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異世界アパート『異世界邸』の日常  作者: カオスを愛する有志一同
管理人不在の異世界邸
73/175

魔王ハンター・アカツキ!【part 夙】

 やあ、俺の名はアカツキ。

 元勇者で次空保安局が発行している賞金首(ブラックリスト)を狩っては飯を食っている賞金稼ぎだ。

 元勇者? 次空保安局? なんだそれは?

 そう思うかもしれないが、まあ気にするな。俺を語る上でそこまで重要な話じゃない。ただそういうよくわからんところと関わっている、くらいの認識でいいさ。

 まあ、『元勇者』って部分は必要かもしれないな。勇者だ。流石にわかるよな? 別の言葉で表すなら英雄だの英傑だの……なんかより難しくなった気がするが、とにかく凄い人間だと思ってくれ。

 話を戻すが、俺は悪党をぶちのめす正義の賞金稼ぎなんてもんをやっている。元勇者ってこともあり魔王が専門だ。だから『魔王ハンター』なんて呼ばれているんだが、まあ、金に困った時は魔王以外も狩ってるけどな。

 魔王って奴は賞金首の中でも殊更危険な連中なんだ。なんせヤバイ奴になるといくつも世界を滅ぼしているくらいだからな。賞金首の討伐難易度は基本的にE~Sまでランク分けされるんだが、魔王ともなるとどんな雑魚でも最低Aランクは固い。つまりそれだけ賞金も高いって寸法よ。

 んで、俺が勇者として倒した魔王は難易度S+だった。わかるか? つまり俺の実力はS+以上――規格外にある。そんな俺が元の世界で英雄として余生を大人しく過ごせるはずもなく、倒した魔王の小型次空艇を奪って次元の海へと飛び出して現在に至るわけだ。

 人生ってやつには刺激が必要だ。

 英雄としてちやほやされるのはどうも性に合わん。賞金稼ぎっつう職業はまさに天職だと思ったね。

「さてと、今日はこの世界で悪党を捜してみるか」

 俺は次空艇に備えつけた端末から『情報の神の世界録(ワールドデータ)』――通称〈ヘルメス・レコード〉にアクセスする。こいつは俺たち賞金稼ぎにゃあなくてはならねえ代物だ。賞金首が現在その世界のどこにいるのか? そいつがどの世界出身でどのくらい強いのか? 懸賞金はいくらなのか? それらが瞬時にわかっちまう便利な情報源だ。

 おっと、誤解するなよ? 別にそれだけのツールってわけじゃない。仮にも『情報の神』なんて大層な名を冠しているんだ。ユーザーの権限にもよるが、調べようと思えばどんなことだってわかるって聞いてるぜ。

 まあ、俺みたいな一介のしがない賞金稼ぎの権限じゃ得られる情報も限られるけどな。充分っちゃ充分だけどよ。

「お? 近いな。つーか真下じゃねえか」

 近くには文明の発達を感じさせるそこそこでかい街がある。〈ヘルメス・レコード〉によれば、そこにも何人か次空保安局に睨まれた賞金首がいるようだが……

 俺が狙っている魔王クラスがいるらしいのはこの直下だ。

 ただの山にしか見えねえが、俺の目は誤魔化せねえぜ。

「結界が張ってあるな。ますます怪しいじゃねえか」

 実際にどんな奴がいるのかは行ってみなけりゃわからねえ。でも一目見れば誰だろうと〈ヘルメス・レコード〉に検索をかけて必要データを取得できちまう。一般人の個人情報とかは流石にロックされてるけどな。

 最初の問題はこの結界だが――

「フッ、まったく無駄だぜ」

 どれほど強力な結界だろうと、結局はその世界にしか影響を与えない。つまり、次空艇で次元を跨いでやりゃ簡単に侵入できるんだ。

 ほら、全く阻まれることなく中に入れたぜ。

「なんかでかい邸が見えるな。ここからは徒歩の方がよさそうだ」

 俺は次空艇を山の中に隠すように着陸させ、目元を覆うバイザーを被る。このバイザーが次空艇の端末とリンクして、リアルタイムで〈ヘルメス・レコード〉を参照できる画面となるわけだ。

 気配を絶ち、慎重に山を登る。

 しばらく歩くと邸が見えてきた。俺の生まれた世界だったら貴族様が暮らしていそうなクソでかい洋館だ。これで錆びついていたりすりゃ立派なお化け屋敷だが……よく手入れされている。ピッカピカだ。

 それになにやら騒がしい。

「ん? なんか美味そうな匂いがするな」

 塀の陰に隠れて中の様子を窺う。邸の庭には大勢の人間が集まっていた。長机やパイプ椅子を運んで並べたり、肉や野菜を串に刺して焼いたり、植木や壁に飾りつけなんかしている。

 なんだ? これからパーティーでも始まるのか?

 呑気な奴らだ。この凄腕賞金稼ぎ――アカツキ様に狙われてるとも知らずにな!


「管理人が退院して戻って来るの何時でしたっけ?」

「迎えに行った神久夜とこののが多少時間を稼いでくれてはいるが、あと三十分もない」

「時間ねえじゃねえですか! 誰ですか! 今日いきなり管理人の退院祝いパーティーやるって言い出しやがった奴は!」

「承認して全員に伝えたのは管理人代行だが、言い出しっぺはセシルとフランと在麻先生らしい」

「いかにも思いつきで行動しそうな人たちだった!?」


 近くで医者風な白衣の女と短髪の少女がなにやら話しているのが聞こえた。退院祝いパーティー? 誰かが入院してたってのか?

 ここに魔王がいるはずだが……こいつら全員魔王軍なのか?

 それにしちゃあ、普通の人間もいるようだが……?

 ちょいと様子見だな。賞金首でもなんでもない一般人を手にかけるわけにゃいかんし。

「となると、中に入ってみないとな」

 俺は恐らくここよりも科学の発達した世界で手に入れた光学迷彩スーツを起動させる。こいつの凄いところは露出した肌だろうがスーツの外側に仕込んである武器だろうが、俺の持ち物であればまるで魔法でも使ってるかのように全身隈なく透明化することだ。もちろん、魔法を使っているわけじゃねえから魔王のような連中に魔力で感知されることもない。

「さあ、潜入開始(ミッションスタート)だ」

 自分の姿が消えていることを確認して俺は邸の中へと足を踏み入れた。


「待て悠希、その椅子はフランチェスカが改造したやつだから捨てておけ。たぶん座ったら爆発する」

「なんでそんなもんが混ざってやがるんですか!?」


 手始めに一番近くにいた、なんか面倒臭そうに指示を飛ばしている医者風女と椅子を慌てて放り捨てた短髪少女を視界の中心に捉える。するとバイザーが自動で照準を合わせ、俺が今欲しい情報を『情報の神の世界録(ワールドデータ)』――〈ヘルメス・レコード〉から参照して表示させた。


【中西栞那】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:E-

 懸賞金:―


【中西悠希】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:E-

 懸賞金:―


 E-で懸賞金もなし。こいつらはほぼ一般人だな。

 まあ、ここに表示される懸賞金は次元規模の犯罪者だけだからな。ガイアってのはこの世界のようだし、ここだけでなんかヤバイことはやってるかもしれん。


「あのー、これらの野菜を奥様から預かっているのですが、どちらに運べばいいですかー?」


 するとそこに、貴族様に仕える侍女のような格好をした少女が大きな籠を抱えて小走りで駆け寄ってきた。

 籠の中身は野菜……野菜? なんか人面が浮き出て見えるんだが? あの白くて太い根っこなんか「オォオオオオオ」って地獄の深淵から聞こえてきそうな叫び声が……なんであの子平気そうなの?


【円美智子】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:F

 懸賞金:―


 よわっ!

 間違いなく一般人ですわ。でもさっきから正気度が下がりそうな叫び声を聞き続けてんのにケロっとしてやがる。アレがこの世界の普通なのか?

 いや、あの医者風女と短髪少女は微妙に顔を歪めてるぞ。


「それらは使わんから農園に返してきなさい」

「え? でも美味しいですよー? かぷり」

「みっちゃんよくそんな目玉がぎょろっとした触手ピーマン生で齧れますね……」


 おいおい、どうなってやがる? なんかいろいろおかしい気もしないでもないが、この世界の一般人が集まってるだけってオチじゃないよな?

 本当にここに魔王がいるんだよな?


 ガサッ!


「――ッ!?」

 近くの茂みでいきなり物音がして俺はつい声を出しそうになった。

「わふ」

 茂みからひょこりと顔を出したのは、明るい茶色の毛並みをした犬……じゃないぞ。犬耳に尻尾。大事なところだけもふもふの毛で覆われた裸身の少女だった。

 なんだアレ?

「うー」

 鼻をすんすんさせてじっと俺の方を見詰めてくる。まさか、見えてないよね? 獣とか獣人とかって野生の感で消えてても発見されるから厄介なんだよ。


【〝謎の生命体〟ぽち】

 出身世界:鏡面界

 討伐難易度:E+

 懸賞金:―

 備考:群れると危険


 謎の生命体!? てか、群れるの!?

「わふ」

 あ、隣からひょこっと同じ顔の少女が顔を出し――


「わふ」  「わふ」  「わふ」    「わふ」  「わふ」  「わふ」

  「わふ」  「わふ」   「わふ」  「わふ」 「わふ」  「わふ」

 「わふ」  「わふ」 「わふ」 「わふ」   「わふ」    「わふ」

     「わふ」    「わふ」   「わふ」     「わふ」  「わふ」

「わふ」   「わふ」      「わふ」    「わふ」「わふ」 「わふ」

   「わふ」    「わふ」  「わふ」  「わふ」 「わふ」 「わふ」

 「わふ」     「わふ」   「わふ」  


 きしょ!?

 全く同じ顔が一匹いたら三十匹いるような勢いでわっさわさ出てきたんですけど!? てか三十匹以上いるんですけど!?

 ぴくん!

 少女たちが一斉に犬耳を立てて同じ方向を見た。そこには年季の入った大きなリュックを両脇から咥えた少女二匹が四足歩行で疾走してきた。


「待てー!? それはオイラの大事なリュックだから返してくれ!?」


 その犬耳っ娘を追いかけているのは……なんだアレ? 毛むくじゃらのウサギっぽい獣が二本足で走ってんぞ。


【〝ホビットの冒険家〟リック・ワーカー】

 出身世界:彩園世界フロン

 討伐難易度:F

 懸賞金:―


 ホビット……あー、聞いたことはある種族だ。確か定住せず常に旅してるんだっけか? 中には次元を渡る術を持っていて、あらゆる世界を旅してたりするらしい。こいつもそうだろう。出身世界違うし。

「わん!」

 ぽちとかいう犬耳っ娘は走ってきたホビットに驚いたのか、蜘蛛の子を散らすようにあちこちへ逃げ去っていった。ホビットもリュックを盗ったやつを追いかけていったな。俺には気づいてないらしい。よかった。

 ……ふう。

 深呼吸だ。ここは初めての世界。混乱するのは当然だが、冷静さを保てないと賞金稼ぎなんてやってられないぞ。

 まだ決断を下すには早い。気を取り直して他の連中を見てい――

 

 のっし。のっし。


 なんだ? クソでかい倒木が動いている?

 いや違う。切り倒した巨木を誰かが引っ張っているんだ。木に結んだロープを肩に担いで歩いてくるそいつは……婆さん、だと?


【ノッカー・ドワドノビッチ】

 出身世界:噴煙世界ガガ=ポルカ

 討伐難易度:B

 懸賞金:―


 婆さんのくせにBランクもありやがる。Dまではかろうじて一般人だが、Bともなるとけっこうな達人クラスだぞ。

 だが懸賞金はない。無視しても大丈夫そうだ。


「大変そうでございますね。お手伝いしましょうか?」


 と、その婆さんに執事服の爺さんが声をかけてきた。見上げるほど積み上げた皿を片手で危なげなく運ぶ身のこなし……このご老人も只者じゃないぞ。


「……」

「そうですか。大丈夫ですか。なにかあればお呼びください、ノッカー様」

「……」


【〝怪盗紳士〟ウィリアム=シェイダー】

 出身世界:貴福世界ラ・レハレタ

 討伐難易度:A+

 懸賞金:42,000,000

 備考:様々な世界を股にかける大怪盗として賞金がかけられた。


 おおう!?

 ここに来てかなり厄介そうな奴が現われたな。A+なんてそうそういない。魔王じゃなさそうだが、たぶん幹部クラスだ。

 そうとわかれば、隙を見せた時に襲撃を――


「ああ、ウィリアムさん。そのお皿何枚かいただけませんか?」

「ええ、構いませんよ。那亜様」


【那亜】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:A+

 懸賞金:―


「ぶっ!?」

 ハッ! 危ない。驚愕のあまり思わず吹いてしまった。誰にも気づかれてないよな?

 爺さんに話しかけた割烹着姿の女。全身から母性の光が溢れててつい田舎の母ちゃんを思い出しそうになったこの女……見間違いじゃねえ。懸賞金はないが、難易度はあの爺さんと同格だぞ。

 まずいな。

 あのクラスが二人も集まってやがるといくら俺でも流石にきつい。様子見を続行だ。

 とりあえず、普通じゃない連中もいるってことがよくわかった。となると光学迷彩に慢心してたら見つかる恐れがあるな。

 念のため建物の陰に身を潜めよう。

 

 ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!


「ふぁ!?」

 い、いきなり邸が爆発したぞ!?

 俺が隠れようとしたところの壁ごと吹っ飛んでピンク色の毒々しい煙が噴き上がってやがる。なんだ? なにが起こったんだ? あ、ちょっと吸った。

 やばい。騒ぎを聞きつけて人が集まり始めたぞ。それに壁の向こうからのそりと誰かが起き上がった。きわどいネグリジェを来たおっとりした雰囲気の美女と、顔の左半分以外が全身刺青の怪しい女、それとミニスカでフリルたっぷりの服を来た褐色長身美女。


「ごめんね~。またやっちゃった~」

「やっちゃったじゃねえですよ!? あんたら言い出しっぺのくせに手伝いもせずなにやってんですか!?」

「いやぁ、管理人をビックリさせようと思って薬玉用意してたら中に入れる薬品間違えちゃった♪ でも大丈夫☆ 今回は無性に野菜が食べたくなるだけの無害なガスっぽいし❤」

「邸の壁吹っ飛んでる時点で無害じゃねえですよ!? あと共同食堂でそんなもん作るんじゃねえです!?」


 ツッコミ入れてるのはさっきの短髪少女だな。あの子はなんとなく正常っぽいぞ。というか寧ろ他がおかしすぎでしょ。

 ヤバそうな連中だが、別段強そうには見えないな。俺の本能が全力で関わるなって言ってるし、こいつらはスルーしても――


【〝マッドサイエンティスト〟フランチェスカ・ド・フランドール】

 出身世界:技巧世界レムリング

 討伐難易度:S

 懸賞金:82,000,000

 備考:歩く化学兵器庫。技巧世界レムリングより持ち込んだ技術が標準世界ガイアで流用されたため懸賞金が掛けられた。


【〝魔術師〟セシル・ラピッド】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:S

 懸賞金:―

 備考:次空保安局からの賞金はないが、当世界『ガイア』でのみ魔術師連盟から賞金をかけられている。


【ミシェール・ミルキーウェイ】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:S+

 懸賞金:―


「えすっ!?」

 ば、馬鹿な。なんでこんな女どもが最高ランクなんだよ!? 褐色美女S+って、俺がどうにかギリギリで上手いこと隙をついて倒した魔王と同じじゃねえか!?

 懸賞金つきは一番トロそうなマッドサイエンティストの女だが、刺青女もこの世界限定の犯罪者か。となると他の連中も怪しいもんだ。

 どうする? 仕掛けるか? いやだが、こいつらはこれでも魔王じゃねえ。ここの連中を支配しているのが魔王なら最低でもS+以上の強さだろう。下手に動かずもう少し様子を見るか、それとも野菜を食べるか。

 ん?

 今、俺なんで野菜とか思っちゃったんだ? 野菜なんてどうでもいい。そんなことより野菜が食べたい。

 じゃなくて!


「とりあえず~、誰か野菜持ってない~?」

「セシルちゃんたちもガス吸っちゃったから野菜食べるまで収まらないんだよね♪」

「……」


 そうか、さっきのピンクの煙のせいか。野菜。確か野菜が無性に食べたくなるとか野菜言ってたな。野菜俺も少野菜し吸っち野菜野菜まった野菜から効果が野菜出てやが野菜るんだ野菜。

 野菜……ああ、野菜が食べたい。

 ダメだ。もう野菜しか考えられねえ。野菜、野菜はどこだ?

 野菜……野菜……野菜……。

 野菜

 野菜が食べたい

 野菜が食べたい野菜が食

 べたい野菜が食べたい野菜が食べ

 たい野菜が食べたい野菜が食べたい野菜が

 食べたい野菜が食べたい野菜が食べたい野菜が食べ

 たい野菜が食べたい野菜が食べたい野菜が食べたい野菜が食

 べたい野菜が食べたい野菜が食べたい野菜が食べたい野菜が食べたい

 野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べた

 い野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜食べたい野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜ぃいいいいいいいいいいいいおおおああああああああああああああッッッ!?


 くいっ。


 野菜を求めて徘徊していると、俺のズボンの脹脛部分を何者かが引っ張った。俺の姿は見えないはずなのに……ぎょっとして振り返って見ると、そこには目と口のような黒い穴が開いた白くて太い根野菜(?)が二本足で立っていた。円美智子とかいう侍女が持っていた野菜だ。

「オォオオオオオ」

「……」

 混沌が渦巻く闇の眼窩がじっと俺を見上げてくる。

「オォオオオオオ」

「……」

「オォオオオオオ」

「……」

「オォオオオオオ……………………クエヨ」

「――ッ!?」


 そこから先の記憶はなかった。


        * * *


「あれー? 大根が一匹足りない? 悠希ちゃん知らないー?」

「みっちゃん、単位」


        * * *


「はぁ……はぁ……」

 お、俺は一体なにをしていたんだ?

 ここ数分の記憶がない。なぜだか足下に食べカスのように砕けた白い根野菜らしき物体が散らばっているが、なにも覚えていない。

 最後の記憶は……妙なガスを吸って野菜が食べたくなったところまでだ。今はどういうわけか満腹感もある。俺、なんか食ったのか?

 まあいい。とにかく調査を続行だ。魔王がどうのと言う前に、ここがどういう場所なのかわからないことには命に関わる気がしてきたぞ。

 とりあえず、最初のパーティーの準備をしていた庭に戻――


 ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!


「今度はなんだってんだチクショウ!?」

 唐突に建物の屋根が爆発崩壊。さらに炎上までして瓦礫が俺の頭上に降ってきた。なんとかダッシュでかわしたが、これまさか俺が侵入してるのバレてんじゃね? いくら世界が無数にあるっつっても日常的にこんな頻度で爆発が起こる家があって堪るか!

 なんとか庭まで避難すると、そこにはさっきよりもいろいろと人が集まっていた。どうやら今の爆発で俺と同じように避難してきたらしい。

 医者風の女やちょくちょくツッコミで出現する常識的な娘、爺さんと婆さんに野菜(?)の侍女、最初の爆発の時にいた刺青女やトロそうな女も一緒だな。

 他にもまだ見たことない連中もいる。他の奴らに遠慮するような距離から眺めている三人組とか、その三人組にゆっくり歩み寄っている小さな女の子とか。

 まあ、勝手に集合してくれたなら丁度いい。あの中に魔王がいないか確認だ。


「またやってるわ。今日これで何度目?」

「今朝から数えて十二回。まだ良心的な方」

「退院したばっかりのオレから言わせてもらうけど、お前らちょっと馴染みすぎじゃね!?」

「本当に賑やかで楽しいところですわね。梓お姉様と羽黒お兄様も一緒に住めばよろしいのに」

「ぎゃあああああ出た白い幼女!?」

「失礼ですわ!?」


【〝大魔道〟アルメル・フロック】

 出身世界:豊穣世界ベーレンブルス

 討伐難易度:A+

 懸賞金:―

 備考:豊穣世界ベーレンブルスの勇者


【〝竜騎士〟カーラ・シュヴァイツァー】

 出身世界:豊穣世界ベーレンブルス

 討伐難易度:A+

 懸賞金:―

 備考:豊穣世界ベーレンブルスの勇者


【〝戦神〟スティード・アルフォード】

 出身世界:豊穣世界ベーレンブルス

 討伐難易度:A+

 懸賞金:―

 備考:豊穣世界ベーレンブルスの勇者


【〝八百刀流瀧宮当主〟瀧宮白羽】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:S+

 懸賞金:―

 備考:接触禁止指定生物『瀧宮羽黒』の実妹。手を出すと報復の恐れあり。


 魔王じゃなくて勇者がいた。

 なんで勇者が? てかちょっと待て、なんであんなガキが一番難易度高いんだ!? 備考の接触禁止指定生物ってなに!?


 ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!


 また邸が爆発した。

 わけがわからん。一体なにが起こっているんだ? 俺とは関係ない敵襲かなにかか? 今の爆発でもまた何人か知らない奴が避難してきたぞ。

 手を頭の後ろに組んだ猫っぽい顔をした女と、全身を機械化させているらしい女だ。


「早く終わってほしいにゃ。どうせ決着にゃんてつかにゃいのににゃー」

「一番もよくやるッス。もう少し仲良くできないんスかね?」


【三毛】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:D

 懸賞金:30,000,000

 備考:〈ヘルメス・レコード〉の全権プロトタイプを持ち逃げしたことにより賞金がかけられた。生け捕りのみ有効。


【〝救急機巧装兵(アンビュランス)〟TX―002】

 出身世界:機工世界テクトラニカ

 討伐難易度:A+

 懸賞金:42,000,000

 備考:機工世界テクトラニカの決戦兵器。救護用だが戦闘能力も高い。


「……ふう」

 さりげなく〈ヘルメス・レコード〉の全権プロトタイプ持ち逃げとかとんでもない奴いたんですけど!? 機工世界テクトラニカって言えばかつて魔王でもないのに他世界に侵攻してた世界だったよな? なんでそこの決戦兵器がこんなところにいるんだよ!?

 あー、声に出してツッコミしてぇ。


 ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!


 はっ!? やばい、爆発した建物の残骸がこっち飛んでくる!? わけわからん連中に気を取られてたせいで避けられねえ!?

 チッ――〈リフレクター〉!

 隠密行動中に使いたくなかったが、俺は右手首に嵌めていた腕輪のスイッチを押して前に翳す。すると不可視の障壁が前方に出現し、迫り来る残骸を跳ね返した。どうよ、こいつもスーツと同じ超科学の世界で入手した防衛アイテムだ。


「ううぅ……も、もうこんな日常嫌なのです」


「――ッ!?」

 いきなり真下から声が聞こえて俺は肩がビクゥ! となった。

 なんかフード付きのローブを纏った少女が俺以上にビクビクしながら蹲っていたんだ。声が聞こえるまで全く気配を感じなかったぞ。

「たかが事務作業がここまで命がけだったなんて聞いていないのです!? 明らかに情報不足調査不足――ってこの邸の調査をしたの私でした!? 調査のちょの字も終えないまま逃げ出した私の自業自得なのです!?」

 子ウサギのように震えていたかと思えば急に頭を抱えて叫び出す少女。情緒不安定すぎて近づきたくないが、念のため情報を見ておくか。


【アリス・ユニ】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:D

 懸賞金:―

 備考:魔術師連盟の元諜報員。表記名は偽名の可能性あり


 Dか。ギリギリ一般人ってとこだが、魔術師連盟ってさっきの刺青女に賞金かけてたとこだったはず。となるとこいつも普通じゃないんだろうな。

 ん? 表記名は偽名の可能性あり? どういうこと? しっかりしろよ情報の神! いや、こいつの本名は俺の権限じゃ閲覧できないレベルってことなの?

「あれ? そういえば今、瓦礫が不自然な軌道で飛んでいったような気がするのです」

 やばい、〈リフレクター〉を使うところを見られていた。どうにか誤魔化さねえとまずいぞ。だが、姿を消して潜んでいる俺になにができる?

 どうする?

 考えろ。考えろ。考えろ。

「(それもまた日常)」

「そうなのです。ここは不自然が日常な異世界邸。疑問を抱くだけ疲れるだけなのです」

 ボソッと彼女の耳元でテキトーに囁くと、ビックリするくらい簡単に納得しちゃったよこの娘。非常に疲れた顔で地面に『の』の字を書いてるけど大丈夫か?

「ハッ!? 今なんか耳元で変な声が聞こえたのです!?」

 ダッシュ!

 たぶん俺の存在には気づかれちゃいないが、とにかくあの少女から離れることにした。この妙な邸には透明人間でも生息しているとでも思ってくれたらいいな。


 ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!


 またも爆発。まったく落ち着きのない邸だなオイ。だがようやく見えてきたぞ。邸の上空で暴れている糞野郎どもがな!


【〝覇炎の竜神〟ドラクル・リンドヴルム】

 出身世界:竜界ドラクレア

 討伐難易度:SS

 懸賞金:120,000,000

 備考:竜界ドラクレアで暴動を起こし追放。他世界でも大暴れしたことにより賞金がかけられた。


【〝殲滅機巧装兵(ディストラクション)〟TX―001】

 出身世界:機工世界テクトラニカ

 討伐難易度:SS

 懸賞金:120,000,000

 備考:機工世界テクトラニカの決戦兵器。最高位の戦闘能力。


「……………………………………ん!?」

 火炎の翼を広げ、地上にいても圧倒的な熱を感じさせる炎を吐き出す人型のドラゴン。そして背中のジェットブースターで変幻自在に宙を舞い、ドラゴンに向けて光学兵器を乱射する機械仕掛けの男。両者がぶつかる度に美しい青空が赤く明滅しているように見えるぞ。

「はい?」

 目を疑った。

 SS(ダブルエス)って……え? 嘘だろ? 比喩でもなんでもなくちょっとした世界なら()()()()()()()()()()じゃねえか!?

 そんな奴らがガチでぶつかり合ってやがる。

 なんなの? この世界終わるの?

「……やべえ、震えてきた。はは、元勇者のくせに情けねえな、俺」

 手足の震えが止まらない。この場に昔の仲間がいれば武者震いだって強がれるんだが、今の俺はソロで活動してるからなぁ。助けを呼ぼうにも、援軍なんて来やしない。


「こんな時に管理人代行はなにやってやがるんですか!?」

「なんか向こうでも揉めてたからこっちにまで手が回らんのだろう」

「待ちやがれです。じゃあ、誰がアレ止めんですか?」


 白衣女と常識少女が言い争っている。なるほど、この状況は彼女たちにとってもよろしくないらしいな。本当にただの巻き込まれた一般人ってわけか。

「……よし」

 腐っても元勇者だ。他の世界だろうと、一般人が危険に晒されちゃ放っておけないな。幸い、まだ誰も俺の存在に気づいていない。まあ、上空で世紀末対戦が勃発してりゃそれどころじゃねえだろうしな。

 SSがどうした? たかが二体だろ。難易度なんて所詮は大雑把な秤にかけただけの指標でしかない。

 ああ、そうだ! 俺ならやれる! 俺ならできる! 俺だって規格外の存在なんだ!


「この中で止められるとすれば、ユーキちゃんだけだし!」

「え?」


 へ?


「な、ななななに言ってやがんですか水矢ちゃん!? 自分があの馬鹿どもを止められるわけ――」

()()()()()じゃ無理だけど、()()()()()()なら余裕余裕♪」


 いつの間にか常識少女の後ろに別の少女が出現し、悪戯を思いついたような顔を耳元に近づけて全員に聞こえるようにそう囁いた。

 鮮やかな紅の髪は頭の天辺付近で一つに括り、猫のように吊り上がった同色の瞳が愉快そうに笑っている少女。あの子もさっきまでいなかったが……


【ミヤ・アララギ】

 出身世界:不明

 討伐難易度:SS

 懸賞金:―


 うん、そんな気がしてた。――って、え? 出身不明? そんなことあんのな。


「どうせもうみんなにはバレちゃってるんだし、恥ずかしがらずに正義を執行しようよ」

「いや、でも」

「もうお邸半分も残ってないし。ほらほら急ぐし。変身ステッキは持ってきたし」

「なんで持ってやがるんですか!? あーもう!? やればいいんだろうやれば!?」


 お? 常識少女が赤猫少女から実にカラフルでキラキラした杖を引っ手繰ったぞ。ま、待ってくれ。あの子は一般人のはずだ! 一般人で常識人じゃないとダメなんだ俺の中で! 一体なにをする気だ!?


「れ、レッツ! り、り、リリカルメイクアップ!」


 かぁあああああああああああっ!

 今にも爆発しそうなほど顔を真っ赤にさせた常識少女がヤケクソに叫んで杖を振るう。すると謎の光が彼女を包み――ポン! とか パァン! とかマヌケた効果音を放ちながら服装が変わっていく。気のせいかファンシーなBGMまで聞こえてきたぞ。

 光が弾ける。

 簡素なTシャツ短パンだった少女は、ピンクと白を基調としたフリッフリなドレス姿に変身していた。頭には十字のシンボルが入った大きめのキャップ。杖もどういうわけか巨大な注射器に変わっており、常識少女はそれを軽々と持ち上げて――


「こ、この世に湧いた悪しき病原体(やまい)をく、駆逐する! ま、マジカルナース、見参! ――やっぱこれ言わなきゃダメなんですかぁあッ!?」


 涙目で、決めポーズを取っていた。


「さあ、ユーキちゃん! 悪を懲らしめるし!」

「もうどうにでもなりやがれです!?」


 満足げに顔をツヤツヤさせた赤猫少女がノリノリな声で言うと、常識(?)少女が注射器を上空で争っている二体に向けて構える。おいおい、とんでもない魔力が注射器の先端に集中してやがるぞ。


「成敗!!」


 幾多の複雑な魔法陣が注射器の周囲に展開したかと思えば、超高密度の魔力の散弾が地上から立ち昇る雨のごとく上空に射出された。


「あ? なん――ぎゃあああああああああああああああああああっ!?」

「ホワット!? これはいったぐぼあぁあああああああああああっ!?」


 世界を沈める勢いで戦っていたSSランクのドラゴンと機械男が、いとも簡単に光の散弾に撃たれ、呑み込まれ、悲鳴を上げて彼方へと吹っ飛んで星となった。


【〝魔法少女〟マジカルナース☆ユーキちゃん】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:SS+

 懸賞金:―


「……」

 どういうことなの?

 あの子、一般人じゃなかったの? でもさっきはE-で……え? 魔法少女? マジカルナース? ナニソレ? ワケガワカラナイヨ。

 ここにはまともな奴っていないのか?


「えへへ、ようやくこの時が来ました♪」


 ――ッ!?

 背後からの声に俺の肩がビクリと跳ねた。まずい、見つかったか!?

 と思ったが、どうやら違う。俺の後ろから流水のような青い髪をした白銀ドレスアーマーの女が物騒な大鎌を握って飛び出したんだ。

 マジカルナース☆ユーキちゃんに向かって。


「さあ、私と戦ってくださいマジカルナース☆ユーキちゃん!」

「嫌ですよふざけんじゃねえですよなんで自分が戦闘狂の相手しなきゃならんのですか!?」

「どうして逃げるんですか!?」

「今理由を叫んだけど!?」


 マジカルナース☆ユーキちゃんが巨大注射器に跨ってロケットみたいな速度で逃げていく。それをほぼ同じスピードで飛んで追いかける大鎌の女は……

 実に、恍惚とした表情をしていたな。


【〝蒼銀の戦乙女〟ジークルーネ】

 出身世界:神界アースガルズ

 討伐難易度:SSS

 懸賞金:932,000,000

 備考:様々な世界の戦争に割り込み、双方の英傑を打ちのめして去っていく傍迷惑な死神。超邪魔と各世界から苦情があり賞金がかけられた。


「ははは……」

 わーい、順調にインフレが進んでるぞー。

 もう笑うしかねえよ。SSS(トリプルエス)とかどないせえっちゅうねん。見たこともねえよ。

 流石にこれ以上はいないだろ。とりまSS以上の怪物どもはあの赤猫少女以外どっか行ったし、この中からさっさと魔王を見つけて仕事を終わらせ――



 ぞわり。



 背筋が凍った。唐突に膨れ上がった、今まで感じたこともない莫大で禍々しい魔力に。

 間違いない。この感覚は魔王だ。それも一体じゃない。二……三……冗談じゃねえぞ。なんで魔王が複数同時に同じ場所へ集合してやがるんだ。

 邸だ。半壊した邸の崩れた壁の向こう……ほら、ぞろぞろと出て来たぞ。


「だから摘まみ食い感覚で邸食うなっつってんの!?」

「こんな究極の美味を前にしてお預けなんてやーですわ! 寧ろ摘まみ食いで我慢していることに感謝して欲しいですわね!」

「余の迷宮を食べちゃった罪は重いのだぞ! 白蟻!」

「お前もまた勝手に邸を迷宮に魔改造してんじゃねえよ!?」

「ワインボトル割った罪の方が大きいよ~」

「代わり取って来い!?」

「レージレージ! これなんのパーティー? 誰を燃やせばいいの?」

「リーゼはちょっと黙ってようね!?」


 よくわからんが、言い争っている様子だ。

 待てよ、俺から見て右手側に純白のドレスに身を包んだ絶世の美女……あの白い女はどこかで見たような気がする。いや、さっきの白い幼女とは別で。

 ん? その白い女の足下の地面が僅かにパカリと開いたぞ。

 

「(姫、摘まみ食いの程度が致命的だと彼は仰っているのでは?)」

「あら? そうですの?」

「ねえ今そこになにかいなかった!?」

「な、なにもいませんわ! それよりあなたの仰る通り、摘まみ食いはいけませんわね」

「お? わかってくれたか」

「ええ、食べ過ぎると太ってしまいますものね」

「そういう問題じゃねえ!?」


【『白蟻の魔王』フォルミーカ・ブラン】

 出身世界:錬造世界アルブスラント(滅亡済)

 討伐難易度:SSSS+

 懸賞金:6,000,000,000,000,000

 備考:数において最高クラスの軍を率いていた魔王。標準世界ガイアで一度討ち取られた。


 ……やっぱりそうだ。

 俺みたいな一介の賞金稼ぎじゃ閲覧すらできないブラックリストブックがあるんだが、ひょんなことから見る機会が一度だけあったんだ。そこに載っていた思わず見惚れそうになった白髪美女が、そこにいる女と同じ顔をしている。

 流石に難易度も限界突破してやがる。SSSS+(フォーエスプラス)……魔王補正があるとしても懸賞金跳ね上がりすぎでしょ。

 てことは、今も別の地面から僅かに顔を出して『白蟻の魔王』の様子を窺っている女は、恐らく部下だろう。


【『智の蟻天将』ヴァイス】

 出身世界:不明

 討伐難易度:SSS+

 懸賞金:550,000,000,000

 備考:『白蟻の魔王』軍の最高幹部。


 悪夢だ。

 部下でもSSS+。懸賞金も半端ねえなオイ。

「食べたいときに食べればいいんだよ~。飲みたいときに飲まずしていつ飲むんだってばよ~」

 今度は酔っ払っているのか呂律の回ってない赤紫色の髪をしたデカ女が、『白蟻の魔王』の肩へと絡むように腕を回したぞ。なんて命知らずな奴だ。


【『呑欲の堕天使』カベルネ・ソーヴィニヨン】

 出身世界:天界

 討伐難易度:SSSS+

 懸賞金:―


 同格……だと……?

 ああ、ビビってるよ。正直チビりそうだよ。でもな、ここまで来ると一回りして逆に冷静になるってもんだ。SSSの段階で俺じゃ逆立ちしたって勝てないからな。もう逃げようと思います。

 だが、ここまで来たからには爪痕くらい残しておきてぇ。『白蟻の魔王』が一番やべえだろうからせめて他の……そうだな、俺から見て中央。なんかサイズのおかしい愛玩犬と、そいつに跨ってる上半身裸の褐色少年はどんな奴だ?


「わわわわわ吾輩も魔王軍幹部であるるるる!? どどどど堂々と、堂々としておらねばばばばきゅぅん!?」


【『鮮血の番狼』ジョン】

 出身世界:迷宮世界ノルデンショルド

 討伐難易度:S+

 懸賞金:―

 備考:調教済


 あの喋る巨大な愛玩犬、めっちゃ震えてるな。まるで生まれたてだ。まあ、『白蟻の魔王』らに囲まれてちゃ俺だってあーなる。――ってアレでもS+なの!?


「怯えなくてもいいのだ! ジョン、貴様は余の番犬だぞ。気高く気丈に振舞え!」

我が主君(マイロード)……わ、わかったのであるくぅん」


 で、でもその程度なら、あのわんこに跨っている五歳くらいの男の子は大したことな――


【『迷宮の魔王』グリメル・D・トランキュリティ】

 出身世界:迷宮世界ノルデンショルド

 討伐難易度:SSSSS

 懸賞金:―

 備考:五千年前に巫祝世界バッカニアにて封殺。討ち取られたと看做されていたが、最近になって復活した。元懸賞金20,000,000,000,000,000。※子供の姿は復活が完全ではないため


「おぼあっ!?」

 SSSSS(ファイブエス)!?

 バカじゃねえの!? バッッッカじゃねえの!?

 五千年前の魔王とかなんなんだよ!? 化石でも復元したのかよ!? あと元懸賞金もおかしいだろ兆の次ってなんだっけ!?

 しかもこれで完全じゃない? ふざけんなバカヤロウ。おう、バカヤロウ。語彙が減ってきたぞ。


「どうでもいいけどお腹空いた」

「もうすぐパーティーが開催安定です。それまではゴミ虫様でも食べると安定します」

「しねえよ!? さらっと食人薦めてんじゃねえぞぶっ壊すぞ!?」

「そうですね。ゴミ虫様を食べるとお腹を壊す安定です」

「てめえとはいつか決着をつける!?」


 おおお落ち着け。心を乱すな。落ち着いて俺から見て左手側にいるゴスロリのメイド服を来た女と金髪の可愛らしい少女を見るんだ。そうさ。どう見たってあいつらはヨワソウダヨネ!


【『魔工機械人形』レランジェ】

 出身世界:常夜世界イヴリア

 討伐難易度:SS+

 懸賞金:―

 備考:『黒き劫火の魔王』軍の幹部

 

【『黒き劫火の魔王』リーゼロッテ・ヴァレファール】

 出身世界:常夜世界イヴリア

 討伐難易度:SSSSS

 懸賞金:―

 備考:異界監査官。魔王活動をしていない魔王。かつての〝魔帝〟の娘。


 こいつもかぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!?

〝魔帝〟って魔王連合のトップじゃねえか!? そりゃやべえよ!? やべえっつうかやべえよ!? 超やべえよ!? もう語彙がやべえしかねえよ!?

 やべえついでに最後の奴も見てやるよ! なんかさっきから方々にツッコミを入れまくってるあの少年だ!


【『千の剣の魔王』白峰零児】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:SSSSS+

 懸賞金:―

 備考:異界監査官。異世界邸の管理人代行


 知ってたよ!? さらに難易度がインフレするくらいこの流れから察してたよ!?

 もうやだおうち帰る!? 爪痕とかもうどうでもいいから今すぐ帰りたいッッッ!?

 回れ右だ。出入口までダッシュだ。俺の姿は消えたままだからな。一度〈リフレクター〉を使ったとはいえ、まだ誰にも見つかっていない……はず!

 ちょっと待てくそ。誰かがこの邸に向かってくる。俺の姿は見えないはずだが、向かってくる三人のうち少女二人が獣の耳と尻尾を生やしてやがる。念のため塀の陰に隠れよう。


「お父さん連れてきたよ!」

「さあ、貴文。久々の我が家なのじゃ」

「ああ、やっと帰ってきた。もう二度とあの糞医者のいる病院になんて――ってなんじゃこりゃあああああああああああああああああああああっ!?」

「お、落ち着くのじゃ貴文! 邸が半壊なぞよくあることじゃ!」

「そうだよお父さん! 思い出して! 今までも一日に十五回はこうなってたよ!」

「そうだったなチクショーメ!? うっ、胃が……」


【伊藤このの】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:SS+

 懸賞金:―

 備考:中西悠希の危機により難易度の変化あり。


【伊藤神久夜】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:SSS

 懸賞金:―

 備考:異世界邸の管理人の妻。詳細不明。


【伊藤貴文】

 出身世界:標準世界ガイア

 討伐難易度:SSSSS+

 懸賞金:―

 備考:異世界邸の管理人。詳細不明。


 もうやだ。

 チビるどころか身が出そう。

 S怖い。Sが並ぶの怖い。あの家族らしき連中は俺に気づかず邸の敷地に入っていったし、このまま誰にも悟られず退散しようそうしよう。

 賞金稼ぎは……しばらく休業かな。


「で? 君は混ざらないのかい?」

「――ッ!?」


 投げかけられた声に反射的に振り向く。

 いつの間にか俺の背後に立っていた女の子が、明らかに俺を見上げながら底意地の悪い笑みを浮かべていたんだ。

 大きな三角帽子にフリルのついた黒いミニスカート、青みがかった長い黒髪はうなじの辺りで二股にわかれている。青紫色の瞳の奥に宿る底知れないおぞましさに俺は金縛りにでもあったかのように動けなくなった。

 見つかった? そんな馬鹿な。俺はまだ消えたままだぞ。

 ということは、俺じゃないなにかに語りかけている?

「誰を探しているんだい? 君だよ、君。せっかくの客人だ。消えてないで姿を見せたらいいんじゃないかな?」

 俺だったぁああああッ!?

「な、なんで、バレて……?」

「さあ? なんでだろうね?」

 こいつは、やばい。この『やばい』は語彙力の低下によるものじゃない。本能からそう思ってしまうレベルの危険性が眼前の少女から感じられるんだ。

 見たくはなかったが、起動中の〈ヘルメス・レコード〉が少女の詳細を表示した。


【〝魔王生み〟『降誕の魔女』アルマ・クレイ】

 出身世界:不明

 討伐難易度:(ロイヤル)

 懸賞金:―

 備考:遥か古より魔王を生み出し続けている魔女。詳細不明。


 あ、よかった。Sは並んでない。ハハハ、まったくビビらせやがって。たぶんさっきから頭のおかしい連中を見続けたせいで感覚が変になって――R!?

 なに!? Rってなに!? 聞いたことすらねえよ!?

「〝魔王生み〟!? 『降誕の魔女』!? なんなんだお前は!?」

 思わず叫んでしまってから後悔した。

「……へえ、ボクのこと知られちゃったか」

 目の前の少女から、笑みが消えたからだ。

「だったら、姿以外も消えてもらう必要があるね」

 すっ、と。

 少女が俺に向けて掌を翳した。

「ひっ」

 死ぬ。これは冗談抜きで、死ぬ。

「す、すいませんしたぁあああああああああああああああああああああッッッ!?」

 もはや恥も外聞も関係なかった。存在が他の連中にバレてしまうことなんかも気にせず、俺は全力で叫んで全力で逃走した。

 慌てて次空艇に乗り込み、震える手でどうにかエンジンを起動させてマッハでこの場から退散する。即座に次元の海に潜り、距離なんていう概念はないができるだけあの世界から離れようと次空艇を走らせる。

 賞金稼ぎはもう辞めよう。誰だよ人生には刺激が必要だとかクソみてえなこと言ってたバカタレはよ。俺か。

 平和が一番に決まってんだろ?

 もう地元の世界に戻ってのんびりと暮らすことにするわ。

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