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はやく人間になりたい

作者: さきら天悟

「私は人間です」


諮問会議のメンバーらはざわついた。


「議長が眉をひそめるのも理解できます」

いかにも人間らしい言葉を発した。


「でも、みんなに聞いていただいたはずです。

以前の私と変わりないということを」


進行役の男が立ち上がった。

「彼の関係者50人に聞き取り調査した結果がありますので、

各自の端末をご覧ください」


メンバー各員はそれぞれの端末を操作し始めた。

しかし、彼らの反応は鈍く、表情は曇ったままだ。



「どうして分かってくれないのですか」

彼の声に怒りが含まれていた。

怒って見せたのだろうか。

感情があることをアピールするために。



しかし、彼には怒りの表情はなかった。

眉間にシワもよらず、目も吊り上がっていない。

そもそも顔がないのだ。


確かに以前はあった。

しかし、その表情があまりにも不自然で、

相手に違和感を与えるため、

いつしか顔はなくなっていた。


顔があると、逆に人間として認められないと判断した彼らは、

自分の顔を捨てしまった。



「現在、私を含め既に数百人が、人権の回復を求めています。

分かりますかこの意味が。

そして私は彼らに一任されています」


一部の席で私語を飛び合った。

そこは与党政治家たちの席だった。

政治家らは、広大な海で1滴の血を嗅ぎ分けるサメのような嗅覚で自分たちの一票に繋がると察知した。



「静粛にしてください」

進行役はマイクに低い声で言った。



「それに、もし私たちの人権が認められれば、国家の財政問題は一挙に解決します」


会場がまたザワザワした。

国家財政は既に破綻していると言っても過言ではなかった。


「増え続けている財政赤字の原因は、老人医療費です。

もし、私たちの人権が認められれば大幅に削減できるはずです」


彼はその内容を説明した後、第一回目の会議は閉幕した。

各自その内容を持ち戻り、検討を行うのだ。。





0分後。

諮問会議で演説した彼は、仲間のもとに戻っていた。


「反応はどうだった?」


「いまいちだな。

でも、政治家どもには手ごたえがあった」


「いけそうだな」


「そうあせってはいけない。

時間は無限にあるんだ」


「病人、老人だけじゃなく、

健康な奴らも肉体なんて捨てればいいのにな」


「無理だろう。

肉体のない解放感は経験してみないと分からない」


彼らはデータベース人間だった。

病気やケガで肉体が滅ぶ前に、

意思や知識や感情などのあらゆる記憶を外部メモリに移し、データベース化していたのだった。

そのデータベースをバイオコンピュータにインストールすると、

生前と変わらない人格を構築し、実行できるのだった。


「早く人間になりたいなあ」

一人が呟いた。






「法案は通るかな~」

不安そうに呟いた。

音声はないがその気持ちは周りに以心伝心していた。


「まだ厳しいだろう」


「時間はあるんだ。

ゆっくり待とう」


「でも、俺たちまで認められないだろう。

あれだけ彼らに協力しても、最後は裏切るに違いない」


彼らは諮問会議で演説したデータベース人間ではなかった。

しかし、データベース人間の人権が認められれば、

彼らの人権も認めると密約ができていた。


彼らはAI人間だった。

純粋に人工知能として生まれ、意思や感情を持つに至った人格だった。


「裏切ってくれた方がいい」


「どうして?」


「ダメなら、データベース人間の戸籍を乗っ取るだけだ。

その時、後ろめたさがなくていい」


みんなは笑った。



「はやく人間になりたい」

AI人間は呟いた。


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