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異世界アパート『異世界邸』の日常  作者: カオスを愛する有志一同
三つの脅威・2
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魔石転換【part紫】

 フランが機体を破壊したところで、機械仕掛けの神(デウス=エクスマキナ)はいくらでも復活する。

 どしゃりと音と衝撃を立てて空から舞い降りた機械仕掛けの神(デウス=エクスマキナ)が、ギロリと感度センサーをめぐらせて、フランを捕捉する。

《──元凶を発見。排除を開始します》

「させぬぞ!」

 真っ直ぐ襲い掛かろうとする機械神を、グリメルが魔王武具を掲げて足止めする。

「今一度顕現せよ! 力の体現、〈獰猛なる猛虎〉よ!」

 召喚に応じ、一度はグリメルに取り込まれていた虎仮面の巨漢が再構築され、機械とがっぷり四つに組んでその足を止めた。その衝撃で床にヒビが走り、はるか階下まで落下する。

《愚劣。当機ワタクシはこの程度では制止不能》

 嘲笑うような音声を吐き出し、機械仕掛けの神(デウス=エクスマキナ)はさらに眷属を召喚する。

「ほれ出番じゃぞ!」

 神久夜が即座に号令をかけると、イチゴーレムが眷属たちへと勢いよくツルを伸ばしていく。

 フランが「うわ〜……管理人の奥さん、またすんごいもの育てちゃったね……」とドン引き声を漏らす傍らで、翔は戦闘の様子を横目で確認しつつも平静を保ち、呼び寄せた悠希へと説明をしていた。


「要するに、この機械が機械でありながら異世界渡航を可能にしているのが問題なわけだ。人間が科学で異世界の壁を越える──これはこの世界の理に反すると判断された」

 イチゴーレムによる敵味方問わずの攻撃が流れてこないようグリメルが必死で奮闘する様子にハラハラしつつも、悠希は必死で話についていく。この状況で冷静に説明できている父親はもう絶対に一般人じゃねえです、と確信も抱きつつ。

「だけどこの世界にも、極々一握りの人間が異世界渡航を可能にしている。うっかり落ちた、召喚された、自力渡航している。そのあたりだけど、彼らにあの神が接触したというのは聞いたことがない。この違いはどこからくるかというと、魔力だ」

「魔力……」

「この世界においての魔力は、理外の理という位置付けになる。つまり、世界の理に反する力でありながら、理を持っているというわけだ」

「えっと……、わけわかんねー力だけど、わけわかんねー力なりに理屈が通るってことですか……?」

「正解。よって、その理屈に沿った魔法陣を用いて、魔術──超常現象を引き起こせる。今回の場合は異世界渡航だ。まあ魔術ですら異世界渡航は高難易度とされているけれど、難しいだけだ。不可能では──理に反するわけではない」

 だから、と翔はフランが調整した機械を指差す。

「こいつに電力の代わりに魔力を流し込んで、魔道具──魔術の理屈で働く道具にしてしまえばいい。そうすればあのクソみたいなガラクタは文字通り手が出せないというわけだ」

「はあ……えっと、それで、なんで自分なんです?」

 なんとか父親の説明を噛み砕いて飲み込んだ悠希が、そこで首を傾げる。その様子を見て、翔は苦笑した。

「悠希にとって、それは本当にただの貰い物なんだな。まあ、だからこそ選ばれたのかもしれないが」

「えっと……?」

「ついさっき攫われた理由でもある、そのお守りだよ」

「……あっ」

 指摘されるまで悠希がピンとこなかったのは、まさに翔の言う通り。命すら狙う輩が出る「空の魔石」とやらだと、悠希はいまだに飲み込めずにいるのだ。

「そういう意味でも、好都合だ。ここで目一杯、そいつに込められた魔力を流し込んでしまえ。この世界で異世界渡航をするのに必要な魔力はものすごく多いからな、全部流し込んじゃえば文字通りただの「お守り」になってくれるかもしれない」

「わ、わかりました」

「というわけで、フランが即席で作ったここに石を置いて」

 悠希は指さされた台座に、胸にずっと下げていたお守りをそっと置いた。サイズは怖いくらいにぴったりだったが、何も起こらない。

「えっと、これでいいんです?」

「いや、魔力が流れてないな……。フランが最低限の設定をしてくれてるし、勝手に流れると思ったんだが……ああ、そうか」

 考えをまとめるように口にしていた翔が、悠希を見て一つ頷いた。

「これは悠希のもの、だからか。悠希が望んだ時に力を発揮するから、機械に置くだけじゃあ使えないわけだ」

「え、ダメじゃないですか」

「そんなことはないさ。悠希が魔石を使って魔力を流し込めばいいだけだ」

「やったことないんですが!?」

 とんだ無茶振りが降りかかってきた悠希が思わず叫んだ時、大きな爆発音が響いた。びくりと竦む悠希の横、翔がうーんと唸る。

「俺もこればかりは教えられないからなあ。フラン、どうだ?」

「かーくん、わかってて聞いてるでしょ〜。私、そっち分野は完全にノータッチだよ〜」

「だよなあ。那亜は?」

 翔が視線を向けた先、ずっと悠希の背後にピッタリついて警戒していた那亜は、首を横に振った。

私たち(妖怪)と人間では魔力の扱い方が根本的に違うから、ちょっと難しいわ」

「ふむ。そうなると、この短時間で魔力の注ぎ方を教えられそうな専門家はいるかい?」

「うーん、セシルちゃんがまさにそうなんだけど〜、今ちょっと動けないかな〜」

 そう言ってフランが視線を向けた先、顔を持ち上げることも出来ないほど消耗したセシルの姿があった。翔が迷わずに駆け寄る。

「目立つ外傷はないね。脈は早いけどしっかり触れる、呼吸が早く熱もある、刺青が焼き切れてるから……状況から見て、魔導回路の過負荷だな。魔力制御装置は今ちょっと持ち歩いてない……フラン」

「……かーくん、ほんとに、そういうとこだよ〜……」

 何だかフランが半眼で翔を睨みつつ、しかし即座に幾つかの金属を取り出して眺めつつ、くるりと一回転させた。

「はい、どうぞ〜」

「ありがとう」

 流れるように受け取って機械を操作し、セシルに向けてしばらく手を動かしていると。

「……さっすが、栞那ちゃんの旦那様、って、とこかな……♪」

 先ほどよりはるかにしっかりした声でそう言って、セシルは少し頭をもたげた。

「光栄だ。話は聞いていたんだろ?」

「聞いてたよん♪ そしてセシルちゃんも、フランちゃんや栞那ちゃんが言ってた君の「そういうとこ」がわかった気がするぜ☆」

「それ、私も話に参加したいわね」

 徐々にしっかりしてきたセシルとそれに乗る那亜の言葉に、翔はやや笑顔を引き攣らせる。

「……その辺の、詳しい話は後だ。悠希に魔力操作について指導願えるかな? 君の友人とその創作物が、神に潰されないように」

「まっじでいい性格してんな〜♪ でも今回はセシルちゃん、ひと肌脱いじゃうぜ☆」

 そう言ってむくっと上半身を起こしたセシルが、悠希の方を見てニヤッと笑う。

「時間がないから、基礎編すっ飛ばして実践編いくぜ♪ まず、石に手をかざす☆ そして石に込められた魔力をぐいっと機械に向けて押し込むんだよん♡」

「抽象的すぎません!?」

「魔術だもん♪ いーからやってみ☆」

 ほらほらとセシルに急かされて、悠希は訳がわからないなりに魔石に手をかざす。が、何も起こらない。

「うーん、悠希ちゃんそれはふわっとしすぎだな♪ もっとこう、グイーッと押し込んじゃえ☆」

「さっぱり分からねーんですが!?」

「見事なまでの直感型だなあ」

「セシルちゃん、同じことをフミフミ君にもやって困らせてたんだよね〜」

「おや、貴文こそ感覚型なんだけどな。相性が悪いのか」

 なんか知らないうちに中学生の自分に世界の命運が預けられているというのに、大人達が本当に役に立たない。あとで絶対に母親にチクってやると固く誓いつつ、悠希はヤケクソ気味に石に集中してみる。

「ぐぎぎぎぎ……!」

「あー今度は力みすぎだな♪ それはギュウギュウグワっとだよん☆」

「というか悠希、ステッキで魔力の扱いは覚えたんじゃなかったのかい? あれと同じだろう?」

「あっと栞那ちゃんの旦那くん、それ今言うのはちょっとヤバめ──」

「なななななんのこと言ってやがるんですかステッキって一体!?」

 セシルの声がめちゃくちゃ動揺した悠希の声に打ち消された、その時。


────……カッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!


 朝焼けのような金の光が凄まじく発光した。

 夜闇を打ち払うような光は一瞬で収束し、フランの転送装置の表面を電子回路のように走っていく。光はやがて機械全体を網目上に覆い尽くし──ゴウン。

 唸りをあげて、機械が駆動を開始した。

「……あっ、ちゃー……」

「えっ」

「あら、これはもしかして……?」

「えっ、えっ」

「……あー。これは、俺が悪かったな……」

「ええっ!?」

 セシル、那亜、翔と大人達が一様に「やっちまった」という顔をしているのを見て、悠希は心底ビビりあがる。

「どうしたの〜? ちゃんと駆動してるよ〜?」

 フランがよく分からない様子で首を傾げる。縋るように視線を向けた先、セシルが一つ間を置いて、ぐっと指を立てた。

「うん、バッチリ駆動させたね♪ 悠希ちゃんが、()()()()()()()()()()()()()()()ね☆」

「……へ?」

「あ〜……もしかして、そういうこと〜?」

「どういうことです!?」

 察した様子のフランに、泡を食った悠希が尋ねる。フランの代わりに、セシルが続けた。

「要はステッキとおんなじだよん♪ 魔石という「道具」を媒介に自分の魔力を増幅させる形で魔力を流したわけだ☆ そうやって使う杖ってね、魔術師にとっちゃあ()()()()なんだぜ♡」

「……持ち主を固定された魔石の魔力と、悠希ちゃんの魔力がつながっちゃったわけね」

「えっと、それは、何がどうまずいんです……?」

 魔術についての知識が皆無の悠希は、まだ分からない。だが、じわじわと嫌な予感は込み上げてくる。

 不安ながらも分からない悠希の表情に気づいた翔が、魔石を指差した。

「悠希、その魔石を取り上げてご覧」

「え? 良いんです?」

 今までのことをひっくり返すような言葉に首を傾げつつ、言われた通りに魔石を持ち上げる。が、変わらず機械は唸りを上げて駆動している。

「……非常電源装置に切り替わらないね〜」

「確定だな」

「だからなんなんです!?」


「魔石の魔力は全て君のものってことだよ、悠希」


「……え」

 ピシリ、と悠希の体が凍りつく。強張った動きで振り返った先、翔は困ったように笑った。

「まさか、そこまでこの魔石と親和性が高いとは思わなかったんだが。俺の言い方がまさに魔道具に魔力を流す方法だったせいで、悠希のイメージ通りに魔石が働いちゃったみたいだな。今後、誰が持っていてもどこにおいていても、魔石の魔力を引き出せるのは、悠希、君だけだ」

「…………」

 悠希は凍りついた表情のまま、ゆっくりと周りを見回す。困った顔の翔、心配そうな顔の那亜、やっちゃったねえと言わんばかりのフランを経由し、ギラついた笑みを浮かべ、手をワキワキさせるセシルと目があった。

「へいへい悠希☆ちゃん♡ この一件が終わったら、是非♪ いろいろ調べてみようぜ! 頭の先から足の爪先まで、イヤンなところも余すことなく丸裸に!! 全ては魔石の経過観察のために、ね!!」



「嘘でしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」



 激しい戦闘音にも負けない絶叫が、悠希の喉から溢れ出た。


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