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異世界アパート『異世界邸』の日常  作者: カオスを愛する有志一同
異世界邸へ、ようこそ
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異世界邸の隠れキャラ【part夢】

 新しい朝が来る。

 皆が起きてくるのはまだまだ後だが、一番早く起きているのは管理人の貴文であった。

 午前三時。睡眠時間が限りなく少ないはずなのにも関わらず貴文は一度この時間に起きてくる。

 そしてベッドの下の床をかるく叩くと。


 ひょこ。


 床の一部が盛り上がり、そこから二つの可愛らしいめが見えた。

「さぁ……ぽち。ご飯ですよ」

「わふ!」

 貴文はベッドから降り、そのまま伊東家の台所へ向かう。

 その後に床からでてきたそれは嬉しそうに尻尾を振りながらついてきた。


 じゅうぅうう。


 フライパンの上に卵が割られ、熱せられた鉄の上で食欲をそそらせる香りを放つ。

 貴文が調理をしている間に、床から出てきたそれは食卓の電気のスイッチを入れ、一つの椅子に座って嬉しそうに、

「わんっ!」

 と、鳴いた。

 この時点でもうすでに違和感を感じているものもいるだろう。

 わんと鳴く。それはもう犬と断定してもいいのだが、犬がそもそも電気のスイッチを入れたり椅子の上に座ったりするだろうか。

 その答えはこの館では大抵意外なもので終わる。

 そう……、

「はい、ぽち。ご飯が出来たよ」

「わふわふっ!」

 それは嬉しそうに笑い、少女の顔でそう言った。

 そう、この異世界邸には貴文の祖父の代からあるペットが住み着いている。それは代々犬と言われていたが、世間で犬と呼ばれる生き物とは大きく異なる。

 それは確かに犬であった。

 しかし、犬ではなかった。

 ピョコンと立った犬耳。柴犬のような髪の色。臀部からは嬉しそうにたつ犬の尻尾があり、服は着ていない少女。

 犬耳と尻尾以外は普通の人間と変わらない。貴文の妻や娘と似たような姿の半獣人とでもいえばいいだろうか。

 それが、代々貴文の家に住み着いているペットのポチであった。

 年齢は不明。どこで生まれたかは不明。

 外見は小学生くらいのものであるが、力は馬鹿げたもので怒ったら手がつけられなくなる。

 そして、代々貴文の家系に男が生まれるとその男の寝室のベッドの下に住み着くという謎の特性をもっている半獣人。

 貴文の父のベッドの床下にも、そして貴文の祖父のベッドの床下にも住み着いていたと言われる。

 そして極稀に……。

「そういえばチビ共はどこへ?」

「わふわふ!」

「そうか……もう旅立ったのか……」

 どこでこさえたのかはわからない子供を作り、あの冷蔵庫を使って異世界に送る。

 少しずつ子供を異世界に送り込んで世界征服を企んでいるようにも思えたが、こいつはただ食って寝て、そして子供を作って送り出す。それだけしか考えていないようにも思える。

 なんせ……言葉が「わん」「わふ」そして、

「わんわんお」

 なるほど。何言ってるのかは大体わかるが、わからん。

 この三つしか話さない。

 いや、話せないのだ。多分知能が足りないんだと思うけど……。

 ポチは出されたご飯を嬉しそうに見つめると、器用に箸とスプーンを使ってご飯と目玉焼き。そして味噌汁を口の中にかきこむ。

 ほとんど噛まず、飲み込んでいるように見えるが、じつは音速で噛んでいるらしい。

 一分ほど経過するとポチは完食し、静かに寝床に戻っていく。

 なんというか……不思議だ。

 昔からの付き合いではあるのだが、不思議な生き物であるということはわかる。

 食事のマナーとかはわかっている。だが、話せない。

 それなのにも関わらず、何年か付き合っていれば「わん」「わふ」「わんわんお」から言いたいことがわかるようになる。

 もはやこっちが洗脳されている気分になるが、それも仕方がない。

 これは我が家の伝統であり、しきたりであり、飼わねばならない愛しの可愛い奴なのだ。

 貴文は大きくあくびをすると頭をかき、再び寝床に戻る。

 貴文は布団を被り静かに寝息をたてて今日という長い一日の体力を養うために意識を落とした。


 その直後。


【ビコーンッ!!】


 貴文のベッドの下で赤い光が二つ灯ったことは誰も知らない。

 ただ次の日、貴文がげっそりした状態で朝を迎えたのはまた別の話。


 ちなみに……。


「わふわふ」「わん」「わふわふ」「わんわんお!」


「う……うるさい……誰だ……!?」

 実はアンドロインドのベッドの下に何匹か詰まっていたということもまた別の話である。


 ***


「あ、ポチ。もうご飯食べた?」

「わふ! わふわふ!」

「やっぱりお父さんがあげてるかぁ……あ、ビーフジャーキーいる?」

「わふん!」

「あぁ、美味しそうに食べるね。お腹すいていたの?」

「わふわふわふ」

「そうなんだ……あ、お母さん」

「およ? こののもポチのことを知っておったのかの?」

「結構前から知ってるよ」

「そうなのかぁ……まぁこの子は我が家のアイドルじゃからのぅ」

「うん! 可愛いよね!」

「あと、さりげなくお主の兄弟も量産しておるぞ?」

「……え?」

「腹違いの兄弟といえば良いのかのう……今度見に行くかえ?」

「いや……え? ちょっとそれ初耳なんだけどこの子が何を?」

「貴文の父から聞いておるから納得はしておるが……貴文の愛人かのう……」

「ちょっと待って。黒い事情がじわじわ出てきてるんだけど我が家に一体なんのしきたりが!?」

「まぁ、今度あわせてやるからのう……」

「……なんか嫌な予感しかしないよ」


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