来は集落の中で大きな建物――長老様の家――で執り行われるのだけど、今回の参加者数ではどうやら収まりきらないらしい。

 宮廷魔術師の皆がわざわざ来てくれるし、ウィルの方も親衛隊の人らが来ると言っていた。

 何にせよ屋内では無理だとのことで、魔術訓練が行われている広場で行うことなりそうだった。


 気になるのはベネなんだけど。結婚すると伝えたら、絶対に呼んでほしいと言われてしまった。

 王族が自国ではない辺境の地までやってくるというのは、色々問題がある気がするけど――。

 一応、開催日と時間は伝えてあるけど、本当に来るんだろうか。


 ☆

 

 お母さんに手直してしてもらった、白のドレスを着付けしてもらう。

 イブニングドレスからウェディングドレスへと変貌したドレスに身を包み、お母さんに化粧を施してもらう。

 この衣装が着られる日を、どれほど待ち望んでいたか。感極まって涙が出そうになるのをこらえる。

 折角化粧をしてもらっているのだから、なんとか我慢しないと。


 集落を出発して、聖域サンクチュアリ内の聖樹様の元へ結婚の報告へ向かう。

 魔獣の出現に一抹の不安を感じたけど、結局魔獣は現れず小動物がぴょこぴょこと飛び出してくるほど平和だった。鳥の囀りもぼくたちを祝福してくれている、みたいな勝手な解釈までしてしまうぐらいに。

 今回は戦える人が居るから心強い。長老様も居るし、レティさんやラッカスさんまで一緒に来てくれた。


 そうして何事もなく大木の前へやってくると、一瞬発光した瞬間に意識が眼前の光景が切り替わった。


「聖樹様……?」

「こんにちは、エリクシィルさん。……成り行きは把握しています」


 ぼくが声を出すと、聖樹様が目の前に現れた。

 さすがに三度目、もう驚く事はなかった。


「ウィレインさんと、結婚されるんですよね。報告にきていただいてありがとうございます」


 深々と御辞儀をする聖樹様をぼくは黙って見ていた。というのも、どうも聖樹様が浮かない表情をしていたからだ。何かあったのだろうか――?


「あの……エリクシィルさんは今幸せでしょうか?」

「……?? どうしてそんなこと聞くんですか?」

「その、私のせいで色々と巻き込むことになってしまって……」


 しばらく話を聞いていると、聖樹様はぼくを無理矢理ここに呼んだことにたいして、後ろめたさを感じているようだった。表情が曇っていたのはそのせいだったのか。

 ぼくもあちらの世界(・・・・・・)のことを考えることはある。

 吹っ切れた、という言い方だとおかしい気がするけど――。


「……あちらの世界のことを思い出して、寂しく思うことはあります。……だけど、今は皆が居るから大丈夫です。それに……大好きなウィルが居ますから」


 そう言ってぼくは精一杯の笑顔を見せた。作り笑顔ではなく、今が本当に幸せだということを伝えたかった。


「そうですか……。謝って済む話ではないのですが、そう言っていただくと少し安心しました。ウィレインさんとの結婚、心から祝福したいと思います」

「ありがとうございます」

「ほんの少しずつですが、力を取り戻してきているようです。全て元通りになるまでどれぐらいかかるかは分かりませんが、引き続き見守っていきます」


 聖樹様はそう言い、また一礼。そして続けざまに口を開いた。


「これは私からの勝手なお願いですが……もしおふたりのお子さんが産まれたら、一度顔を見せにきていただけないでしょうか」

「え、えっと……。それはいつになるか分かりませんけど……そのときが来たら必ず」

「……ありがとうございます。お待ちしております」


 子ども、いつになるのだろう。お母さんからは色々と教えてもらったけど――。

 ぼくはすぐに考えるのをやめた。うん、今はそれを考えるときではないし。


「何かお困りのことがあったらいつでもいらして下さい、お待ちしております。……改めて、ご結婚おめでとうございます」

「ありがとうございます……!」


 再び光に包まれて次に気が付くと、大木の前。直後に横から肩を叩かれる。

 ウィルが小声で耳打ちしてきた。


「今聖樹と話をしてたんだが……」

「ウィルも? わたしもだよ」

「そうか……。何か言ってたか?」

「おめでとうって……あと、見守ってるからって」

「俺も同じだった」


 子どものことはちょっと恥ずかしくて言えなかったけど、ウィルにも言ったのだろうか。

 そんなことを考えているうちに、長老様の聖樹様への報告はつつがなく終えた。


 ☆


 そうして婚礼の儀を終え、それに併せたお祭りも終わってくたくたになって自宅へ戻った。

 すでに前住んでいた家ではなく、ウィルとふたり暮らしをするための家だ。

 空いている家がなかったので、集落の空き部分にわざわざ建ててもらったのだ。

 大きさとしてはレティさんが借りて住んでいる家よりは広く、部屋も増やしている。


「お疲れさま。はい、お水」

「おっ、ありがとうな」


 ぼくの差し出した水を一気に飲み干したウィル。

 少し顔が赤かったので酔い覚ましに、と思ったのだけど。


「でも、ウィルにしてはそんなに飲んでなかったね?」

「そりゃこんな日に、前後不覚になるような飲み方をする訳にいかないだろうが」

「それもそうだね」


 それから、ふたりでお祭りのことについて話し始めた。


「結婚式っていうかあれは披露宴か? よく分からなかったが、ああいうのでよかったんだよな」

「たぶん。あっちの世界で親戚のに参加したときは、あんな感じだったし」


 たぶん、合ってるだろうと思いたい。

 冒頭でお姫様抱っこをされて皆の前に連れ出されたときは恥ずかしかったけど、集落の皆やたくさんの人らに祝福されて嬉しかった。


 余興でウィル考案の花火(・・)みたいなのを、ぼくの魔術でやったんだけど。もちろん、森に絶対被害が出ないようにだいぶ上空で爆発させたけどね。

 あんな無駄に魔術を使うことは、滅多にないだろう。


 そして本当にやってきたベネは、子どものように大はしゃぎしていた。

 どうやって来たんだろう……? 近くに従者や近衛兵らしい人が何人もいた気がする。だいぶ無茶をしてやって来たんだろうなという気がするけど、お祭りの最中に祝福しに来てくれて、自分のように喜んでくれていた。

 ベネが結婚するときは、ぼくを招待してくれるらしい。相手がいるのか尋ねたけどそこは濁されてしまった。


「エリーは途中でボロ泣きしてたもんな……。つられて俺も泣きそうになったぐらいだ」

「あ、あれは……し、仕方ないでしょ……!」


 ぼくが行ったのは、両親に感謝の言葉をしたためるようなこと。あちらの世界(・・・・・・)と同じような風習がなかったようなので、真似てみたのだった。

 もちろん、カナタ(ぼく)の部分は伏せておいたのだけど。

 自分で書いておいて、いざ読み上げ始めたら色んな感情が込み上げてきて大泣きしてしまったのだった。

 折角の化粧が落ちてしまって、化粧直しにしばし時間が必要となったのだった。


 ☆


「つ、疲れた……」


 そうして語り合ったあと。

 ぼくは先にお風呂に入って、今はウィルがお風呂に入っている。

 薄いガウンに着替えたぼくは、ベッドで足をバタつかせる。

 そのまま後ろに倒れ込んで、左手を見るとキラリと光る銀の輪っか。


(ぼくとウィルが、夫婦……)


 左手の薬指には、ウィルと同じ銀のリングが嵌められている。

 幸せな気持ちが溢れて、思わず頬ずりしてしまう。


 乾かした髪の毛をくるくると指先で巻いたり、姿見でおかしなところがないか確認したり。

 ――落ち着かない。

 立ち上がって、家の中を歩き始めた。


 新築特有の木の匂いが漂っていて、まるで森の中にいるかのよう。

 完成は二週間以上前に済んでいたし、家財道具などもすべて運び入れてある。

 初めは、ぼくとウィルどちらかの家に住むという選択肢もあったんだけど。

 ――ウィルのとある一言で、新しく建てた方がいいだろうという話になったのだ


 とある一つの部屋を空ける。中には家財道具などもなく、空っぽの状態だ。

 ぼくとウィルが使う部屋ではない。

「子どもが生まれたら手狭になるだろ」との一言で、事前に準備した部屋だ。


(子ども……子どもかあ……)


 婚礼の儀も終わって、いわゆる初夜である。

 そういうこと(・・・・・・)は結婚してからと約束して、清く正しい? 付き合いをしていたのだ。

 隠れてイチャイチャしたりキスしたりはしていたけど。シアにバレて色々言われたりした記憶が蘇ってきた。

 ――思い出しただけで顔が熱くなってくる気がした。

 そんなことを考えていたら、いよいよウィルがお風呂から上がってきた。

 自然と体が強ばる。だけど、ウィルが発した言葉は――。


「もう疲れただろ。明日は何もないけど早めに寝るか」

「……え?」


 ウィルの声に、思わず残念な声を上げてしまう。

 そのままベッドへ向かおうとするウィルを捕まえて、ぼくは口を開く。


「あの……婚礼の儀が終わったら……って……」


 なんだか自分からそれ(・・)を急かすようなことを言っているような気になって、俯き加減になってしまった。

 直後に「すまん」というウィルの声。顔を上げると、ウィルが頭を下げていた。


「ちょっとエリーの姿を覗き見してたんだが、明らかに落ち着いてない様子だったから……」

「ひ、ひどい! 緊張して待ってたんだよ!!」

「いや、茶化して悪かった……。ちょ、ちょっと痛いぞ」


 胸を両手でポカポカと叩く。力を入れて割と本気で。少しは通用したのかウィルが痛がっていた。

 乙女心を弄ぶだなんてひどい行為なので、しっかり罰を与えないと。

 そんな中、突然ウィルに抱きしめられて。


「本当にすまなかった。……・茶化しといてなんだが、俺ももう限界だ」

「あ……う……」


 ウィルの懺悔の言葉と態度で、怒りの気分は瞬時に収まってしまった。

 ずるい。そんなこと言われたらぼくだって、今すぐウィルと――。


 首に手を回して、背伸びしてウィルの顔へ。

 熱い抱擁と情熱的なキス。頭が蕩けそうな感覚。

 しばらくそれを堪能したのち、突然ひょいとお姫様抱っこをされる。

 行き先はベッドの上。そのまま優しく下ろされて、ウィルが乗っかる形に。

 そんなウィルの頬を、ぼくは右手で撫で上げた。


「エリーが今すぐ欲しい。……いいか?」

「……うん。よろしく、お願いします」


 近づく顔の後ろに手を回して、ウィルの口づけを優しく受け止めた。


 


 この世界に無理矢理連れてこられて、女の子になってしまって。

 様々な出来事に巻き込まれて、良いことも嫌なことも経験して。

 本当に色々とあったけれど、今こうしているぼく――わたしは、胸を張ってこう答える。

 好きな人と一緒に居てとても幸せです、と。

約1年半もの長期に渡るご愛読、誠にありがとうございました。

本日19時頃にエピローグを掲載します。是非ご覧下さい。

エピローグ掲載後、活動報告にて改めて完結のご報告をさせていただきます。



お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価等、とても励みになっております。

誤字脱字等がありましたら、お知らせください。

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