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異世界アパート『異世界邸』の日常  作者: カオスを愛する有志一同
魔王編
35/175

【TX-001】の邂逅 【part夢】

「全く姉さんも管理人も人使いが荒いぜ……」

 大きくため息をつく一人の青年。

 ふらふらと自室に戻り、時計を見ればすでに深夜二時を回っていた。

 異世界邸……さまざまな世界の住民が何故か集うアパート。その異世界邸にかなり昔から住み着いている青年ことポンコツ。いや……正式名称【TX-001】、通称ポンコツと呼ばれているアンドロイドは荒々しく自室に扉を閉めて、部屋の電気をつけた。

 その瞬間、バチバチとスパークが走るように室内に光が灯っていく。

 そして、少しずつ広がっていく視界。ぐんぐんと視界が広がっていく中、彼の目の前には異世界邸の一室にしては広すぎる市民体育館レベルの部屋が広がっていた。

 その部屋には、その広ささえ狭く感じられるほどにいくつも並べられたコンピュータの山。人のようなものが入り、培養液で満たされた試験管の群れ。

 その中央に延長コードが伸びた一つのベッドがあり、彼はそれに腰かける。

 しばらくぼぅっと座り込んでいたが、やがて重労働によって疲労した体をパキパキと鳴らしながら彼はおもむろに試験管の中を見つめ、

「【TX-002】。起きてるかい?」

「起きてるッスよ。結構救助活動に駆り出されて疲れてるッスけど」

 試験管の中にいたモノがそう答えた。

 次の瞬間、プシューと試験管から蒸気が噴き出し、その中にいたモノが姿を現す。

 【001】に似た金髪の少女。優しそうな顔立ちに、全身にレオタードのような服を纏っている。

 そんな【TX-002】と呼ばれた少女は大きく伸びをすると、

「突然の救助活動は疲れたッスよ。一番さんがいないせいで、あたしがやるはめになったんスから」

「仕方ないだろ。姉さんの収穫の手伝いをしてたんだから。こっちだって暇じゃないんだよ」

「人命救助より野菜の収穫が優先ッスか?」

「あれは野菜じゃない……モンスターかなんかだ」

 【001】は呆れ交じりに言いながらも、ふと顔を上げる。

「あぁ、そういえば人命救助って何があったんだ?」

「冷蔵庫からまた人が出てきたんスよ。しかも二人。意識も不安定で重症。すぐに治療室に運び込んだんスけど、治療の手が足りないというもんで、医療用のあたしが駆り出されてたッス」

「お前医療用だったっけ?」

「一応……まぁ、あの時には戦闘用として使われたッスけどね」

 【002】は苦笑しながらも、昔の……この異世界邸に来る前のことを思い出しながら、ふぅと溜息をついた。

「あのあたしらが人間の道具として使われていた頃とはだいぶ変わったッスね。こう毎日戦争戦争という感じじゃないのが」

「……まぁ、いうて毎日が戦争みたいなもんだけどな。とくにトカゲがムカつく」

「それは一番の個人的なことじゃないスか」

「そういう二番だってあの頃よりも幸せだみたいな言い方をして……どうしたんだ?」

 【001】がそう尋ねると、【002】は顔を伏せて……。

「あたしは……あの頃が嫌いだったッスから。この館にあたしら全員を迎えてくれた管理人さんにはとても感謝してるッス」

「……まぁ、こんな大人数が眠る場所を提供してくれる分にはな……いい人だと思うぜ」

 かつて……自分たちが世界で戦争の道具として使われていたアンドロイド全100体。全て自分の兄弟であり、仲間であり、自分の分身である。

 【001】をプロトタイプとして、改良、作成された自分の兄弟たち。【002】もその一人であるが、皆自分とは違う性格をしており、違う考え方をしており、アンドロイドとしては珍しい全てが独立している。

 だからか……自分、【001】と【002】以外は、この館で永遠にコールドスリープすることを選んだ。試験管の中には極度の低温に保たれており、体が完全に冷凍保存されている。

 これ以上争いに駆り出されることのない世界が来るまで眠る……そんな夢みたいな話を胸に眠ってしまった皆。【002】は時々起きてきては、異世界邸の夜に徘徊したりするへんな奴で、夜中に管理人に発見されて以降、何日か起きに叩き起こされて雑用に駆り出されている。

 哀れな……と言いたいが、自分も大して違うわけでもないので言わないでおこう。

 そんな感じで、この異世界邸に来てからは、毎日がある意味平和だ。

 人が死ぬこともない……殺す必要もない毎日。

「出来たら、この異世界邸がずっと今のままであり続けてくれるといいッスね」

「管理人が胃に穴開けて死なないかそれ?」

「まぁ、それはありそうッスけど……でも昔に比べたら平和じゃないッスか」

「平和……かなぁ?」

 平和とは言いがたい気もするが、別にこれといった酷い問題も起きていない。

 その意味では今の自分は幸せというやつなのだろう。

 自分も出来ればこの平和が永遠であればと思っている。

 そう……出来れば……。


 そこまで考えたところで、ふと【001】はあることを思い出す。

 それは【002】の言っていた漂流者。

 異世界邸に漂流してくるものって、大抵問題の引き金ではないだろうか?

「……なぁ、二番」

「何スか一番」

「今日来た漂流者ってどんな奴だ?」

 そう尋ねると【002】は少し考え込み……。

「女の子二人ッス。片方は魔導士っぽいッスけど」

「また魔法の世界の住民か?」

「さぁ……そこまでは知らないッスけど何かにひどく傷つけられたみたいで、全身ボロボロだったッスね」

「ボロボロの体……」

 何かに傷つけられた後。それってつまり、傷つけた奴がいるってことでそれが辛うじて生きてるってことは……。こういう展開では嫌なものなのだが、傷つけた相手がやってくるという【事態あそび】が起こる可能性が高い。

「その傷つけた奴がここにやってきたりする確率は?」

「五十パーセントッスかね。この異世界邸に他世界が繋がるのはランダムッス。だから続けて同じ世界から来るのはあまりなさそうッスけど……相手が異世界転移を行える存在だった場合は別ッス。こちらの世界に直接殴り込みに来るかもしれないッスね」

「……」

 確かに……その可能性はある。

 正直、この館に人がやってくること自体が何かしらが起こるフラグだ。そのフラグがビコンと立てられてしまった以上警戒しておいた方がいいのかもしれない。

 ……しかし、警戒するというのはどうすればよいのだろうか。

 ここで臨戦状態になって待機しておくのもいいだろう。しかし、ここからだと万が一館への通路が遮断されてしまったときに救助に行けないかもしれない。

 それに館を襲撃するだけとは限らない。後者であれば、もしかしたらこの館にやってきた二人を探し出すために町を攻撃している可能性もある。

 ならば自分はどうするべきか……。

「……そうだな。俺は今日寝るのはやめよう。少し山の警備に行ってくる」

「え? 山はこれでもかってほどトラップあるけど大丈夫ッスか?」

「安心しろ。罠は作動しないようにアンチフィールドを発生させながら進むさ。まぁ、俺は行くから二番よ」

「何スか?」

 【001】は告げる。

「俺が何かあった時、そこの電子端末が警戒音を出す。そうしたら、お前がこの館を守れ」

「……救助に行かなくていいんスか?」

「大丈夫だ……簡単にやられはしないさ。まぁ、機能停止になってもそこに予備のアバターがあるから問題ない」

「そうスか……では……気を付けて」

「あぁ……」

 そういうと【001】は小さく手を振り、自室の扉を開ける。そして、持てるだけの予備電源を装備すると、素早い動きで、異世界邸を飛び出していった。

 そんな後ろ姿を見ながら、

「……出来たらそのつらそうな仕事あたしがやりたかったんスけどねぇ……」

 何故か動悸を激しくしている変な【002】の姿がそこにあった。


 ***


 異世界邸から出撃して、二分が経過する。

 バイタルは正常。視界は熱探知も起動させているため良好。暗闇でも木々の位置や小動物の位置。また罠などはっきり見えている。


【モードをアサシンにチェンジ。ステルスを発動……】


 無数の数字が左右へ散らばる中、自らの気配が一気に消えていく。体表がカメレオンのように景色と同化し、においも消臭される。いわゆる敵に気づかれないように行動するためのモードだ。

 しばらく山の中の状況を確認するように走りまわっていると、視界に何やら人影のようなものがうつる。

 何かと思い、立ち止まって見てみると……それは……。


(もぎゅもぎゅ……)

(もぎゅもぎゅ……)


 何かを食べている五人の少女。

 それは全て柴犬のような髪の色をしており、犬耳をぴょこんと立てているしっぽの生えた半獣人。

 よく見てみると、どれも同じ顔をしている。

「あれは……もしや……ポチ?」

 ポチ。それは異世界邸の隠れキャラと言われている謎の半獣人。何でも管理人の血統から生まれた護衛係だとか、ただの愛玩用動物だとか知らないが、その数は異常。

 よくベッドの下や箪笥の中。天井裏などに潜んでいると言われている。

 なお、異世界邸での決まり文句として「一匹見かけたら近くに三十匹はいる」と言われており……五人見かけたから、この近くに百五十匹はいるということだろうか。

 別に危害を加えようとしない限り何もしてこない比較的平和な生き物なのでどうこうしようとは思わないが……何故かいつも裸だったはずなのに服のようなものを身につけている。

 あれは何だろうか……毛皮だろうか?

 そして、その手には何やら骨のようなものが……。

 ……。

「……骨?」

 じっと見てみると鳥の頭の骨のようなものが見える。なるほど、那亜さんの食堂のゴミ箱を漁っていたのか。他にも魚の骨やらいろんな骨を加えており、幸せそうにがじがじと噛みついていた。

 これは……異常なしか?

 隠れキャラの隠れた日常が見えただけで、とくに問題はないように見える。

 【001】は胸をなで下ろし、その場を離れようとすると。


「ぎゃんっ!?」

「わんっ!?」

「わんわん!!」


 突然、後ろにいたポチ達の群れの中から悲鳴が上がる。

 すぐさま後ろへ振り向くとそこには……、

「……なんだ……アレ……?」

 見慣れない異様な光景がそこにあった。

 骨を幸せそうに齧っていたポチの中の一匹に群がっている無数の白い何か。

 【001】は視界を拡大させ、その白い何かの一匹を見つめてみる。

 それは……。

「……白蟻?」

 白蟻だった。よく管理人が見つけた瞬間、サーチアンドデストロイを心掛けよと口をすっぱくして言っている生き物。何でも家の木を食い荒らしたりする害虫らしいのだが、それがポチの一匹を襲っていた。

 ひとまず助けなければならないと判断した【001】はポチの近くへと駆けより、片手に発火用パーツを取り付ける。

 そして、指先にライターの如く火をともすとポチに群がっている白蟻へ近づけた。

 瞬間、ポチから離れる白蟻。【001】はすぐに周囲の木々を薙ぎ倒し、地面に火を放って白蟻を遠ざける。

 だが……、

「何だよこれ……」

 火が放たれることにより暗がりが照らされそこにいるものが見えた。

 自分と同じようにステルスを張っていたのか今まで気づかなかった何千匹という白蟻の群れ。

 その数は尋常ではなく、周囲の木々をこれでもかというほど食い荒らしている。よく見れば先ほど薙ぎ倒した木も内側まで白蟻に食い荒らされており、中身がほとんどない状態で。

「こいつら……ただの白蟻じゃねぇな……」

【ご名答】

 暗がりから突然声が放たれる。

 視線をそちらへ向けると、全く熱感知にも反応していなかった人影が現れる。

 それは燃える木々に照らされ、はっきりと輪郭が見えた時その姿が明らかとなる。

 それは執事服を纏った女性であった。

 白蟻に群がられている執事服の女性。もう絵面が恐怖にしか見えないものであったが、潮が引いていくように白蟻たちが離れ、その女性がニヒルに笑っているのが見える。

(なんだこいつ……白蟻を引き連れて……新手の害虫マニアか)

 白蟻愛好家等聞いたことがないが、最近は蟻を買う人間だって存在する時代。白蟻を愛する人間もいるのだろう。

 だが……その白蟻愛好家が何故こんな夜にポチを襲うように白蟻たちを仕向けたんだ?

 もしやこいつ……。

「お前……蟲使いか……」

「半分正解ですが……半分間違いです。私の名はヴァイス。蟻天将のヴァイス」

「蟻天将……?」

 何だその蟻マスターの一人を語るような称号は。

「何だ……蟻使いの同盟とかが存在するのか?」

「いえ……私も白蟻の一人」

「白蟻?」

 この女がか? どこからどうみても外見は人間の女にしか見えないのだが……。

 だがしかし、異世界邸のメンツに手を出す以上ここで放っておくわけにもいかないだろう。

 【001】は両腕に対白蟻用兵装【アリキラー】を装着すると、

「まぁ……うちの管理人の私有地の近くなんでな。どこの誰かは知らないが、白蟻を入れるならば除去させてもらうぞ」

「ふむ……貴方は見る限り体は機械のようですが……それで我々が除去できると?」

 好戦的な姿勢を見せてくるヴァイス。

 仕方がない。普通の人間には手を出すと管理人が悶絶失禁コースをお見舞いしてくるから出来たらしたくないのだが……状況が状況だ。

 一応、異世界邸に誰かがやってくるというフラグが立っているし、この人物がそのフラグでおびき寄せられた敵という可能性もある。

「ポチ共……すぐに異世界邸に戻ってあの管理人に状況を説明してこい」

「わふ!」

 たたたたと駆けていくポチの群れ。

 送り出した後にあいつらが果たして説明とかが出来るのかどうかという問題を思い出したが、まぁ別にいいだろう。どうせ自分がやられれば【002】に警報が伝わる。

 まぁ、やられる前に倒してやるがな……。

「仲間を逃がして、一人で戦うつもりですか?」

「おうよ。お前なんざ俺一人で十分だ」

「言いますね……」

「ところでお前」

 【001】は言う。

「蟻天将とか言ったな、何者だ? ここらじゃ見かけない顔だが……」

「それを私がわざわざ話すとでも?」

「目的だけでも教えろ。それにより排除対象か、ただの白蟻か判別する」

 【001】にそう告げられるとヴァイスは髪をいじりながら答える。

「そうですねぇ。我々は白蟻。白蟻の魔王・フォルミーカ・ブラン様に使える白蟻」

「白蟻の魔王?」

 何だその聞くからに管理人が嫌悪を示したのちに抹殺しそうな魔王は。

「我々の目的はこの世界の蹂躙。我々にとっては全てが糧。全てが餌。この世界にあるものすべてを喰らい、屠り、消化する。分かりやすく言うならば、貴方達の敵と言えましょう」

「シンプルな回答感謝する」

 【001】はそう言い放ち、両腕を下げる。

 そして、無数のデータで構築された脳内データベースを起動し、この『敵』の解析を始める。

 白蟻の魔王……検索結果・不明。白蟻……無数の検索結果があり。白蟻処分法プラス突然変異……検索結果一件。対白蟻兵装【アリキラーΩ】を推奨。

 カチカチとこの敵を始末するための最善策が検索されていく中、今までの戦歴のデータが脳内を巡っていく。

 戦争の道具として使われた自分の記憶。その自分が戦ってきた相手には蟻型の生物兵器も存在した。見る限り先ほど相手にした白蟻は、白蟻の特性を持っていると判断。ならば、白蟻を駆除する方法を用いるのが最善。

 良き策としては火。大火力で焼き払うのが比較的除去しやすいだろう。【殺人光線マーダーブラスト】を使用するか? ダメだ、この山そのものを焼き払ってしまう。

 火は植物が密集するこの場では危険。ならば化学薬品での除去を推奨。

 白蟻を行動不能にするための成分プラス色々とやばい化学薬品を持った炸裂弾がいいか? それならば白蟻以外に……いや、いろいろとやばい化学薬品がこの土地を変質させてしまう可能性があり。

 ならば、普通の白蟻を行動不能にする炸裂弾だけでいいだろう。

 核も考えたが……論外。この町ごと焼却しかねない。

 結果=【蟻滅重機一型アリキラープロトタイプ】を推奨。

 カチンと結果が脳内で弾きだされた途端、【001】の体に変化が生じた。

 機械義手であった両腕が素早く回転し、地に落ちる。

 そして、外れた腕の部分に青い光が走ったかと思うとどこからか転送された新しい腕パーツが装着される。

 その腕パーツはガトリングガンのようなものだった。銀色のボディに浮かぶいくつもの光弾。

 それは一本のひものごとく繋がると、ガトリングガンに空いた穴に端が接続される。

 そして、その銃口をヴァイスに向けると言い放った。

「貴様の目的はこの世界の破壊であるならば、異世界邸に危害が及ぶと断定。それに加えて管理人が嫌悪する白蟻という点を含め、貴様をS級侵犯者として捕らえ、撤退しないのならば一匹残らず始末する」

「撤退……ですか? 一応慈悲深いのですね」

「あまり殺しはしない主義でな。もう戦争の道具はやめたんだ」

「……何か訳ありなようですが、残念ながら撤退は致しません。全ては姫のため。それに他の蟻天将もすでに侵略を開始しています。私だけが引けばそれこそ姫の顔に泥を塗る」

「そうか……」

 【001】はそれを聞き届けると、静かに目を閉じる。

 そして、次の瞬間。

【ならば、死ね。一匹残らず】

 大きく目を見開いた。

 その目は赤い光を帯び、【001】の全身のアーマーが展開。赤い蒸気を噴き出して加速する。

 僅か0.1秒。その時間でヴァイスの直前に迫り、その銃口を顔面に突き付けていた。

【DRRRRRRRRR!!】

 鳴り響く銃声。銃口から弾速マッハ3以上の弾丸が放たれるが、その弾丸の軌跡が地面を削り取る瞬間にはヴァイスの姿はそこに無かった。残像が揺れ動き、背後に回ったヴァイスの蟲のように節くれだった腕が【001】へと振り下ろされる。

「――ッ!?」

 【001】はそれを蹴り上げた足で弾き飛ばすと、後方へと回避した。

 それを見据えながら、攻撃が失敗したヴァイスはふと、弾丸が掠った頬に触れる。

 掠った頬は何かの成分により溶け出しており、じゅうじゅうと焦げるような音を立てていた。

「……これは……?」

「対白蟻型生物兵器用の弾丸だ。白蟻の体の抗生物質を破壊する」

「なるほど……そんなものがあるのですね」

 ヴァイスはそういいながら自らの頬に手を添える。

 そして、べりべりと傷口を抉るようにしてはぎとると、

「ですが……もう【学習】しました。もう私には効きません」

「なん……だと……!?」

 次の瞬間、ヴァイスの体がぶれたように見えた。

 その直後には、

「……がはっ!?」

「というわけで……お休みなさいませ」

 【001】の胸部を貫いた節くれだった腕。ごぽごぽと人間の体である部分から血が溢れ、【001】は吐血する。

 ずるっと腕が引き抜かれたときには、【001】の意識は朦朧としていた。

 流れていく血液。崩れ落ちた途端に視界が暗転し、ぼんやりと僅かにヴァイスの姿が見えた。

「……くそ……」

 ヴァイスは白蟻たちを連れて異世界邸の方へと歩いていく。

 その姿を見つめながら、【001】はやがて、意識を闇に放るのだった。


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