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異世界アパート『異世界邸』の日常  作者: カオスを愛する有志一同
異世界邸へ、ようこそ
22/175

ご先祖様の襲来【part夢】

 朝が来る。

 貴文にとって朝というものはなんとも嫌なものである。

 朝起きれば必ずといってもいいほど何かが起こっている。

 それは例えば館が半壊していたり、それは例えばあのゴミとトカゲがアラブってたり。

 最近は、駄ルキリーやら、科学者やら、ちょっと変な奴やら、変な奴やら。

 うん、変な奴しかいないじゃないかここの住民。

 まぁ、それ言ってしまうと自分のアイデンティティである竹串持って戦う戦闘スタイルも変なやつに含まれてしまうのだが……狐耳の妻と娘持ってたりするのももうファンタジーだ。

 というか、うちの家系自体がファンタジーそのものといってもいいかもしれない。

 貴文は小さくため息をつきながら、ベッドの横の壁に掛かっている一枚のポスターを見る。

 そこには……。


【我こそは喰蟲なり!】


 と生き生きとした字で書かれてしまっている。

 あぁ……うん。今思えば、自分のご先祖様って不思議な奴らだった。

 貴文は少し、父や祖父から聞いたご先祖様の話を思い出した。


 自分たちは、元々人間であり、人間ではない家系であったらしい。というのも、神久夜の先祖とうちの先祖は同じで、自分たちは人間に近い姿をしていたからこのようになっているのだと。

 一応、神久夜と自分は親戚なのだが……見る限り身体的特徴に余りにも差が……というか別の種族なことこの上ない。

 自分には狐耳なんて生えてないし、尻尾もない。

 ただ……なぜか竹を操る力があったり、能力に干渉されない能力を持ってたりとちょっと人外チックなところはある。

 だいぶ話が脱線したので、引き戻すと……自分の先祖、そして神久夜の先祖である奴らは「喰蟲」と呼ばれる種族だった。

 その種族はどうやら人間の亜種らしいのだが……人間がこうある条件をクリアした状態で死ぬと生まれ変わるのだとかなんとか……詳しい話は知らないが、その種族は他の種族を喰らうことでその種族の能力、姿、記憶を奪い、また魂すらも取り込むという鬼畜仕様。

 それは今の自分にも引き継がれているらしいのだが、正直そんな能力は欲しくない。

 いやいらない。

 むしろノーセンキューだ。まぁ、そう言ってもあるらしいので、どうしようもないが。

 で……まぁ、その先祖様は祖父と父にこういう伝説を残していた。


【駄ルキリーとかトカゲとかスクラップとかマッドサイエンティストとか、聖母とか、チワワが来たあたりにちょっと次元を超えてやってくるわ。覚悟しとけよガキども】


 ……と。

 なんでこんなにラフな感じの口調なのかいささか分からないものだが……というかなんだよこれ。

 もう条件揃ってしまってるんですけど!? やってくるの? え? やってきちゃうの?

 いや、でもまぁ、伝説だし。そんないろんな能力吸収しちゃうような化け物来られても困るんだけどね。

 どうせ伝説だし……。


 そう思っていれば……大抵来るということを自分は分かっていなかったということを約二秒後に思い知るハメになるわけだが。

 それは約三秒後の話。


 ***


 スパァアアアアアアアアアアアン!!


 激しく何かが開かれる音とともに館の住人は飛び起きる。

 その中で最も早くその音がした場所に駆けつけたのは……。


「この気配はぁあああああああああああああっ!!」


 もうこの館でお馴染みと染み付いちゃってる駄ルキリーのジークルーネである。

 某サイなんちゃら人のように髪の毛を逆立たせながら、やってきた彼女はこの館でもう忘れ去られていたかもしれないあの冷蔵庫の前に立っていた。

 自分が通ったあの冷蔵庫。

 その冷蔵庫は開け放たれ、中の様子が見えるのだが、何やら黒ずんでいて、ぐるぐると渦巻いている。

 そこから感じるのは明らかに戦闘力の高い何か。

 

 そして、〈英雄の魂エインヘリアル〉を持つ何か。

「これは……貴文様に似た気配……しかし、別のオーラを纏っていますね……」

 貴文と神久夜。そしてこのの。

 この三人からは特殊な強さ的な何かを感じたのだが、どれも似ていて、家族だなという感じはした。

 その中でも特に濃いのが貴文だったが……この目の前の冷蔵庫からする気配はそれとは明らかに違う。


 ちょっと気を抜けば一瞬で殺られてしまいそうなくらいのどす黒い〈英雄の魂エインヘリアル〉。

 もう、英雄というより殺人鬼の方が合ってるんじゃないかなと思えるようなそんな気配。それがこの目の前で……。


 ズズっ……。


「――っ!?」

 目の前の空気がゆらめき、中から人影らしきものが現れる。

 それは、予想していたものよりもかなり小さめ。神久夜と同じくらいのサイズで小柄。尻尾のようなものが生えているのかひゅんひゅんと左右に揺れる。

 少しずつ、冷蔵庫の方から姿を現したそれは……。

「……なんですかあなたは……!」

 それは、異形の姿をしていた。

 紫色の髪。前はパッツンで額に赤い複眼のようなものが見える。目は赤く、口からは鋭く尖った八重歯が見え、背中からは蜘蛛の足のようなもの。臀部からは蜘蛛の腹とムカデの尻尾のようなものが見える。

 それは一人の少女に異形を足したような姿で現れ、ゆっくりと口を開いた。

「さて……うちの馬鹿子孫はどこにいるのかな?」

「馬鹿子孫……誰のことですか!」

 ジークルーネは身構えながらも、その人物に問う。

 すると、そいつは頭をかきながら……、

「あぁ……こうなんか竹串持って戦う……」

「貴文様ですか!」

「あぁ、そうそう。そんな名前って聞いた。ここにいる?」

 少女はにっと笑っていう。

 だが、ジークルーネはそんなもの気にせず、こう叫んでいた。

「くふふ……誰かはよくわかりませんが……貴文様の家系のものなら強いはず! いざ、尋常に勝負!」

 ジークルーネは大鎌を取り出し、斬りかかる。

 それを見た少女は……。

「……俺? 俺か? 俺は天上天下唯我独尊、歯向かう者には鉄槌を……史上最強ムカデさんだ」

 薄く笑みをこぼし、小さく流れるような動作で身構える。

 次の瞬間……。

「……なっ!?」

 ジークルーネの目の前にあったのは無数の糸とムカデの尾の先端。

 気が付けば、自分の視界は上下に激しく揺らされ、腹部に何か毒針のようなものが突き刺さるのを感じた。

 そして再び目を開いた頃には……、

「な……かはっ……くそ……!?」

 舌がしびれ、全身が動かない。

 横倒しになった視界のなかで、スタスタと歩いていく少女の後ろ姿だけが目に入っていた。

 

 ***


 少女は冷蔵庫のあった部屋を出る。

 少女――ムカデさんは廊下に出ると、自分の目的である貴文とやらの気配を探し始める。

 目標は自分とどこか似た気配を持つ子孫。気配を感じ取る能力を使えばすぐに見つかると思うが……。

 その能力を使おうとした瞬間、目の前に突如として、人影が降り立った。

「貴様、待て……!」

「誰だよ……俺の邪魔をするやつは……!」

 くわっと目を見開くムカデさん。その目の前に立っていたのは全身鱗に覆われたトカゲ男。

 この館でもはやポンコツコンビとして認定されている龍神(笑)とアンドロイド(笑)。その龍神のほうである。

 トカゲのような頭をカクカク揺らしながら、

「貴様からは邪悪なオーラを感じる。この異世界邸の守り神であるこの俺様が!」

「ダウト」

 龍神が血迷ったことを叫んだと同時に真横で起きてきたアンドロイドが叫ぶ。

「何勝手に自分を守り神にしてるんだよ! いつもと口調も無駄に違うし、イキってんのかトカゲ野郎!!」

「あぁ? なんだコノヤロー? スクラップ風情が俺様に歯向かってんじゃねーよタコ! てめぇはやっぱゴミだなおい」

「あ゛ぁ? 何だこら喧嘩売ってんのかコラ?」

「あ゛ぁそうだよコラ? このゴミクズかかってこいやコラ?」

 バチバチとなり始める閃光。ムカデさんはそれを見つめながら……、

「なんかめんどいけど……無視されるのは癪だな……」

 ジト目で嘆息しながら見つめていた。

 なんかいきなり、自分の前に立ちはだかったと思えば、よくわからん奴と喧嘩している。しかも、口汚い言葉を吐き出し、こちらは完全にシカト。

 無礼極まりないトカゲと、割り込んできたアンドロイドっぽい何か。

 ムカデさんはふぅと息を吐くと。

「よし、お前ら女体化の刑な」

「「……はぁ?」」

 若干眉間に皺を寄せていう二人。

 その態度も最悪で、もうムカデさんの中ではこの二人に対する処刑が決定していた。

 自慢のムカデの尾をひゅんひゅんと振るうと、自分の中にある毒の中から、目的の効能を持つものを選び先端へと送る。

 そして、次の瞬間。

「新しい人生と共に懺悔しな!」

「「――っ!?」」

 二人の間に一つの凄まじい旋風が駆け抜ける。

 二人は思わず目を閉じ、身構えるが……。

「……?」

「……何もされない?」

 とくに何もされるわけでもなく静寂が続き、恐る恐る目を開ける。

 すると、目の前には先ほどの少女の姿はどこにもなかった。

 二人は顔を見合わせ……、


「……」

「……」


 沈黙した。

 お互いに見えたその姿。

 龍神からは機械の装甲に身を包んだボンキュッボンな美しい体型の金髪の少女が。

 そして、アンドロイドからはスレンダーな体型の腕や足に少しだけ赤い鱗のある竜人ドラゴニュートの少女が。

 二人はしばらくの静寂のあと、口を開く。

「「……どちら様?」」

 残された二人の間に広がるなんとも言えない空気。

 二人が自分達の身に起こっていることに気付いたのはそれからしばらく経った後だという。


 ***


 ムカデさんによる探索は続く。

 貴文と思われる気配。それはどうやら階段の下の空間から漂ってきている。

 早速覗いてみるとそこには……、

「……ナニコレ不思議のダンジョン?」

 何やらゲームで出てきそうなダンジョンのような石造の壁。奥には点々と松明が並んでおり……。

「……面白そうだな!」

 興味がわいたムカデさんは早速侵入してみることにしました。

 自分の子孫である貴文とやらの探索。それはもう途中からわりとどうでもよくなっていて……というかあの二人の登場あたりから興がそれたので、ついでに見つかったらいいなぁくらいで探索してみよう。

 ムカデさんは楽しげにダンジョンの中を進んでいく。

 上に行ったり、下に行ったり、横に行ったり、地面割ったり、ドリルアタックで壁穿ってたりしながら楽しく進んでいく。

 その度に館が大きく揺れるような音が響き、住民が不安になっていたのはまた別の話。

 そんな感じでムカデさんが迷宮を探索している頃。

「……なんか嫌な予感がするんだけど……」

 今日も一人で迷宮の地図を作っていたリックは青い顔をして後方を見つめる。

 今日は最近いやにあったかいこの場所に何があるのか調べ、それを地図に書き加えようと思っていたのが……何やら後方で迷宮を破壊しながら近づいてくる誰かの音。

 誰だろうか……こんな非常識なことをする奴は。

 館の連中のことを考えるといくらでも候補が出てくるのだが、まだ早朝。あまり起きてきている奴は少ないはず。

 そんな中でこんな朝っぱらから迷惑なことをするのは……。

「ポンコツコンビ? ……いや、違うか……」

 一瞬馬鹿そうな面をしている龍神とアンドロイドの姿が頭をよぎったが、あの二人はまだ寝ている時間。

 だとすれば誰が……、

「こんな非常識なことを……」

「非常識で悪かったな小僧」

「…………っ!?」

 突如として横から響いてきた声にリックはグリンと頭を回転させるように振り向く。

 その速度、一秒にもみたないもの。

 振り向くと同時に体がその人物から離れるように回避行動をとっていたのはこの館で働き続けているせいだろう。危機回避が体に染み付いてしまっているのだ。

 リックはじりっと一定の距離離れ、そこにいた人物を見つめる。

 それは奇妙な姿をした少女。

 館の住民ではない。初めて見る奴だ。

「あぁ……そんなに警戒しないで。俺、ちょっとここに気になるものがあったから近づいただけだから」

「……あんた誰だよ」

「俺か? 俺はムカデさんという。貴文のばっちゃんみたいなもんだ」

 管理人の……婆さん?

 どっからどう見ても貴文より若く見えるのだが、あの夫婦や娘。年齢に比例していない外見をしていることは自分も知っている。

 その婆さんと来たら、ロリな外見をしていてもおかしくないか……。

 なんとなくあの管理人とテンションも似ている気がするし、まぁここは敵意がないようなので、距離はおくが、話を聞くことにする。

「管理人の婆さん……ムカデさん。ここに気になるものって……何があるんだ」

「あぁ……それね」

 ムカデさんはひゅんひゅんと尾をふると、先ほどリックがいた微妙にあったかい床に触れる。

 すると、にっと笑い、

「……小僧。名前をなんという?」

「え……オイラはリック……だけど」

「そうか……リック」

「なんだよ」

 ムカデさんはにっと笑って言った。

「ちょっと面白いことしてやるよ」

「……はい?」

 そうリックが聞き返した瞬間だった。

 ムカデさんはぎりっと拳を握り締めたかと思うと、床に向かって思いっきり打ち付ける。

 瞬間、ひび割れる床。

 その隙間から凄まじい蒸気が吹きだし……、

「あっつ!?」

「ほら、リック。脱出するぞ」

「え? ちょ、何、えぇ!?」

 リックがあたふたするのを押さえ込み、ムカデさんはリックを担いだまま第一階層を駆け出す。

 それと同時に、ひびがついに砕け散り、溢れ出す蒸気の元。

 それは……、

「あれは……温泉!?」

「そっ。しかも結構成分がいいやつだと思うぜ? まぁ、楽しむのは脱出してからだがな」

 ムカデさんは小さく笑いながら、少女の速度とは思えない、速さで第一階層を駆け、飛び、瓦礫の間をくぐり抜けながら、出口へと向かって走っていく。

 リックは激しく上下に揺らされながらも必死に振り落とされないようにしがみつき、後方から迫ってくるお湯の濁流に戦慄しながらも、ぎゅっと目をつぶって脱出を待った。

 そして……!


 パァアアアアアン!!


 館内に風船が割れるような高い音が響き渡り、それと同時にリックを担いだムカデさんがホールへと飛び出す。

 第一階層から溢れ出した温泉は大きな飛沫をあげ、迷宮から溢れ出すが、しばらく時間が経つといっきに引いていった。

 急に響いた水飛沫の音に目を覚ました住民たちはムカデさんの姿と、びしょ濡れのリック。そして、なぜか女体化してしまったポンコツコンビを見つめて驚きの声を上げる。

 貴文の先祖……ムカデさんが訪問した日。

 その日の異世界邸の日常はいつものように非日常な始まりを告げた。


 ***


「聞いて驚け見て喚け! 俺はそこの貴文と神久夜。そしてこののの先祖に当たるムカデさんだ! 以後よろしく!!」

 ビシィとポーズを決めて叫ぶムカデさん。

 館の住民が集まった食堂。その皆の前で、ムカデさんはこののに尾をつつかれながらも、声を張り上げていう。

「俺は過去の世界から、将来の子孫の危機を救うためにやってきた!」

「危機? ご先祖様が来るという言い伝えはあったけど、そういう危機は……」

 貴文が眉をひそめてそう返すと、ムカデさんはにっと笑う。

「最近……館の修繕費でひぃひぃ言ってないか?」

「――――っ!?」

「俺は館の修理や、家具を作ることを得意とし、なおかつお代は受け取らない。木材等は自分で調達するし、愛する子孫のためならば、タダ働きもする。

 さらに掃除、洗濯、料理に、裁縫! 俺は主婦レベル五十三万! きっと苦労しているだろう子孫のためにはるばるやってきた!!」

 声を張り上げていうムカデさん。

 その言葉に貴文は……。

「ご先祖様ありがとうございますっ!!」

「態度変わるのはやっ!?」

 リックが隣で驚いているが、住民たちはさらに驚いていた。

 だって……あの変な管理人の祖先。どっからどうみて、今の貴文や神久夜の身体的特徴を備えていないのだ。

 どっちかというと別の種族だと言われるほうが納得できるし、さらに言えば、そもそも主婦レベルってなによとツッコミをいれたい。

 しかし、あの女体化したポンコツコンビ。それに加えてリックが証言する突如として第一階層に現れた天然の温泉。

 それをわずか三十分で迷宮の壁を削り、迷宮の地形を変え、仕切りを造り、脱衣所も作成して、立派な宿の温泉とほぼ同じに仕立てた技量を見る限り、その言葉に嘘はないのだろう。

 明らかにハイスペックな奇妙な姿をした少女。

 皆が奇怪なものを見る目で視線を送る中、フランチェスカがはいはーいと手を上げる。

「ん? どうしたそこの嬢ちゃん」

「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど~、いいかな~?」

「構わんぞ? 答えられる範囲であるなら」

 フランは楽しそうに口角を上げると言った。

「ねぇ~、あの二人を女体化させた毒の効能って何~?」

「あぁ、それか。それは男を女に。女を男に変える毒だな。性転換ポイズンっていうんだけど」

「そのまんまだなおい!?」

 女体化した龍神が叫ぶ中、ムカデさんは懐から二本の試験管を取り出す。

「これがその毒なんだが……作り方いるか?」

「あぁ、貰えるならもらっていいかな~?」

「おいやめろご先祖様!?」

 貴文が顔をあげて反応した頃には、どうショートカットしたのやら。いつの間にやらフランの前にいたムカデさんが、毒のレシピと思われる資料を手渡していた。

 それと同時に……、

「あ、そろそろ二人も戻っておいたら?」

 ひゅっと先ほどの試験管のキャップを取り、そのまま二人の口に向かって投擲する。

 それは目で捉えられない速度で飛んだかと思うと、二人の口にきゅぽっと収まり、そのまま中の紫色の液体が喉へと注がれる。

 次の瞬間……、

「「……戻った!?」」

 ぴかっと光ったと思うと二人はいつもと同じポンコツコンビへと変貌していた。

 その姿をうんうんと頷きながら、ムカデさんは、

「まぁ、そんな感じなんだわ。俺は一応、目的を達成したから元の世界に戻るけど……」

「ちょっと待って!? 館を修繕してくれるんじゃ!」

「といっても住み込むとはいってないだろ? まぁ、安心しろ。ほい、これ」

 ムカデさんは、何やら一枚の紙切れを取り出し、貴文に渡す。

 それには……、

「……電話番号?」

「うむ。それに電話すれば俺につながるから、何か壊れたりしたら気軽にかけてきな? ただで修理したり、食事作ったりしてやるからよ!」

「ありがとうごぜぇます!!」

「管理人!?」

 管理人の変貌ぶりにリックが声を上げるが、ムカデさんがすぐさま。

「ま、そういうわけだ。色々朝っぱらから騒がせちまったが……俺を頼りたいときは気軽に電話するがいい! 天上天下唯我独尊! 泣く子も喜ぶムカデさんが、ぱぱっと解決してやるから!

 というわけで、俺も元の世界でも忙しいんだ。ちゃちゃっと帰らせてもらうぜ。温泉とか先ほど渡した毒については好きにしな。何か大変なことがあれば気軽に呼んでくれ! というわけで……」


 アドゥー!!


 ビシィっとポーズを決めた瞬間に、ムカデさんの姿がブレ、そのまま消失する。

 残された住民たちは嵐のような少女の襲来にまだポカンと口をあけたまま、しばらくたってようやく、各々の日常に戻り始めた。

 貴文は初めてあった先祖が意外にいい人だったことに喜び、修繕費が浮くことに喜び。

 こののは可愛らしい先祖の姿にまた会えるかなと楽しみにしながら、異世界邸の日常はまた動き始める。


 そんな中、一人……いや、一匹だけ。ムカデさんが去った後、涙を流すものがいた。


「吾輩の……守るべき場所が……」


 温泉に変わってしまった第一階層を前に、一匹のチワワが涙で床を濡らしていたのだった。


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