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異世界アパート『異世界邸』の日常  作者: カオスを愛する有志一同
三つの脅威
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竜軍VS機械神軍VS異世界邸【Part夙】

「……ウシュムガルがやられたのだわ」

 ノルデンショルド地下大迷宮の最下層最奥に聳える城。ティアマトは卵をぎゅっと抱き締めながら、感覚共有していた竜の一柱が何者かに倒されたことを知った。

 異世界邸の住人たちではない。

 彼らは有象無象の亜竜を瞬殺することはできても、ティアマトの最大戦力たる十一柱の神竜はそう簡単に倒せないはずだ。

 ――別の敵がいる。

 ウシュムガルは倒される前に神の気配を感じていた。どこの神軍か知らないが、このタイミングで攻めてくるのだから狙いは決まっている。

 それともう一つ。強大な魔力を持つ者たちが近づいてきているようだ。気配は人間だが、ただの魔術師よりも遥かに強い。今は街の術士と衝突しているようだが、徐々に異世界邸へと向かっている。

「まったく、我が子は人気者なのだわ」

 誰にも渡してはならない。卵を守れるのはティアマトだけだ。

「タカフミの相手はムシュフシュとギルタブリルだけで充分なのだわ。他の者は地上へ。妾たちの敵を殲滅するのだわ!」

 指示を出すだけでは終われない。ティアマトはダンジョンの魔力も利用して〝塩〟の固種結界をさらに暴走させていく。


        ***


 ドラゴンたちの様子が変わった。

 ノルデンショルド地下大迷宮第五階層の闘技場。広大な潮溜まりと化したその場所で、貴文はたった一人で十匹の強大なドラゴンを足止めしていた。

 殺意剥き出しで貴文に襲いかかってきていた彼らだが、どういうわけかこちらを無視して天井に開いた穴へ向かって行こうとしている。

「待て! これ以上お前らを出すわけにはいかねえんだよ!」

 既に無数の小型竜と一匹の神竜を出してしまっている。これ以上は異世界邸の結界すら破られて街まで被害が及びかねない。

 竹串を投擲する。

 巨大な蠍の尻尾で弾かれた。

 さらに真横から衝撃を受けて貴文は壁まで吹っ飛ぶ。十匹全部が穴へ向かっているわけではなかった。

 蠍の尾を持ち全身を炎に包まれた地竜と、猛禽類の翼に蠍の鋏を備えた竜人が貴文の前に立ちはだかる。

 確か、ムシュフシュとギルタブリルだ。

 ムシュフシュが空中を蹴って猛突進してくる。第二層の魔猪が可愛く思えるほどの超速タックルを貴文はかわし切れず、ダンジョンの壁をぶち抜いて『なにもない空間』へと跳ね飛ばされた。

「痛っ……なんだここは? ダンジョンの範囲外ってこんな感じになってたのか」

 まるでゲームのバグ技で擦り抜けた壁の向こうのようだ。周囲は真っ暗な虚無なのに、貴文自身と追ってきた竜二匹の姿はハッキリと視認できる。

 ムシュフシュが火炎を吐き、ギルタブリルが蠍の鋏から毒々しい光線を発射する。

 貴文は横へ転がって回避した。が、即座に距離を詰めてきたギルタブリルが激烈な蹴撃を放つ。咄嗟に竹串で防御するが易々と圧し折られ、貴文は更に『なにもない空間』の奥へ奥へと吹っ飛ばされてしまう。

「まずい、今度は俺の方が足止めされてやがる……ッ!?」

 それが二匹の狙いだ。今から闘技場に戻っても遅い。他の竜たちはとっくに穴から外に出てしまっただろう。

 すぐに追わなければと思うも、目の前の二匹を倒すことだって簡単ではない。

 どちらも神話級。連携も取れている。勇者と魔王の力を得ている今の貴文だからこそなんとか戦えているのだ。

 気を抜けば即死。力の温存なんて不可能。無視して地上へ向かうことも恐らく許してもらえない。

「お前らのママに伝えとけ。もし邸が全壊しようものなら修理費は全額払ってもらうからな!」

 貴文はもう一度両手に竹串を生成し、威嚇するように唸る二体の竜と激突する。


        ***


 地上。

「なにか来ますの!?」

 白い魔力砲で亜竜を十匹単位で消し去ったフォルミーカは、前庭に穿たれた大穴から身の毛が弥立つほどの魔力が接近していることを感じ取って戦慄した。

 一匹、二匹、三匹……八匹分の強大な気配。今まで倒せていた亜竜ごときが千匹集まっても足りないレベルの竜が浮上してくる。

《新たな敵性存在を検知。先程不意打ちで倒した巨竜と同格以上。脅威レベルを再修正。レベル4へ移行します》

 セシルの魔法陣を次々と撃ち破っていた機械仕掛けの神(デウス=エクスマキナ)が、一度攻撃を停止して大穴を見据えた。

 そして一体目の竜の頭が現れたタイミングで――

《殲滅開始》

 ズドドドドドドドドちゅどぉおおおおおおおおん!!

 号令と共にアンドロイドたちが一斉にエネルギー砲を照射した。山ごと消し去りかねない爆撃。フォルミーカは咄嗟に異世界邸を庇う位置へと移動し、魔力障壁を展開する。

 パキン、と障壁が砕けて衝撃でフォルミーカは吹っ飛んだ。

 だが、おかげで邸には傷一つついていない。

 機械神軍の奇襲を受けた竜たちは――光線を喰い破るようにして飛び出し、アンドロイドたちを凶悪な牙や爪で次々と破壊していく。

「機械人形がいることを知っていた動きですわ」

 竜たちは竜たちで情報共有がされているようだ。無論、だからといって敵の敵は味方といった単純計算にはならない。

 首が七つに分かれた大蛇が無数の亜竜を率いて異世界邸にも襲いかかってくる。

「ヒュドラ系は毒があるからおつまみにならないんだよね~」

「えへへ、小さい竜を相手にするよりは楽しそうです」

 どこかへ吹き飛んでいた戦闘職の住人たちが戻ってくる。いくら神話級のドラゴンと言えど、異世界邸の問題児たちを無視して邸の破壊などできないだろう。

《データベース参照。検索結果。始祖竜ティアマトの竜軍と99%一致。イレギュラーと判断。脅威レベルを5に引き上げます》

 大量の手下を破壊されても機械仕掛けの神は冷静だった。

《優先度に変更なし。竜軍には最小限の戦力を割き、速やかに『炉』の破壊を実行します》

 目的も見失っていない。神力をブーストさせた一個中隊程度のアンドロイドたちが竜軍とドンパチを始める中、彼女の意識は再び異世界邸へと向けられる。

「だから♪ させないって言ってんだろ☆」

 セシルが魔法陣を何重にも展開。

 それを、機械仕掛けの神は腕を一振りするだけで全て砕き割るように消し去った。

「チッ」

 舌打ちするセシルが魔法陣を再展開するよりも早く、機械仕掛けの神は翳した掌から特大のエネルギー砲を射出した。

「やらせませんわ!」

 フォルミーカの魔力砲が横からぶつかり相殺する。機械仕掛けの神(デウス=エクスマキナ)。一つの属性の最高神。恐らく魔王でも君主以上の実力がないとまともに相手できないレベルだろう。つまりフォルミーカが攻撃を相殺できたということは、奴はまだまだ本気ではないということだ。

 ぐりん、と機械仕掛けの神があり得ない関節の動きをしてフォルミーカを視認する。

《魔王の存在を確認。神敵と看做し撃滅します》

 機械仕掛けの神の背後にゆらりと巨大ななにかが出現する。それは大小無数の歯車がガタガタと駆動し、三百六十度全方位にSFチックな大砲が設置された――機械仕掛けの空中要塞。

 全ての砲口内部が青白く発光し、エネルギーがチャージされていく。

 その時だった。


 ――ぞくり、と。


 麓の街から、底冷えする嫌な気配が爆発した。

「今度はなんですの……?」

《脅威レベル5以上の魔力を検知。さらなるイレギュラーと推測します》

 それだけではない。パキパキパキと乾いた音が聞こえたかと思えば、異世界邸周辺の山肌から何本もの〝塩〟の柱が突き上がった。

「あちゃー♪ ティアマトの個種結界がついにダンジョンを突き破っちゃったみたいだね☆ これは非常にマズいぞ❤」

「もう冗談では済みませんわよ!?」

 それぞれ柱を中心に塩化が進行していく。その〝塩〟からさらに竜が生み出され、 呼応するように神竜たちが一斉にブレスを吐き出す。

 何体ものアンドロイドを巻き込みながら、異世界邸のある山を守っていた結界が――砕け散った。

 竜たちがいよいよ麓の街にまで飛んで行く。

《イレギュラー。イレギュラー。イレギュラー。優先順の変更を申請。――承認。『炉』の破壊を最終目標に設定。周辺一帯における敵対勢力の抹消を最優先事項とします》

 機械仕掛けの空中要塞から無数のアンドロイドや戦闘機械が街の方へと飛び出していく。

 そして――

「――ッ!? まずいですわ!? みんな防御態勢を取ってくださいまし!?」

 チャージの完了した空中要塞の砲口から、フォルミーカの魔力砲をも凌ぐ威力の光線が全方位に放射された。

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