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Chapter1-07 魔術の訓練

 シアからようやく解放され、数分の後――正座のせいで足が痺れて動けなかった――に、長老のいる部屋まで戻ってきた。長老は何か調べ物をしていたようだった。


「やっと戻ったか。随分長かったようだが、重要な話でもあったのか」

「はい、とても大切な話でしたので」


 シアの声色が少し冷たい。ある意味、魔獣より怖いような気がする。


「もうよければ、場所を移動して訓練を始めてもらうとするか。付いて来い」


 そういうと長老は立ち上がり、家の外へと向かった。ぼくたちは長老の後を追った。


 長老に連れてこられたのは、集落の外れにある広場だ。広場の奥には木の板のようなものが立てかけられている。

 そのすぐそばには茶色の袋がある。どうやら土嚢(どのう)らしい。これを的の後ろに積み上げて、飛んできた魔術の威力を押さえ込むらしい。


 積み上げる作業を手伝おうとしたけど、肝心の土嚢(どのう)がどうやっても持ち上がらなかった。長老やシアは持ち上げられているのに。この体になってから力がなくなったな、とは気付いていたけどここまでとは思わなかった。手伝えないことを詫びたけど、気にしないでいいと言ってくれたのはありがたかった。

 そして、準備が整ったところで長老が口を開く。


「エリクシィルにはここで訓練をしてもらう。ここは魔術を使っても周りに影響が出ぬ特殊な空間になっているから、多少無茶をしても大丈夫だ」


 長老の話によると、いわゆる結界のようなものが施されていて、それが破られない限りは安全なんだとか。


「では、あとはフェリシアに任せる。頼んだぞ」

「はい、長老様」


 長老はそう言うと、広場をあとにした。そして、シアがぼくに話しかけてきた。


「……始める前に。エリーは魔術のことは何も知らない……のね」

「うん。昨日長老様から聞いたぐらいのことしか知らないよ」


「なら、もう少し説明する」


 昨晩予習を兼ねて、魔術のことをエリーの知識から調べようとした。けど、何か断片的なものしか読み出せなかった。

 断片的というのは少し齟齬がある。エリーは、大雑把にしか魔術のことを知らなかったみたいだ。という訳で、知識はほぼ無いに等しい状態だ。


 シアの説明に耳を傾ける。魔術はイメージが大切らしい。まずは、属性の選択。昨日言っていた四属性のことだ。

 次に発動対象と、座標位置だ。魔獣相手だとすると対象は魔獣、その魔獣がどこにいるかという意味だ。ロックオンする、という言葉が合いそうな気がする。

 そして、術に流し込む魔力を決める。これで魔術の威力を調整するらしい。最後に、魔術名を発することで魔術を発動させる、とのことだ。


 アニメやゲームで登場する魔法使いが良く使っている、詠唱みたいなものは必要ではないらしい。ところが、必須ではないというだけで、使う場合もあるにはあるらしい。


 イメージが苦手な場合に使う魔術師ウィザードもいるとか。ただ、どうしても口を使う分、イメージよりは発動が遅くなるだろうとのこと。

 余談で、あえて・・・詠唱をする魔術師もいるらしい。しかも、無駄に長い・・・・・らしい。何かの意味があるんだろうか。


 ”術に流し込む魔力”というのがどういう意味か、よくわからなかった。シアに聞いてみたけど、これを説明するのは難しいらしい。感覚で掴むもの、とのことだ。実際にやってみるしかないだろう。


 魔術名に関しては、術者が自由に決めていいらしい。ただ、あまり長くなると発動時間のロスに繋がるので、単純で短いものを使う場合が多いそうだ。


 一部の魔術師は、難解かつ長ったらしい魔術名を使うらしい。具体的にどんなのがあるのかいくつか聞いてみた。

 それは分かりやすく表現すると、中二病というやつだ。こちらの世界では、そういった概念はあるのだろうか。


 先ほどの無駄に長い詠唱をする魔術師といい、完全にこじらせた・・・・・系の術者もいる、ということが容易に想像できた。


 一通り説明を聞いたところで、もう一つ大切なことがある、とシアが付け足した。


「エリーの”恩恵属性ギフト”を調べてみないといけない」


「恩恵属性?」


 魔術を行使する者は、種族を問わずに生まれた時から恩恵属性というものを持っている。恩恵属性は他の属性に比べて、魔力の消費効率(魔力量に対する実威力)や発動時間などの面で有利になる、とのことだ。


「なるほど。どうやって調べるの?」

「私に任せて。手のひらを出して」


 シアに従い、手のひらをシアの方へ差し出した。シアはその手へ両手をかざすと、何かぼそぼそとつぶやき始める。次の瞬間、ぼくの手のひらの上に、赤色と緑色の光が煌めきだした。


「予想はしていたけど。やっぱり二種持ちダブルギフトだったのね」

「……二種持ち?」


「赤色は、火。緑色は、風。つまりあなたは二つの恩恵属性がある。これはかなり珍しい。ほとんどの魔術師は、一つの恩恵属性だけしか持たないから」

「なるほど。……予想はしていたってどういうこと?」

「……エリーから魔獣を倒したと聞いたとき、灼熱の嵐フレイム・ストームというのを使ったと聞いた。名前を聞く限り恐らく火と風の属性を使った魔術だろうけど、普通は二つの属性を同時に使うのは、恩恵属性なしではとても難しい。だからもしかしてと思っていた」


 ああ、シアがエリーではない・・・・・・・と疑ったときの話だ。ぼく自身が魔術を使った訳ではないから気付くはずもないけど。恩恵属性持ちだとしても、二つの属性を同時に使う魔術は難しいとのことなので、今は気にしないことにする。


 説明が終わったところで、いよいよ実践だ。はじめにシアがお手本を見せてくれるらしい。


「はじめは、火の属性の基本的な魔術から。よく見てて」

「うん、分かった」


 シアは魔術具――木の棒のようなものはスタッフというらしい――を前に掲げ、じっと木の板の方を見ている。


炎の矢フレイム・アロー


 シアが言い放った瞬間、シアの目の前に一本の火を纏った矢のようなものが現れた。木の板を目掛けてそれは一直線に飛んでいき、命中した瞬間、破壊音とともに木の板は粉々に砕けちった。


「おおー……」


 思わず感嘆の声を上げる。じっくりと魔術を見たのはこれが初めてだ。何もないところから火が出てくるなんて。幻想ファンタジーの世界にいるんだと改めて実感する。

 ぼくは今非力な少女になってしまっている。何が起こるか分からない以上、身を守る手段として魔術を習得しておくべきだろう。


 木の板を置き直して、いよいよぼくの番だ。エリーの魔術具は壊れてしまっているため、魔術具なしでの訓練だ。

 一番の問題は魔力の消費量が大幅に増えてしまうことだそうだけど、元々の保有魔力が多いらしいぼくだとひとまずは大丈夫じゃないか、とのことだ。様子は見ているから、とりあえずやってみて欲しいと言われた。

 初めてだから、シアが使った魔術を真似してみるのがいいだろう。見たばかりだからイメージもしやすそうだし。


 大きく深呼吸して心を落ち着かせる。まずは、属性、火。対象は火の板、場所はあの辺り。流しこむ魔力、はどうやるんだろう。感覚すら分からないので適当に・・・。これで準備完了のはずだ。


炎の矢フレイム・アロー


 あの時・・・と同じ、右手の人差指を前に突き出し魔術名を発する。何かが体から抜けるような感覚とともに、シアの時と同様に目の前に一本の火を纏った矢のようなものが現れた。やった、成功だ! と思った瞬間。


「……え?」


 目の前の光景に絶句するぼく。一本だけだったはずのそれが、突然数十本に増殖したのだ。そして、木の板を目掛けて矢の雨が降りしきる。

 初めの一本であっさりと板を破壊したあとは、その後ろにある山積みされた白い袋に、次々と襲いかかった。


 山積みされた土嚢(どのう)を、矢の雨で木っ端微塵に吹き飛ばした。土を辺りに撒き散らしながら。


 ようやく矢の雨が止んだ頃には、山積みにされていたはずの土嚢(どのう)は見当たらず、辺りには土と茶色い切れ端が散乱しているだけとなった。


「……エリーもあの子・・・と同じで、威力の加減は下手のようね」


 シアは溜息をついてそう言った。


「……」


 こうしてぼくの魔術デビューは、ほろ苦いものとなってしまったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価等とても励みになっております。

誤字脱字等がありましたら、お知らせください。


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2016/05/03 誤字(指摘文)を修正。表現・描写を追加。

2016/05/07 全体を改稿

2016/05/12 全体(表現・描写)を改稿

2016/07/03 全体(表現・描写)を改稿。詳細は後日活動報告にて。

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