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Chapter3-42 想い通じて

 暗くなるギリギリの時間までウィルに引っ付いていたせいで、テレスに戻る頃は日が完全に沈んでしまっていた。ウィルとはまた明日会う約束――これからのことを話したい――をして別れた。


 家に帰るとお父さんとお母さんが出迎えてくれたけど、随分と心配をさせてしまったようだ。普段よりも遅い時間に帰ったからだろう。遅くなったことをちゃんと謝って、すぐに夕飯となった。

 食事中は、パーティーのことだけを話した。

 誘拐されたことまで話してしまうと、余計な心配をかけさせてしまうのが目に見えていたからだ。

 こういう隠しごとは、心苦しいけど仕方ないだろう。


 夕食が終わったあと、大事な話があると言ってお父さんとお母さんを居間に残した。

 だけど、言い出そうとしたら中々お腹から声が出てこなかった。

 ぼくの様子を見たお父さんから「良くない知らせなのかい?」と尋ねられたけど、すぐに首を横に振る。

 ちゃんと言わなきゃ。


「……えっと……! ウィルから……結婚を前提に付き合ってくれないかって……」

「あらあら! よかったじゃないの」

「ウィル君が……。ふむ、ウィル君ならエリーのことをよく知ってるし任せてもよさそうだ」


 思ったより反応がない様子に拍子抜けしてしまうぼく。

 ぼくが折角言い出したのに、そこはもっと驚くものだと思ったんだけど。

 いや、それよりも――。


「……どう答えたかって言ってないのに」

「エリーが断るわけないでしょうし、実際そうだったんでしょう」

「う……そうだけど……!」

「ははは。でもエリーがかあ……。なんだか、感慨深いね」

「そうね……。ウィル君がどうかなと思ったけど、案外奥手みたいだったから」


 両親(ふたり)がそんなことを言っているのを聞いて、心の中で笑うしかないぼく。

 ごめん、正確にはぼくから告白したのが始まりだったんだよね。

 それでも、ウィルの口から告白の言葉が聞けて十分嬉しいけれど。


「何はともあれ、これから大変だね。やるべきことが多いから」


 お父さんの声に首を傾げてしまう。

 やるべきこと? 一体何だろう。


「結婚するってことは、家庭をもつということ。色々と覚えてもらう必要があるのよ。エリーは家事だけは大体大丈夫だけど、それ以外もね。結婚できるとはいえ、まだ十三歳なのだから」

「そのうちに、ウィル君のお母さんにも挨拶へ行かないといけないね。……いや、この場合はあちらから来てもらうんだっけ? まあ、良く知っている間柄だしあまり考えなくてもいいかな」

「ちょ、ちょっと、気が早すぎじゃない……!?」


 さっき付き合い始めるという話をしたばかりなのに、いつの間に結婚前提で話が進んでいることに驚いてしまう。


「え、でもエリーはウィル君と結婚する気でしょう? 違うのかしら?」

「…………チガワナイデス」

「なら、進められることは早く進めるのよ。大丈夫、私に任せておけばどこへ出してもいい状態にしてあげるから」


 そうしてお母さん監修の元で、これからいろいろな手解きを受けることとなり。その概略ならびにスケジュール決めは深夜まで及んだのだった


 ☆


「……みたいなことがあって、大騒ぎだったんだよ」

「エリーはもう両親に話したのか。俺はまだだったんだが……」


 翌日、ウィルの家の居間にて。ちょうどウィルのお母さんが出掛けているみたいだったので、テーブルのある居間で話をしていた。

 少し寝不足気味だけど、疲れた顔なんか見せられない。ウィルと約束していたので時間通りにやってきたのだった。

 ぼくの愚痴を聴いてくれているウィルは、心なしか眠そうな表情をしている。

 時折欠伸もしている辺り、ウィルも寝るのが遅かったのかな?


「ちょっとどころか、だいぶ気が早いよね……。ウィルはいつ話すの……?」

「んん? ああ、エリーの家がそのつもりなら、もう今夜には話すさ」

「……なんだか、急かすようにしちゃってごめんね……」

「気にしなくていい、元々結婚前提でって言ったのは俺だからな。エリーが受け入れてくれたのは嬉しかったし、それが早くなるなら準備を進めるだけだろ」

「う、うん……」


 ウィルの言葉で、なんだか結婚するんだという気持ちを実感する。付き合いもまだろくにしていないのに大丈夫かな――? とはいえ、ウィルのことはふたり分(・・・・)の思い出がある。知り尽くしている、と言っても過言でない。

 これまでフリを演じていくなかでも問題なかったし、きっと大丈夫だろう。

 まあ本当にすぐに結婚するわけではなくて、少なくとも準備やらで半年はかかるらしいし、その間はデートしたりとか――。

 そんなことを考えていたところで、とある疑問にぶつかる。


「そういえば、宮廷魔術師とかどうしよう……。このまま続けてもいいのかな……?」

「わからんな……。そもそも、魔獣についての問題はまだ片付いてないんだから、そのまま続けるべきだとは思うけどな。俺も親衛隊のことは一旦相談しにいかないとな……」

「わたしも、まずは支部長のレティさんに報告して、最後は団長のラッカスさんに尋ねることになりそう」


 そこでぼくは気付く。二人で王都へ行く用事が生まれたということに。

 ふたりきりになれるチャンスがあるということに。

 ぼくは立ち上がり、座っているウィルの背中に回り込んで、後ろ抱き。ウィルの体温が感じられて、幸せな気分になれる。ウィルとこんな関係じゃなかったら、進んでやるのは難しいことだった。

 ウィルの横顔を覗き込むと、驚いた表情で前を見ていた。

 突然こんなことをやったら、仕方ないかもしれない。でも一歩ずつ、コイビト(・・・・)らしい振る舞いをしたいし。ぼくは口を開いて声量を抑え、話し始める。


「えっと、ウィル。時間ができたら、ちゃんとしたデートをしたいかなって……」

「お、おう。そうだな……」

「……でもこの間王都へいったとき、わたしはデートしてるつもりだったんだけどね」


 あのときは、あくまでフリという大義名分を通したぼくの強引なものだったんだけど。


「やったらベタベタしてきたのは、そのせいだったのか……」

「…………嫌だった?」

「いや、そんなことはないが……」

「じゃあ今度は、ウィルがリードしてほしい……かな?」


 この間は、ぼくが色々と連れ回した。後半はウィルに行き先を任せはしたものの、こうグイッと引っ張っていってほしいかなって気持ちが強かった。

 やっぱり、デートだし。男性にリードしてもらいたいという気持ちがあっても、おかしくないはず。

 ウィルとなら、どこへ行っても楽しいはず。


「わ、分かった。努力、する」

「……さっきからなんかおかしくない?」


 ウィルの様子がおかしいことに気付く。前を向いたままこちらへ向こうとしないし、言葉もなんかぎこちないし。何か考え事でもしてるのかわからないけど。


「いや、その、なんだ……。いや、すまん、背中に当たってるのが気になって……」

「背中? …………あっ」


 ウィルに言われて、はたと気が付く。この体勢は胸が押しつけられていることに。

 ――とはいえ、自分で言うのもなんだけどそんなに胸がないのに気になるものかな?

 だけどウィルから指摘されたら、なんだか恥ずかしい気分が強くなってきた。

 ちょっと、さすがに大胆すぎたかな――?


「ウィルのえ、えっち……」

「うっ……。そ、そうは言うが……男の気持ちも多少分かってほしいんだが……」


 居た堪れなくなったぼくが苦し紛れに吐き出した言葉は、ウィルにダメージを与えてしまったようだ。

 がっくりと項垂れたウィル。まあ、確かに分からないでもない。カナタ(・・・)のときにされたら、そう思ってしまうような気はする。


「もう。それじゃウィルにくっつけないじゃん!」

「……なんかエリー、変わらなかったか? そこまでグイグイ来るとは思っていなかったんだが……」

「そうかな……?」


 そう言われると、ぼくの性格からするとかなり大胆なことをしている気はする。どちらかというとわたしの方が強く意識として出ているような――。

 でも、これから付き合っていくんだしこれぐらいはしてもいいよね?


「まあ、分かった。また近いうちに王都へ行くか。……でもしばらくはテレスに居るだろ?」

「そうだね。お父さんお母さんとか張り切ってるし……」

「久しぶりに、一緒に魔獣退治にも行くか。……でも、子どもたちの訓練にも付き合わないといけないだったな」

「うん。でもどっちでもいいよ?」

「そうだな……」


 そんなことを話していくうちに自然と言葉数が減っていく。

 ぼくが後ろ抱きしているまま、ふたりして見つめ合う格好に。

 ――キス、したいな。そんな想いが通じたのか、ウィルは顔を近づけてきた。


「エリー……」

「ウィル……だいすき」


 短く言葉を交わして、昨日ぶりのキスは唇を合わせるだけ。なのにチョコレートのように甘く、ぽかぽかと全身に熱を帯びていく錯覚を覚えた。

 顔を離して見つめ合っていると、ウィルは頭を撫でてくれた。

 もっと、もっととはしたなく猫撫で声を上げてしまう。


 しかしその幸せな余韻に浸る間もなくウィルのお母さんが帰ってきて、抱き合っている姿を見られてしまい。

 色めき立つウィルの母親に対して、こうなった経緯をふたりで説明することになったのだった。

 幸いにも歓迎、むしろ大歓迎されたのは嬉しかったけど。


 そのあとウィルからの「キスは誰も邪魔されないところでしよう」との提案に、ぼくは即時同意したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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